当て馬にされていた不憫な使用人は天才魔導士様に囲われる《第二部完結》

トキ

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第一部

新しいお家3

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 チーン。

 効果音で表すならコレだろう。意を決して部屋の外に出たはいいものの、俺は速攻でこの部屋に戻された。廊下ですれ違う執事さんやメイドさんに「あの、俺でも出来るお仕事、ないですか?」と聞いたら、顔を真っ青にして「若奥様にそのようなことをさせる訳にはいきません!」と「若奥様のお仕事は、ユベール様を心身共に癒してあげることです!」と言われ、部屋へと戻された。

「つーか。若奥様ってなに?」

 俺のこと、だよな? ユベール様。既に外堀を埋めてるのか? まだ恋人にすらなっていないのに? いやいや、男同士で恋人って。そう言えば、この世界では同性婚も普通に認められていたな。でも、でもなあ。二十七と十八だぞ? 公爵家のご令息と孤児の平民だぞ? 認められる訳がない。ユベール様なら、貴族界での常識だって痛いほど耳にしているだろうに。でも……

「此処の人達、心から俺のことを心配してくれていたんだよなあ」

 嫌な経験ばかり積んできたからなのか、俺は周囲の気持ちには敏感だ。その人の表情を見ただけでなんとなく分かってしまう。今迄は敵意を向けられるか軽蔑されるかだったのに、公爵家の人達からは敵意も悪意も全く感じなかった。俺のことを心配してくれて「ユベール様を呼び戻しましょうか?」と親切にしてくれて。彼が言った通り、ベルトラン公爵家に仕える人達は今迄の使用人達とは全く違う。やっぱり公爵だからなのか、まず姿勢が美しく礼儀正しい。どの人も気品に満ち溢れていて、仕事も完璧。公私混同せず任された仕事をする彼らを、俺は心から尊敬する。他の貴族の使用人達は下品というか、公私混同していて私情も挟んでいて見苦しかった。ちゃんと教育してんのかってくらい最低だったんだよなあ。俺が当て馬に仕立て上げられていたのが原因だけど。

「ジャノ様。お茶を用意しました。入室してもよろしいでしょうか」

 色々と考え込んでいると、扉をノックする音が聞こえ、その後女性の声が聞こえた。俺は咄嗟に「はい。大丈夫です」と答え、ゆっくりと扉が開く。五十代くらいの女性がお茶菓子を乗せたワゴンを押して部屋に入ってくる。中央に設置されている長テーブルに手際よくクッキーやシュークリームや一口サイズのケーキを並べ、ティーポットにお湯を入れて、ティーカップに紅茶を注ぐ。俺はゆっくり長テーブルに移動して、中央の椅子に座ると女性は俺の前に紅茶の入ったティーカップを置いてくれた。

「ありがとうございます。えっと……」
「私はステラと申します。ベルトラン公爵家のメイド長を務めております。ユベール様が留守の間、ジャノ様の身の回りのお世話を命じられております」
「そうですか。態々ありがとうございます。俺の為に」
「これが私のお仕事ですので」
「あの、一つ聞きたいのですが」
「はい」
「俺の噂は知っていますよね? その、皆さんは嫌じゃないのかなと。ユベール様は十八歳で、これから沢山の未来があります。俺はもう二十七で、孤児で、平民で。どう考えても不釣り合いだと思うのですが、ユベール様は気にしてないようで」
「あぁ。本当に。ジャノ様はとても心優しい方ですね」
「優しくはないと思うのですが……」
「いいえ。ユベール様に近付く方は、ベルトラン公爵という地位と権力にしか興味がない人ばかりでした。ユベール様の外見と家柄、天才魔導士という肩書きしか見ていないのです。ユベール様と結婚できれば、贅沢な暮らしが約束されるからと」
「あぁ。ユベール様の内面ではなく、外見しか見ていないと」
「その通り。ですが、ジャノ様は違います。ユベール様は十年も貴方を探し続けていたのです。十年です。ジャノ様を見付けられてとても喜んでいました。あまりにも嬉しすぎて感情が先走って暴走しがちですが、ジャノ様は戸惑いつつもユベール様を受け入れてくれました」
「まだよく分かっていないんですけど」
「承知しております。ジャノ様のお気持ちも分かっているつもりです。ですが、少しずつユベール様のお気持ちを受け入れてほしいのです」
「分かりました、とは言えませんが、俺もユベール様の気持ちにはきちんと向き合って答えを出すつもりです。ですが、あまりにも期間が短かすぎて自分の気持ちが分からないんです。申し訳ないのですが、答えを出すまで時間をくれませんか? 受け入れるにしても断るにしても、ユベール様には誠実でいたいので」
「勿論です。ジャノ様。私達も出来る限りサポートさせていただきます。困ったことがあれば何でも言ってください」
「ありがとうございます。ステラさん」

 ステラさんに励まされて、俺は少しだけ元気を取り戻した。ステラさんに言ったことに嘘偽りはない。あんなにも分かりやすい好意を向けられて、ユベール様の恋心に気付かないほど俺は鈍感じゃない。この公爵邸でお世話になっている以上、中途半端な答えを出す訳にはいかない。俺の気持ちを知る為にも、少しずつユベール様のことを知っていこう。ユベール様を受け入れるか、断るか。もし、ユベール様の気持ちを断った場合、俺の為に用意してくれたドレスや宝石の代金を全額支払わないといけない。でも、はっきり言ってそんな大金を用意するなんて俺には無理だ。だから俺はステラさんに「あの、もし断ったらドレスと宝石の代金の一部を払います。俺が用意できるお金なんて雀の涙程度ですけど、せめてものけじめとして」と言ったら、ステラさんが泣いてしまった。ええ?

「ぅう。も、申し訳、ありません。ジャノ様があまりにも健気で。安心してください。ジャノ様からお金を取るようなことは致しません。それと、ジャノ様に関する噂ですが、ベルトラン公爵家ではあのような下品な嘘を信じる者は一人も居ません。みんな、ジャノ様が被害者だと分かっております」
「ありがとうございます」
「お礼ならユベール様に言ってください。ユベール様が噂の真相を突き止めて、ジャノ様の悪い噂は全て嘘だと周知徹底したのです」
「ユベール様が?」
「ジャノ様には、安心して快適に過ごしてほしいと口癖のように仰っていましたから」

 どうしよう。一瞬、ドキッとしてしまった。思い返すと、伯爵家から連れ出された時も、ユベール様は俺を庇ってくれた。ずっと俺が言いたかったことを代弁してくれて、守ってくれた。まだ十八歳で、やりたいことも多く友達と遊びたい年頃だろうに。俺の為に一生懸命で、俺に尽くして、嬉しそうに笑って。ダメだ。思い出すと顔が赤くなる。

「ゆっくりでいいのです。ジャノ様。ユベール様と結ばれる日を、楽しみにしています」

 勿論、強制ではありません。嫌なら嫌と言っていいですからね?

 恥ずかしさを誤魔化す為に、俺は一口サイズのケーキに手を伸ばした。色々と吹っ飛ばすように食べると、ふわっと苺の味が広がって幸せな気持ちになる。

「美味しいです。ステラさん。ありがとうございます」
「ふふふ。さあ、遠慮なく食べてください。ジャノ様」
「はい」

 とは言ったものの、やっぱり申し訳ないからクッキーとシュークリームを少しだけ摘んで終わりにした。ステラさんが淹れてくれた紅茶を飲んで心を落ち着かせ、俺はユベール様とちゃんと向き合おうと決意する。
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