当て馬にされていた不憫な使用人は天才魔導士様に囲われる《第二部完結》

トキ

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第一部

反省しない人1

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 ルグラン伯爵夫人と侍女はユベール様のお母様、ラナ様からお叱りを受けたらしい。まさかユベール様のご両親が帰ってくるとは誰も思っておらず、みんな困惑したとステラさんから聞いた。自業自得だけど、ぐちゃぐちゃに荒らした部屋を相手の両親に見られるのは色々となあ。気まずいよな。しかも他所様のお家でやらかして、一部始終も見られて、すごく恥ずかしい思いをしたに違いない。更にその次の日にはラナ様がルグラン伯爵邸を訪れて、彼女がしたことをそっくりそのまま返したらしい。言葉で。

 予め俺から情報を得ていたラナ様は伯爵夫人と同じようにアレもコレもとお菓子を注文して、侍女が「そんなに用意できない」と言ったら「此処のシェフは無能なのかしら?」と満面の笑みで言い返したそうだ。その後、冗談だと言って用意してもらったお菓子を見たのだが、そこでシェフを呼んで「これは貴方が作ったの?」とラナ様が聞くと「はい! 腕によりをかけて作りました!」と断言。それを聞いたラナ様は「これ、王都でも有名なスイーツ店で売られているお菓子よね?」と言ったらシェフは顔面蒼白。シェフのズルがバレた訳だ。

 その他にもラナ様は色々と夫人と侍女に言ったらしいのだが詳細は不明。帰ってきたステラさんが「本当にスッキリしました!」と晴れ晴れとした表情で言っていたから、かなり怒られたんだと思う。そりゃあ、自分の家を好き勝手荒らされて、一流のシェフや使用人達を見下されて侮辱されたらキレるよな。自業自得としか言えねえわ。だって全面的に悪いのはあの二人なんだから。

 ラナ様に怒られて少しは大人しくなってくれればいいのだが、あの夫人のことだからまた被害者面して全て俺のせいにでもしているに違いない。なんで俺なんだ? と疑問には思うが、彼女にとって俺は意地悪をする最低男という認識らしい。思い込みで人を判断するなよと言いたいが、言っても無駄だからもう関わりたくない。あぁいう人間とは関わらないのが吉。俺はそう思っているんだけど……

「酷いです! ジャノさん! ジャノさんのせいで、私、ラナ様にすっごく怒られたんですからね!」
「ああ! ニナ様! こんなに傷付いて泣いている姿を見ても何とも思わないのかい! この人でなし!」
「…………」

 なあんで、俺に絡んでくるんでしょうねえ? 本当。やっぱり外出すべきではなかったか。俺はただある人達の付き添いとして外出しただけなのに。そのお家の騎士は皆腕の立つ人達ばかりだから外出しても安心だとまで言われていたんだけど、連れ出されたんだよなあ。この二人に。俺に近付いて小声で「付いて来なかったら他の奴を傷付けて大騒ぎしてやる」って脅されたら従うしかないじゃん。そうしてお店から連れ出された俺は見覚えのあるオープンカフェにて、伯爵夫人と楽しくお茶会、という流れだ。はあ。

「聞いているんですか!? ジャノさん! ユベール様だけでなく、ご両親をも騙すなんて最低です! 私のドレスと宝石も奪って、そうやって私に見せ付けて! ジャノさんは意地悪です!」

 彼女の言うドレスと宝石って、俺が最初に着ていたものだよな? ユベール様とレイモンさんから教えてもらったけど、あまりの非常識っぷりに俺はもう考えるのさえ嫌になった。私のドレスと宝石って言ってるけど、最初から貴女のものじゃないですよね!? ユベール様が購入したものですよ!? それを「私のもの!」って言い切れる度胸、ある意尊敬するわ。

「シェフのことだってそうです! 彼らに話を聞いたら『あの使用人に命令されて仕方なく』と言って謝ってきたんですよ! ジャノさん、自分が酷いことをしているって自覚ないでしょう!? あったらこんなこと、絶対にしない筈です!」

 それはシェフの自業自得だろう。彼奴ら、サボっていた責任を全部俺に押し付けやがったな。もうシェフなんて名乗るなよ。有名店のスイーツまで自分が作ったって宣っていたらもうシェフじゃねえだろ。下手したら相手側から訴えられるぞ? 規模は小さいが立派な犯罪だからな? 他人の作り上げたものを自分の手柄にするなよな。プロのシェフならさあ。

「ラナ様は私にお金を出せって言ってきたんですよ! 私、何も悪いことをしていないのに!」
「ニナ様の為に用意したスイーツのお金と携わったシェフや使用人達の賃金も支払えなんてあんまりだわ! お前が命令したんだろ! ニナ様からお金を巻き上げる為に!」

 いや、自業自得だろうが。俺はラナ様がそんなことをしていたなんて聞いていないぞ? あのテーブルに並べられたスイーツのお金だけで一体いくらかかるのやら。それに加えてシェフ達の人件費だろ? うっわー、考えたくねえ。結構な値段になるんじゃないのか?

「お部屋の清掃代とドレスと宝石のレンタル料まで請求されたのよ!? ジャノさんのせいなんだから、全部ジャノさんが払うべきだわ!」
「ニナ様の言う通り! お前が全ての原因なんだからお前が全額払え!」

 多分俺がそれをしたら火に油だと思うんだが。余計にラナ様達を怒らせることになるぞ? 何故か知らないけど、俺、クレマン様とラナ様にも気に入られているというか、色々と心配してくれているというか。それに、俺がユベール様達に告げ口すると思わないのだろうか。思わないから言ってるんだろうなあ。こんな風に文句が言える時間があるなら、もっと別のことに時間を使えばいいのに。




 今回は前よりも長くなりそうだなあ、と俺がうんざりした表情で二人の話を聞き流していると「ジャノさん!」と慌てたような声がして振り返った。

「ジャノさん! 私達から絶対に離れない約束だったじゃないですか! みんな心配したんですからね!」
「ごめん。ちょっとルグラン様と一緒になって」
「ルグラン様って、あの?」
「……うん」

 俺の側に慌てて駆け寄ってきたのはオレンジ色の長い髪、同じ色の瞳をした女の子。リゼットちゃんだ。彼女は薄緑色のドレスを着ていて、きらきらと輝くエメラルドの宝飾品を身に付けている。彼女が身に付けている宝石も俺と同じロイヤル。婚約者さんが彼女の為に用意した特別なものだ。

「ジャノ様!」
「ジョエルちゃんも。心配かけちゃってごめんね」
「い、いえ! 無事で良かったです。ジャノ様にもしものことがあったら、お父さんも心配するので」
「うん。ごめんね。ニコラくんへのプレゼントは決まった?」
「そ、それは、その……リゼット様がお金を出してくれて、ル、ルビーのピアスを、一つだけ」
「そっかあ。ニコラくん、きっと喜ぶよ!」
「は、はい!」

 リゼットちゃんの後を追ってジョエルちゃんもやって来た。初めて会った時は髪は乱れていて、ドレスも汚れていたけれど、リゼットちゃん達に隅々まで磨かれたからなのか、彼女はとても綺麗になった。真っ直ぐ伸びた黒髪は艶やかで、身に付けているのは赤に近いオレンジ色のドレスとオレンジ色のガーネットの宝飾品。ニコラくんがジョエルちゃんに贈ったものだ。こちらは二人が再会できたお祝いに、ジルベール様が特別にお金を出してくれたのだそう。ニコラくんは少し悔しそうな顔をして「大人になったら俺が稼いだお金で全部買うから!」とジョエルちゃんに言ったらしい。うんうん。微笑ましいねえ。当然、彼女が身に付けている宝石もロイヤル。モラン侯爵家だもんね。そりゃあ奮発するよね。リゼットちゃんの弟の想い人だもん。

「ジャノさんが無事でよかった。あの、ご一緒しても? 私達も休憩したかったので」
「え? え、ええ。勿論」
「本当? ありがとうございます。ジョエルさんも一緒に座りましょう?」
「は、はい! お邪魔、します」

 そういえば、似たようなことが前にもあったなあ。あの時は文也のお陰で時間を潰せたけど、まさかリゼットちゃん達も二人に何か言うとかないよね? やめてね? 後が怖いから!
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