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第一部
一難去ってまた嵐3
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一度浴室に向かって、俺はレイモンさんから渡されたシャツとズボンに着替える。ドレスはステラさんとレイモンさんに脱がせてもらった。高価なものだからね。宝飾品は最初に外して専用の箱に保管してもらっている。はあ、久しぶりの普通の服! あぁ、懐かしいなあ、この着心地。
「本当に、出て行くのですか?」
「断言しちゃったからね。出て行くしかないでしょう?」
「ユベール様の気持ちはどうするんですか? まだ、貴方の答えを聞いていません」
「ごめん」
扉越しに聞こえるレイモンさんの声は、少し震えていた。俺はただただ謝ることしかできなくて、それが申し訳なく思う。あっと言う間に着替えも終わり、浴室の扉を開けて広い部屋へ戻る。俺が着替えたことで二人は本気だと思ったのだろう。目を見開いて俺を見上げていた。
「良かったですね。この姿を見たかったのでしょう? 貧しい平民に戻って、廃れた路地裏で無様に生きる俺の姿を」
二人はやっぱり何も言わない。言えないのだ。俺達使用人が解雇されたらどうなるか、今まで考えたこともなかったのだから。けれど、これが現実だ。俺が言ったことは嘘でも冗談でもない。実際、頼れる人がいなければ身分の低い人は簡単に死ぬ。ま、俺には文也という心強い親友がいるから平気なんだけどさ! ふふん!
「ステラさん。レイモンさん。今までありがとうございました。ユベール様にも『お世話になりました』と伝えてください。それじゃあ」
「ま、待ってください! ジャノ様!」
「ステラ様。此処は私に」
「え? レイモンさん!?」
部屋の扉を開けて、俺は颯爽と広い廊下を歩く。ある程度部屋から遠ざかって、もうあの人達に声は聞こえないかな? と思って俺は足を止めた。
「お待ちください! ジャノ様!」
「レイモンさん」
「本気、なんですか? 本当に、此処を出て行くのですか? ユベール様を、また一人にするのですか!?」
「レイモンさん。ちょっとこの周辺に防音魔法をかけてくれませんか?」
「は?」
「お願いします」
慌てて俺を追って来たのだろう。何時も綺麗に整えられている前髪が一部乱れていて、更にイケメン度が増している。うん。髪が乱れていてもレイモンさんは格好いい。戸惑いながらもレイモンさんは俺達の周りに防音魔法をかけてくれた。それを確認した後、俺は壁に頭を預け……
「はぁあああああああああ。ほんっとうに、つっかれたあ」
大きく長いため息を吐いた。レイモンさんが驚いているが、今は少しだけ休ませてくれ。夫人の相手をして色々と限界なんです!
「あの、ジャノ様? 出て行くのでは?」
「あぁ。あんなの嘘ですよ。嘘」
「はあ!? 嘘!?」
「うん。だって、あの場で俺が出て行かないと、何時迄もあの女の子を責め立てるでしょ? クビにしろ! クビにしろ! って」
「……着替えている時に、教えてくだされば」
「部屋の中ですよ? 嘘だってバレたらまずいでしょう? だから気を抜けなかったんです。ごめんなさい。驚かせてしまいましたね。俺は出て行かないから、安心してください」
「本当に?」
「レイモンさん。俺が出て行くことによって駆り出される捜索隊員の人数は何人になりますか?」
「総動員されるかと」
「出て行けると思います? それに、ユベール様だって荒れるでしょう? 捜索する人達の時間を奪ってしまうのも申し訳ないし。ユベール様が帰って来るまで、俺は何処かの物置部屋に身を隠します。レイモンさん、俺が隠れられる場所ってあります?」
「……最適な場所を、知っています」
「案内してくれますか?」
「お任せください」
あぁ、やっぱり凄いなあ、レイモンさん。でも、こんなに必死なレイモンさんの姿は初めて見たかもしれない。いや、本当に申し訳ない。色々と振り回してしまって。心の中で謝りつつ、レイモンさんの後を追っててくてく歩く。そして、レイモンさんに案内された場所は……
「こちらでお待ちください」
「あのー、此処ってユベール様のお部屋じゃ……」
「緊急時の際には入室の許可を得ています。それと、代わりのドレスと宝飾品も早急に用意しますので」
「またドレス!?」
「ジャノ様に着せていないとユベール様が拗ねます」
「え!?」
「どうぞ。自由に過ごしてください。私は一度退室しますが、この部屋からは一歩も出ないように」
「あ、うん。それは勿論」
「では、失礼します」
「はい」
す、素早い。バタンと丁寧に扉を閉めて、レイモンさんはバタバタと走り去ってしまった。靴音が大きかったなあ。何時も靴音なんてしないのに。珍しいなあ、と思いつつ、俺は中央に設置されたこれまた高級なソファに腰掛ける。今まで夫人の相手をしていたからなのか、一気に疲れが出てきて体が重く感じる。常に気を張っていたんだろうな。いや、疲れるよ。あんな人を相手にしたら。俺、頑張ったよ? すっごく頑張ったよ? 後はもうユベール様に任せるしかない。
「本当に、出て行くのですか?」
「断言しちゃったからね。出て行くしかないでしょう?」
「ユベール様の気持ちはどうするんですか? まだ、貴方の答えを聞いていません」
「ごめん」
扉越しに聞こえるレイモンさんの声は、少し震えていた。俺はただただ謝ることしかできなくて、それが申し訳なく思う。あっと言う間に着替えも終わり、浴室の扉を開けて広い部屋へ戻る。俺が着替えたことで二人は本気だと思ったのだろう。目を見開いて俺を見上げていた。
「良かったですね。この姿を見たかったのでしょう? 貧しい平民に戻って、廃れた路地裏で無様に生きる俺の姿を」
二人はやっぱり何も言わない。言えないのだ。俺達使用人が解雇されたらどうなるか、今まで考えたこともなかったのだから。けれど、これが現実だ。俺が言ったことは嘘でも冗談でもない。実際、頼れる人がいなければ身分の低い人は簡単に死ぬ。ま、俺には文也という心強い親友がいるから平気なんだけどさ! ふふん!
「ステラさん。レイモンさん。今までありがとうございました。ユベール様にも『お世話になりました』と伝えてください。それじゃあ」
「ま、待ってください! ジャノ様!」
「ステラ様。此処は私に」
「え? レイモンさん!?」
部屋の扉を開けて、俺は颯爽と広い廊下を歩く。ある程度部屋から遠ざかって、もうあの人達に声は聞こえないかな? と思って俺は足を止めた。
「お待ちください! ジャノ様!」
「レイモンさん」
「本気、なんですか? 本当に、此処を出て行くのですか? ユベール様を、また一人にするのですか!?」
「レイモンさん。ちょっとこの周辺に防音魔法をかけてくれませんか?」
「は?」
「お願いします」
慌てて俺を追って来たのだろう。何時も綺麗に整えられている前髪が一部乱れていて、更にイケメン度が増している。うん。髪が乱れていてもレイモンさんは格好いい。戸惑いながらもレイモンさんは俺達の周りに防音魔法をかけてくれた。それを確認した後、俺は壁に頭を預け……
「はぁあああああああああ。ほんっとうに、つっかれたあ」
大きく長いため息を吐いた。レイモンさんが驚いているが、今は少しだけ休ませてくれ。夫人の相手をして色々と限界なんです!
「あの、ジャノ様? 出て行くのでは?」
「あぁ。あんなの嘘ですよ。嘘」
「はあ!? 嘘!?」
「うん。だって、あの場で俺が出て行かないと、何時迄もあの女の子を責め立てるでしょ? クビにしろ! クビにしろ! って」
「……着替えている時に、教えてくだされば」
「部屋の中ですよ? 嘘だってバレたらまずいでしょう? だから気を抜けなかったんです。ごめんなさい。驚かせてしまいましたね。俺は出て行かないから、安心してください」
「本当に?」
「レイモンさん。俺が出て行くことによって駆り出される捜索隊員の人数は何人になりますか?」
「総動員されるかと」
「出て行けると思います? それに、ユベール様だって荒れるでしょう? 捜索する人達の時間を奪ってしまうのも申し訳ないし。ユベール様が帰って来るまで、俺は何処かの物置部屋に身を隠します。レイモンさん、俺が隠れられる場所ってあります?」
「……最適な場所を、知っています」
「案内してくれますか?」
「お任せください」
あぁ、やっぱり凄いなあ、レイモンさん。でも、こんなに必死なレイモンさんの姿は初めて見たかもしれない。いや、本当に申し訳ない。色々と振り回してしまって。心の中で謝りつつ、レイモンさんの後を追っててくてく歩く。そして、レイモンさんに案内された場所は……
「こちらでお待ちください」
「あのー、此処ってユベール様のお部屋じゃ……」
「緊急時の際には入室の許可を得ています。それと、代わりのドレスと宝飾品も早急に用意しますので」
「またドレス!?」
「ジャノ様に着せていないとユベール様が拗ねます」
「え!?」
「どうぞ。自由に過ごしてください。私は一度退室しますが、この部屋からは一歩も出ないように」
「あ、うん。それは勿論」
「では、失礼します」
「はい」
す、素早い。バタンと丁寧に扉を閉めて、レイモンさんはバタバタと走り去ってしまった。靴音が大きかったなあ。何時も靴音なんてしないのに。珍しいなあ、と思いつつ、俺は中央に設置されたこれまた高級なソファに腰掛ける。今まで夫人の相手をしていたからなのか、一気に疲れが出てきて体が重く感じる。常に気を張っていたんだろうな。いや、疲れるよ。あんな人を相手にしたら。俺、頑張ったよ? すっごく頑張ったよ? 後はもうユベール様に任せるしかない。
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