神子のおまけの脇役平凡、異世界でもアップルパイを焼く

トキ

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最終章

おまけ

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 ユリウスと夕がお互いの顔を見て笑い合っていると、柱の裏側から何やら言い争う声が聞こえてきた。「押すな」やら「お前の体が大き過ぎるんだよ!」やら「皆さん! 大声を出したら二人にバレてしまいます!」やら。声が響いている時点で二人にはバレバレだった。

 言い争う姿が見苦しいと思ったのか、ずっと神殿の端で休んでいたユニコーンが声のする場所へ近付いて容赦なく頭突きをした。角が刺さらないようにしたのはユニコーンなりの優しさだろう。

「いってえ! テメエ! 今本気で殴っただろ!」
「お前が動くからだろうが!」
「いたた」
「シンジュ、大丈夫か?」
「だからバレるって言ったのに!」
「お前が言うな。そもそもの原因はお前だろう? クラウス」

 柱の陰に隠れていたのは予想通りの人達だった。ユニコーンの頭突きを直接受けたサイラス、彼に巻き込まれて倒れた鈴、同じく転んでしまったリベルテとシンジュ、呆れ顔のクラウスに、白い目を向けるツクヨ。

「盗み聞きしていたのか?」
「だって気になるじゃねえか! お前とユウが結ばれるかどうか、この目で確かめるまでは安心できなかったんだよ!」
「開き直るな」

 全く悪びれもしないサイラスにユリウスは正論をぶつける。夕は今迄のやりとりをみんなに聞かれていたと知って羞恥で死にそうになっていた。そんな夕を慰めるように黒猫が「ニャアニャア」と鳴く。夕の保護者と化したユニコーンもサイラス達に鋭い視線を向ける。

「ごめんなさい! ユリウスさま! クラウスさまから話を聞いて、どうしても心配で……」
「ユウはさ、鈍感って言うか、兄上の気持ちに気付いてなかっただろ? だから、その、ユウが兄上の地雷を踏む前に、俺達が説得しようかなって思って……」
「杞憂だったけどな」
「それでも、やっぱり心配じゃないですか。ユリウス様がユウ様を無理矢理手に入れるのではないか、と」
「私は巻き込まれただけだ。責めるならこの阿呆どもだけにしておくれ」
「貴方だってノリノリだったじゃないですか。一人だけ助かろうとしないでください」

 興味本位だったのは明らかだ。しかし、みんな夕を心配して来てくれたと言う事は分かっている。分かっているのだか、盗み聞きしていた事を許すか許さないかは別問題。ユリウスは当然許すつもりはない。やっと夕と結ばれて良い雰囲気になっていたと言うのに、全部台無しにされてしまったのだ。

「お! これが噂のアップルパイか! 美味そうだなあ。一切れもらって良いか?」
「ば! こんの馬鹿! 空気を読め!」
「良いじゃねえか。一切れくらい」
「サイラス」

 静かに殺気を放つユリウスを見てもサイラスは気にせずアップルパイを頬張った。美味いからみんなで食おうぜ! と言い出して、鈴達にも渡してしまう。夕が、ユリウスの為だけに作ったアップルパイを……

「二人では量が多かったので、みんなで食べましょう」
「ユウ!?」

「そんな風に怒らないでください。ユリウス様。美味しいものはみんなで食べるともっと美味しくなるんです。それに……」

 これからもユリウス様の為に美味しいもの、沢山作りますから。

 夕にこう言われてしまっては反論できない。ユリウスは渋々、アップルパイをみんなで食べる事を許した。鈴、リベルテ、シンジュは夕が作ったアップルパイを食べた事があるので「やっぱり美味しい」と言って食べている。初めて食べたサイラスとクラウスとツクヨはあまりの美味しさに目を見開いた。意外と思われるかもしれないが、クラウスは夕が作ったアップルパイを食べるのはこれが初めてだった。

「美味しいですね」
「ユウは料理が上手いと聞いている。他にも何か作れるのか?」

 子どものように目を輝かせて質問するサイラスに夕は「一通りは」と答えた。次にサイラスが何を言うのかを察知したユリウスが「却下だ」と告げる。まだ何も言っていないのに、ユリウスの独占欲の強さにサイラスは顔を引きつらせる。夕の作った料理を誰にも食べさせたくない。ユリウスの顔はそう語っていた。

「独占欲も程々にしてください。ユリウス様」
「……分かっている」

 本当に分かっているのかなあ。不安になりつつも、鈴達は夕が作ったアップルパイを口にした。



-end-
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