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第5章
息が詰まる
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全て解決にはならず不安要素が残る中、更に問題が発生した。いや、今は問題と言う程大きくはないが、明らかに夕と鈴の顔が引きつっている。
「皆さん、僕を仲間外れにしていた訳じゃないんですね。良かった。それじゃあ、次からはお茶会とか、お料理とか誘ってくれるんですよね?」
聞いてはいるが、妙な圧力があり完全に命令のように聞こえてしまうのは気のせいだろうか。
気分転換にお茶会でもしようと三人で手軽に食べられるお菓子とお茶を用意して、後は食べるだけとなった時、突然藍色の髪をした美少女が泣き出したのだ。夜空の神子であり、ユリウスの婚約者でもあるシェルスが泣き出した事によって、周囲の人達は何事かと寄ってきた。
「やっぱり、みんな僕の事が嫌いなんですね。昨日も、僕だけ仲間外れにして三人だけでお料理をしていたと聞きました。僕、皆さんと仲良くなりたいのに、お茶会にも誘ってくれないなんて……」
被害妄想が酷いな、この子。それが夕と鈴の率直な感想だった。誘うも何も、料理をする話はずっと前から約束していた事でシェルスは居なかった。それに、夜空の神子でもあるシェルスが料理をするのかと言う疑問もある。
今回のお茶会もそうだ。別にシェルスを仲間外れにしたくてした訳じゃない。何時も夕と鈴とシンジュの三人でお茶会をしていたから,それが当たり前になっていたのだ。ユリウス達から「シェルスもお茶会に誘ってあげてほしい」と言われた事もないので、ある意味完全に忘れていたのだ。
シェルスと仲良くなりたいと思っておらず、むしろ避けていたのでシェルスからしたら確かに仲間はずれにしているように見えるかもしれない。しかし、だからと言ってシェルスが嫌いだから悪意を持って仲間外れにしたは流石に飛躍しすぎだろう。
しかし、悲しい事に周囲の人々は夕達がシェルスをいじめているように見えたらしく、彼らの視線は刺々しい。無自覚でやっているのか、自覚してて敢えてそう演じているのか。どちらにしても面倒くさいタイプだな、と夕と鈴はゲッソリした。
当然、楽しくなる筈のお茶会はシェルスの介入によって非常に疲れるだけの時間になってしまった。
「今日は楽しかったです。それでは、また」
自分がどれほどユリウスに愛されているか、自分がユリウスにとってとても必要な存在であるとか、偽物の神子に言い寄られてユリウス様が可哀想とか、明らかに夕達を見下した話を聞いて三人は気分が悪くなった。
シェルスがユリウスの婚約者だと言う話は有名で、シェルスを心から慕っている者もこの城には数多く存在する。その為、シェルスが悲しそうに「仲間外れにされている」とか「僕はユリウス様に相応しくないと言われた」とか言えば、彼を慕う者達はシェルスに意地悪をする者に対して敵意を向けた。
海の神子様が僕を認めてくれない。海の神子様はカイリ様と結ばれるべきなのに、リベルテが邪魔をして人魚族との関係を悪化させようとしている。海の神子様と一緒に居る二人は自分が神子だと偽ってずっとユリウス様の傍から離れてくれない。偽物の神子なのに、本物の神子であるシェルスを妬んで意地悪
ばかりする。
悲劇のヒロインにでもなったつもりなのか、本気でそう思っているのか、シェルスは「意地悪をされている」と言う雰囲気を作り出して夕達を悪者に仕立て上げようとしていた。
シェルスは意地悪をした人の名前は言わなかったが、夕達を見て怯える仕草をしたり、涙を流したりするだけで、周囲の人達は「夕達がシェルスをいじめている」と思い込んだ。
そしてユリウスの婚約者だからと言って、何時も何時もベタベタベタベタユリウスに触れ、仕事の邪魔をして態と躓いてユリウスに抱きついて、酷い時にはキスまでしようとした。
「あの意地汚い雌豚、不慮の事故に遭ってくれないでしょうか」
「クラウス。口が悪くなってるぞ? 気持ちは分かるけどさ」
「あぁ、可哀想なユリウス様。好きでもない、むしろ大大大大っ嫌いな雌豚の相手をずっとしなければならないなんて……」
「お前があの美少女を嫌っている事はよく分かったから落ち着け」
「はあ? あれの何処が美少女なんです? 男であるにも関わらず何時も何時もフリフリしたドレスを着てクネクネして気持ち悪いったらありゃしない!」
「あー、彼奴男だったんだ。へえー」
普通なら「え? 嘘!? あの子って男の子なの!?」と驚く場面なのだろうが、リベルテは気にした様子もなく興味がなさそうな返事をした。実際、シェルスには一切興味がないし、むしろこれ以上変な事をしてユリウスやクラウスを怒らせないでほしいがリベルテの感想だった。
後は、シンジュ達の事を悪く言ったり、この城から追い出そうとしたりするのも止めてほしいと思っている。更に悪化するなら、シェルスをこの城から追い出すつもりでいる。
冷静に見えて、実はリベルテもシェルスに対して怒っていた。
楽しくなる筈だった時間はカイリとシェルスの介入によって息の詰まる時間に変わってしまった。何時もならあっと言う間に時間が過ぎているのに、今日に限って夜になるのがとても遅く感じた。一番の楽しみだったリベルテとの時間も、シンジュは素直に喜べなかった。シンジュが作ったアップルパイを、リベルテは嬉しそうに食べて「美味しい」と言ってくれた。本当は嬉しい筈なのにリベルテと一緒に過ごせて幸せな筈なのに、妙な焦燥感と不安がシンジュの心に纏わり付いていた。
『あのまま死ねば良かったのに』
カイリの言葉が頭から離れない。カイリがリベルテを憎む理由が分からない。しかし、あの時彼が言った言葉はリベルテに向けられたものだった。何故、カイリはリベルテに敵意を向けているのか。二人は何処かで会った事があるのか。若しかして、カイリはリベルテを殺そうとしているのではないか。考えれば考える程悪い事しか思い浮かばず、シンジュは勇気を出してリベルテに聞いた。
「カイリさまに、何かされたんですか?」
「別に、何もない」
「本当ですか? 本当に、何もされていませんか?」
「シンジュ?」
「カイリさまは、ユリウスさまを憎んでいた筈です。それなのに、今はユリウスさまだけじゃなくて、リベルさまの事も憎んでいるような気がして……」
「……気のせいだろう」
「でも、だったら、あの時カイリさまが言った言葉は……」
「シンジュ」
「あ」
ぎゅう、と抱きしめられる。リベルテの腕の中は温かくて、背中や頭を撫でる手は驚く程優しい。それはただの気のせいだ。シンジュは心配性だなぁ。でも、俺の事を心配してくれて嬉しかった。ありがとう。優しい声で囁くようにシンジュに告げて、リベルテは笑った。自分の知らない所でリベルテがカイリに殺されるかもしれないと言う不安は消えてくれず、けれどこれ以上リベルテに聞く勇気もなく、シンジュは「はい」と答える事しかできなかった。
「皆さん、僕を仲間外れにしていた訳じゃないんですね。良かった。それじゃあ、次からはお茶会とか、お料理とか誘ってくれるんですよね?」
聞いてはいるが、妙な圧力があり完全に命令のように聞こえてしまうのは気のせいだろうか。
気分転換にお茶会でもしようと三人で手軽に食べられるお菓子とお茶を用意して、後は食べるだけとなった時、突然藍色の髪をした美少女が泣き出したのだ。夜空の神子であり、ユリウスの婚約者でもあるシェルスが泣き出した事によって、周囲の人達は何事かと寄ってきた。
「やっぱり、みんな僕の事が嫌いなんですね。昨日も、僕だけ仲間外れにして三人だけでお料理をしていたと聞きました。僕、皆さんと仲良くなりたいのに、お茶会にも誘ってくれないなんて……」
被害妄想が酷いな、この子。それが夕と鈴の率直な感想だった。誘うも何も、料理をする話はずっと前から約束していた事でシェルスは居なかった。それに、夜空の神子でもあるシェルスが料理をするのかと言う疑問もある。
今回のお茶会もそうだ。別にシェルスを仲間外れにしたくてした訳じゃない。何時も夕と鈴とシンジュの三人でお茶会をしていたから,それが当たり前になっていたのだ。ユリウス達から「シェルスもお茶会に誘ってあげてほしい」と言われた事もないので、ある意味完全に忘れていたのだ。
シェルスと仲良くなりたいと思っておらず、むしろ避けていたのでシェルスからしたら確かに仲間はずれにしているように見えるかもしれない。しかし、だからと言ってシェルスが嫌いだから悪意を持って仲間外れにしたは流石に飛躍しすぎだろう。
しかし、悲しい事に周囲の人々は夕達がシェルスをいじめているように見えたらしく、彼らの視線は刺々しい。無自覚でやっているのか、自覚してて敢えてそう演じているのか。どちらにしても面倒くさいタイプだな、と夕と鈴はゲッソリした。
当然、楽しくなる筈のお茶会はシェルスの介入によって非常に疲れるだけの時間になってしまった。
「今日は楽しかったです。それでは、また」
自分がどれほどユリウスに愛されているか、自分がユリウスにとってとても必要な存在であるとか、偽物の神子に言い寄られてユリウス様が可哀想とか、明らかに夕達を見下した話を聞いて三人は気分が悪くなった。
シェルスがユリウスの婚約者だと言う話は有名で、シェルスを心から慕っている者もこの城には数多く存在する。その為、シェルスが悲しそうに「仲間外れにされている」とか「僕はユリウス様に相応しくないと言われた」とか言えば、彼を慕う者達はシェルスに意地悪をする者に対して敵意を向けた。
海の神子様が僕を認めてくれない。海の神子様はカイリ様と結ばれるべきなのに、リベルテが邪魔をして人魚族との関係を悪化させようとしている。海の神子様と一緒に居る二人は自分が神子だと偽ってずっとユリウス様の傍から離れてくれない。偽物の神子なのに、本物の神子であるシェルスを妬んで意地悪
ばかりする。
悲劇のヒロインにでもなったつもりなのか、本気でそう思っているのか、シェルスは「意地悪をされている」と言う雰囲気を作り出して夕達を悪者に仕立て上げようとしていた。
シェルスは意地悪をした人の名前は言わなかったが、夕達を見て怯える仕草をしたり、涙を流したりするだけで、周囲の人達は「夕達がシェルスをいじめている」と思い込んだ。
そしてユリウスの婚約者だからと言って、何時も何時もベタベタベタベタユリウスに触れ、仕事の邪魔をして態と躓いてユリウスに抱きついて、酷い時にはキスまでしようとした。
「あの意地汚い雌豚、不慮の事故に遭ってくれないでしょうか」
「クラウス。口が悪くなってるぞ? 気持ちは分かるけどさ」
「あぁ、可哀想なユリウス様。好きでもない、むしろ大大大大っ嫌いな雌豚の相手をずっとしなければならないなんて……」
「お前があの美少女を嫌っている事はよく分かったから落ち着け」
「はあ? あれの何処が美少女なんです? 男であるにも関わらず何時も何時もフリフリしたドレスを着てクネクネして気持ち悪いったらありゃしない!」
「あー、彼奴男だったんだ。へえー」
普通なら「え? 嘘!? あの子って男の子なの!?」と驚く場面なのだろうが、リベルテは気にした様子もなく興味がなさそうな返事をした。実際、シェルスには一切興味がないし、むしろこれ以上変な事をしてユリウスやクラウスを怒らせないでほしいがリベルテの感想だった。
後は、シンジュ達の事を悪く言ったり、この城から追い出そうとしたりするのも止めてほしいと思っている。更に悪化するなら、シェルスをこの城から追い出すつもりでいる。
冷静に見えて、実はリベルテもシェルスに対して怒っていた。
楽しくなる筈だった時間はカイリとシェルスの介入によって息の詰まる時間に変わってしまった。何時もならあっと言う間に時間が過ぎているのに、今日に限って夜になるのがとても遅く感じた。一番の楽しみだったリベルテとの時間も、シンジュは素直に喜べなかった。シンジュが作ったアップルパイを、リベルテは嬉しそうに食べて「美味しい」と言ってくれた。本当は嬉しい筈なのにリベルテと一緒に過ごせて幸せな筈なのに、妙な焦燥感と不安がシンジュの心に纏わり付いていた。
『あのまま死ねば良かったのに』
カイリの言葉が頭から離れない。カイリがリベルテを憎む理由が分からない。しかし、あの時彼が言った言葉はリベルテに向けられたものだった。何故、カイリはリベルテに敵意を向けているのか。二人は何処かで会った事があるのか。若しかして、カイリはリベルテを殺そうとしているのではないか。考えれば考える程悪い事しか思い浮かばず、シンジュは勇気を出してリベルテに聞いた。
「カイリさまに、何かされたんですか?」
「別に、何もない」
「本当ですか? 本当に、何もされていませんか?」
「シンジュ?」
「カイリさまは、ユリウスさまを憎んでいた筈です。それなのに、今はユリウスさまだけじゃなくて、リベルさまの事も憎んでいるような気がして……」
「……気のせいだろう」
「でも、だったら、あの時カイリさまが言った言葉は……」
「シンジュ」
「あ」
ぎゅう、と抱きしめられる。リベルテの腕の中は温かくて、背中や頭を撫でる手は驚く程優しい。それはただの気のせいだ。シンジュは心配性だなぁ。でも、俺の事を心配してくれて嬉しかった。ありがとう。優しい声で囁くようにシンジュに告げて、リベルテは笑った。自分の知らない所でリベルテがカイリに殺されるかもしれないと言う不安は消えてくれず、けれどこれ以上リベルテに聞く勇気もなく、シンジュは「はい」と答える事しかできなかった。
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