神子のおまけの脇役平凡、異世界でもアップルパイを焼く

トキ

文字の大きさ
上 下
40 / 88
第3章

異質な存在

しおりを挟む
 告白とも言える言葉を告げられ、夕は何も考える事が出来ず酷く戸惑った。皆が居る場所で突然抱き締められ、縋るような声で思いを告げられ、夕は回らない頭で必死に考えた。

「あ、あの、その……」

 何かを言わなければと思えば思う程、何も思い付かず、何を言えば良いかも分からず、夕は困り果ててしまった。そんな夕の姿を見て、ユリウスは優しく微笑み、「かわいい」と小さく呟く。

「ひゃう!」

 赤かった顔が更に赤くなり、恥ずかしさで夕は気絶寸前だった。一国の王子であり、月の神子でもあり、容姿端麗で、文武両道。常に無表情で完璧な王子様と噂されているが、ユリウスは夕が一緒に居る時だけは、本当に幸せそうに微笑む。そして、ユリウスが微笑む姿がとても可愛いと、夕は思っていた。

 抱き締めていた腕が離れ、ユリウスは夕を真剣に見つめ、「俺には、貴方が必要だ」と何の躊躇いもなく告げた。

「え、えっと……その……あの……」

 ユリウスの目を直視出来ず、夕は視線を逸らす。誰かから「必要だ」と言われたのは初めてで、夕は酷く戸惑った。返事をしなければと頭では分かっているのに、何をどう告げれば良いのか分からず、夕は黙ったまま俯く。

「続きは部屋に戻ってからにしてくれないか?」
 
 鈴の一言で夕は顔を上げ、周囲を見渡して顔を真っ青にした。呆れ顔の鈴、顔を真っ赤にして視線を彷徨わせているシンジュ、気まずそうに視線を逸らすリベルテ。「告白は自由ですが、場を弁えてください」とユリウスに忠告するクラウス。

 注目の的になっていた事に漸く気付いた夕は、恥ずかしさのあまり大声で叫んでしまった。

「落ち着いたのか?」
「無理。俺、もう無理。いっそ殺して!」
「…………」
「相当落ち込んでるな。どうする?」
「ユウさん、大丈夫でしょうか?」
「放っておけ。この鈍感野郎の自業自得なんだからな」
「…………」

 確かに。二人は思わずにはいられなかった。ユリウスが夕に恋愛感情を抱いている事は一目瞭然。夕と会って間もないシンジュですら、その事に気付いていると言うのに、本人だけが全く気付いていない。鈍い鈍いと思っていたが、此処まで鈍いと「病気か?」と疑いたくなる程だ。

「スズ様、ユウ様のあの鈍感さは治らないのですか?」
「治らない」
「…………」

 きっぱりと言い捨てる様に、鈴は即答した。「あの鈍感のせいで俺がどれだけ苦労していると……」と、苛立った声で呟く鈴に三人は同情した。

 数十分後、夕は落ち着きを取り戻し鈴達に謝罪した。





「神子に関する話はこれで全部なのか?」

 鈴がクラウスに問うと、クラウスは「後一つ、伝えなければならない事があります」と告げた。

「実は、隣国の偵察をしている騎士団長から手紙が届きまして……」
「手紙?」
「はい。『数週間後、夜空の神子がユリウス様に会いに来る』と言う内容でした」

 夜空の神子と言う名前が出た途端、ユリウスは複雑な表情をし、夕達は頭を傾げた。

「神子は、五人居るんですよね?」

 夕が問うとクラウスはコクリと頷き、表情を曇らせて「本来なら、有り得ない事です」と呟いた。

「神子は五人存在するのは確かです。ですが、六人目の神子が存在すると言う話は、今まで聞いた事がありません」
「以前、夜空の神子と名乗る者と会った事はあるが、俺は信じていない」
「私も信じていません」
「信じてないって」
「夜空の神子が、偽物だと思っているんですか?」
「そちらの可能性の方が高いでしょうね。とは言え、何も証明するものはありませんが……」
「あの、どうして断言出来るんですか? 夜空の神子が本当の神子って言う可能性も……」

 夕が聞いた瞬間、クラウスとユリウスは「有り得ない」と即答した。きっぱりと断言する二人に、夕が「どうして」と聞こうとした時、クラウスが説明した。

 夜空の神子は、ユリウスの前で「自分は夜の神子と空の神子の力を授かった夜空の神子だ」と宣言した。この世界に必要不可欠な存在。それが神子であり、神子となる者は生まれつき神子の力が宿っていると言う。

 一人の神子が扱える力は一つのみ。一人の人間が複数の神子の力を扱える筈がないと、仮に複数の力を持っていたとしても、体が神子の力に耐え切れず死に至ると言う。

「ですから、夜空の神子は異質な存在なのです」

 説明を終え、クラウスは周囲を見渡した。

「此処には月の神子であるユリウス様と、海の神子であるシンジュ様が居ます。そして、ユリウス様が神子の力を使えるようになったと言う事は、夜の神子もユリウス様の近くに居る事になります」
「…………」
「最近、うっすらではありますが夜になると月が出るようになりました」
「月?」
「はい。今は十五年に一度しか出ませんが、五人の神子が存在していた時は、毎晩出ていたと書物に記されています。満ちては欠け、暗闇を淡く照らしていたと」

 月が見えるようになったのは、この世界に再び五人の神子が現れた証拠です。

 真剣な表情のまま、クラウスは断言した。そして、夕達に深々と頭を下げる。

「神子はこの世界に必要不可欠な存在。夜空の神子が偽物だと言う事を証明する為にも、残り三人の神子を一緒に捜してください」

 クラウスからそう頼まれ、夕達は顔を見合わせた。暫く黙った後、夕達は優しく微笑み、口を開いた。

「神子については色々気になってたし、困ってる時はお互い様ですよ。クラウスさん」
「タダで居候させて貰っている身だからな。多少の労働は必要だと思ってた所だし、良いんじゃねぇのか?」
「僕も、ユリウスさまとクラウスさまの力になりたいです。恩返しを、させて下さい」
「今まで散々好き勝手しちまったからな。俺も手伝うぜ。守り人としての役目もきっちり果たしてやるよ」

 夕達はクラウスの頼みを快く承諾した。直ぐに協力してくれると思っていなかったクラウスは一瞬だけ呆然とするが、ふわりと微笑み「ありがとうございます」と言った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

異世界で王子様な先輩に溺愛されちゃってます

野良猫のらん
BL
手違いで異世界に召喚されてしまったマコトは、元の世界に戻ることもできず異世界で就職した。 得た職は冒険者ギルドの職員だった。 金髪翠眼でチャラい先輩フェリックスに苦手意識を抱くが、元の世界でマコトを散々に扱ったブラック企業の上司とは違い、彼は優しく接してくれた。 マコトはフェリックスを先輩と呼び慕うようになり、お昼を食べるにも何をするにも一緒に行動するようになった。 夜はオススメの飲食店を紹介してもらって一緒に食べにいき、お祭りにも一緒にいき、秋になったらハイキングを……ってあれ、これデートじゃない!? しかもしかも先輩は、実は王子様で……。 以前投稿した『冒険者ギルドで働いてたら親切な先輩に恋しちゃいました』の長編バージョンです。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】健康な身体に成り代わったので異世界を満喫します。

白(しろ)
BL
神様曰く、これはお節介らしい。 僕の身体は運が悪くとても脆く出来ていた。心臓の部分が。だからそろそろダメかもな、なんて思っていたある日の夢で僕は健康な身体を手に入れていた。 けれどそれは僕の身体じゃなくて、まるで天使のように綺麗な顔をした人の身体だった。 どうせ夢だ、すぐに覚めると思っていたのに夢は覚めない。それどころか感じる全てがリアルで、もしかしてこれは現実なのかもしれないと有り得ない考えに及んだとき、頭に鈴の音が響いた。 「お節介を焼くことにした。なに心配することはない。ただ、成り代わるだけさ。お前が欲しくて堪らなかった身体に」 神様らしき人の差配で、僕は僕じゃない人物として生きることになった。 これは健康な身体を手に入れた僕が、好きなように生きていくお話。 本編は三人称です。 R−18に該当するページには※を付けます。 毎日20時更新 登場人物 ラファエル・ローデン 金髪青眼の美青年。無邪気であどけなくもあるが無鉄砲で好奇心旺盛。 ある日人が変わったように活発になったことで親しい人たちを戸惑わせた。今では受け入れられている。 首筋で脈を取るのがクセ。 アルフレッド 茶髪に赤目の迫力ある男前苦労人。ラファエルの友人であり相棒。 剣の腕が立ち騎士団への入団を強く望まれていたが縛り付けられるのを嫌う性格な為断った。 神様 ガラが悪い大男。  

処理中です...