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第6章
太陽の神子と空の神子
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一人、また一人と、騎士達は剣を仕舞い片膝をついた。神子様。太陽の神子様、空の神子様と告げ「今までの度重なる無礼をどうかお許しください」と謝罪した。突然騎士達の態度が変わり、鈴は顔を顰める。先程まで敵意を向けていたくせに、神子だと分かった瞬間掌を返す。その態度が鈴は一番嫌いだった。怒りをぶつけようとする鈴にサイラスは「落ち着け」と言って再び口付ける。
「ん……おい、今はこんな事をしている場合じゃ」
「お前の言いたい事は分かる。だが、今回は許してやれ。此奴らも操られていただけだ」
「は?」
「お前もさっき見ただろう? 神官に洗脳され、操られている俺の姿を……太陽の神子である俺がこうだったんだ。此奴らが操られても仕方ない」
「…………」
納得はしていないが、鈴は渋々騎士達を許した。サイラスの言う通り、彼が洗脳されて操られる程の強い術をかけられていたのなら、彼らを責める事は出来ない。それに、神官が言葉巧みに操っていた可能性もある。洗脳の術と話術で都合の良い操り人形にされていた彼らを責めるのはお門違いだと思ったのだ。
「神子殺しは重罪だ。それ相応の罰は受けてもらうぞ?」
「何故だ? 何故術が解けた!? 今迄こんな事は起こらなかったのに何故!?」
何故、と繰り返す神官にサイラスは冷めた目をして「神子を思い通りに出来る訳ねえだろ?」と吐き捨てた。彼が一言「捕らえろ」と命令すれば、神官の命令に従っていた筈の騎士達が一斉に彼を取り囲んだ。神官は杖を振り回しながら「言う通りにしろ!」と叫ぶが何も起こらない。
「往生際の悪い奴だな。話は後でいくらでも聞いてやる。冷たくて暗い地下牢の中でな」
「巫山戯るな! 本物の神子はシェルス様なのだ! シェルス様こそ神子に相応しい! シェルス様が神子でなければ私の立場はどうなるのだ!?」
「最後まで自分の保身かよ、見苦しい。連れて行け」
「は!」
ぎゃあぎゃあ喚く神官を騎士達が拘束して連行する。暴れても喚いても複数の騎士に拘束されている為抵抗にすらなっていない。
「よくぞ、お戻りになられました。太陽の神子様。空の神子様」
残った騎士達は再び深々と頭を下げサイラスに忠誠を誓う。そんな彼らに「気にするな」と告げた後、サイラスは的確に指示を出した。城の中に潜んでいる敵を炙り出せと命令すると、彼らは「は!」と返事をして散り散りになった。先程まで洗脳され意思も奪われていたと言うのに、サイラスは現状を把握し騎士達に命令した。正に上に立つ者として相応しい頭脳とカリスマ性だ。
「移動しながら説明する。急ぐぞ!」
「急ぐって、おい! 何処に行くんだよ!?」
「神殿だ。夜の神子が危ない」
「夜の、神子?」
鈴が疑問に思う暇もなく、サイラスは白い鷲を連れて足早にその場を立ち去る。置いて行かれないように鈴も燕と共に彼の後を追う。彼ははっきりと「夜の神子」と言った。太陽の神子であるサイラス。月の神子であるユリウス。海の神子であるシンジュ。そして、空の神子だった鈴。となれば、夜の神子が誰かなど、簡単に想像がつく。
「ユリウスの傍に居た黒髪の少年が夜の神子だ!」
「夕じゃねえか!」
薄々気付いていたものの、知らぬ内に神子が揃っていた事実を目の当たりにした鈴は大声で叫んだ。
ソレイユ国を統治するのは本来なら太陽の神子の役目だった。しかし、太陽の神子であるサイラスは常にシェルスと神官達に狙われ、彼らに捕まるのは時間の問題だった。捕まれば最後、シェルスの思い通りの操り人形にされ、神子の力を悪用されてしまう。自分の意思など関係なく、好きでもない相手の為に身も心も捧げる事になる。
そんな腐った未来などサイラスは望んでいなかった。どんな手を使ってでも、例えこの身が奴らの手に堕ちる事になろうとも、サイラスは神子の証だけは守りたかった。その願いが天に届いたのか、それとも単なる偶然か、神官や騎士達に追われてもう終わりだと諦めかけた時、彼の前に鈴が現れた。
サイラスは出会って直ぐに鈴が空の神子だと分かった。だから彼は神子の証を鈴に託したのだ。洗脳され、奴らの思い通りになったとしても神子の証が無事ならば、空の神子が守ってくれているなら、何時か必ず自分を取り戻せるとサイラスは確信していた。そして、それは現実となった。
「お前に神子の証を託して正解だった。礼を言うぜ、リン」
「託した? 押し付けたの間違いだろうが! 無理矢理面倒なもん渡しやがって!」
「あの時はそれしか方法が無かったんだよ! 彼奴に証を奪われるのだけは何としてでも阻止しなければならなかった。奴が神子の証を手に入れたら世界が滅ぶ可能性もあったからな!」
「奴?」
「お前も会った事があるだろ? 自分の事を夜空の神子とか言ってる薄気味悪い餓鬼の事だよ!」
「…………」
走りながらサイラスは「胸糞悪い!」と悪態を吐く。ユリウスだけでなく、サイラスもシェルスの事が嫌いなようだ。自分の事を神子と偽り、洗脳してまで太陽の神子を手に入れようとしていたのだから嫌いになって当然だろう。
「ユリウスが何故今も王子なのか分かるか?」
「は?」
突拍子もない質問に、鈴は首を傾げた。今、ソレイユ国を統治しているのはユリウスと言っても過言ではない。今迄全く気にしなかったが、彼の両親は何処に居るのか。もし、二人とも他界しているのならこの国の王は必然的にユリウスとなる。となれば、本来ならユリウスは国王や陛下と呼ばれるのが普通だ。しかし、彼はまだ王子と言う立場にある。サイラスに指摘されて、鈴は漸くそれが可笑しいと言う事に気付いた。
「国王になるのは太陽の神子だからだ。ソレイユ国を統治するのは太陽の神子の役目。月の神子は太陽の神子の陰で国を支える役目を担っている。つまり、表の統治者は太陽の神子、裏の統治者は月の神子と言う訳だ。そして、太陽の神子に何かあった場合は月の神子が国王代理としてこの国を統治する。太陽の神子が帰還するまでな」
「だから、ユリウスは王子のままだったのか」
「そう言う事だ。俺が奴らに捕まったせいで、彼奴には余計なものまで背負わせちまった。全てが終わったら礼をしねえとな」
「……お前って、やっぱり国王なんだな」
「はあ!? 最初から国王だって言ってんだろ!? 今更何を言ってやがる!」
言葉遣いは乱暴で自分勝手で俺様だが、サイラスはこの国と神子を誰よりも大切に思っている。自分だって大変な目に遭っていたのに、彼はユリウスに自分の役目を丸投げしてしまった事を申し訳ないと思っていた。鈴が素直に感想を述べると、サイラスは不満そうな顔をして怒鳴り散らした。ムキになる表情が面白くて、彼と意思疎通が出来る事が嬉しくて、鈴は珍しく声を出して笑った。
サイラスから話を聞いた鈴はシェルスが思っていた以上に最低な人間だと知って舌打ちをしたくなった。シェルスはユリウスに振り向いてほしくて「月夜に産まれた子どもは呪われている」と言う嘘の情報を流した。正確に言えば、シェルスを含む先祖達が流した情報だ。
月の夜に産まれたユリウスは幼い頃から「不幸を招く」と言われ「呪われた化け物」と罵られ、寂しく孤独な日々を送っていたと聞く。常に命を狙われ、助けてくれる人は誰も居ない。クラウスが傍に居たが、かつての彼は自分の身は自分で守れるようにと敢えてユリウスに対して厳しく接していた。周囲は敵ばかりの中、助けてくれる人も信じられる人も存在しない環境はユリウスの心を傷付け磨耗させてゆく。心身共に疲れ果てたユリウスに優しく接して自分に依存してもらおうと、シェルスを含む一族は考えていたのだ。今度こそ、月の神子を手に入れる為に……
シェルスの先祖は、太陽の神子と月の神子の愛欲しさに夜の神子と空の神子を殺そうとしたらしい。しかし、彼の思惑に気付いた海の神子と彼の守り人が阻止したが、かつての海の神子は命を落とし、守り人も行方不明になった。海の神子が亡くなり、月の神子の証と夜の神子の証を盗まれ、残された神子達は次々と消えてしまった。神子の証を奪われた夜の神子、夜の神子と仲が良かった空の神子、癒してくれる神子を失った月の神子と太陽の神子。全ての神子を失った世界は少しずつ狂っていった。この世界で月が十五年に一度しか昇らないのも、シェルスの先祖が神子を殺したからだ。
それだけに飽き足らず、再びこの地に戻った神子をシェルスは先祖と同じように消し去ろうとした。それがどれ程の大罪なのかを知っているにも関わらず、だ。シェルスが海の神子であるシンジュに拘っていた理由も先祖が関係していた。
どうやら海の神子が居るとシェルスは術を使えないらしい。海の神子を殺した罰なのか、彼が最期の力を振り絞って呪いのような術を施したのか、それは誰にも分からない。ただ一つだけ分かるのは、シェルスの弱点が海の神子だと言う事。海の神子にはシェルスの術が効かず全て無効化されてしまう。だからシェルスは一番にシンジュを消し去ろうとしたのだ。
「なら、先にシンジュを捜した方が良いんじゃねえのか?」
「時間がない! それに、海の神子にはかつての守り人と新しい守り人が付いている。俺達と同じように神殿に向かっている筈だ」
「なんでそんな事が分かるんだよ!?」
「愚問だな。勘だよ! 勘!」
「はぁああああああ! んなもん信じられる訳ねえだろ!」
「俺の勘は当たるんだよ! かつての神子の二の舞にはならない! 彼奴らを信じろ! それとも、リンは彼奴らが負けると思ってるのか?」
「思ってねえよ!」
「だったら信じろ! 俺達の最優先事項は夜の神子だ!」
「ぁあ、もう! 分かったよ! 急げばいいんだろ!」
シンジュの事は心配だが、それと同じくらい鈴は夕が心配だった。シンジュが居ない今、一番危険に晒されているのは夜の神子である夕だ。シェルスはずっと夕に敵意を向けていた。サイラスも手に入れたかったようだが、シェルスの一番の目的は月の神子であるユリウスを手に入れる事。彼にとってユリウスの傍に居る夕は邪魔な存在だったに違いない。しかし、今迄はシンジュが居たからシェルスも大人しかった。抑止力になっていたシンジュが居なくなればシェルスが夕を狙うのは当然。そんな事をユリウスが許す筈がない。夕に何かあればユリウスが護ろうと動く筈だ。
「無事でいてくれよ。夕!」
夕が居ない未来など鈴は想像したくなかった。ユリウスが夕を護っていると信じたくても、実際にこの目で確認しなければ安心できない。夕の無事を願いながら、鈴はサイラスと共に神殿を目指した。
「ん……おい、今はこんな事をしている場合じゃ」
「お前の言いたい事は分かる。だが、今回は許してやれ。此奴らも操られていただけだ」
「は?」
「お前もさっき見ただろう? 神官に洗脳され、操られている俺の姿を……太陽の神子である俺がこうだったんだ。此奴らが操られても仕方ない」
「…………」
納得はしていないが、鈴は渋々騎士達を許した。サイラスの言う通り、彼が洗脳されて操られる程の強い術をかけられていたのなら、彼らを責める事は出来ない。それに、神官が言葉巧みに操っていた可能性もある。洗脳の術と話術で都合の良い操り人形にされていた彼らを責めるのはお門違いだと思ったのだ。
「神子殺しは重罪だ。それ相応の罰は受けてもらうぞ?」
「何故だ? 何故術が解けた!? 今迄こんな事は起こらなかったのに何故!?」
何故、と繰り返す神官にサイラスは冷めた目をして「神子を思い通りに出来る訳ねえだろ?」と吐き捨てた。彼が一言「捕らえろ」と命令すれば、神官の命令に従っていた筈の騎士達が一斉に彼を取り囲んだ。神官は杖を振り回しながら「言う通りにしろ!」と叫ぶが何も起こらない。
「往生際の悪い奴だな。話は後でいくらでも聞いてやる。冷たくて暗い地下牢の中でな」
「巫山戯るな! 本物の神子はシェルス様なのだ! シェルス様こそ神子に相応しい! シェルス様が神子でなければ私の立場はどうなるのだ!?」
「最後まで自分の保身かよ、見苦しい。連れて行け」
「は!」
ぎゃあぎゃあ喚く神官を騎士達が拘束して連行する。暴れても喚いても複数の騎士に拘束されている為抵抗にすらなっていない。
「よくぞ、お戻りになられました。太陽の神子様。空の神子様」
残った騎士達は再び深々と頭を下げサイラスに忠誠を誓う。そんな彼らに「気にするな」と告げた後、サイラスは的確に指示を出した。城の中に潜んでいる敵を炙り出せと命令すると、彼らは「は!」と返事をして散り散りになった。先程まで洗脳され意思も奪われていたと言うのに、サイラスは現状を把握し騎士達に命令した。正に上に立つ者として相応しい頭脳とカリスマ性だ。
「移動しながら説明する。急ぐぞ!」
「急ぐって、おい! 何処に行くんだよ!?」
「神殿だ。夜の神子が危ない」
「夜の、神子?」
鈴が疑問に思う暇もなく、サイラスは白い鷲を連れて足早にその場を立ち去る。置いて行かれないように鈴も燕と共に彼の後を追う。彼ははっきりと「夜の神子」と言った。太陽の神子であるサイラス。月の神子であるユリウス。海の神子であるシンジュ。そして、空の神子だった鈴。となれば、夜の神子が誰かなど、簡単に想像がつく。
「ユリウスの傍に居た黒髪の少年が夜の神子だ!」
「夕じゃねえか!」
薄々気付いていたものの、知らぬ内に神子が揃っていた事実を目の当たりにした鈴は大声で叫んだ。
ソレイユ国を統治するのは本来なら太陽の神子の役目だった。しかし、太陽の神子であるサイラスは常にシェルスと神官達に狙われ、彼らに捕まるのは時間の問題だった。捕まれば最後、シェルスの思い通りの操り人形にされ、神子の力を悪用されてしまう。自分の意思など関係なく、好きでもない相手の為に身も心も捧げる事になる。
そんな腐った未来などサイラスは望んでいなかった。どんな手を使ってでも、例えこの身が奴らの手に堕ちる事になろうとも、サイラスは神子の証だけは守りたかった。その願いが天に届いたのか、それとも単なる偶然か、神官や騎士達に追われてもう終わりだと諦めかけた時、彼の前に鈴が現れた。
サイラスは出会って直ぐに鈴が空の神子だと分かった。だから彼は神子の証を鈴に託したのだ。洗脳され、奴らの思い通りになったとしても神子の証が無事ならば、空の神子が守ってくれているなら、何時か必ず自分を取り戻せるとサイラスは確信していた。そして、それは現実となった。
「お前に神子の証を託して正解だった。礼を言うぜ、リン」
「託した? 押し付けたの間違いだろうが! 無理矢理面倒なもん渡しやがって!」
「あの時はそれしか方法が無かったんだよ! 彼奴に証を奪われるのだけは何としてでも阻止しなければならなかった。奴が神子の証を手に入れたら世界が滅ぶ可能性もあったからな!」
「奴?」
「お前も会った事があるだろ? 自分の事を夜空の神子とか言ってる薄気味悪い餓鬼の事だよ!」
「…………」
走りながらサイラスは「胸糞悪い!」と悪態を吐く。ユリウスだけでなく、サイラスもシェルスの事が嫌いなようだ。自分の事を神子と偽り、洗脳してまで太陽の神子を手に入れようとしていたのだから嫌いになって当然だろう。
「ユリウスが何故今も王子なのか分かるか?」
「は?」
突拍子もない質問に、鈴は首を傾げた。今、ソレイユ国を統治しているのはユリウスと言っても過言ではない。今迄全く気にしなかったが、彼の両親は何処に居るのか。もし、二人とも他界しているのならこの国の王は必然的にユリウスとなる。となれば、本来ならユリウスは国王や陛下と呼ばれるのが普通だ。しかし、彼はまだ王子と言う立場にある。サイラスに指摘されて、鈴は漸くそれが可笑しいと言う事に気付いた。
「国王になるのは太陽の神子だからだ。ソレイユ国を統治するのは太陽の神子の役目。月の神子は太陽の神子の陰で国を支える役目を担っている。つまり、表の統治者は太陽の神子、裏の統治者は月の神子と言う訳だ。そして、太陽の神子に何かあった場合は月の神子が国王代理としてこの国を統治する。太陽の神子が帰還するまでな」
「だから、ユリウスは王子のままだったのか」
「そう言う事だ。俺が奴らに捕まったせいで、彼奴には余計なものまで背負わせちまった。全てが終わったら礼をしねえとな」
「……お前って、やっぱり国王なんだな」
「はあ!? 最初から国王だって言ってんだろ!? 今更何を言ってやがる!」
言葉遣いは乱暴で自分勝手で俺様だが、サイラスはこの国と神子を誰よりも大切に思っている。自分だって大変な目に遭っていたのに、彼はユリウスに自分の役目を丸投げしてしまった事を申し訳ないと思っていた。鈴が素直に感想を述べると、サイラスは不満そうな顔をして怒鳴り散らした。ムキになる表情が面白くて、彼と意思疎通が出来る事が嬉しくて、鈴は珍しく声を出して笑った。
サイラスから話を聞いた鈴はシェルスが思っていた以上に最低な人間だと知って舌打ちをしたくなった。シェルスはユリウスに振り向いてほしくて「月夜に産まれた子どもは呪われている」と言う嘘の情報を流した。正確に言えば、シェルスを含む先祖達が流した情報だ。
月の夜に産まれたユリウスは幼い頃から「不幸を招く」と言われ「呪われた化け物」と罵られ、寂しく孤独な日々を送っていたと聞く。常に命を狙われ、助けてくれる人は誰も居ない。クラウスが傍に居たが、かつての彼は自分の身は自分で守れるようにと敢えてユリウスに対して厳しく接していた。周囲は敵ばかりの中、助けてくれる人も信じられる人も存在しない環境はユリウスの心を傷付け磨耗させてゆく。心身共に疲れ果てたユリウスに優しく接して自分に依存してもらおうと、シェルスを含む一族は考えていたのだ。今度こそ、月の神子を手に入れる為に……
シェルスの先祖は、太陽の神子と月の神子の愛欲しさに夜の神子と空の神子を殺そうとしたらしい。しかし、彼の思惑に気付いた海の神子と彼の守り人が阻止したが、かつての海の神子は命を落とし、守り人も行方不明になった。海の神子が亡くなり、月の神子の証と夜の神子の証を盗まれ、残された神子達は次々と消えてしまった。神子の証を奪われた夜の神子、夜の神子と仲が良かった空の神子、癒してくれる神子を失った月の神子と太陽の神子。全ての神子を失った世界は少しずつ狂っていった。この世界で月が十五年に一度しか昇らないのも、シェルスの先祖が神子を殺したからだ。
それだけに飽き足らず、再びこの地に戻った神子をシェルスは先祖と同じように消し去ろうとした。それがどれ程の大罪なのかを知っているにも関わらず、だ。シェルスが海の神子であるシンジュに拘っていた理由も先祖が関係していた。
どうやら海の神子が居るとシェルスは術を使えないらしい。海の神子を殺した罰なのか、彼が最期の力を振り絞って呪いのような術を施したのか、それは誰にも分からない。ただ一つだけ分かるのは、シェルスの弱点が海の神子だと言う事。海の神子にはシェルスの術が効かず全て無効化されてしまう。だからシェルスは一番にシンジュを消し去ろうとしたのだ。
「なら、先にシンジュを捜した方が良いんじゃねえのか?」
「時間がない! それに、海の神子にはかつての守り人と新しい守り人が付いている。俺達と同じように神殿に向かっている筈だ」
「なんでそんな事が分かるんだよ!?」
「愚問だな。勘だよ! 勘!」
「はぁああああああ! んなもん信じられる訳ねえだろ!」
「俺の勘は当たるんだよ! かつての神子の二の舞にはならない! 彼奴らを信じろ! それとも、リンは彼奴らが負けると思ってるのか?」
「思ってねえよ!」
「だったら信じろ! 俺達の最優先事項は夜の神子だ!」
「ぁあ、もう! 分かったよ! 急げばいいんだろ!」
シンジュの事は心配だが、それと同じくらい鈴は夕が心配だった。シンジュが居ない今、一番危険に晒されているのは夜の神子である夕だ。シェルスはずっと夕に敵意を向けていた。サイラスも手に入れたかったようだが、シェルスの一番の目的は月の神子であるユリウスを手に入れる事。彼にとってユリウスの傍に居る夕は邪魔な存在だったに違いない。しかし、今迄はシンジュが居たからシェルスも大人しかった。抑止力になっていたシンジュが居なくなればシェルスが夕を狙うのは当然。そんな事をユリウスが許す筈がない。夕に何かあればユリウスが護ろうと動く筈だ。
「無事でいてくれよ。夕!」
夕が居ない未来など鈴は想像したくなかった。ユリウスが夕を護っていると信じたくても、実際にこの目で確認しなければ安心できない。夕の無事を願いながら、鈴はサイラスと共に神殿を目指した。
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