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第3章
神子の証
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「なぁ、神子の証って何なんだ?」
「あ、申し訳ありません。話が逸れてしまって、まだ説明していませんでしたね」
鈴に言われ、クラウスは一度咳払いをし、口を開いた。
「神子の証と言うのは、神子に取ってとても大切なものです」
「大切?」
「証が無ければ、神子は力を使う事が出来ない」
「そうなんですか?」
夕が問うとクラウスとユリウスは同時に頷いた。
「本来なら、神子の証が無ければ力は使えない筈だった」
自分の手を見詰めながら、ユリウスは語った。神子の証が無ければ、力は使えないと。リベルテが刺された時、シンジュを蘇らせた時、ユリウスは神子の証を持っていなかった。産まれた時から、神子の証は無かったと。しかし、ユリウスは使えない筈の力を使う事が出来た。
「神子の証が無いのに、力が使えたって」
「ユリウス様も、神子なんですか?」
夕が問うと、ユリウスは一瞬表情を曇らせ暫く黙り込んだ後、ゆっくりと頷いた。
「俺は、月の神子だ」
ユリウスが月の神子。そう聞かされ、夕達は驚いた。しかし、改めて考えると段々と受け入れる事が出来た。月の神子は安らぎと癒しを与えるとクラウスは言っていた。リベルテの怪我を治す事が出来たのも、シンジュを蘇らせる事が出来たのも、ユリウスが月の神子だったから。
「ですが、先程も言った通りユリウス様は証を持っておりません。証が無い状態で力が使える筈はないのですが……それに、神子の証が有ったとしても夜の神子が居なければ……」
「夜の神子?」
「月の神子と太陽の神子は、証があったとしても力を使う事が出来ないのです」
「は?」
「月の神子には夜の神子が、太陽の神子には空の神子が居なければ、証を所持していたとしても力は使えないのです。神子の証も夜の神子も居ない状態でユリウス様が力を使える筈は……」
若しかしたら、夜の神子がユリウス様の近くに……
考えながら、クラウスは夕を凝視した。確定している訳ではない。しかし、幼いユリウスを救ったのは夕だ。夕がユリウスを救わなければ、彼が今のような立派な王子に育つ事はなかった。長い時を経て再会した今も、夕は無意識かもしれないがユリウスを支えている。
ユウ様がユリウス様の傍に居たから、奇跡が起きた?
「証って、どんな形をしているんだ?」
「あ、証の形ですか?」
鈴に聞かれ、クラウスは我に返り、証について説明した。
「神子の証に、形は存在しません」
「は?」
「形が、ない?」
「はい。神子の証は神子の魂に共鳴し、その神子に合った形になります。時には武器に、時には宝石に、時には動物に……なので、神子の証が具体的にどんな形になるのか、私にも分からないのです」
「成る程」
「シンジュ様の場合は、シャチと言う動物の形になったようですね」
「あ、えっと……」
大人しく頭の上に乗っているシャチに視線を向け、シンジュは困った顔をした。自分が海の神子だと言う事も信じられず、突然現れたシャチが神子の証だと言う事も信じられなかった。
海の神子はシンジュの姉だと思われていた。人魚族も、ユリウス達も、彼女こそが本当の海の神子だと信じて疑わなかった。容姿も声も美しく、心優しい人魚。誰からも愛されて、誰からも必要とされる存在だった姉。
「シンジュ様の姉、ヒスイ様と初めて会った時、彼女は自らを『海の神子だ』と宣言しました。勿論、最初は疑いましたが、彼女と共に過ごす内に私達もヒスイ様こそが本当の海の神子だと思うようになりまして……」
「ヒスイ?」
「はい。そですよね? シンジュ様……」
クラウスに聞かれ、シンジュは「はい」と返事をする。「僕も、お姉ちゃんが海の神子だと思ってました」と答えた。
「シンジュのお姉さんが海の神子? でも、シンジュも海の神子ですよね?」
クラウス達はシンジュの姉であるヒスイと言う人が海の神子だと話した。しかし、シンジュも海の神子で間違いないとクラウスは言っていた。海の神子は二人存在するのか、姉が命を落としてしまったから血の繋がった弟のシンジュに神子の力が宿ったのか、夕が考えているとユリウスが口を開いた。
「本当の海の神子は最初からシンジュだった」
「え?」
「最初からって、それじゃあ、ヒスイさんは……」
「偽りの海の神子だったと言う事です」
「え?」
「ヒスイ様は本当の海の神子がシンジュ様だと知っていたのでしょう。彼女が話すのは何時も弟であるシンジュ様の事ばかりでしたから……自分自身を海の神子だと偽ったのも、シンジュ様を人魚族や神子の力を悪用する者達から護る為だったのかもしれません」
「そんな……」
クラウスの話を聞いて、シンジュは酷く落ち込んだ。海の神子だと思っていた姉が実は偽りの海の神子で、本当の海の神子は、何の取り柄も無い役立たずの自分。でも、姉はシンジュが海の神子だと言う事を知っていて、シンジュを護る為に自分の命を落とした。
「僕の、せい? 僕が居たから、お姉ちゃんは……」
そう思わずにはいられなかった。自分のせいで、姉が死んでしまったと。姉が命を落としたのは、自分が一人では何も出来ない役立たずだったからだと。
「お前のせいではない」
「ユリウス、さま……」
「俺だって、彼女を救う事が出来なかった。彼女だけでなく、お前を助ける事も出来なかった」
「ヒスイ様が亡くなってしまったのは非常に悲しい事ですが、彼女の願いは何時だって貴方の幸せでした」
ですから、自分を責めないで下さい。
『人間が怖い? 何言ってるのよ。地上はとっても楽しい所よ?』
『何時までも海の中で過ごしてたら退屈でしょ? それに、とても優しい人間だって沢山居るんだから、思い込みだけで決め付けちゃ駄目よ』
『一度で良いから地上へ行ってみなさい。若しかしたら、人間の誰かに恋をするかもしれないじゃない?』
地上での暮らしは、本当に楽しかった。初めて会ったリベルさまは、とても優しかった。クラウスさまも、ユリウスさまも、体の事を心配してくれて、一緒に居てくれた。お姉ちゃんが言ってた事は、全て本当だった。リベルさまに恋をして、でも叶わない恋だったから一度は諦めて、自ら命を絶った。
でも、またこの世界に蘇って、直ぐ傍にリベルさまが居て、本当の事を知っても誰も責めなかった。リベルさまから「紹介する」と言われたユウさんとスズさんも、凄く優しくしてくれて、受け入れてくれて……
「ありがとう、ございます」
自然と言葉が出てきた。少し前までは、何に対しても怯えて謝っていた。
「そんなに謝るなよ。誰かに何かをしてもらったら、謝るんじゃなくて『ありがとう』って言えば良い。謝罪の言葉より、お礼の言葉を言われる方が、相手は嬉しく思うから……」
夕達と出会って直ぐの頃に、夕から言われた台詞。夕が言った通りにお礼を言うと、周りの人は嬉しそうに笑ってくれた。そして、それは今も同じでシンジュが微笑みながらお礼を言うと、クラウス達は嬉しそうに微笑んだ。
「あ、申し訳ありません。話が逸れてしまって、まだ説明していませんでしたね」
鈴に言われ、クラウスは一度咳払いをし、口を開いた。
「神子の証と言うのは、神子に取ってとても大切なものです」
「大切?」
「証が無ければ、神子は力を使う事が出来ない」
「そうなんですか?」
夕が問うとクラウスとユリウスは同時に頷いた。
「本来なら、神子の証が無ければ力は使えない筈だった」
自分の手を見詰めながら、ユリウスは語った。神子の証が無ければ、力は使えないと。リベルテが刺された時、シンジュを蘇らせた時、ユリウスは神子の証を持っていなかった。産まれた時から、神子の証は無かったと。しかし、ユリウスは使えない筈の力を使う事が出来た。
「神子の証が無いのに、力が使えたって」
「ユリウス様も、神子なんですか?」
夕が問うと、ユリウスは一瞬表情を曇らせ暫く黙り込んだ後、ゆっくりと頷いた。
「俺は、月の神子だ」
ユリウスが月の神子。そう聞かされ、夕達は驚いた。しかし、改めて考えると段々と受け入れる事が出来た。月の神子は安らぎと癒しを与えるとクラウスは言っていた。リベルテの怪我を治す事が出来たのも、シンジュを蘇らせる事が出来たのも、ユリウスが月の神子だったから。
「ですが、先程も言った通りユリウス様は証を持っておりません。証が無い状態で力が使える筈はないのですが……それに、神子の証が有ったとしても夜の神子が居なければ……」
「夜の神子?」
「月の神子と太陽の神子は、証があったとしても力を使う事が出来ないのです」
「は?」
「月の神子には夜の神子が、太陽の神子には空の神子が居なければ、証を所持していたとしても力は使えないのです。神子の証も夜の神子も居ない状態でユリウス様が力を使える筈は……」
若しかしたら、夜の神子がユリウス様の近くに……
考えながら、クラウスは夕を凝視した。確定している訳ではない。しかし、幼いユリウスを救ったのは夕だ。夕がユリウスを救わなければ、彼が今のような立派な王子に育つ事はなかった。長い時を経て再会した今も、夕は無意識かもしれないがユリウスを支えている。
ユウ様がユリウス様の傍に居たから、奇跡が起きた?
「証って、どんな形をしているんだ?」
「あ、証の形ですか?」
鈴に聞かれ、クラウスは我に返り、証について説明した。
「神子の証に、形は存在しません」
「は?」
「形が、ない?」
「はい。神子の証は神子の魂に共鳴し、その神子に合った形になります。時には武器に、時には宝石に、時には動物に……なので、神子の証が具体的にどんな形になるのか、私にも分からないのです」
「成る程」
「シンジュ様の場合は、シャチと言う動物の形になったようですね」
「あ、えっと……」
大人しく頭の上に乗っているシャチに視線を向け、シンジュは困った顔をした。自分が海の神子だと言う事も信じられず、突然現れたシャチが神子の証だと言う事も信じられなかった。
海の神子はシンジュの姉だと思われていた。人魚族も、ユリウス達も、彼女こそが本当の海の神子だと信じて疑わなかった。容姿も声も美しく、心優しい人魚。誰からも愛されて、誰からも必要とされる存在だった姉。
「シンジュ様の姉、ヒスイ様と初めて会った時、彼女は自らを『海の神子だ』と宣言しました。勿論、最初は疑いましたが、彼女と共に過ごす内に私達もヒスイ様こそが本当の海の神子だと思うようになりまして……」
「ヒスイ?」
「はい。そですよね? シンジュ様……」
クラウスに聞かれ、シンジュは「はい」と返事をする。「僕も、お姉ちゃんが海の神子だと思ってました」と答えた。
「シンジュのお姉さんが海の神子? でも、シンジュも海の神子ですよね?」
クラウス達はシンジュの姉であるヒスイと言う人が海の神子だと話した。しかし、シンジュも海の神子で間違いないとクラウスは言っていた。海の神子は二人存在するのか、姉が命を落としてしまったから血の繋がった弟のシンジュに神子の力が宿ったのか、夕が考えているとユリウスが口を開いた。
「本当の海の神子は最初からシンジュだった」
「え?」
「最初からって、それじゃあ、ヒスイさんは……」
「偽りの海の神子だったと言う事です」
「え?」
「ヒスイ様は本当の海の神子がシンジュ様だと知っていたのでしょう。彼女が話すのは何時も弟であるシンジュ様の事ばかりでしたから……自分自身を海の神子だと偽ったのも、シンジュ様を人魚族や神子の力を悪用する者達から護る為だったのかもしれません」
「そんな……」
クラウスの話を聞いて、シンジュは酷く落ち込んだ。海の神子だと思っていた姉が実は偽りの海の神子で、本当の海の神子は、何の取り柄も無い役立たずの自分。でも、姉はシンジュが海の神子だと言う事を知っていて、シンジュを護る為に自分の命を落とした。
「僕の、せい? 僕が居たから、お姉ちゃんは……」
そう思わずにはいられなかった。自分のせいで、姉が死んでしまったと。姉が命を落としたのは、自分が一人では何も出来ない役立たずだったからだと。
「お前のせいではない」
「ユリウス、さま……」
「俺だって、彼女を救う事が出来なかった。彼女だけでなく、お前を助ける事も出来なかった」
「ヒスイ様が亡くなってしまったのは非常に悲しい事ですが、彼女の願いは何時だって貴方の幸せでした」
ですから、自分を責めないで下さい。
『人間が怖い? 何言ってるのよ。地上はとっても楽しい所よ?』
『何時までも海の中で過ごしてたら退屈でしょ? それに、とても優しい人間だって沢山居るんだから、思い込みだけで決め付けちゃ駄目よ』
『一度で良いから地上へ行ってみなさい。若しかしたら、人間の誰かに恋をするかもしれないじゃない?』
地上での暮らしは、本当に楽しかった。初めて会ったリベルさまは、とても優しかった。クラウスさまも、ユリウスさまも、体の事を心配してくれて、一緒に居てくれた。お姉ちゃんが言ってた事は、全て本当だった。リベルさまに恋をして、でも叶わない恋だったから一度は諦めて、自ら命を絶った。
でも、またこの世界に蘇って、直ぐ傍にリベルさまが居て、本当の事を知っても誰も責めなかった。リベルさまから「紹介する」と言われたユウさんとスズさんも、凄く優しくしてくれて、受け入れてくれて……
「ありがとう、ございます」
自然と言葉が出てきた。少し前までは、何に対しても怯えて謝っていた。
「そんなに謝るなよ。誰かに何かをしてもらったら、謝るんじゃなくて『ありがとう』って言えば良い。謝罪の言葉より、お礼の言葉を言われる方が、相手は嬉しく思うから……」
夕達と出会って直ぐの頃に、夕から言われた台詞。夕が言った通りにお礼を言うと、周りの人は嬉しそうに笑ってくれた。そして、それは今も同じでシンジュが微笑みながらお礼を言うと、クラウス達は嬉しそうに微笑んだ。
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