当て馬にされていた不憫な使用人は天才魔導士様に囲われる《第二部完結》

トキ

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第二部

誕生日パーティー2

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 俺がユベール様の想い人であること、俺をユベール様の正式な婚約者としてベルトラン公爵家に迎え入れたいことを説明すると案の定周囲は騒ついた。身分差がとか、平民を貴族になんて、と予想していた通りの反応だ。納得する方がおかしいんだよなあ。最初は俺に内緒で婚約者にと説明しようとしていたらしいけど、俺の気持ちを知ったユベール様が教えてくれたのだ。今日の誕生日パーティーで、俺をユベール様の婚約者として紹介する予定だと。不思議と驚きはしなかった。ユベール様達ならやりそうだなあ、とは思っていたけど、本当に紹介する気でいたとは。

「ジャノさんはユベールの命の恩人です。それはつまり、私達の恩人でもあるのです。彼がユベールを助けてくれたお陰で、私達は再び家族に戻ることができました。ユベールは、十年もの間、彼を想い続けていました。そして、彼と直接会って、彼の人柄をこの目で見て、ユベールを任せられるのはジャノさんしか居ないと確信しました」
「ジャノさんが凄いのはそれだけではありません。彼が身に付けているドレスと宝飾品は約数千年もの間眠り続けていた古代魔導具とロイヤル・ゼロです。全てが謎に包まれていた古代魔導具とロイヤル・ゼロを目覚めさせたことは奇跡と言っても過言ではありません。ジャノさんは、ユベールの婚約者に相応しい方だと私達は判断しています」

 クレマン様とラナ様から褒められて、恥ずかしい気持ちになる。でも、ホール内の空気は少しずついい方向に変わって安心する。その大きな理由は、ジルベール様とリゼットちゃん、彼のご両親が賛同してくれているから。ニコラくんとジョエルちゃんも嬉しそうに話を聞いてくれていて、すごく嬉しい。ブレーズ様なんて感動しすぎてハンカチで目元を抑えている。

「お父様も仰った通り、ジャノは私の命の恩人です。あの時、彼が私を助けてくれなければ魔力が暴発して命を落としていたかもしれません。運良く生き残れたとしても、私達家族の関係は悪化していたでしょう。私が魔導具の研究開発に専念していたのは、全てジャノの為なんです。その結果、この国は豊かになり、全体の生活水準も高くなりました。此処に集まってくださった聡明な方達ならもうお分かりでしょう。この国が豊かになったのは、全て彼のお陰なんです」

 そう説明して俺を見つめるユベール様はとても優しい表情をしていて、またドキリと胸が高鳴る。話が飛躍しすぎだと思うけど、この場で否定すると周囲の空気を悪くしてしまうので、敢えて何も言わない。一通り説明を終えるとクレマン様達に声をかける人が居た。

「ベルトラン公爵様。ジャノ様に助けられたのは私達も同じです。少しだけお時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
「皆様にもジャノ様の素晴らしさを知ってほしいんです」
「勿論です」
「え!? ジ、ジルベール様!? リゼットちゃんも!? ど、どうして……」

 こんなのリハーサルではなかったよ!? 叫びそうになるのを必死に我慢したけど、やっぱり驚きを隠せなくて小さな声で二人の名前を呼んでしまう。ユベール様達は落ち着いていて「是非話してください」という雰囲気だ。止める人は居ないらしい。二人は簡単な挨拶を済ませた後、熱烈に語り始めた。主にリゼットちゃんが。

「あの時、ジャノ様が私を助けてくれなければ、弟のニコラは命を落としていたかもしれません。それに、ジルベール様も……」
「私もジャノ様の話はリゼットから聞いていました。ジャノ様は、ユベール様だけでなく、私達の命の恩人でもあるのです。それに、彼はデュボア男爵家のご令嬢、ジョエル様のことも助けてくれました。私やニコラの病とジョエルの顔の傷を治療したのはロザリー様とリゼットです。ですが、その土台を作ったのはジャノ様なんです。彼がリゼットを助けなければ、多くの人達が病や怪我に苦しみ、命を落としていたかもしれません。この国の医療技術や医学が発展したのも、元を辿ればジャノ様のお陰なんです」
「ジャノ様はこの国の宝です。ですから、私達モラン侯爵家一同は、ユベール様とジャノ様の婚約を応援します」
「微力ながら、私もお二人を応援します! ジャノ様は私の大切な一人娘のジョエルを助けてくれました。ジョエルが心から愛する人と結ばれる切っ掛けを与えてくださったジャノ様にはとても感謝していますから!」
「え? あ、ありがとう、ございます」

 待って? みんな何を言っているのか分からない。確かに助けたけどね? 俺は文也の店を紹介しただけで、俺自身は褒められるようなことは何一つしてないよ? ユベール様は俺が助けたけど、リゼットちゃんとジョエルちゃんを助けたのは文也じゃん? 更に言えば、ニコラくんとジョエルちゃんを救ったのはロザリーさんとリゼットちゃんで、ジルベール様を救ったのはリゼットちゃん。俺、関係ありません。紹介した後はリゼットちゃん達の実力だから、俺を過大評価しないで! こんな公の場でそんな嘘、嘘とも言えないけど、尾びれ背びれが付いた話をするのは良くないと思います!




 このパーティーの主役はユベール様なのに、何時の間にか俺が主役になってない? 気のせいかな? 怖くなってユベール様を見上げるとジルベール様達の話にうんうんと頷いて「流石は俺の大天使様」と小さな声で呟いている。こういうところは本当にブレないな。ユベール様。次にクレマン様とラナ様に「話題を変えてほしいなあ」と目で訴えたら、お二人とも大きく頷いて俺にしか見えない角度で親指を立てた。多分、大丈夫だよとか心配するなとかの意味が込められているんだろうけど、ジルベール様達の俺に対する過大評価を止めてほしかったんだけどな。でも、会場内の雰囲気が柔らかくなったから感謝するべきなんだろうか。それでも俺を睨み付けている人は半分くらい居るんだけど。ルグラン伯爵夫妻は特に分かりやすいなあ。

「私達からは以上です。ユベール様、ジャノ様。少し早いですが、婚約おめでとうございます」
「また落ち着いた頃にモラン侯爵邸へお越しください。今後とも、よろしくお願いいたします」
「ユベール様、ジャノ様。本当に、本当にありがとうございます。お二人の婚約が正式に決まりましたらお祝いの品をお贈りします」
「ジルベール様。リゼット様。デュボア男爵様。ありがとうございます。これからもジャノに相応しい男になれるよう、日々努力します」
「え?」

 一気に祝福ムードになったけど、いいの? ジルベール様とリゼットちゃんが「婚約おめでとう」と告げた直後、ジョエルちゃんとニコラくんも俺達の前まで来てくれて「おめでとうございます」と「お二人とも幸せになってください」と祝福してくれた。クレマン様とラナ様も「まだ正式に決まった訳ではありませんが、婚約者となった二人に盛大な拍手を」と語ったら、ホール内は大きな拍手に包まれた。心から祝福してくれている人の顔と、空気を読んで嫌々拍手している人の顔の温度差が激しい。

 そりゃあね? 俺に不満を抱いていてもクレマン様とジルベール様から圧力をかけられたらそうするしかないよね? みんな笑顔なんだけどさ、俺には満面の笑みを浮かべて祝福してくれてるんだけどさ、俺を睨み付けていた人達を見る目はすっごく冷たいの。氷の部屋に閉じ込められた? っていうくらい冷え切っていて「貴族社会って怖い」と改めて思った。俺には無理だ。ジルベール様達みたいに笑顔で全ての感情を隠したり、笑いながら牽制したり。こういうのは文也の方が得意だ。

「ジャノ。挨拶は終わりました。踊りましょう!」
「え!? あ、演奏」
「はい。一曲踊れば終わりですから、もう少しだけ耐えてください」
「勿論です。その為に練習しましたから」

 差し出されたユベール様の手に自分の手を添え、俺達はホールの中央まで足を進めダンスを披露した。さっきまで緊張していたのに、いざ踊り始めてみるとスッと全身の力が抜けてリラックスした状態で踊ることができて、あっという間に一曲が終わってしまった。演奏が終わり、一瞬だけホール内が静寂に包まれるけど、俺とユベール様が一礼すると再び大きな歓声と拍手に包まれる。最初から最後まで、リリーちゃんの力を借りることなく、ミスもせず、一曲踊りきることができた。短期間だったけど、今までの努力が認められたんだと思うと嬉しい気持ちでいっぱいになる。

「完璧でしたよ。ジャノ」
「ありがとうございます! ユベール様! 皆さんが丁寧に教えてくれたお陰です!」
「ジャノ……」

 予定では他の人達もダンスに参加する筈だったんだけど、一曲目は俺とユベール様だけだった。取り敢えずこのパーティーで俺がやらなければならないことは全て終わったから、緊張から解放されてほっと胸を撫で下ろす。この後は自由時間になっていて、お酒や軽食を楽しむ人や、ダンスを楽しむ人、この機会に交流を深める人と様々。隣の部屋が休憩スペースとなっているから、そちらで休む人もちらほら。

「凄いです! ジャノさん! とっても綺麗でしたよ!」
「あ、ありがとう。リゼットちゃん」
「ユベール様から聞いていましたが、約一ヶ月でここまで完璧に踊れるなんて、本当に凄いです!」
「ユベール様やステラさん達が丁寧に教えてくれたんです。練習の時はレイモンさんに頼もうと思っていたんですけど、ユベール様が『本番に忠実な方がいい』と言ってくれて、ずっと練習に付き合ってくれたんです」
「……ジャノさんも、なんですね。ジルと一緒だ」
「リゼット?」
「あー、ははは」

 リゼットちゃんも、同じ経験をしたんだなあ。ユベール様は忙しい方だからダンスの練習に付き合ってもらうのは申し訳ないって思ってレイモンさんに頼んだんだけど、ユベール様が頑なに俺が他の人と踊ることを許さなかったんだよな。自分以外の人が俺と踊るのが物凄く嫌だったらしい。そのお陰でダンスが上達したから感謝すべきなんだけど、ちょっと複雑な気持ちにはなる。まさかジルベール様もユベール様と同じことをしていたとは……

「ジルは姉ちゃんのこととなると視野が狭くなるからな」
「溺愛っぷりが、本当に凄かったです」
「そう、なんだ」
「でも、ユベール様を見ているとジルはまだマシな方なんだなって思う」
「ユベール様とアルベール王太子殿下に比べたら……」
「…………」

 ニコラくんとジョエルちゃんから見てもぶっ飛んでるんだな。ユベール様と殿下は。確かに初めて公爵邸に来た時も、この人本当に大丈夫!? って思うくらいユベール様は暴走していたし、今も結構暴走している。殿下と会ったのは最近だけど、ユベール様と似ているんだよなあ。想い人に一直線なところとか、好きすぎてぶっ飛んでいるところとか、愛が重すぎる? ところとか。
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