神子のおまけの脇役平凡、異世界でもアップルパイを焼く

トキ

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最終章

五人の神子

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 ユリウスが眠っている間に五人の神子が再び揃った事、月や黒は不吉の象徴ではない事を国民に公表した。彼らが信じていたものはシェルスの一族が月の神子を手に入れる為に広めた嘘の情報だ。長い時間をかけて、シェルスを含む一族は嘘の情報を世界へ浸透させた。月が不吉の象徴だと広めたのも、月の神子であるユリウスを孤立させ、心が弱っている時に優しくして彼の心を手に入れようと企んだから。

 ユリウスを手に入れる為にシェルスは利用できるものは全て利用し、邪魔な存在は周囲の者達を操って抹消した。洗脳や魔術に長けていた彼の唯一の弱点は海の神子。だからシェルスは真っ先に海の神子を消し去ろうとしたのだ。当時、海の神子だと思われていたシンジュの姉、ヒスイを。しかし、シェルスよりもヒスイの方が一枚上手だった。

「あの小娘、ヒスイには先見の能力があったのさ。自分が死ぬ事も、海の神子殿が死ぬ事も最初から知っていた。それでも、あの子は諦めなかった。自分の命はどうなってもいい。弟の命を救う為ならと言って、ヒスイは地上へ行った。地上へ行けば、弟を救う術があるかもしれないと強い意志を宿してね」

 クラウスが過労で倒れるかもしれないと心配して、深海の魔女と呼ばれている人魚が城を訪れた。人魚の名はツクヨ。ツクヨとヒスイは昔からの知り合いで共犯者だと語る。二人共シンジュが海の神子だと最初から気付いており、シェルスや人魚族から彼を護る為に周囲を騙していたのだ。

 ヒスイは自分がシェルスに殺される事を知っていた。知った上で、彼女はシンジュを救う方法を探し出し、それをツクヨに託したのだ。そして、彼女が言った通りシンジュは自ら命を絶ち、海の宝玉となってしまった。ツクヨはその宝玉を誰にも奪われないよう守り続けた。神子が再び現れるまで……

「人魚族を誑かすまでは良かったが、ワタシが動くとは思っていなかった。それに加え、海の生きもの達は全て海の神子殿の味方だ。ヒスイの思惑に気付けなかった。それが奴の敗因だよ」
「それだけじゃねえだろ。俺だって奴の思い通りになるのは絶対に嫌だったからな。神子の証をリンに託したのだって想定外だろ?」
「月の神子、夜の神子、空の神子、海の神子が集まっていたんだから勝ち目なんてある訳ないだろ? 彼奴は神子の力を見誤った。罰を受けて当然だよ」
「それならそうと言ってくれれば良かったのに。何故、私に黙っていたんですか?」

 ツクヨの顎に手を添え、クイッと上を向けさせてクラウスが問う。緩く波打つ柔らかな碧色の髪が僅かに揺れる。美しい青紫の瞳に怒りを宿し、彼は顎に触れているクラウスの手をバシッと払いのけた。

「時と場所を考えな。クラウス」
「相変わらず冷たい方ですね。私はずっと貴方だけを想っていたと言うのに……」
「こんな老い耄れを口説くなんて悪趣味だね。吐き気がするよ」
「その美貌で老い耄れって……」
「ツクヨさま、何年生きてるんですか?」
「二人はどう言う関係なんだ?」

 上から夕、シンジュ、鈴が順番に質問したがツクヨは一切答えず、クラウスが話そうとすると無理矢理黙らせた。

「ワタシ達の事はどうでも良いんだよ。神子殿は今後の事だけを考えな」
「罪人達の処罰は私達に任せて、ユリウス様達は存分にお祭りを楽しんでください」

 暗い話は終わったとばかりに、二人はユリウス達に告げた。五人の神子が揃ったのだ。式典やパレードなど、やる事は沢山ある。一ヶ月くらいは国中お祭り騒ぎになるだろう。やるべき事を終えればお祭りを楽しめばいいと告げて、真面目な話は終わった。




 五人の神子が揃ったと言う事で、ソレイユ国はお祭り騒ぎ状態だった。一般的には一つの国に王は一人なのだが、戴冠式ではサイラスとユリウスの名が呼ばれ、二人がソレイユ国の新たな王となった。サイラスの代わりにソレイユ国を統治していたユリウスは国民達から親しまれ、彼を国王にと言う声も多かった。それなのにユリウスを国王にせず、突然現れたサイラスが国王になれば国民達は戸惑い、暴動が起こる可能性がある。

 サイラスが太陽の神子だと説明しても、国民は納得しないだろう。サイラスもシェルスに洗脳されていた事が原因で国政に関してはほぼ無知に近い。とは言え、彼は人の上に立つに相応しい威厳、多くの者を惹きつけるカリスマ性、冷静な判断力に的確な指示と、国王になる為の素質は十分ある。しかし、今のサイラスは全てにおいてユリウスに劣る。そこで提案されたのが、サイラスとユリウスの二人が国王になると言うものだった。ソレイユ国は太陽の神子と月の神子が統治していたのだ。ただ、月の神子が表舞台に立たなかっただけ。

 サイラスが戻ったのなら国王は彼がなるべきだとユリウスは告げたのだが、クラウス達から猛抗議されユリウスも国王になる事が決定した。ユリウスは自分がしてきた仕事をサイラスへ引き継がせた後、夕と二人でのんびりと隠居生活を満喫するつもりだった。

「その歳で隠居は早すぎです! これからやるべき事はまだまだ沢山あるのですから、ユリウス様も今迄以上に働いてもらわなければ困ります!」
「今迄この国を統治して来たのはお前だろう? ユリウス。今更『私は国王代理です。本物の国王が現れたので国王にはなりません』って言って誰が納得するんだ? 正当な理由があっても民達は納得しねえよ」
「一人だけ逃げるのは狡いぜ。兄上。面倒事を全部押し付けてユウと一緒に過ごしたいっていう願望が見え見えだ。俺だってシンジュと片時も離れたくねえのに……」
「それを言うなら俺だってずっとリンを傍に置きてえよ」
「私もツクヨを口説きたいんですけど。みんな我慢しているんですから、当然ユリウス様も我慢できますよね?」

 もう既に頑張っただろう! と叫びたくなったが、ユリウスは黙ってクラウスの言う通りにした。忙しくなるのは確実だが、周囲の目を気にせず夕を傍に置けるのだ。それに、国王になれば夕を妻として迎えると言っても誰も文句は言えなくなる。まだ自分の想いも告白も完璧に出来ていないが、式典やパレードが終わってある程度落ち着いた頃に改めて告白するつもりだ。

「全員、考える事は一緒って事だな」

 ある程度落ち着いた後に愛しい人と二人っきりになって改めて自分の想いを伝えてプロポーズする。シンジュは喜んでリベルテの手を取るだろう。鈴も色々と文句は言いそうだが最後にはサイラスの手を取って受け入れそうだ。既に両想いのサイラスとリベルテが少しだけ羨ましいとユリウスは思った。

「ユウ様は自分の気持ちに気付いていませんが、ユリウス様に恋をしています。素直に想いを伝えればユウ様は受け入れてくれますよ」

 クラウスの発言を肯定するようにサイラスとリベルテが頷く。「誰にも渡したくないんだろ?」と「ユウが自分以外の誰かに取られても良いのか?」と言われ、ユリウスは「誰にも渡さない」と断言した。二人はユリウスの答えを聞いて満面の笑みを浮かべた。

「俺達って似た者同士だな」

 愛しい人に一直線なところ、独占欲や執着心が強いところ、誰にも渡したくないところ、恋人の笑顔を独り占めしたいところ。サイラスが言った通り、ユリウスもリベルテもクラウスも愛しい人へ向ける想いは全員同じで、それが可笑しくて顔を見合わせて苦笑した。
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