神子のおまけの脇役平凡、異世界でもアップルパイを焼く

トキ

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第2章

シンジュ2

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 え? え? い、今、何が起きた? シンジュが目を覚まして、痛みや辛さがないか確認しようとして、それで……

 すきです。

「ん!?」

 し、シンジュに、き、きききっ、き、キスされてる!?

 リベルテが今の現状を理解するのに、数分かかった。嬉しさと恥ずかしさで、顔に熱が集まるのを感じ、リベルテはどうすればいいかを必死に考えた。

 ど、どうしよう、どうする? どうすればいいんだ? 俺、告白された、んだよな? 確かに「好き」って、言ってたし……い、今、触れてるのは、シンジュの……

 考えただけで、リベルテは更に顔を赤くした。冷静に考える事が出来ず、体を動かす事も出来ない。どれだけの間、そうしていたのかは分からない。リベルテが動けずにいると、ゆっくりと唇が離れ、シンジュはリベルテに身を委ねた。

 咄嗟にシンジュを抱き締め、リベルテは「シンジュ?」と名前を呼ぶ。しかし、返事はなくスゥスゥと空気の抜ける音だけが響く。

「ね、寝てる」

 スヤスヤと眠るシンジュを起こさないようにそっと抱き上げ、ベッドに下ろす。ベッドに寝かせた時、目元が気になった。泣いた名残で、少しだけ赤くなっており、透明な涙が頬を伝う。その涙を指で優しく拭い、リベルテは椅子に座り直した。

「起きたら、謝るつもりだったのにな」

 ちゃんと護れなかった事。ずっと一人で悩ませてしまった事。助ける事も、救う事も出来なかった事。

 言い出したらキリがない。だから、ちゃんと謝って、今までの事も全て話して、その後で、告白するつもりだった。「好きだ」と「今度はちゃんと護るから」と、順を追って話そうと思っていた。それなのに……

「シンジュから、告白されるとは思わなかったな」

 思い出すだけで、顔が赤くなる。嬉しそうに笑った顔。ほんのりと赤く染まった頬。切なさと甘さを含んだ声。大きな水色の瞳も、さらさらの髪も、昔と何一つ変わらない。

「きれいな、声だったな」

 昔はシンジュの声は聞けなかった。話そうとしても、声は出ず、空気の抜ける音だけだった。医師に診せても、原因は分からなかった。

 ぼくの、こえ、きたないから……
 きいたら、がっかりするとおもう。

 シンジュは何時もそう伝えていた。声を聞いてみたいと言えば、決まって「声が汚い」と言って、悲しい表情をしていた。どうして自分を否定するような言い方をするのか。どうして何時も不安そうな顔をしていたのか。

 あの時は何も分からなかった。何も知ろうとしなかった。でも、今なら分かる。人魚族が、シンジュを痛めつけていたんだ。それが、どれ程酷いものだったのかは分からない。けれど、今までの出来事と、日記の内容から迫害に近い扱いを受けていた事は分かる。

「シンジュ」

 そっと頭に手を添え、優しく撫でる。

「今度は、ちゃんと……」

 言おうとして、リベルテは口を噤む。シンジュが起きてる時に言わなければ意味がない。そう思い、リベルテは言葉を飲み込み、撫でていた手を引っ込める。

「俺も、もう少し寝るか」

 一晩中起きていた事と先ほどの出来事で、急激な眠気に襲われる。緊張の糸が切れ、シンジュが眠るベッドに体を預け、リベルテはそのまま深い眠りに就いた。




 二人が眠りに就いて半日ほど経った頃、先にリベルテが目を覚ました。体を起こし、ベッドに視線を向ける。静かに眠るシンジュを見て、リベルテは自然と笑みがこぼれた。

「夢じゃ、ないんだよな」

 シンジュが此処に居る。すぐ傍に、手を伸ばせば届く場所に。一度は失ってしまった最愛の人が、目の前に居ると言う現実が嬉しくて、リベルテは心が満たされるような気持ちになった。

「ん……ぅ……」

 優しく頭を撫でていると、閉じらていた瞼がゆっくりと開く。

「シンジュ、起きたのか?」

 頭を撫でていた手を頬に添え、優しくリベルテが問うと、シンジュは何度か瞬きをした後、急に目を見開いて飛び起きた。

「リベル、さま?」

 不安そうに名前を呼ぶシンジュに、リベルテは「目、覚めたか?」と問うと、シンジュは困惑したような顔をしてリベルテを見詰めた。

「言っておくが、これは夢じゃないからな」

 一瞬、何を言われたのか理解できなかった。リベルテに言われた言葉を何度も頭の中で繰り返す。理解できた時、シンジュは驚いて目を見開いた。

「う、そ……」

嘘だ。これは夢。僕が創った、わがままな夢。

 リベルテの言葉を信じられず、シンジュは何度も「うそ」と「これは夢」と呟いて表情を曇らせた。

「シンジュ……」
「ぁ」

 名前を呼ばれたと同時に、頬に手を添えられ、シンジュは咄嗟に顔を上げた。すぐ近くにリベルテの顔が視界に入り、シンジュは顔を赤くした。

「話を、聞いてくれないか?」
「は、なし?」

 真剣な表情をするリベルテに、シンジュは戸惑いながら、コクリと頷いた。すると、頬に触れていた手を離し、リベルテは少しだけシンジュと距離を置く。

「…………」
「リベルさ『ごめん!』え?」

 暫く黙った後、深呼吸をし、リベルテはシンジュに深々と頭を下げ謝罪の言葉を述べた。リベルテを心配して名前を呼ぼうとした時に謝られ、シンジュは戸惑った。

「護るって言ったのに、護れなかった。お前が思い悩んで苦しんでいたのに、何も聞こうとしなかった。何も知ろうとしてなかった。泣いてる理由も、怯えてる理由も、聞くことが出来なかった。お前がどんな気持ちで此処に居たのか、ちゃんと聞いていれば、ちゃんと知っていれば、あんな事にはならなかったかもしれない」
「リベル、さま」
「人魚族に、仲間に脅されていたんだろ? 王子を殺せって……」
「な、んで」

 何で……どうして……リベルさまに、知られてしまった。

 リベルテに全て知られてしまったと悟り、シンジュは小刻みに体を震わせた。嫌われる、拒絶される、軽蔑される。リベルテに捨てられると思い込み、シンジュは泣いて謝った。

「ごめ……な、さ……ごめん、なさぃ」

 怯えながら必死に謝り続けるシンジュの頬に、リベルテはもう一度手を添える。叩かれると思い、シンジュは恐怖で肩を震わせて強く目を閉じた。体の震えが止まらず怯えていると、頬に添えられていた手が顎を捉える。

「っ、ふ……んぅ……」

 顔を上に向けられたと思った瞬間、唇に柔らかい何かが触れる。恐る恐る目を開け、触れているものが何か確認すると、シンジュは顔を赤くして強く目を閉じた。

 拒絶されると思っていた。嫌われると思っていた。けれど、リベルテはシンジュを拒絶しなかった。嫌わなかった。

どうして、リベルさま。

 恥ずかしい。嬉しい。リベルさまが好き。期待、してもいいの?

 リベルテにキスをされ、どうすればいいか分からず、体を動かす事が出来なかった。
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