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第一部
言い訳は通用しない(ユベール視点)1
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レイモンから報告を受け、俺は急いでベルトラン家へと帰宅した。直ぐに多くの執事や使用人達に囲まれ「ルグラン伯爵夫人が」と説明を受ける。突然ルグラン伯爵夫人が訪れて、侍女と共にジャノの部屋へ勝手に入ったと。満足したら帰るだろうと思っていたが、二人は長々と居座ってお茶菓子はないのかだの、ドレスと宝石を寄越せだの、レイモンと自分の家の執事を交換しろだの、ジャノに無茶なお願いをして困らせていたと。
「ジャノは?」
「ユベール様の自室に。今はステラ様がジャノ様のお側に付いています」
「そうか。レイモンは伯爵夫人の相手を?」
「はい」
「分かった。俺が居ない間、よく耐えてくれた。礼を言う」
先ずは自室へ行ってジャノの安否を確認しなければ。すれ違う執事や使用人達はみんな目に涙を浮かべていた。本当に酷い態度だったのだろう。それに加え、奴らのせいでジャノが「出て行く」と言ったのだ。それが嘘だとみんな分かっているが、本当に出て行きそうで不安だったに違いない。
「ユベール様! おかえりなさいませ」
「ただいま。ジャノは?」
「ルグラン様のお相手をして疲れたのでしょう。ソファで休んでいます」
「……ジャノ」
急いで自室に戻り、待機していたステラに事情を聞く。ジャノはソファに身体を預けて眠っていた。俺が不在の間、ずっとジャノが伯爵夫人の相手をしていたのだ。本当なら俺がしなければならないことを、ジャノが肩代わりしてくれた。そんなことをする必要などないのに、彼は一人の使用人を守る為に「こうなった責任は俺にある」と宣言し出て行こうとした。それは咄嗟に吐いた嘘だと分かっているが、みんな生きた心地がしなかっただろう。レイモンがジャノから話を聞いて、みんなに周知徹底していなければ、今頃公爵邸内は大騒ぎになっていた。
「レイモンさんがルグラン様のお相手をしていますが、彼もそろそろ限界かと」
「分かった。ジャノを寝室へ連れて行ったら直ぐに行く」
「はい」
ジャノを起こさないよう優しく抱き上げて寝室へと向かう。こんな細く小さな身体で、この家に仕える人を守ってくれたのか。使用人一人を守る為に、ジャノは全ての責任を背負い「出て行く」と宣言した。例え嘘でも、相当の覚悟がなければ言えない台詞だ。あぁ、ダメだ。想えば想うほど、ジャノへの愛おしさが込み上げてくる。どんどん、彼の虜になっていく。手放したくないと思ってしまう。ジャノを俺の手で幸せにしたい。
「ありがとうございます。ジャノ。後は俺に任せてください」
寝室のベッドにジャノを下ろし、ブランケットをかける。疲れ果てて眠るジャノの額にキスを落とし、彼の頭をそっと撫でた。レイモンが彼に着飾っていた宝飾品は外されていた。ステラが入室した時にはジャノは眠っていて、宝飾品を外した方が眠りやすいからと彼女が外したのだ。全て専用の箱に保管しているから、ジャノが目を覚ました時に付けてほしい、と。
「ユベール様。怒りのあまり、魔力を暴走させないでくださいね?」
「努力するが、奴らの態度によっては無理かもしれないな」
「ジャノ様のお部屋を台無しにするおつもりで?」
「……分かった。気を付けよう。それと、少し記憶を見させてもらってもいいか?」
「勿論です。後でレイモンさんの記憶も見た方がいいでしょう。あの部屋にずっと待機していましたので」
「そうか。新しく開発した魔導具を試しに使ってみたかったから、序でに使ってみよう」
ステラの額の前に小さな魔法陣を描き、伯爵夫人が訪れて以降の記憶を確認する。その記憶を魔導具に記録して俺はジャノの部屋へ向かった。ステラにはこのままジャノを見ていてほしいと伝えると、彼女は「お任せください」と言って一礼した。
レイモンとステラから話は聞いていたが、こんなにも酷いとは思わなかった。テーブルを埋め尽くすスイーツの山。どれもが一口齧られただけで放置され、床にはその欠片が散らばり、何もかもがぐちゃぐちゃ。それだけならまだ怒りを抑えることが出来たが、何故か、本当に何故か、ジャノに着せていたドレスと宝飾品をルグラン伯爵夫人が身に付けていて、俺の中でブチィ! と何かが切れる音がした。
「ユベール! ジャノさんは何処!? 無事なの!?」
「ユベール! レイモンくんから話は聞いたが、ジャノくんが出て行ったというのは本当なのか!? 彼は今何処に!?」
「お父様。お母様。何故、この部屋に?」
「今はそんなことはどうでもいいの! この部屋で一体何があったの!? きちんと説明してちょうだい!」
「やっとジャノくんに会えると思って楽しみにしていたのに。その彼が居ないとはどういうことだ!?」
「レイモン。どこまで説明した?」
「ジャノ様が『出て行く』と宣言したところまでです」
「……ということは、二人はまだ知らないと?」
「説明する前にユベール様がお戻りになったので。おかえりなさいませ。ユベール様」
「あぁ。ただいま。俺も状況を把握したい。お前の記憶を借りるが、いいか?」
「勿論です」
ステラの時と同じように、レイモンの額の前に手を翳し魔法陣を展開させる。この魔法は他者の記憶を見る魔法だ。相手の了承が必要になるが、言葉で説明するより直接記憶を見た方が早い。記憶を見るだけだからステラやレイモン達には一切危険はない。見せてもらった記憶を魔導具に記録する。
「ユベール様! 違うんです! わ、私は断ったんですけど、ジャノさんが私に似合うからって、無理矢理着せようとしたんです!」
「そ、そうです! 悪いのは全てあの男で、ニナ様は被害者なんですよ!」
「黙れ。それもステラとレイモンの記憶を見れば分かることだ。この魔導具はまだ試作品だが、この場に最適な魔導具だ。他者の記憶を一度だけ映像化して再生できる。お父様とお母様にも見てもらえば、お前達の嘘は直ぐにバレる」
「な!」
「ま、待ってください! そ、そんなものを見なくても悪いのはあの男で!」
「それも、映像を見れば分かることです」
「ユベール。その魔導具を発動しなさい」
「分かっています」
ルグラン伯爵夫人と侍女はまだ喚いているが、お父様とお母様のお願いだ。俺も二人の記憶を見たが、きちんとは見れていないから再確認の為にじっくり見るのもいい。必要のない場面をカットすれば時間もそんなに長くならない筈だ。キューブ型の魔導具に魔力を注ぎ、俺は部屋の中に二人の記憶を映し出し、再生した。
「ジャノは?」
「ユベール様の自室に。今はステラ様がジャノ様のお側に付いています」
「そうか。レイモンは伯爵夫人の相手を?」
「はい」
「分かった。俺が居ない間、よく耐えてくれた。礼を言う」
先ずは自室へ行ってジャノの安否を確認しなければ。すれ違う執事や使用人達はみんな目に涙を浮かべていた。本当に酷い態度だったのだろう。それに加え、奴らのせいでジャノが「出て行く」と言ったのだ。それが嘘だとみんな分かっているが、本当に出て行きそうで不安だったに違いない。
「ユベール様! おかえりなさいませ」
「ただいま。ジャノは?」
「ルグラン様のお相手をして疲れたのでしょう。ソファで休んでいます」
「……ジャノ」
急いで自室に戻り、待機していたステラに事情を聞く。ジャノはソファに身体を預けて眠っていた。俺が不在の間、ずっとジャノが伯爵夫人の相手をしていたのだ。本当なら俺がしなければならないことを、ジャノが肩代わりしてくれた。そんなことをする必要などないのに、彼は一人の使用人を守る為に「こうなった責任は俺にある」と宣言し出て行こうとした。それは咄嗟に吐いた嘘だと分かっているが、みんな生きた心地がしなかっただろう。レイモンがジャノから話を聞いて、みんなに周知徹底していなければ、今頃公爵邸内は大騒ぎになっていた。
「レイモンさんがルグラン様のお相手をしていますが、彼もそろそろ限界かと」
「分かった。ジャノを寝室へ連れて行ったら直ぐに行く」
「はい」
ジャノを起こさないよう優しく抱き上げて寝室へと向かう。こんな細く小さな身体で、この家に仕える人を守ってくれたのか。使用人一人を守る為に、ジャノは全ての責任を背負い「出て行く」と宣言した。例え嘘でも、相当の覚悟がなければ言えない台詞だ。あぁ、ダメだ。想えば想うほど、ジャノへの愛おしさが込み上げてくる。どんどん、彼の虜になっていく。手放したくないと思ってしまう。ジャノを俺の手で幸せにしたい。
「ありがとうございます。ジャノ。後は俺に任せてください」
寝室のベッドにジャノを下ろし、ブランケットをかける。疲れ果てて眠るジャノの額にキスを落とし、彼の頭をそっと撫でた。レイモンが彼に着飾っていた宝飾品は外されていた。ステラが入室した時にはジャノは眠っていて、宝飾品を外した方が眠りやすいからと彼女が外したのだ。全て専用の箱に保管しているから、ジャノが目を覚ました時に付けてほしい、と。
「ユベール様。怒りのあまり、魔力を暴走させないでくださいね?」
「努力するが、奴らの態度によっては無理かもしれないな」
「ジャノ様のお部屋を台無しにするおつもりで?」
「……分かった。気を付けよう。それと、少し記憶を見させてもらってもいいか?」
「勿論です。後でレイモンさんの記憶も見た方がいいでしょう。あの部屋にずっと待機していましたので」
「そうか。新しく開発した魔導具を試しに使ってみたかったから、序でに使ってみよう」
ステラの額の前に小さな魔法陣を描き、伯爵夫人が訪れて以降の記憶を確認する。その記憶を魔導具に記録して俺はジャノの部屋へ向かった。ステラにはこのままジャノを見ていてほしいと伝えると、彼女は「お任せください」と言って一礼した。
レイモンとステラから話は聞いていたが、こんなにも酷いとは思わなかった。テーブルを埋め尽くすスイーツの山。どれもが一口齧られただけで放置され、床にはその欠片が散らばり、何もかもがぐちゃぐちゃ。それだけならまだ怒りを抑えることが出来たが、何故か、本当に何故か、ジャノに着せていたドレスと宝飾品をルグラン伯爵夫人が身に付けていて、俺の中でブチィ! と何かが切れる音がした。
「ユベール! ジャノさんは何処!? 無事なの!?」
「ユベール! レイモンくんから話は聞いたが、ジャノくんが出て行ったというのは本当なのか!? 彼は今何処に!?」
「お父様。お母様。何故、この部屋に?」
「今はそんなことはどうでもいいの! この部屋で一体何があったの!? きちんと説明してちょうだい!」
「やっとジャノくんに会えると思って楽しみにしていたのに。その彼が居ないとはどういうことだ!?」
「レイモン。どこまで説明した?」
「ジャノ様が『出て行く』と宣言したところまでです」
「……ということは、二人はまだ知らないと?」
「説明する前にユベール様がお戻りになったので。おかえりなさいませ。ユベール様」
「あぁ。ただいま。俺も状況を把握したい。お前の記憶を借りるが、いいか?」
「勿論です」
ステラの時と同じように、レイモンの額の前に手を翳し魔法陣を展開させる。この魔法は他者の記憶を見る魔法だ。相手の了承が必要になるが、言葉で説明するより直接記憶を見た方が早い。記憶を見るだけだからステラやレイモン達には一切危険はない。見せてもらった記憶を魔導具に記録する。
「ユベール様! 違うんです! わ、私は断ったんですけど、ジャノさんが私に似合うからって、無理矢理着せようとしたんです!」
「そ、そうです! 悪いのは全てあの男で、ニナ様は被害者なんですよ!」
「黙れ。それもステラとレイモンの記憶を見れば分かることだ。この魔導具はまだ試作品だが、この場に最適な魔導具だ。他者の記憶を一度だけ映像化して再生できる。お父様とお母様にも見てもらえば、お前達の嘘は直ぐにバレる」
「な!」
「ま、待ってください! そ、そんなものを見なくても悪いのはあの男で!」
「それも、映像を見れば分かることです」
「ユベール。その魔導具を発動しなさい」
「分かっています」
ルグラン伯爵夫人と侍女はまだ喚いているが、お父様とお母様のお願いだ。俺も二人の記憶を見たが、きちんとは見れていないから再確認の為にじっくり見るのもいい。必要のない場面をカットすれば時間もそんなに長くならない筈だ。キューブ型の魔導具に魔力を注ぎ、俺は部屋の中に二人の記憶を映し出し、再生した。
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