当て馬にされていた不憫な使用人は天才魔導士様に囲われる《第二部完結》

トキ

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第二部

過去の縁は忘れた頃に戻ってくる2

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 三日後、文也が公爵邸にやって来て早速フランソワさん達に飾り切りを教えていた。パーティーで振る舞う料理作りに専念してもらいたいということで、俺やユベール様達の食事は文也が作ってくれることになった。その話を聞いたクレマン様とラナ様も「食べたい!」とお願いして、文也は引き受けつつも顔が引き攣っていたけど。身内だけのパーティーで文也が作った料理の美味しさは二人も分かっているから「あの味をお家で楽しめる!」と子どものように目を輝かせて喜んでいた。

「あぁ、やっぱ安心するー」
「この生活にも慣れたか?」
「一応、慣れたかな? ドレスと宝飾品に関しては一生慣れないと思うけど」
「お前らしいな。あれから外出はしてないんだろ?」
「ユベール様が許すと思う?」
「思わねえな。リゼット達も俺の店に来た時に怒ってたぜ? お前との買い物の邪魔をされたって」
「リゼットちゃん。やっぱり怒ってたの? 伯爵夫人のこと、結構褒めてたけど」
「そりゃ怒るだろ? あの女、お前にいじめられたって貴族達に吹聴してるし。ルグラン伯爵もあの女の言葉を鵜呑みにしてリゼットとジョエルはお前に騙されているって騒いでちょっとした噂になってるぞ?」
「俺がリゼットちゃんとジョエルちゃんを騙して伯爵夫人を仲間外れにしたって?」
「被害妄想もいいところだな。あれも仕組んだのは……いや、なんでもない。お前は知らなくていいことだから気にすんな」
「え!? そこで止めるの!? 気になるんだけど!?」

 仕組んだってどういうこと!? 誰かが仕組んだの!? 何を!? 確かにあの時、タイミングよくジルベール様がリゼットちゃんを、ニコラくんがジョエルちゃんを迎えに来たし、何故かユベール様も彼と偶然出会ったと言って俺を迎えに来たけど。あの時は色々とパニックになっていて訳が分からなかったけど、冷静になって考えてみると伯爵夫人を置き去りにしている構図になるんだよな。しかも、俺達はみんな好きな人が迎えに来てくれたのに、伯爵夫人は侍女とポツンと残されて迎えに来ることはない。オープンカフェという色んな人が行き来する公共の場で、それを見た人々がどう思うか。当然、リゼットちゃん達は愛されているなあと微笑ましく思うだろう。そして、旦那が迎えに来ない伯爵夫人を見て「もしかして、ルグラン様は夫に愛されていないのでは?」という噂が立つのも当然の流れだった訳で……

「自業自得だな。ベルトラン公爵家とモラン侯爵家から厳しく注意を受けたのに、未だにお前が悪いって喚いてるんだぜ?」
「そんなに気に入らなかったのかなあ。俺がユベール様の想い人だったことが……」
「それもあるが、リゼット達と繋がりがあるのも許せなかったらしい。リゼットは優秀な医者でもあるから、仲良くなりたかったんだろうな」
「リゼットちゃんも昔は俺と同じ平民だったのにな。あの人が見下す平民ってどんな人? って疑問に思う」
「確かに。リゼットのこともバカにしそうだけど、彼奴は貴族界でも名が通っているし、モラン侯爵家なんて両親が崇拝する勢いだからな。そりゃあ敵に回したくねえだろ? 正しい医療の知識と最先端の治療方法と技術を持つリゼットと仲良くなれれば病気になった時優遇されるかもしれないからな」
「あぁ、結局は自分の為」
「そりゃそうだろう? お前みたいなお人好しの方が絶滅危惧種なんだよ」
「俺、人を選んでいるからお人好しとはちょっと違うと思うぞ? それに、お前がいなきゃ見捨てていたかもしれないし」

 お店の常連客に凄腕のお医者様がいると文也から聞いていたから、俺はリゼットちゃんに文也の店を紹介した。文也ならリゼットちゃんを助けられるという確信があったからだ。実際にリゼットちゃんとニコラくんを助けたのはロザリーさんだけど。

「でも、俺の店には連れて来たんじゃねえの? ロザリーさんと知人じゃなくても」
「あー、それは、したかもしれない」
「俺はお前が『助けてあげて』と言ったから助けたんだ。お前の紹介じゃなければ追い出してるよ」
「とか言いつつ、今回も協力してくれてるじゃん。文也の方がお人好しだろ?」
「フランソワさんが思い詰める原因を作ったのは俺だからな。責任は取らないとダメだろ?」
「貴族嫌いのくせに」
「お前だってそうだったじゃねえか」
「いて」

 こつん、と指で額を軽く押されて思わず声が出てしまった。文也の言う通り、俺達は貴族が嫌いだった。選民思想高いわ、差別意識強いわ、平民というだけで見下すわ、自分の仕事を押し付けるわ、少しでも遅れたり出来ていなかったりしたら怒鳴り散らすわ。貴族ってこんな酷い性格の人しかいないの? って思うくらい最低だった。貴族の令嬢や夫人達に当て馬に仕立て上げられた時は冗談抜きで人間不信に陥った。文也が味方だったから精神病まずに済んだけどさあ、頼れる人が誰もいなかったら心身共に追い詰められてヤバい状態になっていたのは確かだ。労働環境も最悪だったし。

「全ての貴族が嫌いだとは言っていないし、お前を助けてくれたユベール様には感謝してるんだよ。やっと俺の大切な親友が幸せになれるからな」
「まだ恋人なんですけど」
「無駄な質問になるかもしれないが、お前はユベール様とどうなりたいんだ?」
「…………」

 文也に聞かれて何も答えられなくなる。ユベール様とは恋人同士、だと思う。じゃあ、これからは? 恋人で終わる筈がない。その先はユベール様の婚約者で、更にその先はユベール様のお嫁さん。バカな俺でもこれくらいは分かる。ユベール様と結婚する意味も、それがどれだけ大変なことなのかも……

「あれ? お前、もしかして……」
「うん。覚悟は出来てる。その為に、色々と頑張ってる真っ最中なんだ」
「へえ。ユベール様が知ったら大喜びじゃん」
「これはまだ秘密にしておいて! ユベール様の誕生日に、俺から伝えたいから!」
「ははっ! お前らしい。正式に決まったら特大のケーキ作ってやるから店に来いよ?」
「あ、そのことなんだけど。俺もさあ、リゼットちゃんみたいに開きたいなあって思ってるんだ。身内だけのパーティー。場所はベルトラン公爵邸」
「俺の店じゃなくて?」
「伯爵夫人と侍女が乗り込んで来た時のお詫びも兼ねてるからさ。此処で開きたい。結局お前頼みになっちゃうんだけど、いい? お金はちゃんと払うからさ!」
「親友のお願いなんだから引き受けるに決まってんだろ? 誕生日パーティーまでは俺もベルトラン公爵邸に滞在するから、何時でも打ち合わせはできるしな」
「本当にありがとう! 文也! ユベール様にも伝えておくな!」
「あぁ」
「あと、もう一つ相談があるんだけど」
「なんだ?」
「ユベール様への誕生日プレゼント、何にしようかなあ、って」
「身体全体にリボン結んだお前?」
「プレゼントは俺です! って、既に出し尽くされたネタじゃねえか!」
「正直、ユベール様はお前だったらなんでもいいと思うぞ?」
「俺以外で! ロイヤルもお値段高いから却下! 本当はピアスとか考えたんだけど、ロイヤルじゃなくてもさあ、宝石ってお高いじゃん? 俺、今無職でお金もほぼゼロの状態だから」

 本当はシンプルなデザインのピアスをユベール様の誕生日プレゼントにしたかった。手頃なお値段のピアスもあると思うけど、公爵家の一人息子への誕生日プレゼントとなると、やっぱりロイヤルしかダメな気がする。ロイヤルの美しさは毎日嫌というほど見ているから宝石に疎い俺でも少しだけ詳しくなったと思いたい。でも、ロイヤルを買えるお金なんて持っていないし、ユベール様のお金で買うのはプレゼントにならないし、俺でも用意できるプレゼントは何かとずっと悩み続けている。

 だから文也に聞いたのに。確かにユベール様ならリボン結んだだけの俺でも喜びそうだけど、もっとちゃんと形にしたものをプレゼントしたい。
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