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第5章
謎の男
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男達は何者かに殴り飛ばされたのだと鈴が理解したのは、彼らが情けない声を上げて逃げ出した時だった。殴り飛ばしたであろう人物は全身黒い布に包まれていて誰なのか分からない。背が高く体格が良いのを見ると性別は男なのだろうが、性別以外が全く分からない。
「ありがとう、ございます」
手足を縛っている縄をほどき、乱雑に脱がされた衣服を整えてくれる謎の人物に鈴はお礼を言った。男は何も言わず鈴の服を着せ直すと突然彼を抱き上げて歩き出した。当然鈴は驚いたが男の足は止まらない。鈴が暴れようとすれば抱いている腕の力た強くなり身動きが取れなくなる。抵抗しても無意味だと鈴が諦めるのにそう時間はかからなかった。
不本意ながら男に抱かれて連れて来られたのは、鈴の自室だった。部屋に入った瞬間留守番をしていた白い鳥と燕が翼をばたつかせて鈴の元へ飛んで来る。千切れ破れた鈴の服を見て鳥達はピィピィギャイギャイ騒いだが、不思議な事に男が口元に指を押し当てると嘘のように大人しくなった。
大人しくなった二羽の鳥を見て、男はベッドまで歩いて鈴をそっと下ろす。黒いフードを被っているので、相変わらず男の顔は分からない。白い鳥も燕も敵意を向けていない事から、この男は大丈夫なのだろうと思うが怪しい事に変わりはない。
「あの……」
どうして助けてくれたのか、この男は何者なのかなど、鈴が男に聞こうとしたが出来なかった。気付いたら男は鈴の目の前に居た。あまりにも近過ぎて鈴が距離を取ろうとするが、その前に男が後頭部に手を回して更に距離を縮めてくる。
「ん!」
抵抗する暇も無く、鈴は見知らぬ怪しい男に口付けられた。触れるだけのキスではなく、噛み付くようなキスをされ鈴は男を殴り飛ばそうとする。しかしその手すらも受け止められ口付けはどんどん深くなる。男が満足するまで解放されず、やっと唇が離れた頃には息も絶え絶えだった。
「お前も、彼奴らと同じなのかよ」
荒い息を落ち着かせながら、鈴は男を睨み付けた。口付けられた口元を荒々しく拭いて男の返事を待つ。しかし、男は何も答えない。鈴を守りたいのか、襲いたいのか、全く行動が読めない男に鈴は苛立ちを覚えた。こんな事、日常茶飯事だった筈なのに。この男のように無理矢理キスをされた事はないが、その一歩手前までの事は前の世界で嫌と言う程されてきた。鈴が可愛らしい見た目をしているからだ。鈴に好意を寄せる者は多かった。中には無理矢理鈴を手に入れようとして襲おうとした者も居る。しかし、そう言った連中は外見にしか興味がなく、鈴の内面を知った途端幻滅して離れて行く。
もう既に慣れてしまった事なのに、この男も同じなのかと思うと悔しくて仕方なかった。どうせ外見にしか興味がない。本性を知ったら被害者面して鈴が悪いように言って離れて行く。それが分かっていたから鈴は周囲が求める人物像を作り上げて演じ続けた。面倒事に巻き込まれたくなかったからだ。恋なんて下らない。一人に夢中になって全てを捧げたいなんて馬鹿げている。好きな人ができるまで、鈴はそう考えていた。他人なんて絶対に信じないと鈴は決めていた。そんな鈴を変えたのは……
「…………」
泣いていると思ったのか、先程の事を謝りたいのか、男は落ち込む鈴の頭を優しく撫でた。そんな事をして許される訳ねえだろと思うのに、大きな手が温かくて撫でられると不思議と安心して、男を責める事が出来なかった。
鈴が落ち着いた後、男は無言で部屋から去って行った。一体何がしたかったのか分からず、鈴はもやもやした気持ちが残ってしまった。男が去った後、夕とシンジュが部屋に押しかけて来て大変だった。一体誰から聞いたのか二人は鈴が襲われた事を知っていた。大した事じゃないと何時ものように鈴が言ったら夕がキレてしまった。
夕と同じように、後からやって来たユリウスとクラウスにも怒られて鈴は素直に謝った。リベルテだけは「そんなに怒らなくても」と鈴を庇おうとしたが激怒した夕達には敵わなかった。夕が鈴を心配するのは分かるが、まさかユリウス達まで鈴の事を心配しているとは思っていなかったのだ。ユリウスにとって大切なのは夕で、リベルテにとって大切なのはシンジュで、クラウスにとって大切なのは神子であるユリウスとシンジュで、鈴は都合の良い人物程度の認識だろうと勝手に結論付けていた。
「鈴が強い事は知ってるけどな、俺の知らない所で危ない事はしてほしくない」
「……………」
「ユウ様の言う通りです。それは私達の仕事です。スズ様が一人で抱え込む必要などありません」
「スズさん、大丈夫だったんですか? 全然知らない人にキスをされたってシズクが言ってるんですけど」
ピシャリ。シンジュの発言により、周囲の気温が一気に下がった気がした。と言うかシンジュ、お前何時からシャチと話せるようになったんだ? と鈴が現実逃避をしていると案の定夕が暴走した。鈴を襲った犯人は一体何処の誰だと大激怒。クラウスも鈴に優しい声で「怖かったですね。このような事が二度と起こらないように私達で捕まえますので犯人の特徴を教えてください」と聞いてきた。優しく笑っているが殺気が凄まじい。ユリウスも少し殺意が見え隠れしていて怖い。
「あのさ、鈴が本当に嫌がってたら燕と鷲が必死に止めるんじゃねえの?」
この中で一番冷静なのはリベルテだった。彼の一言で全員「あ」と気付いて冷静に考えるようになった。やっと落ち着いた夕達を見て、鈴は嫌そうに説明した。白い鳥と燕が大人しかった訳。無理矢理キスをされたのは事実だが本気で嫌がらなかった理由。まだ憶測の段階ではあるが、鈴の話を聞いたユリウス達は納得していた。
「やはり、そうだったんですね」
鈴に懐く鳥達を見て、クラウスは確信したように呟いた。彼は早い段階で鈴の好きな人物が何者なのか気付いていたようだ。しかし、そうだと断言できる証拠が無かったので今まで見守ってきたが、鈴の話が本当ならシェルスが神子ではない可能性が非常に高くなる。鈴もクラウスと同じ考えで、シェルスこそが偽物の神子だと考えている。少しずつではあるが、シェルスを追い詰める証拠が集まりつつある事実がクラウスは嬉しくてたまらなかった。
「ありがとう、ございます」
手足を縛っている縄をほどき、乱雑に脱がされた衣服を整えてくれる謎の人物に鈴はお礼を言った。男は何も言わず鈴の服を着せ直すと突然彼を抱き上げて歩き出した。当然鈴は驚いたが男の足は止まらない。鈴が暴れようとすれば抱いている腕の力た強くなり身動きが取れなくなる。抵抗しても無意味だと鈴が諦めるのにそう時間はかからなかった。
不本意ながら男に抱かれて連れて来られたのは、鈴の自室だった。部屋に入った瞬間留守番をしていた白い鳥と燕が翼をばたつかせて鈴の元へ飛んで来る。千切れ破れた鈴の服を見て鳥達はピィピィギャイギャイ騒いだが、不思議な事に男が口元に指を押し当てると嘘のように大人しくなった。
大人しくなった二羽の鳥を見て、男はベッドまで歩いて鈴をそっと下ろす。黒いフードを被っているので、相変わらず男の顔は分からない。白い鳥も燕も敵意を向けていない事から、この男は大丈夫なのだろうと思うが怪しい事に変わりはない。
「あの……」
どうして助けてくれたのか、この男は何者なのかなど、鈴が男に聞こうとしたが出来なかった。気付いたら男は鈴の目の前に居た。あまりにも近過ぎて鈴が距離を取ろうとするが、その前に男が後頭部に手を回して更に距離を縮めてくる。
「ん!」
抵抗する暇も無く、鈴は見知らぬ怪しい男に口付けられた。触れるだけのキスではなく、噛み付くようなキスをされ鈴は男を殴り飛ばそうとする。しかしその手すらも受け止められ口付けはどんどん深くなる。男が満足するまで解放されず、やっと唇が離れた頃には息も絶え絶えだった。
「お前も、彼奴らと同じなのかよ」
荒い息を落ち着かせながら、鈴は男を睨み付けた。口付けられた口元を荒々しく拭いて男の返事を待つ。しかし、男は何も答えない。鈴を守りたいのか、襲いたいのか、全く行動が読めない男に鈴は苛立ちを覚えた。こんな事、日常茶飯事だった筈なのに。この男のように無理矢理キスをされた事はないが、その一歩手前までの事は前の世界で嫌と言う程されてきた。鈴が可愛らしい見た目をしているからだ。鈴に好意を寄せる者は多かった。中には無理矢理鈴を手に入れようとして襲おうとした者も居る。しかし、そう言った連中は外見にしか興味がなく、鈴の内面を知った途端幻滅して離れて行く。
もう既に慣れてしまった事なのに、この男も同じなのかと思うと悔しくて仕方なかった。どうせ外見にしか興味がない。本性を知ったら被害者面して鈴が悪いように言って離れて行く。それが分かっていたから鈴は周囲が求める人物像を作り上げて演じ続けた。面倒事に巻き込まれたくなかったからだ。恋なんて下らない。一人に夢中になって全てを捧げたいなんて馬鹿げている。好きな人ができるまで、鈴はそう考えていた。他人なんて絶対に信じないと鈴は決めていた。そんな鈴を変えたのは……
「…………」
泣いていると思ったのか、先程の事を謝りたいのか、男は落ち込む鈴の頭を優しく撫でた。そんな事をして許される訳ねえだろと思うのに、大きな手が温かくて撫でられると不思議と安心して、男を責める事が出来なかった。
鈴が落ち着いた後、男は無言で部屋から去って行った。一体何がしたかったのか分からず、鈴はもやもやした気持ちが残ってしまった。男が去った後、夕とシンジュが部屋に押しかけて来て大変だった。一体誰から聞いたのか二人は鈴が襲われた事を知っていた。大した事じゃないと何時ものように鈴が言ったら夕がキレてしまった。
夕と同じように、後からやって来たユリウスとクラウスにも怒られて鈴は素直に謝った。リベルテだけは「そんなに怒らなくても」と鈴を庇おうとしたが激怒した夕達には敵わなかった。夕が鈴を心配するのは分かるが、まさかユリウス達まで鈴の事を心配しているとは思っていなかったのだ。ユリウスにとって大切なのは夕で、リベルテにとって大切なのはシンジュで、クラウスにとって大切なのは神子であるユリウスとシンジュで、鈴は都合の良い人物程度の認識だろうと勝手に結論付けていた。
「鈴が強い事は知ってるけどな、俺の知らない所で危ない事はしてほしくない」
「……………」
「ユウ様の言う通りです。それは私達の仕事です。スズ様が一人で抱え込む必要などありません」
「スズさん、大丈夫だったんですか? 全然知らない人にキスをされたってシズクが言ってるんですけど」
ピシャリ。シンジュの発言により、周囲の気温が一気に下がった気がした。と言うかシンジュ、お前何時からシャチと話せるようになったんだ? と鈴が現実逃避をしていると案の定夕が暴走した。鈴を襲った犯人は一体何処の誰だと大激怒。クラウスも鈴に優しい声で「怖かったですね。このような事が二度と起こらないように私達で捕まえますので犯人の特徴を教えてください」と聞いてきた。優しく笑っているが殺気が凄まじい。ユリウスも少し殺意が見え隠れしていて怖い。
「あのさ、鈴が本当に嫌がってたら燕と鷲が必死に止めるんじゃねえの?」
この中で一番冷静なのはリベルテだった。彼の一言で全員「あ」と気付いて冷静に考えるようになった。やっと落ち着いた夕達を見て、鈴は嫌そうに説明した。白い鳥と燕が大人しかった訳。無理矢理キスをされたのは事実だが本気で嫌がらなかった理由。まだ憶測の段階ではあるが、鈴の話を聞いたユリウス達は納得していた。
「やはり、そうだったんですね」
鈴に懐く鳥達を見て、クラウスは確信したように呟いた。彼は早い段階で鈴の好きな人物が何者なのか気付いていたようだ。しかし、そうだと断言できる証拠が無かったので今まで見守ってきたが、鈴の話が本当ならシェルスが神子ではない可能性が非常に高くなる。鈴もクラウスと同じ考えで、シェルスこそが偽物の神子だと考えている。少しずつではあるが、シェルスを追い詰める証拠が集まりつつある事実がクラウスは嬉しくてたまらなかった。
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