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第3章

異質な存在

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 告白とも言える言葉を告げられ、夕は何も考える事が出来ず酷く戸惑った。皆が居る場所で突然抱き締められ、縋るような声で思いを告げられ、夕は回らない頭で必死に考えた。

「あ、あの、その……」

 何かを言わなければと思えば思う程、何も思い付かず、何を言えば良いかも分からず、夕は困り果ててしまった。そんな夕の姿を見て、ユリウスは優しく微笑み、「かわいい」と小さく呟く。

「ひゃう!」

 赤かった顔が更に赤くなり、恥ずかしさで夕は気絶寸前だった。一国の王子であり、月の神子でもあり、容姿端麗で、文武両道。常に無表情で完璧な王子様と噂されているが、ユリウスは夕が一緒に居る時だけは、本当に幸せそうに微笑む。そして、ユリウスが微笑む姿がとても可愛いと、夕は思っていた。

 抱き締めていた腕が離れ、ユリウスは夕を真剣に見つめ、「俺には、貴方が必要だ」と何の躊躇いもなく告げた。

「え、えっと……その……あの……」

 ユリウスの目を直視出来ず、夕は視線を逸らす。誰かから「必要だ」と言われたのは初めてで、夕は酷く戸惑った。返事をしなければと頭では分かっているのに、何をどう告げれば良いのか分からず、夕は黙ったまま俯く。

「続きは部屋に戻ってからにしてくれないか?」
 
 鈴の一言で夕は顔を上げ、周囲を見渡して顔を真っ青にした。呆れ顔の鈴、顔を真っ赤にして視線を彷徨わせているシンジュ、気まずそうに視線を逸らすリベルテ。「告白は自由ですが、場を弁えてください」とユリウスに忠告するクラウス。

 注目の的になっていた事に漸く気付いた夕は、恥ずかしさのあまり大声で叫んでしまった。

「落ち着いたのか?」
「無理。俺、もう無理。いっそ殺して!」
「…………」
「相当落ち込んでるな。どうする?」
「ユウさん、大丈夫でしょうか?」
「放っておけ。この鈍感野郎の自業自得なんだからな」
「…………」

 確かに。二人は思わずにはいられなかった。ユリウスが夕に恋愛感情を抱いている事は一目瞭然。夕と会って間もないシンジュですら、その事に気付いていると言うのに、本人だけが全く気付いていない。鈍い鈍いと思っていたが、此処まで鈍いと「病気か?」と疑いたくなる程だ。

「スズ様、ユウ様のあの鈍感さは治らないのですか?」
「治らない」
「…………」

 きっぱりと言い捨てる様に、鈴は即答した。「あの鈍感のせいで俺がどれだけ苦労していると……」と、苛立った声で呟く鈴に三人は同情した。

 数十分後、夕は落ち着きを取り戻し鈴達に謝罪した。





「神子に関する話はこれで全部なのか?」

 鈴がクラウスに問うと、クラウスは「後一つ、伝えなければならない事があります」と告げた。

「実は、隣国の偵察をしている騎士団長から手紙が届きまして……」
「手紙?」
「はい。『数週間後、夜空の神子がユリウス様に会いに来る』と言う内容でした」

 夜空の神子と言う名前が出た途端、ユリウスは複雑な表情をし、夕達は頭を傾げた。

「神子は、五人居るんですよね?」

 夕が問うとクラウスはコクリと頷き、表情を曇らせて「本来なら、有り得ない事です」と呟いた。

「神子は五人存在するのは確かです。ですが、六人目の神子が存在すると言う話は、今まで聞いた事がありません」
「以前、夜空の神子と名乗る者と会った事はあるが、俺は信じていない」
「私も信じていません」
「信じてないって」
「夜空の神子が、偽物だと思っているんですか?」
「そちらの可能性の方が高いでしょうね。とは言え、何も証明するものはありませんが……」
「あの、どうして断言出来るんですか? 夜空の神子が本当の神子って言う可能性も……」

 夕が聞いた瞬間、クラウスとユリウスは「有り得ない」と即答した。きっぱりと断言する二人に、夕が「どうして」と聞こうとした時、クラウスが説明した。

 夜空の神子は、ユリウスの前で「自分は夜の神子と空の神子の力を授かった夜空の神子だ」と宣言した。この世界に必要不可欠な存在。それが神子であり、神子となる者は生まれつき神子の力が宿っていると言う。

 一人の神子が扱える力は一つのみ。一人の人間が複数の神子の力を扱える筈がないと、仮に複数の力を持っていたとしても、体が神子の力に耐え切れず死に至ると言う。

「ですから、夜空の神子は異質な存在なのです」

 説明を終え、クラウスは周囲を見渡した。

「此処には月の神子であるユリウス様と、海の神子であるシンジュ様が居ます。そして、ユリウス様が神子の力を使えるようになったと言う事は、夜の神子もユリウス様の近くに居る事になります」
「…………」
「最近、うっすらではありますが夜になると月が出るようになりました」
「月?」
「はい。今は十五年に一度しか出ませんが、五人の神子が存在していた時は、毎晩出ていたと書物に記されています。満ちては欠け、暗闇を淡く照らしていたと」

 月が見えるようになったのは、この世界に再び五人の神子が現れた証拠です。

 真剣な表情のまま、クラウスは断言した。そして、夕達に深々と頭を下げる。

「神子はこの世界に必要不可欠な存在。夜空の神子が偽物だと言う事を証明する為にも、残り三人の神子を一緒に捜してください」

 クラウスからそう頼まれ、夕達は顔を見合わせた。暫く黙った後、夕達は優しく微笑み、口を開いた。

「神子については色々気になってたし、困ってる時はお互い様ですよ。クラウスさん」
「タダで居候させて貰っている身だからな。多少の労働は必要だと思ってた所だし、良いんじゃねぇのか?」
「僕も、ユリウスさまとクラウスさまの力になりたいです。恩返しを、させて下さい」
「今まで散々好き勝手しちまったからな。俺も手伝うぜ。守り人としての役目もきっちり果たしてやるよ」

 夕達はクラウスの頼みを快く承諾した。直ぐに協力してくれると思っていなかったクラウスは一瞬だけ呆然とするが、ふわりと微笑み「ありがとうございます」と言った。
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