神子のおまけの脇役平凡、異世界でもアップルパイを焼く

トキ

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第4章

手料理2

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 一方、夕達はあまり人が寄り付かない部屋の中でアップルパイを作っていた。昨日、シンジュが料理を作れるようになりたいと言ったのが切っ掛けとなり、3人はアップルパイを作る準備をしていた。

 必要な調理道具と食材を用意し、シンジュに包丁の使い方を教えながら、夕はパイ生地を作る。包丁を使うのが初めてだと言うシンジュの包丁の使い方は少し危なっかしく、怪我をしそうになると夕が声をかけ、使い方を教えていく。

 夕に教えてもらいながら切り分けた林檎は大きさも形もバラバラで、綺麗とは言い難い。一生懸命切り分けたつもりでも、不恰好な林檎を見て、シンジュは酷く落ち込んだ。しかし、夕はシンジュに「大丈夫だ。煮詰めたら形は崩れるから、気にしなくていい」と言って、林檎を煮詰めるようにシンジュに頼んだ。シンジュは落ち込みながらも、林檎を鍋に入れ、必要な調味料を夕の指示通り順番に入れ、火にかける。

 林檎を煮詰めていると、シャチがシンジュの周囲を泳ぐように移動し、時折シンジュの頬や頭を小突く。鍋の中を確認しながら、シンジュはシャチに「今はダメ」、「後で遊ぼうね」と声を掛けてた。するとシャチはシュンとするが、シンジュが「お願い」と言うと、大人しくなった。

 夕がパイ生地を作り終わると、鈴がパイ生地の形を整えたり、生地を切り分けていると、バサリと鳥の羽ばたく音が聞こえ、三人は音のする方を見た。

 其処には、白い鷲がいた。白い鷲は籠の中に首を突っ込み、残った林檎を啄ばんでいた。その姿を確認した瞬間、鈴は手にしていたフォークを白い鷲目掛けて投げた。

「ギャッ!」

 フォークが飛んで来た事に驚き、白い鷲は籠から一歩遠のき、鈴を睨みつけた。

「悪い。俺はこの馬鹿鳥を監視する。其処にある林檎を狙ってるみてぇだからな」

 そう言って鈴は白い鷲の前に立ち、一人と一羽の攻防が始まった。少し離れた場所で繰り広げられる激しい攻防を眺めつつ、夕とシンジュはアップルパイを作る為、手を動かした。

 数十分ほど林檎を煮詰めると、ふわりと甘酸っぱい香りが漂う。煮詰まった林檎をパイ生地の上に乗せ、その上から細長い長方形のパイ生地を編み目のように乗せていく。形を整えた後、オーブンに入れ、夕とシンジュはアップルパイが出来上がるのを待ちながら、片付けを始めた。




 片付けも終わり、オーブンの中を確認しつつ、夕はシンジュに声をかけた。

「出来上がるのが楽しみだな」
「はい。う、上手く、出来てたらいいけど……」
「シンジュは心配性だな」

 クスリと笑い、夕はシンジュの頭を撫でる。ポンポンと優しく手を置く夕に、シンジュは「ユウさんには敵いません」と呟きながら俯いた。シンジュの言葉に夕は驚き、撫でていた手がピタリと止まる。

「ユウさんは、とても優しくて、料理も上手で、強くて、明るくて……リベルさまが言ってました。ユウさんとスズさんには感謝してもしきれないって。だから、その……」
「俺や鈴が羨ましいのか?」
「それは……」

 シンジュは言葉を失った。考えないようにしていた思いを指摘され、シンジュは視線を彷徨わせる。夕の言っている事は正しい。シンジュは羨ましかった。リベルテに必要とされている二人が。二人の事を話す時のリベルテはとても嬉しそうで、シンジュは不安だった。

 リベルテが夕を選ぶのではないか、鈴を選ぶのではないか。不安は日を追う毎に増していき、何時しか何でも出来る夕と鈴が羨ましいと思うようになった。

 二人と楽しそうに話している時、作った料理の味見を夕が頼んだ時、リベルテは照れくさそうに、けれど幸せそうな表情を見せるのだ。その様子を見て、シンジュは更に不安になった。

 けれど、夕と鈴なら仕方ないとシンジュは思っていた。優しく接してくれる二人。リベルテが居ない時、シンジュの傍には何時も夕と鈴が居た。

「友達だから」と「一人じゃないから」と、優しい言葉をかけられ、シンジュは嬉しかった。海の中で生きていた時は、友達と言える者は居なかった。優しくて頼りになる姉は居たが、姉以外の者達はシンジュの事を嫌っていた。

 その為、初めて友達だと言ってくれた夕と鈴は、シンジュに取ってとても大切な存在だった。リベルテに抱いた恋心とは異なるが、二人の傍に居ると毎日が楽しく、心が温かくなり、満たされるような感じがした。

 そんな二人に対して羨ましいと思ってしまった事を、シンジュは認めたくなかった。

 夕と鈴は大切な友達なのに、リベルテが二人と楽しそうに話している姿を見るだけで、シンジュはモヤモヤとした感情を抱くようになった。考えないように努力したり、そんな事を思ってはいけないと自分に言い聞かせたりしたが、羨ましいと思う心を完全に捨て去る事は出来なかった。

「かわいい」
「確かに可愛いな」
「え?」

 シンジュは二人の呟いに目をパチクリさせた。きっと軽蔑される。折角友達になれたのに、とても大切にしてくれているのに、優しい二人に対して、自分はとても醜い感情を抱いてしまった。

 見捨てられるかもしれない。仲良くしてくれないかもしれない。最悪の結末を考え、シンジュは顔を真っ青にしたが、夕と鈴はそんなシンジュを見て「かわいい」と言った。

 二人が何を考えているのか分からず、シンジュは更に不安になった。
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