87 / 88
最終章
おまけ
しおりを挟む
ユリウスと夕がお互いの顔を見て笑い合っていると、柱の裏側から何やら言い争う声が聞こえてきた。「押すな」やら「お前の体が大き過ぎるんだよ!」やら「皆さん! 大声を出したら二人にバレてしまいます!」やら。声が響いている時点で二人にはバレバレだった。
言い争う姿が見苦しいと思ったのか、ずっと神殿の端で休んでいたユニコーンが声のする場所へ近付いて容赦なく頭突きをした。角が刺さらないようにしたのはユニコーンなりの優しさだろう。
「いってえ! テメエ! 今本気で殴っただろ!」
「お前が動くからだろうが!」
「いたた」
「シンジュ、大丈夫か?」
「だからバレるって言ったのに!」
「お前が言うな。そもそもの原因はお前だろう? クラウス」
柱の陰に隠れていたのは予想通りの人達だった。ユニコーンの頭突きを直接受けたサイラス、彼に巻き込まれて倒れた鈴、同じく転んでしまったリベルテとシンジュ、呆れ顔のクラウスに、白い目を向けるツクヨ。
「盗み聞きしていたのか?」
「だって気になるじゃねえか! お前とユウが結ばれるかどうか、この目で確かめるまでは安心できなかったんだよ!」
「開き直るな」
全く悪びれもしないサイラスにユリウスは正論をぶつける。夕は今迄のやりとりをみんなに聞かれていたと知って羞恥で死にそうになっていた。そんな夕を慰めるように黒猫が「ニャアニャア」と鳴く。夕の保護者と化したユニコーンもサイラス達に鋭い視線を向ける。
「ごめんなさい! ユリウスさま! クラウスさまから話を聞いて、どうしても心配で……」
「ユウはさ、鈍感って言うか、兄上の気持ちに気付いてなかっただろ? だから、その、ユウが兄上の地雷を踏む前に、俺達が説得しようかなって思って……」
「杞憂だったけどな」
「それでも、やっぱり心配じゃないですか。ユリウス様がユウ様を無理矢理手に入れるのではないか、と」
「私は巻き込まれただけだ。責めるならこの阿呆どもだけにしておくれ」
「貴方だってノリノリだったじゃないですか。一人だけ助かろうとしないでください」
興味本位だったのは明らかだ。しかし、みんな夕を心配して来てくれたと言う事は分かっている。分かっているのだか、盗み聞きしていた事を許すか許さないかは別問題。ユリウスは当然許すつもりはない。やっと夕と結ばれて良い雰囲気になっていたと言うのに、全部台無しにされてしまったのだ。
「お! これが噂のアップルパイか! 美味そうだなあ。一切れもらって良いか?」
「ば! こんの馬鹿! 空気を読め!」
「良いじゃねえか。一切れくらい」
「サイラス」
静かに殺気を放つユリウスを見てもサイラスは気にせずアップルパイを頬張った。美味いからみんなで食おうぜ! と言い出して、鈴達にも渡してしまう。夕が、ユリウスの為だけに作ったアップルパイを……
「二人では量が多かったので、みんなで食べましょう」
「ユウ!?」
「そんな風に怒らないでください。ユリウス様。美味しいものはみんなで食べるともっと美味しくなるんです。それに……」
これからもユリウス様の為に美味しいもの、沢山作りますから。
夕にこう言われてしまっては反論できない。ユリウスは渋々、アップルパイをみんなで食べる事を許した。鈴、リベルテ、シンジュは夕が作ったアップルパイを食べた事があるので「やっぱり美味しい」と言って食べている。初めて食べたサイラスとクラウスとツクヨはあまりの美味しさに目を見開いた。意外と思われるかもしれないが、クラウスは夕が作ったアップルパイを食べるのはこれが初めてだった。
「美味しいですね」
「ユウは料理が上手いと聞いている。他にも何か作れるのか?」
子どものように目を輝かせて質問するサイラスに夕は「一通りは」と答えた。次にサイラスが何を言うのかを察知したユリウスが「却下だ」と告げる。まだ何も言っていないのに、ユリウスの独占欲の強さにサイラスは顔を引きつらせる。夕の作った料理を誰にも食べさせたくない。ユリウスの顔はそう語っていた。
「独占欲も程々にしてください。ユリウス様」
「……分かっている」
本当に分かっているのかなあ。不安になりつつも、鈴達は夕が作ったアップルパイを口にした。
-end-
言い争う姿が見苦しいと思ったのか、ずっと神殿の端で休んでいたユニコーンが声のする場所へ近付いて容赦なく頭突きをした。角が刺さらないようにしたのはユニコーンなりの優しさだろう。
「いってえ! テメエ! 今本気で殴っただろ!」
「お前が動くからだろうが!」
「いたた」
「シンジュ、大丈夫か?」
「だからバレるって言ったのに!」
「お前が言うな。そもそもの原因はお前だろう? クラウス」
柱の陰に隠れていたのは予想通りの人達だった。ユニコーンの頭突きを直接受けたサイラス、彼に巻き込まれて倒れた鈴、同じく転んでしまったリベルテとシンジュ、呆れ顔のクラウスに、白い目を向けるツクヨ。
「盗み聞きしていたのか?」
「だって気になるじゃねえか! お前とユウが結ばれるかどうか、この目で確かめるまでは安心できなかったんだよ!」
「開き直るな」
全く悪びれもしないサイラスにユリウスは正論をぶつける。夕は今迄のやりとりをみんなに聞かれていたと知って羞恥で死にそうになっていた。そんな夕を慰めるように黒猫が「ニャアニャア」と鳴く。夕の保護者と化したユニコーンもサイラス達に鋭い視線を向ける。
「ごめんなさい! ユリウスさま! クラウスさまから話を聞いて、どうしても心配で……」
「ユウはさ、鈍感って言うか、兄上の気持ちに気付いてなかっただろ? だから、その、ユウが兄上の地雷を踏む前に、俺達が説得しようかなって思って……」
「杞憂だったけどな」
「それでも、やっぱり心配じゃないですか。ユリウス様がユウ様を無理矢理手に入れるのではないか、と」
「私は巻き込まれただけだ。責めるならこの阿呆どもだけにしておくれ」
「貴方だってノリノリだったじゃないですか。一人だけ助かろうとしないでください」
興味本位だったのは明らかだ。しかし、みんな夕を心配して来てくれたと言う事は分かっている。分かっているのだか、盗み聞きしていた事を許すか許さないかは別問題。ユリウスは当然許すつもりはない。やっと夕と結ばれて良い雰囲気になっていたと言うのに、全部台無しにされてしまったのだ。
「お! これが噂のアップルパイか! 美味そうだなあ。一切れもらって良いか?」
「ば! こんの馬鹿! 空気を読め!」
「良いじゃねえか。一切れくらい」
「サイラス」
静かに殺気を放つユリウスを見てもサイラスは気にせずアップルパイを頬張った。美味いからみんなで食おうぜ! と言い出して、鈴達にも渡してしまう。夕が、ユリウスの為だけに作ったアップルパイを……
「二人では量が多かったので、みんなで食べましょう」
「ユウ!?」
「そんな風に怒らないでください。ユリウス様。美味しいものはみんなで食べるともっと美味しくなるんです。それに……」
これからもユリウス様の為に美味しいもの、沢山作りますから。
夕にこう言われてしまっては反論できない。ユリウスは渋々、アップルパイをみんなで食べる事を許した。鈴、リベルテ、シンジュは夕が作ったアップルパイを食べた事があるので「やっぱり美味しい」と言って食べている。初めて食べたサイラスとクラウスとツクヨはあまりの美味しさに目を見開いた。意外と思われるかもしれないが、クラウスは夕が作ったアップルパイを食べるのはこれが初めてだった。
「美味しいですね」
「ユウは料理が上手いと聞いている。他にも何か作れるのか?」
子どものように目を輝かせて質問するサイラスに夕は「一通りは」と答えた。次にサイラスが何を言うのかを察知したユリウスが「却下だ」と告げる。まだ何も言っていないのに、ユリウスの独占欲の強さにサイラスは顔を引きつらせる。夕の作った料理を誰にも食べさせたくない。ユリウスの顔はそう語っていた。
「独占欲も程々にしてください。ユリウス様」
「……分かっている」
本当に分かっているのかなあ。不安になりつつも、鈴達は夕が作ったアップルパイを口にした。
-end-
125
お気に入りに追加
802
あなたにおすすめの小説
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

異世界で王子様な先輩に溺愛されちゃってます
野良猫のらん
BL
手違いで異世界に召喚されてしまったマコトは、元の世界に戻ることもできず異世界で就職した。
得た職は冒険者ギルドの職員だった。
金髪翠眼でチャラい先輩フェリックスに苦手意識を抱くが、元の世界でマコトを散々に扱ったブラック企業の上司とは違い、彼は優しく接してくれた。
マコトはフェリックスを先輩と呼び慕うようになり、お昼を食べるにも何をするにも一緒に行動するようになった。
夜はオススメの飲食店を紹介してもらって一緒に食べにいき、お祭りにも一緒にいき、秋になったらハイキングを……ってあれ、これデートじゃない!? しかもしかも先輩は、実は王子様で……。
以前投稿した『冒険者ギルドで働いてたら親切な先輩に恋しちゃいました』の長編バージョンです。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!
八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。
『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。
魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。
しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も…
そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。
しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。
…はたして主人公の運命やいかに…
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】健康な身体に成り代わったので異世界を満喫します。
白(しろ)
BL
神様曰く、これはお節介らしい。
僕の身体は運が悪くとても脆く出来ていた。心臓の部分が。だからそろそろダメかもな、なんて思っていたある日の夢で僕は健康な身体を手に入れていた。
けれどそれは僕の身体じゃなくて、まるで天使のように綺麗な顔をした人の身体だった。
どうせ夢だ、すぐに覚めると思っていたのに夢は覚めない。それどころか感じる全てがリアルで、もしかしてこれは現実なのかもしれないと有り得ない考えに及んだとき、頭に鈴の音が響いた。
「お節介を焼くことにした。なに心配することはない。ただ、成り代わるだけさ。お前が欲しくて堪らなかった身体に」
神様らしき人の差配で、僕は僕じゃない人物として生きることになった。
これは健康な身体を手に入れた僕が、好きなように生きていくお話。
本編は三人称です。
R−18に該当するページには※を付けます。
毎日20時更新
登場人物
ラファエル・ローデン
金髪青眼の美青年。無邪気であどけなくもあるが無鉄砲で好奇心旺盛。
ある日人が変わったように活発になったことで親しい人たちを戸惑わせた。今では受け入れられている。
首筋で脈を取るのがクセ。
アルフレッド
茶髪に赤目の迫力ある男前苦労人。ラファエルの友人であり相棒。
剣の腕が立ち騎士団への入団を強く望まれていたが縛り付けられるのを嫌う性格な為断った。
神様
ガラが悪い大男。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる