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第一部
言い訳は通用しない3
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ジャノは俺の自室で休んでいると分かって、お父様とお母様もほっと胸を撫で下ろす。伯爵夫人と侍女が荒らした部屋は酷い有様だ。しかし、当然苛立ちや怒りはあるものの、その感情よりもジャノへの愛しさで心が埋め尽くされていた。優しくて可愛くて美しいだけでなく、格好よさも兼ね備えているなんて最強じゃないか! あの女達が何を言っても反論せず、ただただ聞き流していたのに、使用人をクビにしろと騒ぎ出した瞬間ジャノの表情が変わった。真っ直ぐルグラン伯爵夫人の目を見据え、静かな声で現実を突き付ける。それだけでも格好いいのに使用人を庇って「全て俺の責任です」と「彼女の代わりに俺が出て行きます」と断言する姿を見たら、誰だって彼に惚れるに決まっているだろう! 俺は惚れた!
「ユベール様はお部屋へお戻りください。この部屋は隅々まで綺麗にしますのでご安心を」
「あぁ。ありがとう。レイモン」
「こちらはユベール様が預かっていてください。ジャノ様が途中まで執筆した小説の原稿です」
「何故これを?」
「ルグラン伯爵夫人が目敏く見付けて奪われていたのです。ドレスを着替えさせる時に隙を見て返していただきました」
「そうか。彼女はこれを読んだのか?」
「いいえ。その前にクレマン様とラナ様が入室したので読んでいない筈です」
「分かった。ありがとう。レイモン」
「これが私の仕事ですから」
レイモンから小説の原稿を受け取り、俺は自室へ戻ることにした。部屋の入り口には執事と使用人達が掃除用具を持って待機していた。何時の間に集まったのだろうかと疑問に思うが、これだけ多くの人がジャノの為に動いてくれるのだと思うと誇らしく思う。彼らにも「余分な仕事を依頼して済まない。部屋を綺麗にしてくれ」と伝えると、全員大きく頷いて清掃に取り掛かった。
「ユベール様!」
「ジャノ? 起きたんですか? すみません。本来なら俺がする仕事を貴方に押し付ける形になってしまって」
「伯爵夫人は!? あの女の子は!? 俺、何も出来なくて、部屋もぐちゃぐちゃにしてしまって、シェフ達にも無茶なお願いを……えっと、えっと、本当に、本当に申し訳ありませんでした!」
自室に戻った瞬間、ジャノが慌てて駆け寄ってきて深々と頭を下げた。そんなことをする必要はないのに。ステラも「ジャノ様! 謝らないでください!」と必死に懇願している。何も出来ないなんてとんでもない。ジャノが伯爵夫人の相手をしてくれていなければ、もっと踏み荒らされていたかもしれない。この家に仕える多くの者達があの二人の被害に遭っていたかもしれない。ジャノが居てくれたから被害も最小限で済んだのだ。それでも二人のしたことは絶対に許さないが……
「安心してください。ジャノ。あの二人には帰ってもらいました。魔導具で確認して彼女が無実であることも把握しています」
「本当ですか?」
「本当です。悪いのはルグラン伯爵夫人とその侍女です。あの二人が加害者なのは明白。ですから、ジャノが心配することは一つもありません」
「よ、良かった。あ、でも部屋!」
「隅々まで徹底的に清掃している真っ最中です」
「え?」
「今日、あの部屋は使えないので、俺の部屋で過ごしましょう。ジャノ」
「そ、それは申し訳ないです! 手頃な部屋を用意していただければ……」
「ダメです。ジャノを一人になんてできません」
「ユ、ユベール様!?」
ジャノを一人にするなんて危険すぎる。そんなことは許さないと知ってもらう為に彼の腕を掴んで自分の方へ引き寄せる。細く小さな身体を腕の中に閉じ込めて「俺がジャノと一緒に居たいんです」とお願いした。
「俺と一緒は嫌ですか?」
「そ、そんなことは! で、でも、きょ、距離が近くて……えっと、あの……」
抱きしめていた腕を緩めて彼の両肩に手を置く。向き合う形でジャノの顔を見ると、林檎のように頬を赤く染めて視線を彷徨わせていた。あぁ、本当に可愛い。そんな表情を俺に見せるなんて。少しは期待してもいいってことですよね? ジャノの気持ちは勿論尊重するが、今更彼を手放すなんて考えられない。考えたくもない。こんな無防備で可愛いジャノを野放しにしたら、直ぐに他の狼達が群がって奪われてしまう。ジャノは「大袈裟だ」とか「平凡な男を好きになんて」とか自分のことを卑下するが、俺の想い人でなければと考えている輩は結構いる。だから俺は気が気ではないのだ。常にジャノの傍を離れたくないと思うほどに……
「ユベール様はお部屋へお戻りください。この部屋は隅々まで綺麗にしますのでご安心を」
「あぁ。ありがとう。レイモン」
「こちらはユベール様が預かっていてください。ジャノ様が途中まで執筆した小説の原稿です」
「何故これを?」
「ルグラン伯爵夫人が目敏く見付けて奪われていたのです。ドレスを着替えさせる時に隙を見て返していただきました」
「そうか。彼女はこれを読んだのか?」
「いいえ。その前にクレマン様とラナ様が入室したので読んでいない筈です」
「分かった。ありがとう。レイモン」
「これが私の仕事ですから」
レイモンから小説の原稿を受け取り、俺は自室へ戻ることにした。部屋の入り口には執事と使用人達が掃除用具を持って待機していた。何時の間に集まったのだろうかと疑問に思うが、これだけ多くの人がジャノの為に動いてくれるのだと思うと誇らしく思う。彼らにも「余分な仕事を依頼して済まない。部屋を綺麗にしてくれ」と伝えると、全員大きく頷いて清掃に取り掛かった。
「ユベール様!」
「ジャノ? 起きたんですか? すみません。本来なら俺がする仕事を貴方に押し付ける形になってしまって」
「伯爵夫人は!? あの女の子は!? 俺、何も出来なくて、部屋もぐちゃぐちゃにしてしまって、シェフ達にも無茶なお願いを……えっと、えっと、本当に、本当に申し訳ありませんでした!」
自室に戻った瞬間、ジャノが慌てて駆け寄ってきて深々と頭を下げた。そんなことをする必要はないのに。ステラも「ジャノ様! 謝らないでください!」と必死に懇願している。何も出来ないなんてとんでもない。ジャノが伯爵夫人の相手をしてくれていなければ、もっと踏み荒らされていたかもしれない。この家に仕える多くの者達があの二人の被害に遭っていたかもしれない。ジャノが居てくれたから被害も最小限で済んだのだ。それでも二人のしたことは絶対に許さないが……
「安心してください。ジャノ。あの二人には帰ってもらいました。魔導具で確認して彼女が無実であることも把握しています」
「本当ですか?」
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「よ、良かった。あ、でも部屋!」
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「え?」
「今日、あの部屋は使えないので、俺の部屋で過ごしましょう。ジャノ」
「そ、それは申し訳ないです! 手頃な部屋を用意していただければ……」
「ダメです。ジャノを一人になんてできません」
「ユ、ユベール様!?」
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「俺と一緒は嫌ですか?」
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