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第6章
最後の戦い2
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クラウスが助けに来ても、まだシェルスの方が圧倒的に有利だった。クラウスが夕を守り、ユリウスがシェルスに近付こうとするが、多くの騎士達が邪魔をして距離が縮まらない。ユリウスの治癒の光なら騎士達の洗脳も解けるかもしれないが、数が多過ぎて先にユリウスが倒れてしまう。それが分かっているからユリウスも神子の力を使わない。いいや、使えないのだ。ユリウスが倒れてしまえば、それこそ相手の思う壺。しかし、危機的状況は変わらない。
「ふふ。ちょっと焦ったけど、問題はなさそうだね。ユリウス様、いい加減諦めて僕のものになったらどうですか?」
「戯言だな。俺はお前のものにはならない」
「随分と余裕ですね。そう言う時こそ気を付けろと学ばなかったのですか?」
クラウスが嫌味を言ったのと、神殿の扉が豪快に開いたのはほぼ同時だった。バン! と扉を開けて入って来たのは、鮮やかな赤い髪に輝く金の瞳を持つ背の高い男。長い髪を緩く三つ編みにしており、彼の肩には鈴に懐いていた白い鷲。彼の後を追って鈴も入って来た。青い燕と一緒に……
「遅くなって済まない! ユリウス! 夜の神子は無事か!?」
「サイラス……お前こそ、無事だったのか?」
「見ての通り、洗脳は解けた。リンのお陰でな」
「リン?」
「無事か? 夕」
「す、鈴。なんで、此処に? それに、あの赤い髪の人は一体……」
「太陽の神子だ。名前はサイラス・リード」
「太陽の、神子? え? この人が? ぇえ? 太陽? えぇええええええ!」
突然の凄い人の登場に、夕は絶叫する。更に、空の神子が鈴だと教えられて夕は何も考えられなくなった。夕の反応が面白かったのか、サイラスは声を出して笑い彼の頭にポンッと手を置いてガシガシと撫でる。強引に撫でるサイラスに怒ったのか、黒猫が彼の手を引っ掻いた。
「おっと。からかい過ぎたか? 許してくれ」
「サイラス。いくらお前でもユウに触れる事は許さない」
「ユ、ユリウス様!?」
「おうおう。仲が良くて何よりだ。二人でイチャイチャするのは全てが終わった後にしてくれねえか?」
「そう言いながら俺にキスしようとすんじゃねえ!」
「チッ! バレたか」
「時と場合を考えやがれ! こんのキス魔!」
サイラスから守るように夕を抱きしめるユリウスと、注意しつつも鈴に口付けようとするサイラス。先程までの緊張感は一体何処へ行ったのか。仲睦まじい姿を微笑ましいと思えばいいのか、敵が居る場所でイチャつくんじゃねえと注意すればいいのか、神子が集まった事を喜べばいいのか、クラウスは分からなくなった。
洗脳されていた騎士達は一瞬で正気に戻った。ユリウスとサイラスが同時に神子の力を使ったからだ。ユリウス一人では不可能でも、サイラスと共に力を使えば負担も半分。白い鷲が淡く光を放ちながら神殿の中を飛び、ユニコーンが自らの角を光らせる。金と青の光の粒が神殿の中に降り注ぎ、その光を浴びた騎士達は次々と正気に戻り、ユリウスとサイラスの姿を目にした途端慌てて片膝をついて頭を垂れた。
サイラスが洗脳されていた事、後は自分達で片付ける事、城に居る者達に神子が帰還した事を伝えるようにと命じると、彼らは深々と頭を下げて神殿から出て行った。騎士達が居なくなり、シェルスを守る者は誰も居ない。
「素直に捕まるなら、命だけは助けてやる」
「今迄の罪を償ってもらう。大人しくしろ」
白い鷲は赤い炎に包まれ、ユニコーンは青白い光に包まれる。炎が消えるとサイラスの手には大剣が握られていた。同じように、青白い光が消えたユリウスの手には美しく立派な剣。その切っ先をシェルスに向け、二人は降参しろと告げる。
もう逃げ場はないと言うのに、シェルスは笑っていた。「あぁ、これだけは使いたくなかったのになぁ」と呟いて、服の中から毒々しい赤紫色の玉を取り出す。シェルスはその玉を床に落として不敵に笑った。
「逃げてください! あれは神子封じの呪いです! 早く神殿から……」
気付くのが遅かった。クラウスが叫ぶよりも早く、玉が床に落ちてバリン! と砕け散る音が谺する。玉に閉じ込められていた赤紫色の光が神殿全体に広がり、それは瞬時に魔法陣へと変わった。逃げられなかったユリウス達はその場に膝をつき、息ができず咄嗟に胸を抑える。
「いき、が……」
「くそ、からだが、うごかな……」
「まだ、こんなもんを隠し持ってやがったのかよ」
「う!」
息ができず咳き込むユリウス達にクラウスが駆け寄り、シェルスを睨み付ける。しかし、シェルスは気にした様子もなく高らかに笑って口を開いた。
「苦しいでしょう? 神子封じの呪いは……本当は使いたくなかったんだけど、仕方ないよね?」
カツ、カツと靴音を響かせながらシェルスはユリウスに近付く。クラウスが守ろうとするが、強い力に吹き飛ばされて壁にぶつかってしまう。目の前までやって来たシェルスは苦しむユリウスの頬に触れて無理矢理自分の方へ顔を向けさせた。
「ユリウス様、僕のものになってください。ユリウス様が僕だけを愛してくれるなら、呪いを解きます」
「だれが!」
ユリウスが断ろうとすると、シェルスは夕に視線を向けてギュウッと自分の手を握った。
「ぅ、あぐ!」
「ユウ!?」
夕の苦しむ姿を見て、ユリウスはシェルスを睨んで「ユウに何をした!?」と叫ぶ。シェルスは笑うだけで何も答えない。ツウッとユリウスの頬を撫で、シェルスは歌うように彼の耳元で囁いた。「ユリウス様が僕のものにならないって言うなら、ユリウス様以外はみんな殺しちゃいますよ?」と。
神子封じの呪いを受けた夕達を殺すのは簡単だ。今、この場を支配して居るのはシェルスだ。生かすも殺すもシェルス次第。苦痛に呻く夕達を見てユリウスの決意が揺らぐ。夕達を助ける為には、自分が犠牲にならなければならない。ユリウスがシェルスのものになれば、夕も鈴もサイラスも助かる。息苦しさと苦痛で意識が朦朧とし、悪魔の囁きに耳を傾けてしまいそうになる。
「海の神子が居なければ、僕は無敵なんですよ? ユリウス様。あぁ、安心してください。あの子は今頃、海底深くに幽閉されて人魚族の慰み者になっていますから!」
自分の勝ちを確信したシェルスは自ら弱点を教えた。他の神子に効果があっても、海の神子には通用しない。この呪いも全て無効化されてしまう。カイリに渡した神子封じの効果も長く持って半日程度。その間にカイリ達がシンジュの心を壊してくれればこの計画は成功なのだ。だからシェルスは海の神子であるシンジュを追い出そうとした。シンジュの姉を殺し、シンジュが自害する程追いつめ、ユリウスを敵視していたリベルテさえも殺そうとした。
「全てはユリウス様を手に入れる為に!」
狂っている。両手を広げて歪に嗤うシェルスを見てユリウスはそう思った。それと同時に、ユリウスは考えてはならない事を考えてしまった。みんなが苦しんでいたのは自分のせいではないか、と。最初から、シェルスを選んでいれば誰も不幸にならなかったのではないか、と。
「自分のせいで誰かが不幸になるのは嫌でしょう? ユリウス様」
「ぁ……あぁ……」
「僕の手をとって、ユリウス様。僕を選んでくれるなら、みんなを助けてあげる」
ダメだ、手を取るな、とサイラス達が必死に止めようとするが、彼らの声はユリウスに届かなかった。シェルスを選べば、みんなが助かる。シェルスに言われるまま、ユリウスは差し出された手に自分の手を重ねた。
「ふふ。ちょっと焦ったけど、問題はなさそうだね。ユリウス様、いい加減諦めて僕のものになったらどうですか?」
「戯言だな。俺はお前のものにはならない」
「随分と余裕ですね。そう言う時こそ気を付けろと学ばなかったのですか?」
クラウスが嫌味を言ったのと、神殿の扉が豪快に開いたのはほぼ同時だった。バン! と扉を開けて入って来たのは、鮮やかな赤い髪に輝く金の瞳を持つ背の高い男。長い髪を緩く三つ編みにしており、彼の肩には鈴に懐いていた白い鷲。彼の後を追って鈴も入って来た。青い燕と一緒に……
「遅くなって済まない! ユリウス! 夜の神子は無事か!?」
「サイラス……お前こそ、無事だったのか?」
「見ての通り、洗脳は解けた。リンのお陰でな」
「リン?」
「無事か? 夕」
「す、鈴。なんで、此処に? それに、あの赤い髪の人は一体……」
「太陽の神子だ。名前はサイラス・リード」
「太陽の、神子? え? この人が? ぇえ? 太陽? えぇええええええ!」
突然の凄い人の登場に、夕は絶叫する。更に、空の神子が鈴だと教えられて夕は何も考えられなくなった。夕の反応が面白かったのか、サイラスは声を出して笑い彼の頭にポンッと手を置いてガシガシと撫でる。強引に撫でるサイラスに怒ったのか、黒猫が彼の手を引っ掻いた。
「おっと。からかい過ぎたか? 許してくれ」
「サイラス。いくらお前でもユウに触れる事は許さない」
「ユ、ユリウス様!?」
「おうおう。仲が良くて何よりだ。二人でイチャイチャするのは全てが終わった後にしてくれねえか?」
「そう言いながら俺にキスしようとすんじゃねえ!」
「チッ! バレたか」
「時と場合を考えやがれ! こんのキス魔!」
サイラスから守るように夕を抱きしめるユリウスと、注意しつつも鈴に口付けようとするサイラス。先程までの緊張感は一体何処へ行ったのか。仲睦まじい姿を微笑ましいと思えばいいのか、敵が居る場所でイチャつくんじゃねえと注意すればいいのか、神子が集まった事を喜べばいいのか、クラウスは分からなくなった。
洗脳されていた騎士達は一瞬で正気に戻った。ユリウスとサイラスが同時に神子の力を使ったからだ。ユリウス一人では不可能でも、サイラスと共に力を使えば負担も半分。白い鷲が淡く光を放ちながら神殿の中を飛び、ユニコーンが自らの角を光らせる。金と青の光の粒が神殿の中に降り注ぎ、その光を浴びた騎士達は次々と正気に戻り、ユリウスとサイラスの姿を目にした途端慌てて片膝をついて頭を垂れた。
サイラスが洗脳されていた事、後は自分達で片付ける事、城に居る者達に神子が帰還した事を伝えるようにと命じると、彼らは深々と頭を下げて神殿から出て行った。騎士達が居なくなり、シェルスを守る者は誰も居ない。
「素直に捕まるなら、命だけは助けてやる」
「今迄の罪を償ってもらう。大人しくしろ」
白い鷲は赤い炎に包まれ、ユニコーンは青白い光に包まれる。炎が消えるとサイラスの手には大剣が握られていた。同じように、青白い光が消えたユリウスの手には美しく立派な剣。その切っ先をシェルスに向け、二人は降参しろと告げる。
もう逃げ場はないと言うのに、シェルスは笑っていた。「あぁ、これだけは使いたくなかったのになぁ」と呟いて、服の中から毒々しい赤紫色の玉を取り出す。シェルスはその玉を床に落として不敵に笑った。
「逃げてください! あれは神子封じの呪いです! 早く神殿から……」
気付くのが遅かった。クラウスが叫ぶよりも早く、玉が床に落ちてバリン! と砕け散る音が谺する。玉に閉じ込められていた赤紫色の光が神殿全体に広がり、それは瞬時に魔法陣へと変わった。逃げられなかったユリウス達はその場に膝をつき、息ができず咄嗟に胸を抑える。
「いき、が……」
「くそ、からだが、うごかな……」
「まだ、こんなもんを隠し持ってやがったのかよ」
「う!」
息ができず咳き込むユリウス達にクラウスが駆け寄り、シェルスを睨み付ける。しかし、シェルスは気にした様子もなく高らかに笑って口を開いた。
「苦しいでしょう? 神子封じの呪いは……本当は使いたくなかったんだけど、仕方ないよね?」
カツ、カツと靴音を響かせながらシェルスはユリウスに近付く。クラウスが守ろうとするが、強い力に吹き飛ばされて壁にぶつかってしまう。目の前までやって来たシェルスは苦しむユリウスの頬に触れて無理矢理自分の方へ顔を向けさせた。
「ユリウス様、僕のものになってください。ユリウス様が僕だけを愛してくれるなら、呪いを解きます」
「だれが!」
ユリウスが断ろうとすると、シェルスは夕に視線を向けてギュウッと自分の手を握った。
「ぅ、あぐ!」
「ユウ!?」
夕の苦しむ姿を見て、ユリウスはシェルスを睨んで「ユウに何をした!?」と叫ぶ。シェルスは笑うだけで何も答えない。ツウッとユリウスの頬を撫で、シェルスは歌うように彼の耳元で囁いた。「ユリウス様が僕のものにならないって言うなら、ユリウス様以外はみんな殺しちゃいますよ?」と。
神子封じの呪いを受けた夕達を殺すのは簡単だ。今、この場を支配して居るのはシェルスだ。生かすも殺すもシェルス次第。苦痛に呻く夕達を見てユリウスの決意が揺らぐ。夕達を助ける為には、自分が犠牲にならなければならない。ユリウスがシェルスのものになれば、夕も鈴もサイラスも助かる。息苦しさと苦痛で意識が朦朧とし、悪魔の囁きに耳を傾けてしまいそうになる。
「海の神子が居なければ、僕は無敵なんですよ? ユリウス様。あぁ、安心してください。あの子は今頃、海底深くに幽閉されて人魚族の慰み者になっていますから!」
自分の勝ちを確信したシェルスは自ら弱点を教えた。他の神子に効果があっても、海の神子には通用しない。この呪いも全て無効化されてしまう。カイリに渡した神子封じの効果も長く持って半日程度。その間にカイリ達がシンジュの心を壊してくれればこの計画は成功なのだ。だからシェルスは海の神子であるシンジュを追い出そうとした。シンジュの姉を殺し、シンジュが自害する程追いつめ、ユリウスを敵視していたリベルテさえも殺そうとした。
「全てはユリウス様を手に入れる為に!」
狂っている。両手を広げて歪に嗤うシェルスを見てユリウスはそう思った。それと同時に、ユリウスは考えてはならない事を考えてしまった。みんなが苦しんでいたのは自分のせいではないか、と。最初から、シェルスを選んでいれば誰も不幸にならなかったのではないか、と。
「自分のせいで誰かが不幸になるのは嫌でしょう? ユリウス様」
「ぁ……あぁ……」
「僕の手をとって、ユリウス様。僕を選んでくれるなら、みんなを助けてあげる」
ダメだ、手を取るな、とサイラス達が必死に止めようとするが、彼らの声はユリウスに届かなかった。シェルスを選べば、みんなが助かる。シェルスに言われるまま、ユリウスは差し出された手に自分の手を重ねた。
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