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第6章
海の底
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地上の光が届かない深い海の底。特殊な術が施された檻の中にシンジュは閉じ込められていた。逃げられないように首輪を嵌められ、それは頑丈な鎖で繋がれていた。抵抗できないよう両手にも枷が嵌められ、身動きが取れない状況に陥っていた。檻の前には二人の人魚が居て、シンジュが逃げ出さないよう見張っている。
「シズク……」
何時もシンジュの側に居て守ってくれたシズク。海の神子の証であるシズクには、シンジュを守れる力も強さもあった。しかし、シズクは手も足も出せず瓶の中に閉じ込められてしまった。その瓶はカイリが常に持っており、檻の中に閉じ込められて拘束されているシンジュでは助ける事は不可能。
「夜明けと共に契りを交わす儀式を行う。逃げたらどうなるか、分かってるだろうな?」
リベルテに言われた通り、シンジュは周囲を警戒していた筈だった。可能な限りリベルテの傍に居たし、彼が傍に居ない時はユリウスや夕達と共に居たし、どうしても一人になってしまう時はリベルテの部屋で過ごしていた。鍵もちゃんとかけていた。
にも関わらず、突然リベルテの部屋にカイリが無断で入って来た。驚いたシンジュは慌てて逃げようとするが、彼はそれを許さなかった。
「逃げたら第二王子を殺す」
そう言って、カイリはナイフを取り出した。そのナイフを見た瞬間、シンジュは驚いて目を見開き涙を流した。彼が持っていたナイフは、ユリウスを殺す為に渡されたナイフと全く同じだった。鈍く光る刃物をチラつかせながら、カイリは淡々と話した。
大人しく海に帰って神子の役目を果たせ。人魚族の掟を守れ。逆らうなら第二王子を今度こそ殺す、と。シンジュが疑問に思っていると、彼は鼻で笑った後自慢そうに話した。カイリはリベルテを殺そうとした事がある。第二王子を殺せばヒスイが蘇ると言われ、その言葉を信じて彼は空間を操れる道具を使ってこのナイフをリベルテの背中に突き刺したのだ。
しかし、夕や鈴、ユリウスのお陰でリベルテが命を落とす事はなかった。カイリはそれが面白くなかった。彼はヒスイを殺したのはユリウスだと思い込んでおり、彼女を生き返らせる為なら一国の王子であろうと殺す勢いだった。
「なんで、そんな酷い事……リベルさまを殺しても、お姉ちゃんは蘇りません!」
「だったら何でお前は蘇ったんだよ。お前が蘇ったなら、ヒスイだって!」
それはシンジュが海の神子だからだ。シンジュは夕と鈴から話を聞いていた。シンジュを蘇らせる為に協力してくれた人魚が居た事。その人魚にヒスイを蘇らせる事は可能かと聞いたら無理だと答えられた事。蘇らせる事が出来たのはシンジュが海の神子だからだと言う事。そして、次に命を落とすような事があれば、もう蘇らせる術はないと言う事。それが自然の摂理だ。死者を蘇らせる事はこの世界でも不可能で、そう言った類の魔法や術を使う事は死者を冒涜する行為として禁術になっている。
カイリだってそれは分かっている筈なのに、今の彼には彼女を蘇らせる事しか頭にない。ヒスイを蘇らせる為なら他者の命を奪っても良いと本気で思っている。だからと言って、ユリウスやリベルテの命を奪ってもいい理由にはならない。カイリがユリウスを憎む理由は分かる。けれど、ヒスイの死にリベルテは全く関係ない。むしろ被害者と言ってもいい。
「リベルさまは、関係ないじゃないですか!」
「だったら言う事を聞け。殺されたくないんだろ?」
カイリは空間を操る道具を使ってその場に小さな穴を作った。その穴の先には見覚えのある愛しい人の背中。彼は持っていたナイフをリベルテの背中に突き刺そうとした。
「やめて! 言う通りにしますから! リベルさまには手を出さないで! リベルさまは、リベル、さまは、殺さないで……」
慌ててカイリの腕を掴んで、シンジュは泣きながら懇願した。それを見ていたシズクがカイリに体当たりをしようとしたが、何かに阻まれて弾き飛ばされてしまう。シンジュがシズクの元へ駆け寄ろうとするよりも早くカイリが近付いて、シズクを瓶の中に閉じ込めてしまった。
「この瓶には神子封じの術が施されている。これでお前は神子の力を使えない」
泣き崩れるシンジュにカイリは冷たく言い放った。逃げなければと思っても時既に遅く、シンジュを囲むように魔法陣が描かれた。それが転移魔法だと気付いた瞬間、シンジュは海の中に居た。腕を強く捕まれ、乱暴に引っ張られて連れて来られたのは、帰るつもりのなかった海の故郷。
人魚達はカイリに話しかけた後、シンジュを見て顔を顰めた。何でお前なんかが、と思っている視線を向けられ、シンジュは俯いてしまう。逃げようとしたら容赦なく殴られ、抵抗できないように首輪を嵌められた。両手にも枷が嵌められ、シンジュは頑丈な檻の中に閉じ込められてしまった。
「リベル、さま」
シンジュが求めるのは何時だってリベルテだった。カイリと契りを交わすなんて絶対に嫌だ。海の神子と言う肩書きだけを見て、神子の力を独占したいが為に作られた可笑しな掟に縛られるなんて馬鹿げている。しかし、いくらシンジュがそう思っても残された時間は少ない。シズクは瓶の中に閉じ込められてカイリが持っている。シンジュも頑丈な鎖で繋がれ檻の中に監禁されている。シンジュ一人の力で脱出するなど完全に不可能だった。
それでも、シンジュは諦めたくなかった。此処から脱出する方法はないか、そう考えていた時、突然見張りの人魚達が眠ってしまった。
「人魚族は愚かだね。神子殿には手を出すなと忠告したのに」
「え?」
シンジュの前に現れたのは、深海の魔女と呼ばれる老いた人魚だった。
「シズク……」
何時もシンジュの側に居て守ってくれたシズク。海の神子の証であるシズクには、シンジュを守れる力も強さもあった。しかし、シズクは手も足も出せず瓶の中に閉じ込められてしまった。その瓶はカイリが常に持っており、檻の中に閉じ込められて拘束されているシンジュでは助ける事は不可能。
「夜明けと共に契りを交わす儀式を行う。逃げたらどうなるか、分かってるだろうな?」
リベルテに言われた通り、シンジュは周囲を警戒していた筈だった。可能な限りリベルテの傍に居たし、彼が傍に居ない時はユリウスや夕達と共に居たし、どうしても一人になってしまう時はリベルテの部屋で過ごしていた。鍵もちゃんとかけていた。
にも関わらず、突然リベルテの部屋にカイリが無断で入って来た。驚いたシンジュは慌てて逃げようとするが、彼はそれを許さなかった。
「逃げたら第二王子を殺す」
そう言って、カイリはナイフを取り出した。そのナイフを見た瞬間、シンジュは驚いて目を見開き涙を流した。彼が持っていたナイフは、ユリウスを殺す為に渡されたナイフと全く同じだった。鈍く光る刃物をチラつかせながら、カイリは淡々と話した。
大人しく海に帰って神子の役目を果たせ。人魚族の掟を守れ。逆らうなら第二王子を今度こそ殺す、と。シンジュが疑問に思っていると、彼は鼻で笑った後自慢そうに話した。カイリはリベルテを殺そうとした事がある。第二王子を殺せばヒスイが蘇ると言われ、その言葉を信じて彼は空間を操れる道具を使ってこのナイフをリベルテの背中に突き刺したのだ。
しかし、夕や鈴、ユリウスのお陰でリベルテが命を落とす事はなかった。カイリはそれが面白くなかった。彼はヒスイを殺したのはユリウスだと思い込んでおり、彼女を生き返らせる為なら一国の王子であろうと殺す勢いだった。
「なんで、そんな酷い事……リベルさまを殺しても、お姉ちゃんは蘇りません!」
「だったら何でお前は蘇ったんだよ。お前が蘇ったなら、ヒスイだって!」
それはシンジュが海の神子だからだ。シンジュは夕と鈴から話を聞いていた。シンジュを蘇らせる為に協力してくれた人魚が居た事。その人魚にヒスイを蘇らせる事は可能かと聞いたら無理だと答えられた事。蘇らせる事が出来たのはシンジュが海の神子だからだと言う事。そして、次に命を落とすような事があれば、もう蘇らせる術はないと言う事。それが自然の摂理だ。死者を蘇らせる事はこの世界でも不可能で、そう言った類の魔法や術を使う事は死者を冒涜する行為として禁術になっている。
カイリだってそれは分かっている筈なのに、今の彼には彼女を蘇らせる事しか頭にない。ヒスイを蘇らせる為なら他者の命を奪っても良いと本気で思っている。だからと言って、ユリウスやリベルテの命を奪ってもいい理由にはならない。カイリがユリウスを憎む理由は分かる。けれど、ヒスイの死にリベルテは全く関係ない。むしろ被害者と言ってもいい。
「リベルさまは、関係ないじゃないですか!」
「だったら言う事を聞け。殺されたくないんだろ?」
カイリは空間を操る道具を使ってその場に小さな穴を作った。その穴の先には見覚えのある愛しい人の背中。彼は持っていたナイフをリベルテの背中に突き刺そうとした。
「やめて! 言う通りにしますから! リベルさまには手を出さないで! リベルさまは、リベル、さまは、殺さないで……」
慌ててカイリの腕を掴んで、シンジュは泣きながら懇願した。それを見ていたシズクがカイリに体当たりをしようとしたが、何かに阻まれて弾き飛ばされてしまう。シンジュがシズクの元へ駆け寄ろうとするよりも早くカイリが近付いて、シズクを瓶の中に閉じ込めてしまった。
「この瓶には神子封じの術が施されている。これでお前は神子の力を使えない」
泣き崩れるシンジュにカイリは冷たく言い放った。逃げなければと思っても時既に遅く、シンジュを囲むように魔法陣が描かれた。それが転移魔法だと気付いた瞬間、シンジュは海の中に居た。腕を強く捕まれ、乱暴に引っ張られて連れて来られたのは、帰るつもりのなかった海の故郷。
人魚達はカイリに話しかけた後、シンジュを見て顔を顰めた。何でお前なんかが、と思っている視線を向けられ、シンジュは俯いてしまう。逃げようとしたら容赦なく殴られ、抵抗できないように首輪を嵌められた。両手にも枷が嵌められ、シンジュは頑丈な檻の中に閉じ込められてしまった。
「リベル、さま」
シンジュが求めるのは何時だってリベルテだった。カイリと契りを交わすなんて絶対に嫌だ。海の神子と言う肩書きだけを見て、神子の力を独占したいが為に作られた可笑しな掟に縛られるなんて馬鹿げている。しかし、いくらシンジュがそう思っても残された時間は少ない。シズクは瓶の中に閉じ込められてカイリが持っている。シンジュも頑丈な鎖で繋がれ檻の中に監禁されている。シンジュ一人の力で脱出するなど完全に不可能だった。
それでも、シンジュは諦めたくなかった。此処から脱出する方法はないか、そう考えていた時、突然見張りの人魚達が眠ってしまった。
「人魚族は愚かだね。神子殿には手を出すなと忠告したのに」
「え?」
シンジュの前に現れたのは、深海の魔女と呼ばれる老いた人魚だった。
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