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第二部
過去の縁は忘れた頃に戻ってくる4
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ベビードール事件が起きた次の日、文也にそのことを話したら「マジでやったのか?」と顔を引き攣らせていた。そうだな。文也の反応が普通なんだよなあ。あんな恥ずかしい格好を親友に見られなかったのは不幸中の幸いだ。文也に見られていたら俺は一生立ち直れない自信がある。うん。
「ユベール様、すっごく喜んでた」
「もうそれが誕生日プレゼントでいいじゃん」
「俺の精神がゴリゴリ削られるから嫌だ! お前だって嫌だろう!? 殿下の誕生日プレゼントにベビードール姿で『誕生日プレゼントは、オ・レ(はあと)』って言えるのか!?」
「なんでそこで殿下が出てくるんだよ? 俺とあの方は何もないぞ? ないったらない! 断じてない!」
「お、おう。なんか必死だな? お前」
「えー、ひどいなあ。あんなに熱烈にアプローチしているのに、何もないなんて寂しいことを言わないでよ」
「うわ!」
「で、殿下……」
「殿下!? 何時の間にこの部屋に! え? 大丈夫、なんですか? 殿下でもユベール様の許可なくこの部屋に入室するのは無礼に値するのでは?」
「問題ないよー。その時はその時でなんとかするから。初めましてー。この国の第一王子、アルベール・ミシェルでーす。君がジャノくんだね? ユベールから色々話を聞いてるよー」
「は、初めまして。殿下。ジャノと言います」
「緊張しなくても大丈夫。僕は身分とか礼儀作法とかそんなに気にしないタイプだから」
「で、ですが……」
「気にしない。気にしない。此処には君と僕と、僕のお嫁さんしか居ないんだから」
「誰が嫁ですか。貴方の嫁になった覚えはありません」
「むぅ、相変わらず冷たいね? フェル。僕は君一筋なのに」
気にするなと言われても、やっぱり気にはするだろう? 俺の向かいのソファに腰掛けてニコニコ笑っている美しい顔立ちの青年。金色の髪、碧色の瞳という王道の中の王道をいく王子様という風貌だ。見た目と衣装だけ見たら確かに王子様だ。王子様、なんだけど、アルベール殿下、かなりユルくないか? 王子様ってもっとこう、凛々しくて誰からも尊敬される完璧な男、ってイメージだったんだけど。いや、これは俺の勝手な王子様像だから、そのイメージを殿下に押し付けるのは失礼だな。殿下には殿下の考えがあるだろうし、ユルい性格なのも理由があるのかもしれないし。初対面の俺が不躾に聞く訳にもいかないから、何も言わないけど。
「あの、ユベール様に用事でも?」
「ううん。今日は君に伝えたいことがあってね。フェルがベルトラン公爵邸に滞在してるって聞いていたから、彼に会いたかったのも理由の一つなんだけど」
「だからといって此処まで追いかけて来ないでくださいよ。何度来ても、何度告白されても俺の意思は変わりません。殿下の想いを受け止めることはできません。俺と貴方はあくまで店の店主とお客様という関係であることを忘れないでください」
「君も頑固だねー、フェル。まだ身分を気にしているの? 気にしなくてもいいのに。君がこのロイヤル・ゼロを目覚めさせた事実はもう王宮内に広まっているんだから、誰も反対なんてしないよ?」
「目覚めさせた覚えはありません。あれは単なる事故で、俺は触れていません。指先がちょっと掠っただけです。人違いです」
「それで誤魔化せると思ってるの? かわいいね。フェル」
何処から取り出したのか、殿下は大きなトランクケースをテーブルにドンッ! と置いて、ケースを開けて中に入っているものを取り出した。光沢のある、青緑色のマーメイドドレスと、リリーちゃんと同じくらい美しい輝きを放つ宝飾品一式を。これは、ブルーダイヤモンドだろうか。少し緑色も入っていて、希少価値がかなり高そう。というか……
「あのー、殿下? これって、古代魔導具とロイヤル・ゼロじゃ、ないですか?」
「うん。そうだよ? 君が古代魔導具を目覚めさせたってユベールから聞いたから、もしかしたらと思ってフェルのお店に持って行ったんだー。でも、その時はなんの反応もなくてね。ダメだったと落ち込んでたんだけど、翌日見てみると目覚めてたんだ。でも、僕の理想とはほんのちょっと違っていたから、色々と手直しはしてもらったけど」
「…………」
いや、アンタもか。この世界にたった二つしかない貴重なものを勝手に持ち出して大丈夫なのか? ご両親に怒られないのか? 前にユベール様が「殿下は人を振り回す天才」って言ってたけど、アレって冗談でも悪口でもなく、本当のことだったんだな。今頃王宮内は大混乱になっているんじゃないか? だって、古代魔導具を勝手に持ち出して、勝手に目覚めさせて、また勝手に此処に持って来てるんだから。この様子だと、許可も取ってないな。
リリーちゃんはお姉様と再会できて嬉しそうに文字を浮かべているけど。リリーちゃんのお姉さん、ローズさんは余程鬱憤が溜まっていたのか「なんなの! この男!」と書いて、つらつらと殿下への不満や愚痴を垂れ流している。まあ、俺にしか読めないから別にいいんだけど。ユベール様と同じように、色々と手直しをさせられたらしい。そこはユベール様と一緒なんだけど、殿下の場合は一通り手直しをさせた後で「やっぱり違うから全部作り直して」と言ったらしい。笑顔のまま、圧力をかけて。「なぁにが、で・き・る・よ・ね? だぁああああああああああ! こんの、ドス黒腹黒猫被り王子がぁああああああああ!」と暴言を吐いている。あー、殿下のこのユルい感じ、やっぱり演技だったのか。俺には素に見えるけど。
「絶対に着ませんから。俺はこれで失礼します」
「あ! 待ってよ! フェル!」
殿下とローズさんを置き去りに、文也は部屋から出て行ってしまった。文也、殿下のことが嫌いなのか? こんな塩対応する文也は初めて見た。意地悪な貴族達にも似たような態度をとっていたけど、殿下の場合は文也に嫌がらせをしてないし、平民だからと見下してもいない。付き纏われてはいるが、それ以外で文也が殿下を遠ざける理由はなんだ? 身分差か? 身分差なのか?
「あの、殿下?」
「また断られちゃった。ごめんね。情けない姿を見せてしまって」
「いえ。えっと、大丈夫ですか?」
「うん。平気だよ。ありがとう。色々と話が逸れちゃったね。君に伝えたいことなんだけど」
「あ、そうでしたね。はい」
「一度、王宮に来てもらわなければならなくなった」
「…………」
「…………」
「……え!?」
「わあ! ちょっと反応が遅かったね!」
おもしろーい! と言って殿下は笑っているが、俺はそれどころじゃない。王宮? 王宮って言った!? この人! なんで!? なんで平民の俺が王宮に行かないとダメなの!? どういうこと!? 説明してください! 殿下!
困惑する俺に、殿下は詳しく説明してくれた。最初に俺を罰する為に呼ぶ訳じゃないから安心してと言われた。公爵家の後継者と平民の俺が結ばれることを否定されるのかと思っていた俺は、それを聞いて安心した。
「君はロイヤル・ゼロを目覚めさせた。数千年もの間眠り続けていた彼女達を目覚めさせた君達は、この国で讃えられるべき存在なんだよ。王家としても、奇跡を起こした君達に褒賞を与えないのはまずいから王宮に来てほしいって意味だから怯えなくて大丈夫」
「褒賞、ですか?」
「そう。でも、今はユベールの誕生日パーティーの準備でみんな忙しいだろう? 父上と母上は直ぐに君を招待したいと仰っていたけれど、ユベールの誕生日パーティーと時期が被っていたからね。ユベール達の負担が増えるから王宮に来てもらうのはパーティーが落ち着いた後で、と僕が指示を出したんだ」
「そう、ですか。ありがとうございます」
「ユベールも忙しそうにしてたからね。親友を困らせたくはないんだ」
「はい」
「それに、君にとってもいいことだと思う。今の君には身分がない。僕は身分で判断するのは嫌いな方なんだけど、ユベールと結婚するとなるとどうしても付いて回る問題なんだ。一生ね。君にとってはあまり聞きたくない話だと思うけど、公爵家の一人息子であるユベールと、何の身分も持たない平民の君が結婚するとなれば、納得せず不満を持つ貴族も出てくる。君達を祝福する貴族より、君を陥れようとする貴族の方が圧倒的に多くなるのは目に見えている。それは君も分かっているだろう?」
「勿論、理解しています」
殿下は淡々と事実を述べているだけだ。彼の瞳には伯爵夫人達のような侮蔑や嫌悪といった感情は宿っていない。平民の俺にも分かりやすく説明してくれるし、俺やユベール様のことを心配して言ってくれていることが分かるから嫌な気分にもならない。伯爵夫人達は悪意ダダ漏れだったから、殿下の対応に少しだけ驚いてしまう。
「だから王宮に来てもらうんだよ。君を表彰する為にね」
「あ、なんか分かってきました。その表彰式でユベール様と結婚できるよう俺に身分か勲章を与える、ってことですね?」
「その通り! 父上と母上も君達の関係は認めているから安心してね? 父上の判断を認めなければ反逆罪に問われる可能性がある。王家からの罰を恐れてほとんどの貴族達は従うだろう。それでも、不平不満を持つ輩は消えないけど、ユベールや君への負担はかなり軽減されると思うよ?」
「ありがとうございます。殿下」
なんだか凄いことになってきているが、王家が俺とユベール様の結婚を認めてくれると聞いて安心した。今でも俺は身分を気にしていて、本当に俺でいいのかな? って不安に思う時があったから。ユベール様達は「気にしなくていい」と言ってくれるだろうけど、他の貴族達は黙っていない。どうして平民なんかを? と疑問に思うのも当然だ。それでも、ユベール様と一緒にいたいと望んだのは俺自身なんだけど。
「君は、ユベールの気持ちを受け入れたんだね」
「え!? は、はい。少し前までは、孤児だから、平民だからと、ユベール様を諦めていたんですけど、ご両親から過去の俺について教えてもらって、ユベール様と一緒にいてもいいんだって知ったら、自然と好きになっていて……」
「そっかー。両想いなんだね。少し早いけど、おめでとう」
「は、はい。あの、失礼なのは承知の上ですが、殿下がフェルナンを好きになった理由を聞いても、いいですか?」
「いいよ。フェルは覚えてないみたいなんだけど、僕は子どもの頃から彼のことが好きだったんだ」
「え?」
「僕とフェルはね、昔会ったことがあるんだ。高級レストランで」
「…………」
マジか。マジかー。フランソワさんだけでなく、殿下にも影響を及ぼしていたのか。文也ー、お前、高級レストランで働いていた時、殿下に何をしたんだよ? マジで!
「ユベール様、すっごく喜んでた」
「もうそれが誕生日プレゼントでいいじゃん」
「俺の精神がゴリゴリ削られるから嫌だ! お前だって嫌だろう!? 殿下の誕生日プレゼントにベビードール姿で『誕生日プレゼントは、オ・レ(はあと)』って言えるのか!?」
「なんでそこで殿下が出てくるんだよ? 俺とあの方は何もないぞ? ないったらない! 断じてない!」
「お、おう。なんか必死だな? お前」
「えー、ひどいなあ。あんなに熱烈にアプローチしているのに、何もないなんて寂しいことを言わないでよ」
「うわ!」
「で、殿下……」
「殿下!? 何時の間にこの部屋に! え? 大丈夫、なんですか? 殿下でもユベール様の許可なくこの部屋に入室するのは無礼に値するのでは?」
「問題ないよー。その時はその時でなんとかするから。初めましてー。この国の第一王子、アルベール・ミシェルでーす。君がジャノくんだね? ユベールから色々話を聞いてるよー」
「は、初めまして。殿下。ジャノと言います」
「緊張しなくても大丈夫。僕は身分とか礼儀作法とかそんなに気にしないタイプだから」
「で、ですが……」
「気にしない。気にしない。此処には君と僕と、僕のお嫁さんしか居ないんだから」
「誰が嫁ですか。貴方の嫁になった覚えはありません」
「むぅ、相変わらず冷たいね? フェル。僕は君一筋なのに」
気にするなと言われても、やっぱり気にはするだろう? 俺の向かいのソファに腰掛けてニコニコ笑っている美しい顔立ちの青年。金色の髪、碧色の瞳という王道の中の王道をいく王子様という風貌だ。見た目と衣装だけ見たら確かに王子様だ。王子様、なんだけど、アルベール殿下、かなりユルくないか? 王子様ってもっとこう、凛々しくて誰からも尊敬される完璧な男、ってイメージだったんだけど。いや、これは俺の勝手な王子様像だから、そのイメージを殿下に押し付けるのは失礼だな。殿下には殿下の考えがあるだろうし、ユルい性格なのも理由があるのかもしれないし。初対面の俺が不躾に聞く訳にもいかないから、何も言わないけど。
「あの、ユベール様に用事でも?」
「ううん。今日は君に伝えたいことがあってね。フェルがベルトラン公爵邸に滞在してるって聞いていたから、彼に会いたかったのも理由の一つなんだけど」
「だからといって此処まで追いかけて来ないでくださいよ。何度来ても、何度告白されても俺の意思は変わりません。殿下の想いを受け止めることはできません。俺と貴方はあくまで店の店主とお客様という関係であることを忘れないでください」
「君も頑固だねー、フェル。まだ身分を気にしているの? 気にしなくてもいいのに。君がこのロイヤル・ゼロを目覚めさせた事実はもう王宮内に広まっているんだから、誰も反対なんてしないよ?」
「目覚めさせた覚えはありません。あれは単なる事故で、俺は触れていません。指先がちょっと掠っただけです。人違いです」
「それで誤魔化せると思ってるの? かわいいね。フェル」
何処から取り出したのか、殿下は大きなトランクケースをテーブルにドンッ! と置いて、ケースを開けて中に入っているものを取り出した。光沢のある、青緑色のマーメイドドレスと、リリーちゃんと同じくらい美しい輝きを放つ宝飾品一式を。これは、ブルーダイヤモンドだろうか。少し緑色も入っていて、希少価値がかなり高そう。というか……
「あのー、殿下? これって、古代魔導具とロイヤル・ゼロじゃ、ないですか?」
「うん。そうだよ? 君が古代魔導具を目覚めさせたってユベールから聞いたから、もしかしたらと思ってフェルのお店に持って行ったんだー。でも、その時はなんの反応もなくてね。ダメだったと落ち込んでたんだけど、翌日見てみると目覚めてたんだ。でも、僕の理想とはほんのちょっと違っていたから、色々と手直しはしてもらったけど」
「…………」
いや、アンタもか。この世界にたった二つしかない貴重なものを勝手に持ち出して大丈夫なのか? ご両親に怒られないのか? 前にユベール様が「殿下は人を振り回す天才」って言ってたけど、アレって冗談でも悪口でもなく、本当のことだったんだな。今頃王宮内は大混乱になっているんじゃないか? だって、古代魔導具を勝手に持ち出して、勝手に目覚めさせて、また勝手に此処に持って来てるんだから。この様子だと、許可も取ってないな。
リリーちゃんはお姉様と再会できて嬉しそうに文字を浮かべているけど。リリーちゃんのお姉さん、ローズさんは余程鬱憤が溜まっていたのか「なんなの! この男!」と書いて、つらつらと殿下への不満や愚痴を垂れ流している。まあ、俺にしか読めないから別にいいんだけど。ユベール様と同じように、色々と手直しをさせられたらしい。そこはユベール様と一緒なんだけど、殿下の場合は一通り手直しをさせた後で「やっぱり違うから全部作り直して」と言ったらしい。笑顔のまま、圧力をかけて。「なぁにが、で・き・る・よ・ね? だぁああああああああああ! こんの、ドス黒腹黒猫被り王子がぁああああああああ!」と暴言を吐いている。あー、殿下のこのユルい感じ、やっぱり演技だったのか。俺には素に見えるけど。
「絶対に着ませんから。俺はこれで失礼します」
「あ! 待ってよ! フェル!」
殿下とローズさんを置き去りに、文也は部屋から出て行ってしまった。文也、殿下のことが嫌いなのか? こんな塩対応する文也は初めて見た。意地悪な貴族達にも似たような態度をとっていたけど、殿下の場合は文也に嫌がらせをしてないし、平民だからと見下してもいない。付き纏われてはいるが、それ以外で文也が殿下を遠ざける理由はなんだ? 身分差か? 身分差なのか?
「あの、殿下?」
「また断られちゃった。ごめんね。情けない姿を見せてしまって」
「いえ。えっと、大丈夫ですか?」
「うん。平気だよ。ありがとう。色々と話が逸れちゃったね。君に伝えたいことなんだけど」
「あ、そうでしたね。はい」
「一度、王宮に来てもらわなければならなくなった」
「…………」
「…………」
「……え!?」
「わあ! ちょっと反応が遅かったね!」
おもしろーい! と言って殿下は笑っているが、俺はそれどころじゃない。王宮? 王宮って言った!? この人! なんで!? なんで平民の俺が王宮に行かないとダメなの!? どういうこと!? 説明してください! 殿下!
困惑する俺に、殿下は詳しく説明してくれた。最初に俺を罰する為に呼ぶ訳じゃないから安心してと言われた。公爵家の後継者と平民の俺が結ばれることを否定されるのかと思っていた俺は、それを聞いて安心した。
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「褒賞、ですか?」
「そう。でも、今はユベールの誕生日パーティーの準備でみんな忙しいだろう? 父上と母上は直ぐに君を招待したいと仰っていたけれど、ユベールの誕生日パーティーと時期が被っていたからね。ユベール達の負担が増えるから王宮に来てもらうのはパーティーが落ち着いた後で、と僕が指示を出したんだ」
「そう、ですか。ありがとうございます」
「ユベールも忙しそうにしてたからね。親友を困らせたくはないんだ」
「はい」
「それに、君にとってもいいことだと思う。今の君には身分がない。僕は身分で判断するのは嫌いな方なんだけど、ユベールと結婚するとなるとどうしても付いて回る問題なんだ。一生ね。君にとってはあまり聞きたくない話だと思うけど、公爵家の一人息子であるユベールと、何の身分も持たない平民の君が結婚するとなれば、納得せず不満を持つ貴族も出てくる。君達を祝福する貴族より、君を陥れようとする貴族の方が圧倒的に多くなるのは目に見えている。それは君も分かっているだろう?」
「勿論、理解しています」
殿下は淡々と事実を述べているだけだ。彼の瞳には伯爵夫人達のような侮蔑や嫌悪といった感情は宿っていない。平民の俺にも分かりやすく説明してくれるし、俺やユベール様のことを心配して言ってくれていることが分かるから嫌な気分にもならない。伯爵夫人達は悪意ダダ漏れだったから、殿下の対応に少しだけ驚いてしまう。
「だから王宮に来てもらうんだよ。君を表彰する為にね」
「あ、なんか分かってきました。その表彰式でユベール様と結婚できるよう俺に身分か勲章を与える、ってことですね?」
「その通り! 父上と母上も君達の関係は認めているから安心してね? 父上の判断を認めなければ反逆罪に問われる可能性がある。王家からの罰を恐れてほとんどの貴族達は従うだろう。それでも、不平不満を持つ輩は消えないけど、ユベールや君への負担はかなり軽減されると思うよ?」
「ありがとうございます。殿下」
なんだか凄いことになってきているが、王家が俺とユベール様の結婚を認めてくれると聞いて安心した。今でも俺は身分を気にしていて、本当に俺でいいのかな? って不安に思う時があったから。ユベール様達は「気にしなくていい」と言ってくれるだろうけど、他の貴族達は黙っていない。どうして平民なんかを? と疑問に思うのも当然だ。それでも、ユベール様と一緒にいたいと望んだのは俺自身なんだけど。
「君は、ユベールの気持ちを受け入れたんだね」
「え!? は、はい。少し前までは、孤児だから、平民だからと、ユベール様を諦めていたんですけど、ご両親から過去の俺について教えてもらって、ユベール様と一緒にいてもいいんだって知ったら、自然と好きになっていて……」
「そっかー。両想いなんだね。少し早いけど、おめでとう」
「は、はい。あの、失礼なのは承知の上ですが、殿下がフェルナンを好きになった理由を聞いても、いいですか?」
「いいよ。フェルは覚えてないみたいなんだけど、僕は子どもの頃から彼のことが好きだったんだ」
「え?」
「僕とフェルはね、昔会ったことがあるんだ。高級レストランで」
「…………」
マジか。マジかー。フランソワさんだけでなく、殿下にも影響を及ぼしていたのか。文也ー、お前、高級レストランで働いていた時、殿下に何をしたんだよ? マジで!
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