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第4章
再会
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アップルパイの試食も終わり、夕は残りのアップルパイを均等に切り分け、二人分のアップルパイを箱の中に入れた。形が崩れないように箱の中に入れ、蓋をすると、夕はその箱をシンジュに渡した。
「リベルの為に作ったんだから、リベルに食べさせてやらないとな」
満面の笑みを浮かべる夕に、シンジュも笑顔になり、「はい!」と返事をした。夕から箱を受け取ると、シンジュは部屋から出て行った。
「リベルさまに、渡してきます!」
嬉しそうな表情でそう告げるシンジュに、夕と鈴は笑顔のまま「きっと喜ぶぞ」と言ってシンジュを見送った。
「恋人の手作りって聞いて喜ばない相手はいないだろう」
「その相手がシンジュを溺愛しているリベルなら尚更だな」
シンジュが去った後、二人はリベルについて話しながら、途中になっていた片付けを再開した。
トンッ!
「ご、ごめんなさい! ま、前を見てなくて……」
アップルパイが入った箱を両手で持ち、リベルテを探していた時、シンジュは誰かとぶつかってしまった。幸い、肩が軽く当たった程度だった為、箱を落とす事は無かった。慌ててシンジュが頭を下げるが、相手の反応がなく、シンジュは恐る恐る顔を上げ、相手を確認した。
「シンジュ?」
「ぁ、う、嘘」
相手の顔を見て、シンジュは固まった。藍色の髪、藍色の瞳。酷く整った顔立ちをした男。彼を見た瞬間、シンジュは慌てて逃げようとしたが、肩に手を置かれ逃げられなくなってしまった。
「やっぱり、シンジュじゃないか! 仲間達からは死んだって聞かされていたけど、生きていたんだな。良かった」
「…………」
シンジュは何も答えられなかった。恐怖で体が震え、男をちゃんと見る事すら出来ない。怯えるシンジュに対し、男は困ったような顔をして「俺が誰か、分かるか?」と聞いた。
「……カ、イリ、さま……」
震える声で名前を告げると、カイリと呼ばれた男はニコリと優しい笑みを浮かべシンジュを抱きしめた。
「あぁ、良かった。覚えててくれたんだな。シンジュ、本当に済まなかった。あの時、俺が仲間を止めていれば、お前がこんなに苦しむ事もなかったのに。ヒスイが死んで一番悲しかったのはお前なのに、そんなお前に対して、俺は……」
「はなしてください!」
そう言ってシンジュを更に強く抱きしめようとした瞬間、シンジュはカイリを思いっきり突き飛ばした。
「シンジュ?」
何を言っているのか分からなかった。カイリの言葉が理解出来なかった。何故なら、カイリが本当に好きなのはシンジュの姉であるヒスイだからだ。理由はそれだけではない。彼は人魚族の長の息子であり、海の神子と契りを交わす決まりとなっていた。当時、海の神子はヒスイだと思われており、カイリもヒスイと契りを交わすつもりでいた。
人魚族の掟だから、守らなければならない決まりだから。カイリは何時もヒスイの隣に居て、何時もヒスイを口説いていた。けれど、ヒスイはカイリが大嫌いだった。自分の大事な弟を取り巻きと一緒になって苛めるからだ。苛めはどんどん悪質で陰湿なものに変わり、迫害に近い仕打ちをシンジュは受け続けていた。その主犯は何時もカイリで、ヒスイは何時もカイリと口喧嘩をしていた。
そして、ヒスイが「嫌い」と言うと、カイリは機嫌を悪くし、更にシンジュを苛めるのだ。
「お前のせいでヒスに嫌われたじゃねぇか」と言って。シンジュは何時も怯えていた。何もしていないのに、突然怒鳴られたり、知らない場所に置き去りにされたりして、シンジュは何時しかカイリを避けるようになった。カイリの姿が視界に入ると、咄嗟に逃げるようになっていた。
そして、ヒスイが死んだと知った時、彼は「シンジュのせいだ」と仲間に告げた。
「シンジュがヒスイを妬んで、地上へ追いやったんだ」と。
「だから、彼奴に償わせよう」と。
嫌がるシンジュを無理矢理連れ出し、深海の魔女の元へ引き摺って、強制的に人間になる薬を飲ませ、地上に放置した。
「王子を殺して、ヒスイを蘇らせろ」と、残酷な命令をシンジュに告げて。
だからこそ、信じられなかった。目の前の男は、本当に以前自分を虐げていた相手なのかと疑問に思う程、彼は優しかった。けれど、その優しさは、本当の優しさではない気がした。
「ごめん、なさい」
シンジュは一目散に駆け出した。アップルパイが入った箱を両手で大事に抱え、カイリから逃げるように、その場から去って行った。走り去るシンジュの後ろ姿を、カイリはずっと見つめていた。姿が見えなくなるまでずっと見つめ、表情を消した。
「逃がさねぇよ。掟は絶対だ」
先程と同一人物なのかと疑いたくなる程、カイリは低い声で呟いた。
「リベルの為に作ったんだから、リベルに食べさせてやらないとな」
満面の笑みを浮かべる夕に、シンジュも笑顔になり、「はい!」と返事をした。夕から箱を受け取ると、シンジュは部屋から出て行った。
「リベルさまに、渡してきます!」
嬉しそうな表情でそう告げるシンジュに、夕と鈴は笑顔のまま「きっと喜ぶぞ」と言ってシンジュを見送った。
「恋人の手作りって聞いて喜ばない相手はいないだろう」
「その相手がシンジュを溺愛しているリベルなら尚更だな」
シンジュが去った後、二人はリベルについて話しながら、途中になっていた片付けを再開した。
トンッ!
「ご、ごめんなさい! ま、前を見てなくて……」
アップルパイが入った箱を両手で持ち、リベルテを探していた時、シンジュは誰かとぶつかってしまった。幸い、肩が軽く当たった程度だった為、箱を落とす事は無かった。慌ててシンジュが頭を下げるが、相手の反応がなく、シンジュは恐る恐る顔を上げ、相手を確認した。
「シンジュ?」
「ぁ、う、嘘」
相手の顔を見て、シンジュは固まった。藍色の髪、藍色の瞳。酷く整った顔立ちをした男。彼を見た瞬間、シンジュは慌てて逃げようとしたが、肩に手を置かれ逃げられなくなってしまった。
「やっぱり、シンジュじゃないか! 仲間達からは死んだって聞かされていたけど、生きていたんだな。良かった」
「…………」
シンジュは何も答えられなかった。恐怖で体が震え、男をちゃんと見る事すら出来ない。怯えるシンジュに対し、男は困ったような顔をして「俺が誰か、分かるか?」と聞いた。
「……カ、イリ、さま……」
震える声で名前を告げると、カイリと呼ばれた男はニコリと優しい笑みを浮かべシンジュを抱きしめた。
「あぁ、良かった。覚えててくれたんだな。シンジュ、本当に済まなかった。あの時、俺が仲間を止めていれば、お前がこんなに苦しむ事もなかったのに。ヒスイが死んで一番悲しかったのはお前なのに、そんなお前に対して、俺は……」
「はなしてください!」
そう言ってシンジュを更に強く抱きしめようとした瞬間、シンジュはカイリを思いっきり突き飛ばした。
「シンジュ?」
何を言っているのか分からなかった。カイリの言葉が理解出来なかった。何故なら、カイリが本当に好きなのはシンジュの姉であるヒスイだからだ。理由はそれだけではない。彼は人魚族の長の息子であり、海の神子と契りを交わす決まりとなっていた。当時、海の神子はヒスイだと思われており、カイリもヒスイと契りを交わすつもりでいた。
人魚族の掟だから、守らなければならない決まりだから。カイリは何時もヒスイの隣に居て、何時もヒスイを口説いていた。けれど、ヒスイはカイリが大嫌いだった。自分の大事な弟を取り巻きと一緒になって苛めるからだ。苛めはどんどん悪質で陰湿なものに変わり、迫害に近い仕打ちをシンジュは受け続けていた。その主犯は何時もカイリで、ヒスイは何時もカイリと口喧嘩をしていた。
そして、ヒスイが「嫌い」と言うと、カイリは機嫌を悪くし、更にシンジュを苛めるのだ。
「お前のせいでヒスに嫌われたじゃねぇか」と言って。シンジュは何時も怯えていた。何もしていないのに、突然怒鳴られたり、知らない場所に置き去りにされたりして、シンジュは何時しかカイリを避けるようになった。カイリの姿が視界に入ると、咄嗟に逃げるようになっていた。
そして、ヒスイが死んだと知った時、彼は「シンジュのせいだ」と仲間に告げた。
「シンジュがヒスイを妬んで、地上へ追いやったんだ」と。
「だから、彼奴に償わせよう」と。
嫌がるシンジュを無理矢理連れ出し、深海の魔女の元へ引き摺って、強制的に人間になる薬を飲ませ、地上に放置した。
「王子を殺して、ヒスイを蘇らせろ」と、残酷な命令をシンジュに告げて。
だからこそ、信じられなかった。目の前の男は、本当に以前自分を虐げていた相手なのかと疑問に思う程、彼は優しかった。けれど、その優しさは、本当の優しさではない気がした。
「ごめん、なさい」
シンジュは一目散に駆け出した。アップルパイが入った箱を両手で大事に抱え、カイリから逃げるように、その場から去って行った。走り去るシンジュの後ろ姿を、カイリはずっと見つめていた。姿が見えなくなるまでずっと見つめ、表情を消した。
「逃がさねぇよ。掟は絶対だ」
先程と同一人物なのかと疑いたくなる程、カイリは低い声で呟いた。
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