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第一部
おまけ「第一回緊急家族会議」
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ジャノ様のお部屋を掃除していると、ステラ様に呼び出され旦那様の執務室に来るよう命じられた。ジャノ様は夕食を終えてゆっくり休まれているようだ。ジャノ様のお世話は今日、ルグラン様の侍女に転ばされた使用人が引き受けたという。ジャノ様はずっと彼女の足の怪我を気にしていたと聞き、どこまでもお人好しな方だと苦笑する。そんな彼に絆された私も私だが……
「これより、第一回緊急家族会議を始める!」
旦那様の執務室へ入り、指定された席に座ると旦那様が声を荒げて「緊急家族会議」と宣言した。家族? 会議? 家族会議に何故私も? と色々と疑問に思うが、旦那様は真剣な表情をして何処から持ってきたのかホワイトボードに今日の議題を書いた。
「議題は勿論これだ! どうすればジャノくんがユベールを好きになるかだ! これはとても重要なことだ。皆、真剣に考えるように!」
あの、旦那様。私は必要なのでしょうか? これは家族のみで話し合う内容では……
「クレマン様。ジャノ様はとても魅力的な方です。彼はモラン侯爵家のジルベール様の婚約者であるリゼット様とも繋がりがあり、最近ではデュボア男爵令嬢であるジョエル様にも手を差し伸べていました」
「リゼットさんに、ジョエルさんまで!? これは、益々ジャノさんを放ってはおけないわ。早くユベールのことを好きになってもらわないと……」
「その通りです。ジャノ様はあの人柄の良さで多くの方を虜にしてしまいます。その中でも最も警戒すべき人物はやはりジャノ様のご友人であるフェルナン様でしょう。フェルナン様はカフェを経営しており、気遣いも優しさも兼ね備えた完璧な男性です。ジャノ様とフェルナン様の付き合いは長く、お二人は親友と仰っていますが、何時恋愛に発展しても可笑しくないくらい距離が近いのです」
「……ステラ様? 確か彼は殿下に言い寄られて困っていたと思うのですが」
「レイモンさんの言う通り、フェルナン様はアルベール殿下に口説かれているようです。なので、その隙にジャノ様の心をユベール様の愛でメロンメロンにするのがよろしいかと」
「なるほど。確かに要注意人物ではあるな」
「クレマン様。フェルナン様はリゼット様の時もジルベール様から恋敵に思われて苦労していたと語っておりました。その後、ユベール様にも恋敵に思われて……これ以上、彼を振り回すのはどうかと」
リゼット様の弟、ニコラ様にも敵意を向けられていた。殿下にも付き纏われて、更に旦那様達にも警戒されるのはフェルナン様の心に負担がかかるのではと危惧したのだが、ステラ様に「レイモンさん! そんな生ぬるいことを言っている場合ではありません!」と叱責を受けてしまった。ジャノ様の人柄の良さは私も分かっているが、旦那様達がこんなに入れ込むなんて思いもしなかった。
「クレマン様。やはり成功者に話を聞くのが一番だわ。モラン侯爵家のご両親とは顔見知りだし、お茶会でお会いした時にさり気なく聞いてみるわ。どうやってリゼットさんに気付かれず外堀を埋めたのかを!」
「おお! 流石は私の愛する妻! リゼット嬢もジャノくんと同じ平民だったからモラン侯爵家に聞くのは確かに納得だ!」
「ふふふ。私の顔の広さを甘く見ないでちょうだい。お会いする方々にさり気なく『息子の想い人は見付かったんだけど、まだ婚約はしていなくて。でもでも、近い内にそうなる予定なんですう』と噂を広めておくわ! ご夫人達の噂好きはとおっても怖いのよ! あっという間に広がるんだから!」
「お母様! 流石です! 俺もジャノの為に努力しなければ!」
「クレマン様。ラナ様。こういうのはどうでしょう? やはりジャノ様の身分をバカにするクズ、こほん、クソやろ……貴族は出しゃばってくるので、暇潰しになる、いい社会経験になる、知っていて損はないと、それらしい理由を述べて、ジャノ様に食事マナーや礼儀作法やダンスを教えるのは。厳しく徹底的に、ではなく、優しく接すればジャノ様も受け入れてくれる筈ですわ!」
「おお! それはいい案だ! 公の場ではどうしても貴族としての振る舞いが必要になるからな」
「ご安心を。ジャノ様は飲み込みが早く、食事をする姿もとても美しく丁寧でした。基本さえ身に付ければ直ぐに上達しますよ! 他の方達が言葉を失うほど美しい淑女になりますわ!」
「淑女?」
ステラ様に睨まれたので、私は押し黙った。こういうのって確か、花嫁修行と言うのではなかっただろうか。ジャノ様の心を射止める方法ではなく、ジャノ様に気付かれず、どうやって外堀を埋め、逃げ道を塞ぎ、囲い込むかしか考えていない気がするのだが、正直に言うべきではないだろう。私はあくまでユベール様の専属執事なのだから。
「やるべきことは決まったな! ラナ、ステラ。ジャノくんを我が家に迎え入れる為だ。くれぐれも失敗のないように」
「任せてちょうだい。クレマン様」
「お任せください。旦那様」
「ユベールはジャノくんを大切に大切にして、彼の心を射止めること。いいな?」
「はい! お父様! ジャノを幸せにするのはこの俺です!」
「レイモンくんはユベールのサポートを」
「かしこまりました」
「では解散!」
「の、前に。クレマン様、あの方達のこと、私に任せてくれないかしら?」
やっと会議が終わったと安堵したのも束の間、ラナ様はとてもお美しい笑顔を讃えて一つ提案した。あの方達、というのはルグラン伯爵夫人と侍女のことだろう。後日、ユベール様が乗り込む予定だったが、それをラナ様が引き受けたいと申し出る。ユベール様はなるべくジャノ様の隣にいた方がいい、と。夫人の相手は同じ夫人である自分の方が慣れているから、と。明日の朝ルグラン伯爵邸へ向かうそうだ。ステラ様と一緒に行くから、その間の管理は私に任せると命じられ、私は「お任せを」と返し、ラナ様に一礼した。
「これより、第一回緊急家族会議を始める!」
旦那様の執務室へ入り、指定された席に座ると旦那様が声を荒げて「緊急家族会議」と宣言した。家族? 会議? 家族会議に何故私も? と色々と疑問に思うが、旦那様は真剣な表情をして何処から持ってきたのかホワイトボードに今日の議題を書いた。
「議題は勿論これだ! どうすればジャノくんがユベールを好きになるかだ! これはとても重要なことだ。皆、真剣に考えるように!」
あの、旦那様。私は必要なのでしょうか? これは家族のみで話し合う内容では……
「クレマン様。ジャノ様はとても魅力的な方です。彼はモラン侯爵家のジルベール様の婚約者であるリゼット様とも繋がりがあり、最近ではデュボア男爵令嬢であるジョエル様にも手を差し伸べていました」
「リゼットさんに、ジョエルさんまで!? これは、益々ジャノさんを放ってはおけないわ。早くユベールのことを好きになってもらわないと……」
「その通りです。ジャノ様はあの人柄の良さで多くの方を虜にしてしまいます。その中でも最も警戒すべき人物はやはりジャノ様のご友人であるフェルナン様でしょう。フェルナン様はカフェを経営しており、気遣いも優しさも兼ね備えた完璧な男性です。ジャノ様とフェルナン様の付き合いは長く、お二人は親友と仰っていますが、何時恋愛に発展しても可笑しくないくらい距離が近いのです」
「……ステラ様? 確か彼は殿下に言い寄られて困っていたと思うのですが」
「レイモンさんの言う通り、フェルナン様はアルベール殿下に口説かれているようです。なので、その隙にジャノ様の心をユベール様の愛でメロンメロンにするのがよろしいかと」
「なるほど。確かに要注意人物ではあるな」
「クレマン様。フェルナン様はリゼット様の時もジルベール様から恋敵に思われて苦労していたと語っておりました。その後、ユベール様にも恋敵に思われて……これ以上、彼を振り回すのはどうかと」
リゼット様の弟、ニコラ様にも敵意を向けられていた。殿下にも付き纏われて、更に旦那様達にも警戒されるのはフェルナン様の心に負担がかかるのではと危惧したのだが、ステラ様に「レイモンさん! そんな生ぬるいことを言っている場合ではありません!」と叱責を受けてしまった。ジャノ様の人柄の良さは私も分かっているが、旦那様達がこんなに入れ込むなんて思いもしなかった。
「クレマン様。やはり成功者に話を聞くのが一番だわ。モラン侯爵家のご両親とは顔見知りだし、お茶会でお会いした時にさり気なく聞いてみるわ。どうやってリゼットさんに気付かれず外堀を埋めたのかを!」
「おお! 流石は私の愛する妻! リゼット嬢もジャノくんと同じ平民だったからモラン侯爵家に聞くのは確かに納得だ!」
「ふふふ。私の顔の広さを甘く見ないでちょうだい。お会いする方々にさり気なく『息子の想い人は見付かったんだけど、まだ婚約はしていなくて。でもでも、近い内にそうなる予定なんですう』と噂を広めておくわ! ご夫人達の噂好きはとおっても怖いのよ! あっという間に広がるんだから!」
「お母様! 流石です! 俺もジャノの為に努力しなければ!」
「クレマン様。ラナ様。こういうのはどうでしょう? やはりジャノ様の身分をバカにするクズ、こほん、クソやろ……貴族は出しゃばってくるので、暇潰しになる、いい社会経験になる、知っていて損はないと、それらしい理由を述べて、ジャノ様に食事マナーや礼儀作法やダンスを教えるのは。厳しく徹底的に、ではなく、優しく接すればジャノ様も受け入れてくれる筈ですわ!」
「おお! それはいい案だ! 公の場ではどうしても貴族としての振る舞いが必要になるからな」
「ご安心を。ジャノ様は飲み込みが早く、食事をする姿もとても美しく丁寧でした。基本さえ身に付ければ直ぐに上達しますよ! 他の方達が言葉を失うほど美しい淑女になりますわ!」
「淑女?」
ステラ様に睨まれたので、私は押し黙った。こういうのって確か、花嫁修行と言うのではなかっただろうか。ジャノ様の心を射止める方法ではなく、ジャノ様に気付かれず、どうやって外堀を埋め、逃げ道を塞ぎ、囲い込むかしか考えていない気がするのだが、正直に言うべきではないだろう。私はあくまでユベール様の専属執事なのだから。
「やるべきことは決まったな! ラナ、ステラ。ジャノくんを我が家に迎え入れる為だ。くれぐれも失敗のないように」
「任せてちょうだい。クレマン様」
「お任せください。旦那様」
「ユベールはジャノくんを大切に大切にして、彼の心を射止めること。いいな?」
「はい! お父様! ジャノを幸せにするのはこの俺です!」
「レイモンくんはユベールのサポートを」
「かしこまりました」
「では解散!」
「の、前に。クレマン様、あの方達のこと、私に任せてくれないかしら?」
やっと会議が終わったと安堵したのも束の間、ラナ様はとてもお美しい笑顔を讃えて一つ提案した。あの方達、というのはルグラン伯爵夫人と侍女のことだろう。後日、ユベール様が乗り込む予定だったが、それをラナ様が引き受けたいと申し出る。ユベール様はなるべくジャノ様の隣にいた方がいい、と。夫人の相手は同じ夫人である自分の方が慣れているから、と。明日の朝ルグラン伯爵邸へ向かうそうだ。ステラ様と一緒に行くから、その間の管理は私に任せると命じられ、私は「お任せを」と返し、ラナ様に一礼した。
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