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第3章
神子の証2
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自分が海の神子なら、神子の力を自由自在に使えるようにならなければならない。その為には、やはり修行や鍛錬をするのが一番効果的だとシンジュは考え、クラウスに聞いた。
「あの、クラウスさま」
「はい。何ですか? シンジュ様」
「えっと、その、僕も、修行とか、鍛錬とか、した方が良いですか?」
「修行、ですか」
「は、はい。海の中で生活をしてた時、お姉ちゃんは何時もしてたので」
「…………」
海の中で生活をしていた時、姉は何時も祭壇で祈りを捧げ、神子としての役目を果たせるように修行をしている姿を、シンジュは何度も見ていた。
だから海の神子だと言うのなら、過酷な試錬だろうと、辛く苦しい修行だろうと、最後までやり遂げてみせると、シンジュは覚悟を決めた。海の神子の名に恥じぬよう、決して肩書きだけで終わらぬよう、立派な海の神子となって、役目を果たしてみせると。
しかし……
「シンジュ様が修行をする必要はありませんよ」
「え?」
クラウスの言葉にシンジュは耳を疑った。「修行をする必要はない」と、クラウスは言った。
「で、でも、僕も神子なら、ユリウスさまのように……」
「シンジュ様には神子の証がありますから」
「神子の、証?」
コクリと頷くと、クラウスは話を続けた。
「神子の証には、神子を守る力も備わっています。そして、神子以外の者が神子の証を奪おうとすれば、その者は地獄を味わう事になります。神子の証を扱えるのは、証の持ち主である神子だけですから……」
「それって、俺や鈴がこのシャチに触ろうとしたら、物凄く痛い目を見るって事ですか?」
「いいえ。ユウ様やスズ様が触れても何も問題はないでしょう。お二人はシンジュ様に対して全く悪意を持っていませんから」
「悪意を持った奴が証を奪おうとすると、何か酷い事が起きるのか?」
「その者にとっては、地獄でしょうね。とは言え、例外も存在します」
「例外? 何だよ? 例外って」
「神子の証を扱えるのは持ち主のみと言ったが、太陽の神子と月の神子は証を託す事が出来る」
「ユリウス様が仰る通り、神子や神子の証が危険に晒された時、太陽の神子は空の神子に、月の神子は夜の神子に、それぞれ自分の証を託す事が出来るのです」
それ故に、空の神子と夜の神子は、五人の神子の中で最も重要な存在になるのです。
「…………」
「…………」
クラウスとユリウスから神子について説明され、この世界の人々が神子に固執する理由が分かった気がした。王族貴族達が偽ってでも「神子だ」と言っていたのは、ユリウスの隣に居ても疑われる事がないから。
自らを「神子」だと偽れば、月の神子であるユリウスの隣に居られると、ユリウスの伴侶になれると、そう思い込んだから、彼等は必死に神子になろうとしたのだ。
「ユリウス様には神子の証がなく、夜の神子も未だ現れていません。ですから、神子の証と夜の神子を探す為に、この国を統べる者として立派な王になる為に、強くならなければならなかったのです」
悲しみと後悔の色を含んだ表情をして、クラウスは力なく言った。以前「ユリウス様の肩書きを守る事に必死だった」とクラウスが言っていた事を思い出し、夕はその意味が漸く理解できた。肩書きとは「月の神子」である事を……
ユリウスが月の神子だったから、クラウスは甘えを一切許さず、厳しく育てた。月の神子としての役目を果たせるように、証が無くとも生きていけるように。
もし、神子の証が幼いユリウスの手元にあったなら……
もし、夜の神子が幼いユリウスの傍に居たのなら……
クラウスがユリウスに厳しく接する事もなかったかもしれない。シンジュの姉であるヒスイを救えたかもしれない。シンジュが仲間に脅されて、ユリウスを殺せと命令される事もなく、自ら命を絶つ事もなかったかもしれない。
「ユリウス様を救った人が夜の神子って事は……」
「私もそう考えているのですが……」
クラウスは渋い顔をして、続きの言葉を濁した。夕が夜の神子かもしれないと言っても、きっと彼は否定するに違いない。夕は今でもユリウスを救った人は別の人だと思い込んでおり、何度か本当の事を教えようと試みたが全て失敗に終わっている。
「その人って何処に居るんですか? この城に居るとは聞いてますけど、何処にも居なくて……」
「それは……」
「ユリウス様を救った人が夜の神子なら、俺、ユリウス様と少し距離を置いた方が良いですか?」
「は!?」
鈍い。鈍いにも程がある。夕のあまりの鈍さに鈴は呆れ果て、リベルテは驚いて開いた口が塞がらず、クラウスは額に手を当てて深い溜息を吐く。
そして、夕の言葉に一番衝撃を受けたユリウスは、この世の終わりとでも言うような絶望した表情をしていた。彼等の反応に疑問を抱きつつ、夕は話を続けた。
「冷静に考えてみれば、ユリウス様は一国の王子様で、俺とは雲泥の差と言うか、月とスッポンって言うか……身分の差もありますし、俺がユリウス様の傍に居たら、その人が誤解すると思うので……」
部屋を、鈴が居る部屋に戻してほしいんです。
そう言ったのと、ユリウスが夕を抱き締めたのはほぼ同時だった。当然、夕は驚いてユリウスから離れようとするが、更に強く抱き締められ身動きが取れなくなってしまった。
「耐えられない」
「え?」
「貴方が俺の傍に居ないのは、耐えられない」
「ユ、リウス、様……」
「神子かどうか等、関係ない。俺が傍に居てほしいと思うのは、貴方だけだ!」
真剣な表情で、本気だと分かる声で、ユリウスは自分の思いを夕に告げた。必死なユリウスの姿を見て夕は戸惑い、言葉を発する事が出来ない。ドキリと胸が高鳴り、ユリウスから視線を逸らす事も出来ず、夕は顔を隠す余裕もなくユリウスを呆然と眺め続けた。
「あの、クラウスさま」
「はい。何ですか? シンジュ様」
「えっと、その、僕も、修行とか、鍛錬とか、した方が良いですか?」
「修行、ですか」
「は、はい。海の中で生活をしてた時、お姉ちゃんは何時もしてたので」
「…………」
海の中で生活をしていた時、姉は何時も祭壇で祈りを捧げ、神子としての役目を果たせるように修行をしている姿を、シンジュは何度も見ていた。
だから海の神子だと言うのなら、過酷な試錬だろうと、辛く苦しい修行だろうと、最後までやり遂げてみせると、シンジュは覚悟を決めた。海の神子の名に恥じぬよう、決して肩書きだけで終わらぬよう、立派な海の神子となって、役目を果たしてみせると。
しかし……
「シンジュ様が修行をする必要はありませんよ」
「え?」
クラウスの言葉にシンジュは耳を疑った。「修行をする必要はない」と、クラウスは言った。
「で、でも、僕も神子なら、ユリウスさまのように……」
「シンジュ様には神子の証がありますから」
「神子の、証?」
コクリと頷くと、クラウスは話を続けた。
「神子の証には、神子を守る力も備わっています。そして、神子以外の者が神子の証を奪おうとすれば、その者は地獄を味わう事になります。神子の証を扱えるのは、証の持ち主である神子だけですから……」
「それって、俺や鈴がこのシャチに触ろうとしたら、物凄く痛い目を見るって事ですか?」
「いいえ。ユウ様やスズ様が触れても何も問題はないでしょう。お二人はシンジュ様に対して全く悪意を持っていませんから」
「悪意を持った奴が証を奪おうとすると、何か酷い事が起きるのか?」
「その者にとっては、地獄でしょうね。とは言え、例外も存在します」
「例外? 何だよ? 例外って」
「神子の証を扱えるのは持ち主のみと言ったが、太陽の神子と月の神子は証を託す事が出来る」
「ユリウス様が仰る通り、神子や神子の証が危険に晒された時、太陽の神子は空の神子に、月の神子は夜の神子に、それぞれ自分の証を託す事が出来るのです」
それ故に、空の神子と夜の神子は、五人の神子の中で最も重要な存在になるのです。
「…………」
「…………」
クラウスとユリウスから神子について説明され、この世界の人々が神子に固執する理由が分かった気がした。王族貴族達が偽ってでも「神子だ」と言っていたのは、ユリウスの隣に居ても疑われる事がないから。
自らを「神子」だと偽れば、月の神子であるユリウスの隣に居られると、ユリウスの伴侶になれると、そう思い込んだから、彼等は必死に神子になろうとしたのだ。
「ユリウス様には神子の証がなく、夜の神子も未だ現れていません。ですから、神子の証と夜の神子を探す為に、この国を統べる者として立派な王になる為に、強くならなければならなかったのです」
悲しみと後悔の色を含んだ表情をして、クラウスは力なく言った。以前「ユリウス様の肩書きを守る事に必死だった」とクラウスが言っていた事を思い出し、夕はその意味が漸く理解できた。肩書きとは「月の神子」である事を……
ユリウスが月の神子だったから、クラウスは甘えを一切許さず、厳しく育てた。月の神子としての役目を果たせるように、証が無くとも生きていけるように。
もし、神子の証が幼いユリウスの手元にあったなら……
もし、夜の神子が幼いユリウスの傍に居たのなら……
クラウスがユリウスに厳しく接する事もなかったかもしれない。シンジュの姉であるヒスイを救えたかもしれない。シンジュが仲間に脅されて、ユリウスを殺せと命令される事もなく、自ら命を絶つ事もなかったかもしれない。
「ユリウス様を救った人が夜の神子って事は……」
「私もそう考えているのですが……」
クラウスは渋い顔をして、続きの言葉を濁した。夕が夜の神子かもしれないと言っても、きっと彼は否定するに違いない。夕は今でもユリウスを救った人は別の人だと思い込んでおり、何度か本当の事を教えようと試みたが全て失敗に終わっている。
「その人って何処に居るんですか? この城に居るとは聞いてますけど、何処にも居なくて……」
「それは……」
「ユリウス様を救った人が夜の神子なら、俺、ユリウス様と少し距離を置いた方が良いですか?」
「は!?」
鈍い。鈍いにも程がある。夕のあまりの鈍さに鈴は呆れ果て、リベルテは驚いて開いた口が塞がらず、クラウスは額に手を当てて深い溜息を吐く。
そして、夕の言葉に一番衝撃を受けたユリウスは、この世の終わりとでも言うような絶望した表情をしていた。彼等の反応に疑問を抱きつつ、夕は話を続けた。
「冷静に考えてみれば、ユリウス様は一国の王子様で、俺とは雲泥の差と言うか、月とスッポンって言うか……身分の差もありますし、俺がユリウス様の傍に居たら、その人が誤解すると思うので……」
部屋を、鈴が居る部屋に戻してほしいんです。
そう言ったのと、ユリウスが夕を抱き締めたのはほぼ同時だった。当然、夕は驚いてユリウスから離れようとするが、更に強く抱き締められ身動きが取れなくなってしまった。
「耐えられない」
「え?」
「貴方が俺の傍に居ないのは、耐えられない」
「ユ、リウス、様……」
「神子かどうか等、関係ない。俺が傍に居てほしいと思うのは、貴方だけだ!」
真剣な表情で、本気だと分かる声で、ユリウスは自分の思いを夕に告げた。必死なユリウスの姿を見て夕は戸惑い、言葉を発する事が出来ない。ドキリと胸が高鳴り、ユリウスから視線を逸らす事も出来ず、夕は顔を隠す余裕もなくユリウスを呆然と眺め続けた。
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