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第3章
救いの手
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地に蹲る男達。彼等を冷徹な目で見下ろすユリウス。蒼い瞳には静かな怒りが見え隠れし、誰も寄せ付けない雰囲気を醸し出していた。ユリウスの事を一番理解しているクラウスでさえも、恐怖を抱く程に、ユリウスが放つ殺気は凄まじいものだった。
クラウスが恐怖を抱く程の殺意を目の当たりにした男達はガタガタと震え、何度も命乞いをした。どんなに許しを乞おうとも、何度謝られようとも、ユリウスの怒りが消える事はなかった。
偶々聞いてしまったのだ。男達の話を。「あの二人を売れば大金が手に入ったのに」と、悔しそうな顔で話す男達の姿を。話を聞く内に、彼等が人攫いである事に三人は気付いた。彼等の会話の中に「金髪」と「黒髪」と言う単語が出た瞬間、クラウスの制止も聞かずユリウスは男達を地に沈め、剣を男達に突きつけた。
「人身売買はこの国では禁止されている筈だが?」
ユリウスが問えば、男達は情けない顔をして必死に言い訳を述べ続けた。
「出来心だった」
「生活が苦しくて、仕方なくやった」
「でも、失敗に終わった」
「俺達は何もしていないも同然だ」
自分に取って都合の良い言い訳ばかり述べる男達に嫌悪感を抱き、ユリウスは何の躊躇いもなく縋ろうと伸びてきた腕を剣で斬りつけた。周囲に谺する汚い男の悲鳴を聞いても、斬られた腕から流れる大量の血を見ても、痛みで醜く歪む男の顔を見ても、ユリウスは何とも思わなかった。
切断しなかっただけ有難いと思え。
そう思える程に、ユリウスは怒りに支配されていた。単なる人攫いなら、こうはならなかっただろう。彼等が攫おうとした相手が悪かった。彼等は夕と鈴を攫おうとしていたのだ。更に話を詳しく聞くと、どうやらシンジュも攫おうとしていたらしい。
シンジュの話になるとリベルテもユリウスと同様の顔をして男達を問い詰めた。男達は泣きながら全て話した。
「攫おうとしたのは事実だが、三人には逃げられた」と。
「その三人は何事もなかったような顔をして城の方に歩いて行った」と。
三人が無事だと言う事が分かり少しだけ安堵したが、それでもユリウスの怒りは収まらなかった。確かに未遂ではあるが、三人を攫おうとしたのは事実。彼等は夕を奴隷として売ろうとしていたのだ。
ユリウスが最も必要とする大切な存在を、何時も傍で支えてくれる優しい存在を、彼等はユリウスから奪おうとしていたのだ。知らなかったでは済まされない。
「人身売買は重罪だ。貴様等に慈悲はない。今此処で、死を持って償ってもらう」
高く剣を振り上げ、鋭く冷たい目で男達を見下ろすユリウス。ユリウスが本気だと嫌でも分かってしまった男達は泣いて謝り続けた。クラウスの慌てたような声も、必死に止めようとするリベルテの声も、今のユリウスには届かなかった。
「命だけは」と無様に泣き喚く男達に、ユリウスは何の躊躇いもなく剣を振り下ろした。
「駄目です。ユリウス様」
「ユウ」
「ユウ、様」
ユリウスが剣を振り下ろす瞬間、間一髪で夕が止めに入った。剣を持つ手に、自分の手を重ね、幼い子どもに優しく言い聞かせるように、夕はもう一度「駄目です」と言った。
「みんな、無事です。俺も、鈴も、シンジュも、傷一つありませんから。この人達を、殺さないで下さい」
突然夕が現れ驚きはしたが、クラウスとリベルテは安堵した。夕が現れなかったら、彼等はユリウスに殺されていた。鋭く冷たかった瞳に光が宿り、夕を見詰めながらユリウスは夕の名前を呼んだ。手から力が抜け、握っていた剣が地面に落ちる。振り上げていた腕を下ろし、握られている夕の手を強く握る。
「本当に、ユウ、なのか?」
「はい。心配させてしまいました。済みません。俺は無事ですよ。鈴もシンジュも、皆無事ですから」
「…………」
優しく微笑む夕を見て、漸くユリウスの心は落ち着いた。自分で抑えられない程の怒りはスッと消え去り、安堵の溜息を零す。握られた手を強く握り返し、自分の方へ引き寄せ強く抱き締めた。
「ユ、リウス……様?」
突然強く抱き締められ、夕は驚きと羞恥で混乱した。ユリウスから離れようとしても、更に強く抱き締められ、身動きが取れない。耳元で「良かった」と、囁かれ、夕は顔を赤くしてユリウスの名前を呼んだ。
「攫われたと思っていた」
「す、済みません」
「危険な目に遭っていたらと、焦っていた」
「えっと、その……」
「もう、二度と会えないと思った」
「お、大袈裟ですよ。俺は、ちゃんと此処に居ますよ?」
「…………」
「ユリウス様?」
言葉は返さず、ユリウスは夕を抱き締めたまま動かなかった。ユリウスに抱き締められ、身動きが取れず、夕は困惑した。どうやって抜け出そうかと必死に考え、リベルテとクラウスを見た。
二人はサッと視線を逸らし、気まずそうな顔をして恐怖で気絶している人攫いの男達を縄で縛り始めた。
「人攫いは野放しには出来ねえよな。な、なぁ? クラウス」
「え、えぇ。そうですね。私達がしっかりと捕まえないと……」
少しだけ罪悪感はあるが、二人は今のユリウスに関わりたくなかった。夕がユリウスを止めてくれたお陰で、何とかなったものの、何時、ユリウスが激怒するか分からない。怒り狂ったユリウスはもう見たくない。今、ユリウスから夕を離したら何をされるか分からない。
「よ、良し! 人攫いも全員捕まえたしっ、し、城に、戻ろうぜ! な! クラウス!」
「そ、そうですね! ユウ様も無事見つかりましたし。ですが、また行方不明になっては大変ですから、手を繋いで帰りませんか?」
「い、いや、俺なら大丈夫ですよ? 子どもじゃないんですから、手を繋がなくても平気ですよ?」
「ユウ」
「ユウ様」
「な、何?」
「兄上を止められるのは、お前しかいないんだ」
「は?」
「ユリウス様にはユウ様が必要不可欠。一時も離れてはならないのです」
「何言ってるんですか? クラウスさん。ユリウス様には好きな人が……」
「黙って言う事を聞け」
「…………」
真剣な顔で言われ、夕は二人に従うしかなかった。何故、二人はあんなにも必死になっているのかと言う疑問はあったが聞く暇もなく、言われた通りユリウスに手を引かれ城に戻る事になった。地面に落ちた剣を仕舞い、ユリウスは夕の手を握り、そのまま歩き出した。
城へ帰るまでの道中、ユリウスはずっと夕の手を離さなかった。夕が何度断ろうとも、ユリウスは無言で足を進めた。周囲からの視線も気になり、夕はクラウスとリベルテに助けを求めたが、二人は前を向いたまま、ユリウスを止めなかった。
そして、やっと城に着き、夕は安堵したがユリウスが夕の手を離すことはなく、そのまま足を進めてしまう。夕は慌てて「もう大丈夫ですよ?」と伝えても、やはりユリウスは答えてくれなかった。咄嗟に後ろを振り向き、クラウスとリベルテを見ると、二人は気まずそうな顔をして視線を逸らしていた。
罪悪感はあるものの、二人はユリウスを止めようとはしなかった。
「や、やっぱり、止めた方が……」
「命を落としても良いなら、ユリウス様を止めて下さい」
「…………」
「ユウ様には申し訳ありませんが、今のユリウス様に私達が何を言っても聞く耳を持たないでしょう」
「……確かにな。兄上は、ずっと夕を捜し続けてたんだよな」
「ええ。ユウ様は、ユリウス様をユリウス様として受け入れて下さった恩人。好意を抱くのも、当然の流れだったのでしょう」
「意外だな。お前が兄上以外の人間を認めてるなんて。兄上の婚約希望者の連中に対しては冷酷なくせに……」
「自分の事しか考えない身勝手で醜悪な貴族と、立場も損得も考えず、誰かの為に尽くすユウ様と、どちらが良いかなど、言うまでもないでしょう」
「随分とユウの事を気に入ってるんだな」
「ユウ様は、私の恩人でもありますから」
「恩人、か」
作り笑いではなく、心から笑っているクラウスを見て、リベルテは珍しいと思った。長年ユリウスに仕えているクラウス。当時のクラウスは一切笑わなかった。ユリウスを立派な国王にする為に、クラウスは厳しい教養をユリウスに強いていた。甘えは一切許さず、感情を表に出さないようにと言い続けていた。暗殺者に狙われた時も、直ぐには助けず、助けたとしても、ユリウスに対して辛辣な言葉ばかり言っていた。
それが、ある日を境にガラリと変わった。勿論、クラウスの教育は厳しかったが、以前のように甘えを一切許さないやり方はしなくなった。良い点も悪い点も指摘し、一日の勉強や鍛錬が終わると、クラウスは必ずユリウスを褒めるようになった。ユリウスの体調を気にするようになった。その頃から、クラウスは少しずつ笑うようになった。
「不思議な方です。ユリウス様だけでなく、貴方やあの子の事も救ってしまうのですから……」
「そうだな」
ユウが居たから、真実を知る事が出来た。誤解だったと気付く事が出来た。もし、ユウが居なかったら、今のような現実にはならなかった。
「スズ様にも、感謝しないといけませんね」
「……あぁ」
ユウだけじゃない。スズにも色々助けられた。二人が居たから、奇跡が起きた。どちらか一人だけでは起こせなかった奇跡。
「俺、スズに会ってくる。ユウは暫く戻れねぇと思うし……」
「そうですね。では、私は執務に戻ります。今日の仕事を片付けなくてはなりませんから……」
「あぁ」
お互いに笑い、二人は目的場所へ向かう為、ゆっくりと歩き出した。
クラウスが恐怖を抱く程の殺意を目の当たりにした男達はガタガタと震え、何度も命乞いをした。どんなに許しを乞おうとも、何度謝られようとも、ユリウスの怒りが消える事はなかった。
偶々聞いてしまったのだ。男達の話を。「あの二人を売れば大金が手に入ったのに」と、悔しそうな顔で話す男達の姿を。話を聞く内に、彼等が人攫いである事に三人は気付いた。彼等の会話の中に「金髪」と「黒髪」と言う単語が出た瞬間、クラウスの制止も聞かずユリウスは男達を地に沈め、剣を男達に突きつけた。
「人身売買はこの国では禁止されている筈だが?」
ユリウスが問えば、男達は情けない顔をして必死に言い訳を述べ続けた。
「出来心だった」
「生活が苦しくて、仕方なくやった」
「でも、失敗に終わった」
「俺達は何もしていないも同然だ」
自分に取って都合の良い言い訳ばかり述べる男達に嫌悪感を抱き、ユリウスは何の躊躇いもなく縋ろうと伸びてきた腕を剣で斬りつけた。周囲に谺する汚い男の悲鳴を聞いても、斬られた腕から流れる大量の血を見ても、痛みで醜く歪む男の顔を見ても、ユリウスは何とも思わなかった。
切断しなかっただけ有難いと思え。
そう思える程に、ユリウスは怒りに支配されていた。単なる人攫いなら、こうはならなかっただろう。彼等が攫おうとした相手が悪かった。彼等は夕と鈴を攫おうとしていたのだ。更に話を詳しく聞くと、どうやらシンジュも攫おうとしていたらしい。
シンジュの話になるとリベルテもユリウスと同様の顔をして男達を問い詰めた。男達は泣きながら全て話した。
「攫おうとしたのは事実だが、三人には逃げられた」と。
「その三人は何事もなかったような顔をして城の方に歩いて行った」と。
三人が無事だと言う事が分かり少しだけ安堵したが、それでもユリウスの怒りは収まらなかった。確かに未遂ではあるが、三人を攫おうとしたのは事実。彼等は夕を奴隷として売ろうとしていたのだ。
ユリウスが最も必要とする大切な存在を、何時も傍で支えてくれる優しい存在を、彼等はユリウスから奪おうとしていたのだ。知らなかったでは済まされない。
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高く剣を振り上げ、鋭く冷たい目で男達を見下ろすユリウス。ユリウスが本気だと嫌でも分かってしまった男達は泣いて謝り続けた。クラウスの慌てたような声も、必死に止めようとするリベルテの声も、今のユリウスには届かなかった。
「命だけは」と無様に泣き喚く男達に、ユリウスは何の躊躇いもなく剣を振り下ろした。
「駄目です。ユリウス様」
「ユウ」
「ユウ、様」
ユリウスが剣を振り下ろす瞬間、間一髪で夕が止めに入った。剣を持つ手に、自分の手を重ね、幼い子どもに優しく言い聞かせるように、夕はもう一度「駄目です」と言った。
「みんな、無事です。俺も、鈴も、シンジュも、傷一つありませんから。この人達を、殺さないで下さい」
突然夕が現れ驚きはしたが、クラウスとリベルテは安堵した。夕が現れなかったら、彼等はユリウスに殺されていた。鋭く冷たかった瞳に光が宿り、夕を見詰めながらユリウスは夕の名前を呼んだ。手から力が抜け、握っていた剣が地面に落ちる。振り上げていた腕を下ろし、握られている夕の手を強く握る。
「本当に、ユウ、なのか?」
「はい。心配させてしまいました。済みません。俺は無事ですよ。鈴もシンジュも、皆無事ですから」
「…………」
優しく微笑む夕を見て、漸くユリウスの心は落ち着いた。自分で抑えられない程の怒りはスッと消え去り、安堵の溜息を零す。握られた手を強く握り返し、自分の方へ引き寄せ強く抱き締めた。
「ユ、リウス……様?」
突然強く抱き締められ、夕は驚きと羞恥で混乱した。ユリウスから離れようとしても、更に強く抱き締められ、身動きが取れない。耳元で「良かった」と、囁かれ、夕は顔を赤くしてユリウスの名前を呼んだ。
「攫われたと思っていた」
「す、済みません」
「危険な目に遭っていたらと、焦っていた」
「えっと、その……」
「もう、二度と会えないと思った」
「お、大袈裟ですよ。俺は、ちゃんと此処に居ますよ?」
「…………」
「ユリウス様?」
言葉は返さず、ユリウスは夕を抱き締めたまま動かなかった。ユリウスに抱き締められ、身動きが取れず、夕は困惑した。どうやって抜け出そうかと必死に考え、リベルテとクラウスを見た。
二人はサッと視線を逸らし、気まずそうな顔をして恐怖で気絶している人攫いの男達を縄で縛り始めた。
「人攫いは野放しには出来ねえよな。な、なぁ? クラウス」
「え、えぇ。そうですね。私達がしっかりと捕まえないと……」
少しだけ罪悪感はあるが、二人は今のユリウスに関わりたくなかった。夕がユリウスを止めてくれたお陰で、何とかなったものの、何時、ユリウスが激怒するか分からない。怒り狂ったユリウスはもう見たくない。今、ユリウスから夕を離したら何をされるか分からない。
「よ、良し! 人攫いも全員捕まえたしっ、し、城に、戻ろうぜ! な! クラウス!」
「そ、そうですね! ユウ様も無事見つかりましたし。ですが、また行方不明になっては大変ですから、手を繋いで帰りませんか?」
「い、いや、俺なら大丈夫ですよ? 子どもじゃないんですから、手を繋がなくても平気ですよ?」
「ユウ」
「ユウ様」
「な、何?」
「兄上を止められるのは、お前しかいないんだ」
「は?」
「ユリウス様にはユウ様が必要不可欠。一時も離れてはならないのです」
「何言ってるんですか? クラウスさん。ユリウス様には好きな人が……」
「黙って言う事を聞け」
「…………」
真剣な顔で言われ、夕は二人に従うしかなかった。何故、二人はあんなにも必死になっているのかと言う疑問はあったが聞く暇もなく、言われた通りユリウスに手を引かれ城に戻る事になった。地面に落ちた剣を仕舞い、ユリウスは夕の手を握り、そのまま歩き出した。
城へ帰るまでの道中、ユリウスはずっと夕の手を離さなかった。夕が何度断ろうとも、ユリウスは無言で足を進めた。周囲からの視線も気になり、夕はクラウスとリベルテに助けを求めたが、二人は前を向いたまま、ユリウスを止めなかった。
そして、やっと城に着き、夕は安堵したがユリウスが夕の手を離すことはなく、そのまま足を進めてしまう。夕は慌てて「もう大丈夫ですよ?」と伝えても、やはりユリウスは答えてくれなかった。咄嗟に後ろを振り向き、クラウスとリベルテを見ると、二人は気まずそうな顔をして視線を逸らしていた。
罪悪感はあるものの、二人はユリウスを止めようとはしなかった。
「や、やっぱり、止めた方が……」
「命を落としても良いなら、ユリウス様を止めて下さい」
「…………」
「ユウ様には申し訳ありませんが、今のユリウス様に私達が何を言っても聞く耳を持たないでしょう」
「……確かにな。兄上は、ずっと夕を捜し続けてたんだよな」
「ええ。ユウ様は、ユリウス様をユリウス様として受け入れて下さった恩人。好意を抱くのも、当然の流れだったのでしょう」
「意外だな。お前が兄上以外の人間を認めてるなんて。兄上の婚約希望者の連中に対しては冷酷なくせに……」
「自分の事しか考えない身勝手で醜悪な貴族と、立場も損得も考えず、誰かの為に尽くすユウ様と、どちらが良いかなど、言うまでもないでしょう」
「随分とユウの事を気に入ってるんだな」
「ユウ様は、私の恩人でもありますから」
「恩人、か」
作り笑いではなく、心から笑っているクラウスを見て、リベルテは珍しいと思った。長年ユリウスに仕えているクラウス。当時のクラウスは一切笑わなかった。ユリウスを立派な国王にする為に、クラウスは厳しい教養をユリウスに強いていた。甘えは一切許さず、感情を表に出さないようにと言い続けていた。暗殺者に狙われた時も、直ぐには助けず、助けたとしても、ユリウスに対して辛辣な言葉ばかり言っていた。
それが、ある日を境にガラリと変わった。勿論、クラウスの教育は厳しかったが、以前のように甘えを一切許さないやり方はしなくなった。良い点も悪い点も指摘し、一日の勉強や鍛錬が終わると、クラウスは必ずユリウスを褒めるようになった。ユリウスの体調を気にするようになった。その頃から、クラウスは少しずつ笑うようになった。
「不思議な方です。ユリウス様だけでなく、貴方やあの子の事も救ってしまうのですから……」
「そうだな」
ユウが居たから、真実を知る事が出来た。誤解だったと気付く事が出来た。もし、ユウが居なかったら、今のような現実にはならなかった。
「スズ様にも、感謝しないといけませんね」
「……あぁ」
ユウだけじゃない。スズにも色々助けられた。二人が居たから、奇跡が起きた。どちらか一人だけでは起こせなかった奇跡。
「俺、スズに会ってくる。ユウは暫く戻れねぇと思うし……」
「そうですね。では、私は執務に戻ります。今日の仕事を片付けなくてはなりませんから……」
「あぁ」
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