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第3章
険悪
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一方、街では居る筈のない人物の登場に驚き、騒ついていた。目立つ容姿を隠しもせず、ユリウスは真剣な表情をして街の人達に夕と鈴の行方を聞いて回った。尋ねられた人は皆、頬を赤く染め、うっとりした表情をしてユリウスの質問に答えた。
しかし、二人を見たと言う人は居るが、何処へ向かったかまでは分からないと言う答えばかりで、ユリウスは表情に見せないものの、焦っていた。中には夕の事を非難する人も居て、ユリウスは不快感を抱くも、話が終われば街の中を移動して二人を捜し続けた。
「兄上、どうだった?」
「何処にも居ない」
「こちらも捜してみましたが、お二人の姿は何処にも……リベルはどうでしたか?」
「こっちも駄目だ。二人の姿を見たって言う人は居たけど、何処に行ったかまでは……」
二人と合流して、夕と鈴が居たか確認するが、誰も二人を見付けられなかった。
「これだけ捜しても居ないとなると、やはりリベルの言う通り、何者かに攫われている可能性も拭えませんね」
「な!? だったら早く二人を見付けねえと!」
「闇雲に捜してどうするんです? これだけ捜しても見付からなかったんですよ? もっと冷静に考えて……」
「二人が危険な目に遭ってるかもしれないのに、冷静でいられる訳ねえだろ! もし、このまま二人が戻ってこなかったらどうするんだよ!」
「それを阻止する為に今こうして捜しているのでしょう! 危険な輩に攫われているのなら、尚の事用心して行動しなければ、二人を取り戻す事も出来ません! それくらい貴方でも理解できるでしょう!」
「だったら何か策でもあるのかよ! 今こうしている間にも、二人は何をされてるか分からねえんだぞ! 手遅れになったら、それこそ大問題だろうが!」
「ですから、今こうして考えを張り巡らせて『いい加減にしろ!』」
「う!」
口論を続ける二人に痺れを切らし、ユリウスは声を張り上げて怒鳴った。普段、あまり怒らないユリウスが、決して感情を表に出さないユリウスが、珍しく二人に対して怒りをぶつけたのだ。
「口論している場合か? 二人を救う気が無いのなら、今すぐ城へ帰れ。今のお前達では足手纏いだ。頭を冷やせ。二人は俺一人で捜す」
「…………」
「…………」
正論だ。二人が見付からない事に焦り、冷静な判断が出来なくなっていた。ユリウスはリベルテとクラウスに背を向け、足早にその場から立ち去ろうとした。二人が引き止めようとするも、ユリウスは聞く耳を持たず、進める足を止めなかった。立ち止まっていた二人は、慌ててユリウスの後を追った。
ユリウスに怒られたリベルテは、ギロリとクラウスを睨み付けた。
「お前のせいだからな、クラウス」
「ユリウス様を怒らせたのは貴方でしょう?今まで一度として私に反論しなかったユリウス様が……」
「昔は嫌われてた癖に……」
「黙りなさい。何もかも放棄した挙句、勘違いでユリウス様を逆恨みしていた貴方に言われたくありません」
「なっ、あれは兄上が!」
「ユリウス様が本当にあの子を殺す筈がありません。少し考えれば分かる事だと言うのに……」
「お前だって俺の事は言えねえだろ? 兄上の本心を見抜いたのは、真実を教えてくれたのはユウだろ? ユウが居たから、兄上は本当の事を俺達に話したんだろ? お前じゃあ無理だよなぁ」
「口の減らない餓鬼ですね。昔から本当に可愛げのない」
「兄上の従者役、お前よりユウの方が合ってるんじゃねぇのか? ユウと一緒に居る時の方が、ずっといい顔してるぜ? 兄上は……」
「…………」
「何だよ? 急に黙り込んで。言い返さねえのかよ?」
「ユウ様に敵うとは思っていませんよ」
「は?」
「ユリウス様に本当に必要な人は、私ではありませんから」
「な、何だよ? 急に弱気なこと言って……」
「ユリウス様をお護りする事が、私の役目。ですが、ユリウス様を支えるのは、私ではありません」
「支える?」
「ずっと、ユリウス様に仕えていましたが、私の前でユリウス様が心から笑ったことは、一度としてありません」
「え?」
「ユリウス様が本当の笑顔を見せるのは、ユウ様だけです」
「ユウだけって、でも兄上には想い人が……まさか、兄上の命と心を救った人って……」
「ユウ様です。ご本人は全く気付いてませんが……」
「…………」
幼いユリウスを救ったのは夕。有り得ないと思うも、リベルテは今までの事を思い返して、否定できなかった。
パーティーで夕が鈴に成り代わった時、シンジュを蘇らせてほしいと夕と二人で頼みに行った時、神殿でシンジュを蘇らせた時、ユリウスは何時も夕にだけは心を許していた。
他人の前では決して表情を崩さないユリウスが、どんな事が起きても弱さを見せないユリウスが、夕の前では、感情を表に出していた。ユリウスが笑ったり泣いたりする時は、必ず夕が傍に居た。
「そう、か。ユウが、兄上がずっと捜してた想い人」
「今更気付いたのですか?」
「仕方ねえだろ? 兄上は年上だって言ってたんだから……」
「確かに、あの時はユウ様の方が年上でしたね」
「は? でもユウは兄上より年下だろ?」
「恐らく、時間の流れが違うのでしょう。ユウ様とスズ様が居た世界と、この世界とでは……」
「あ、そうか。あの二人は異世界人だったな。難しいことは分からねえけど、簡単に纏めると何でもありってことか?」
「それが妥当でしょうね」
「ふぅん」
「無駄話をする暇が有るなら城へ帰れ。目障りだ」
鋭く冷え切った氷のような冷たい瞳。誰も寄せ付けない感情の無い表情。整った容姿も相まって、静かに怒るユリウスの迫力は凄まじいものだった。心が冷え切りそうな程冷たい眼差しに耐えられず、二人は口を閉じユリウスから視線を逸らした。
ユリウスは二人の様子を気にする様子もなく「役立たずは帰れ」と冷たく言い放つと、リベルテとクラウスは同時に謝罪した。
しかし、二人を見たと言う人は居るが、何処へ向かったかまでは分からないと言う答えばかりで、ユリウスは表情に見せないものの、焦っていた。中には夕の事を非難する人も居て、ユリウスは不快感を抱くも、話が終われば街の中を移動して二人を捜し続けた。
「兄上、どうだった?」
「何処にも居ない」
「こちらも捜してみましたが、お二人の姿は何処にも……リベルはどうでしたか?」
「こっちも駄目だ。二人の姿を見たって言う人は居たけど、何処に行ったかまでは……」
二人と合流して、夕と鈴が居たか確認するが、誰も二人を見付けられなかった。
「これだけ捜しても居ないとなると、やはりリベルの言う通り、何者かに攫われている可能性も拭えませんね」
「な!? だったら早く二人を見付けねえと!」
「闇雲に捜してどうするんです? これだけ捜しても見付からなかったんですよ? もっと冷静に考えて……」
「二人が危険な目に遭ってるかもしれないのに、冷静でいられる訳ねえだろ! もし、このまま二人が戻ってこなかったらどうするんだよ!」
「それを阻止する為に今こうして捜しているのでしょう! 危険な輩に攫われているのなら、尚の事用心して行動しなければ、二人を取り戻す事も出来ません! それくらい貴方でも理解できるでしょう!」
「だったら何か策でもあるのかよ! 今こうしている間にも、二人は何をされてるか分からねえんだぞ! 手遅れになったら、それこそ大問題だろうが!」
「ですから、今こうして考えを張り巡らせて『いい加減にしろ!』」
「う!」
口論を続ける二人に痺れを切らし、ユリウスは声を張り上げて怒鳴った。普段、あまり怒らないユリウスが、決して感情を表に出さないユリウスが、珍しく二人に対して怒りをぶつけたのだ。
「口論している場合か? 二人を救う気が無いのなら、今すぐ城へ帰れ。今のお前達では足手纏いだ。頭を冷やせ。二人は俺一人で捜す」
「…………」
「…………」
正論だ。二人が見付からない事に焦り、冷静な判断が出来なくなっていた。ユリウスはリベルテとクラウスに背を向け、足早にその場から立ち去ろうとした。二人が引き止めようとするも、ユリウスは聞く耳を持たず、進める足を止めなかった。立ち止まっていた二人は、慌ててユリウスの後を追った。
ユリウスに怒られたリベルテは、ギロリとクラウスを睨み付けた。
「お前のせいだからな、クラウス」
「ユリウス様を怒らせたのは貴方でしょう?今まで一度として私に反論しなかったユリウス様が……」
「昔は嫌われてた癖に……」
「黙りなさい。何もかも放棄した挙句、勘違いでユリウス様を逆恨みしていた貴方に言われたくありません」
「なっ、あれは兄上が!」
「ユリウス様が本当にあの子を殺す筈がありません。少し考えれば分かる事だと言うのに……」
「お前だって俺の事は言えねえだろ? 兄上の本心を見抜いたのは、真実を教えてくれたのはユウだろ? ユウが居たから、兄上は本当の事を俺達に話したんだろ? お前じゃあ無理だよなぁ」
「口の減らない餓鬼ですね。昔から本当に可愛げのない」
「兄上の従者役、お前よりユウの方が合ってるんじゃねぇのか? ユウと一緒に居る時の方が、ずっといい顔してるぜ? 兄上は……」
「…………」
「何だよ? 急に黙り込んで。言い返さねえのかよ?」
「ユウ様に敵うとは思っていませんよ」
「は?」
「ユリウス様に本当に必要な人は、私ではありませんから」
「な、何だよ? 急に弱気なこと言って……」
「ユリウス様をお護りする事が、私の役目。ですが、ユリウス様を支えるのは、私ではありません」
「支える?」
「ずっと、ユリウス様に仕えていましたが、私の前でユリウス様が心から笑ったことは、一度としてありません」
「え?」
「ユリウス様が本当の笑顔を見せるのは、ユウ様だけです」
「ユウだけって、でも兄上には想い人が……まさか、兄上の命と心を救った人って……」
「ユウ様です。ご本人は全く気付いてませんが……」
「…………」
幼いユリウスを救ったのは夕。有り得ないと思うも、リベルテは今までの事を思い返して、否定できなかった。
パーティーで夕が鈴に成り代わった時、シンジュを蘇らせてほしいと夕と二人で頼みに行った時、神殿でシンジュを蘇らせた時、ユリウスは何時も夕にだけは心を許していた。
他人の前では決して表情を崩さないユリウスが、どんな事が起きても弱さを見せないユリウスが、夕の前では、感情を表に出していた。ユリウスが笑ったり泣いたりする時は、必ず夕が傍に居た。
「そう、か。ユウが、兄上がずっと捜してた想い人」
「今更気付いたのですか?」
「仕方ねえだろ? 兄上は年上だって言ってたんだから……」
「確かに、あの時はユウ様の方が年上でしたね」
「は? でもユウは兄上より年下だろ?」
「恐らく、時間の流れが違うのでしょう。ユウ様とスズ様が居た世界と、この世界とでは……」
「あ、そうか。あの二人は異世界人だったな。難しいことは分からねえけど、簡単に纏めると何でもありってことか?」
「それが妥当でしょうね」
「ふぅん」
「無駄話をする暇が有るなら城へ帰れ。目障りだ」
鋭く冷え切った氷のような冷たい瞳。誰も寄せ付けない感情の無い表情。整った容姿も相まって、静かに怒るユリウスの迫力は凄まじいものだった。心が冷え切りそうな程冷たい眼差しに耐えられず、二人は口を閉じユリウスから視線を逸らした。
ユリウスは二人の様子を気にする様子もなく「役立たずは帰れ」と冷たく言い放つと、リベルテとクラウスは同時に謝罪した。
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