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第1章
パーティー1
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きらきらと輝くシャンデリア。生で演奏されるクラシック音楽。ドレスや宝石で全身を着飾った貴族の娘、息子達。彼等は頬を染め、ある人物に熱い視線を送っている。
青と白をベースとした貴族の衣装を纏うユリウスに、彼等は釘付けになっていた。美麗な容姿に、凛とした佇まい。涼しげな表情が魅力的で、ユリウスが些細な動作をするだけで、周囲の者達は黄色い声を上げる。
ユリウスを遠目で眺め、ユリウス様の婚約者になりたいと、娘、息子達は張り切って自分を着飾った。より可愛く、より美しく。ユリウスに選ばれたいと言う一心で、彼等は大金を湯水の様に使い、高級なドレスや大きな宝石で全身を着飾った。
ユリウスの婚約者を選ぶパーティーには、多くの貴族が出席し、王族貴族の親達はユリウスに近づき、自分の娘、息子を紹介した。
「是非とも私の子を婚約者に……」
「ユリウス様に相応しいのは家の子しかおりません」
行く先々で王族貴族に絡まれ、その度にユリウスは挨拶を交わし、やんわりと断って会場内を移動した。
王族貴族達との挨拶が終わった頃、突然会場の照明が消え、音楽もピタリと止まる。賑わっていた会場が一瞬で静まり返ると、会場に再び明かりが灯りクラウスがパーティーに集まった客人にお礼の言葉を述べる。
「皆様の為に、余興をご用意致しました。存分にお楽しみ下さい」
挨拶が終わり、ユリウスが居る場所に近い扉を、使用人達がゆっくりと開ける。扉が完全に開くと、其処には純白のドレスを纏った誰かが立っていた。
その者は後ろから誰かに突き飛ばされたのか、勢い良く会場へと足を踏み入れる。転びそうになりつつも、何とか阻止し、息を整え、ゆっくりと顔を上げた。
「え?」
顔を見た瞬間、ユリウスだけでなく、クラウスも驚き目を見開いた。艶やかな金色の髪、パッチリとした青い瞳。ほんのりと赤く染まった頬に、光沢のある唇。薄く化粧の施された彼は、普段の彼とは全くの別人だ。鈴によく似てはいるが、鈴ではない。
「シンデレラって……何だっけ?」
会場に現れたのは鈴と同じ髪と目の色をした夕だった。金髪の鬘を被され、目には青いカラコン。白い純白のドレスを着せられ、装飾品も付けられた。
本来の予定であれば、此処に登場するのは鈴の筈だった。だからこそ、ユリウスとクラウスは驚いたのだ。夕が会場に現れた事に……
一方、夕も夕で戸惑っていた。本当なら、裏方で料理の手伝いや食器の入れ替え等の雑用をする筈が、気が付けば綺麗に着飾られ、会場に放り込まれたのだ。しかし、場違いだと分かっていても、会場から逃げようと考えても、夕が会場から抜け出すことは叶わなかった。
「一曲、お相手して頂けませんか? 美しい私のシンデレラ」
スッと手を差し出し、夕の答えを聞かずに、ユリウスは夕の手を取る。花が綻ぶような柔らかな笑みを向け、夕の腰に優しく手を添えた。
抵抗する暇もなく、物凄く恥ずかしい口説き文句を言われ、ドキリと胸が高鳴る。ユリウスが笑う事は滅多になく、不意打ちで満面の笑みを見せられ、一気に顔が赤く染まった。
相手が、夕でなければ……
「済みません。シンデレラって呼ばないで下さい。その言葉を聞くと……うっ……」
忘れることなかれ。夕は恋愛に関して、超が付く程の鈍感であると言う事を。彼の頭の中は『シンデレラ』と言う言葉で一杯なのだ。学校でのトラウマを思い出し、夕は顔を真っ青にして、ユリウスに身を委ねる。
具合の悪そうな夕を心配しながらも、自分に身を寄せてくれる事が嬉しくて、ユリウスは優しい笑みを浮かべたままだった。
パーティーが開催される数時間前の事。突然鈴に声を掛けられ、振り返ろうとした時、口元に布を押し当てられ、夕は意識を失った。
「おはよう。シンデレラ」
目覚めた時に夕が最初に見たのは、化粧道具を両手に持ち、満面の笑みを浮かべた鈴だった。混濁とした意識がはっきりして来ると、夕はハッとして立ち上がろうとするが、即座に元の位置へ戻されてしまう。
「ダメだよ、シンデレラ。まだ魔法を掛けている途中なんだから、大人しくしてて?」
「魔法って、完全に物り『何か言った?』……」
鈴に逆らう事が出来ず、夕は鈴に強引に物理と言う名の魔法を掛けられてしまった。鈴に魔法を掛けられる事、数十分。大きな鏡には自分とは程遠い容姿をした、鈴によく似た可愛らしいお姫様の姿が映し出されていた。
顔には薄く化粧を施され、身に纏うは純白のドレス。金髪の鬘を被せられ、何処から手に入れてきたのか、目には青いカラコンを入れられた。青い花をモチーフとした髪飾りを差し、首にはダイヤのネックレス。何処から調達して来たのか、ガラスの靴まで用意されており、問答無用で履かされてしまった。
シンプルなデザインのドレスや装飾品は、繊細な模様の刺繍が細部にまで行き届いており、小さな宝石が幾つも散りばめられている。鏡に映るドレスや装飾品を眺め、高そうだなぁと、夕は現実逃避した。
「舞踏会が始まるから、一緒に行こう?」
「舞踏会?」
「ほら早くっ!」
鈴に手を掴まれ、半ば強引に部屋から連れ出される。大きく広い廊下を数分ほど歩くと、大きな扉の前に辿り着く。扉の向こうでパーティーが開かれているらしく、人々の賑わう声や楽器を演奏している音が聞こえる。
「もう直ぐ扉が開く。存分に楽しんで来いよ。シンデレラ」
「嫌、あの、鈴さん? 一体何の話を……」
「舞踏会へと洒落込もうじゃねぇか。なぁ、シンデレラ?」
「あの、鈴さん、話を……」
「安心しろ。十二時の鐘が鳴っても、その魔法は解けない」
「コレ、魔法じゃねーだろ? お前のは魔法(物理)だろ」
「あっ、扉が開くよ?」
「ちょ、鈴、人の話を……」
無慈悲に開く扉。高級なドレスと宝石を身に纏った人々の視線は、夕の立っている扉へと注がれている。いきなり注目の的にされた夕は緊張のあまり足が竦み一歩も歩けない。「無理」「俺には無理」と弱音を吐く夕に痺れを切らし、鈴は彼の背中を思いっきり蹴飛ばした。
「存分に楽しんできてね!
ユ ウ お に い ち ゃ ん !」
満面の笑みを浮かべる鈴の姿は、本物の天使のように見える。しかし、夕には悪魔が嘲笑っているようにしか見えず、心の中で「こんの悪魔ぁああああああああっ!」と叫んだ。
そんな経緯があり、夕はユリウスと社交ダンスを踊っていると言う訳だ。ユリウスに手を引かれ、何時の間にか腰に手を添えられ、気が付くとユリウスと踊っていた。
家や学校で社交ダンスを習っていた為、踊りに関しては全く問題はなかった。しかし、踊り以外に問題があった。ユリウスとの距離が非常に近い事だ。
至近距離でユリウスの顔を直視出来てしまい、夕は戸惑う。何時見てもユリウスは美麗で、夕を見詰める瞳はとても優しい。
使用人達からユリウスは滅多に笑わないと聞かされていたが、夕はユリウスの笑顔しか見た事がない。今も無邪気な子どものように笑っている。心から楽しいと、嬉しいと思っている笑顔を、夕に向けている。
同性でも見惚れる程の美貌を持つユリウスの笑顔は、格好良いと言うより、可愛い部類に入る。背が高く、体格も良いユリウスに、可愛いと言うのも可笑しな話だが、夕はそう思ってしまった。
「かわいい」
無意識の内に、夕は声に出していたらしい。夕の小さな呟きを聞き取ったユリウスは綺麗に微笑むと夕を引き寄せ、彼の耳元に口を寄せる。
「可愛いのは貴方です」
「ひゃう!」
甘く蕩けるような声色で囁かれ、ドクンッと心臓の音が大きくなる。頬が赤く染まり、夕は自分の身に何が起こっているのか分からず、戸惑う事しか出来なかった。
俺、やっぱり、何かの病気かな……
此処に鈴が居れば、即座に「病は病でも、お前のソレは恋の病だ」と言い捨てるだろう。残念な事に、この場に鈴はいない。第三者が見れば一目瞭然だと言うのに、自分がユリウスに恋をしているとは、夕は微塵にも思わなかった。
青と白をベースとした貴族の衣装を纏うユリウスに、彼等は釘付けになっていた。美麗な容姿に、凛とした佇まい。涼しげな表情が魅力的で、ユリウスが些細な動作をするだけで、周囲の者達は黄色い声を上げる。
ユリウスを遠目で眺め、ユリウス様の婚約者になりたいと、娘、息子達は張り切って自分を着飾った。より可愛く、より美しく。ユリウスに選ばれたいと言う一心で、彼等は大金を湯水の様に使い、高級なドレスや大きな宝石で全身を着飾った。
ユリウスの婚約者を選ぶパーティーには、多くの貴族が出席し、王族貴族の親達はユリウスに近づき、自分の娘、息子を紹介した。
「是非とも私の子を婚約者に……」
「ユリウス様に相応しいのは家の子しかおりません」
行く先々で王族貴族に絡まれ、その度にユリウスは挨拶を交わし、やんわりと断って会場内を移動した。
王族貴族達との挨拶が終わった頃、突然会場の照明が消え、音楽もピタリと止まる。賑わっていた会場が一瞬で静まり返ると、会場に再び明かりが灯りクラウスがパーティーに集まった客人にお礼の言葉を述べる。
「皆様の為に、余興をご用意致しました。存分にお楽しみ下さい」
挨拶が終わり、ユリウスが居る場所に近い扉を、使用人達がゆっくりと開ける。扉が完全に開くと、其処には純白のドレスを纏った誰かが立っていた。
その者は後ろから誰かに突き飛ばされたのか、勢い良く会場へと足を踏み入れる。転びそうになりつつも、何とか阻止し、息を整え、ゆっくりと顔を上げた。
「え?」
顔を見た瞬間、ユリウスだけでなく、クラウスも驚き目を見開いた。艶やかな金色の髪、パッチリとした青い瞳。ほんのりと赤く染まった頬に、光沢のある唇。薄く化粧の施された彼は、普段の彼とは全くの別人だ。鈴によく似てはいるが、鈴ではない。
「シンデレラって……何だっけ?」
会場に現れたのは鈴と同じ髪と目の色をした夕だった。金髪の鬘を被され、目には青いカラコン。白い純白のドレスを着せられ、装飾品も付けられた。
本来の予定であれば、此処に登場するのは鈴の筈だった。だからこそ、ユリウスとクラウスは驚いたのだ。夕が会場に現れた事に……
一方、夕も夕で戸惑っていた。本当なら、裏方で料理の手伝いや食器の入れ替え等の雑用をする筈が、気が付けば綺麗に着飾られ、会場に放り込まれたのだ。しかし、場違いだと分かっていても、会場から逃げようと考えても、夕が会場から抜け出すことは叶わなかった。
「一曲、お相手して頂けませんか? 美しい私のシンデレラ」
スッと手を差し出し、夕の答えを聞かずに、ユリウスは夕の手を取る。花が綻ぶような柔らかな笑みを向け、夕の腰に優しく手を添えた。
抵抗する暇もなく、物凄く恥ずかしい口説き文句を言われ、ドキリと胸が高鳴る。ユリウスが笑う事は滅多になく、不意打ちで満面の笑みを見せられ、一気に顔が赤く染まった。
相手が、夕でなければ……
「済みません。シンデレラって呼ばないで下さい。その言葉を聞くと……うっ……」
忘れることなかれ。夕は恋愛に関して、超が付く程の鈍感であると言う事を。彼の頭の中は『シンデレラ』と言う言葉で一杯なのだ。学校でのトラウマを思い出し、夕は顔を真っ青にして、ユリウスに身を委ねる。
具合の悪そうな夕を心配しながらも、自分に身を寄せてくれる事が嬉しくて、ユリウスは優しい笑みを浮かべたままだった。
パーティーが開催される数時間前の事。突然鈴に声を掛けられ、振り返ろうとした時、口元に布を押し当てられ、夕は意識を失った。
「おはよう。シンデレラ」
目覚めた時に夕が最初に見たのは、化粧道具を両手に持ち、満面の笑みを浮かべた鈴だった。混濁とした意識がはっきりして来ると、夕はハッとして立ち上がろうとするが、即座に元の位置へ戻されてしまう。
「ダメだよ、シンデレラ。まだ魔法を掛けている途中なんだから、大人しくしてて?」
「魔法って、完全に物り『何か言った?』……」
鈴に逆らう事が出来ず、夕は鈴に強引に物理と言う名の魔法を掛けられてしまった。鈴に魔法を掛けられる事、数十分。大きな鏡には自分とは程遠い容姿をした、鈴によく似た可愛らしいお姫様の姿が映し出されていた。
顔には薄く化粧を施され、身に纏うは純白のドレス。金髪の鬘を被せられ、何処から手に入れてきたのか、目には青いカラコンを入れられた。青い花をモチーフとした髪飾りを差し、首にはダイヤのネックレス。何処から調達して来たのか、ガラスの靴まで用意されており、問答無用で履かされてしまった。
シンプルなデザインのドレスや装飾品は、繊細な模様の刺繍が細部にまで行き届いており、小さな宝石が幾つも散りばめられている。鏡に映るドレスや装飾品を眺め、高そうだなぁと、夕は現実逃避した。
「舞踏会が始まるから、一緒に行こう?」
「舞踏会?」
「ほら早くっ!」
鈴に手を掴まれ、半ば強引に部屋から連れ出される。大きく広い廊下を数分ほど歩くと、大きな扉の前に辿り着く。扉の向こうでパーティーが開かれているらしく、人々の賑わう声や楽器を演奏している音が聞こえる。
「もう直ぐ扉が開く。存分に楽しんで来いよ。シンデレラ」
「嫌、あの、鈴さん? 一体何の話を……」
「舞踏会へと洒落込もうじゃねぇか。なぁ、シンデレラ?」
「あの、鈴さん、話を……」
「安心しろ。十二時の鐘が鳴っても、その魔法は解けない」
「コレ、魔法じゃねーだろ? お前のは魔法(物理)だろ」
「あっ、扉が開くよ?」
「ちょ、鈴、人の話を……」
無慈悲に開く扉。高級なドレスと宝石を身に纏った人々の視線は、夕の立っている扉へと注がれている。いきなり注目の的にされた夕は緊張のあまり足が竦み一歩も歩けない。「無理」「俺には無理」と弱音を吐く夕に痺れを切らし、鈴は彼の背中を思いっきり蹴飛ばした。
「存分に楽しんできてね!
ユ ウ お に い ち ゃ ん !」
満面の笑みを浮かべる鈴の姿は、本物の天使のように見える。しかし、夕には悪魔が嘲笑っているようにしか見えず、心の中で「こんの悪魔ぁああああああああっ!」と叫んだ。
そんな経緯があり、夕はユリウスと社交ダンスを踊っていると言う訳だ。ユリウスに手を引かれ、何時の間にか腰に手を添えられ、気が付くとユリウスと踊っていた。
家や学校で社交ダンスを習っていた為、踊りに関しては全く問題はなかった。しかし、踊り以外に問題があった。ユリウスとの距離が非常に近い事だ。
至近距離でユリウスの顔を直視出来てしまい、夕は戸惑う。何時見てもユリウスは美麗で、夕を見詰める瞳はとても優しい。
使用人達からユリウスは滅多に笑わないと聞かされていたが、夕はユリウスの笑顔しか見た事がない。今も無邪気な子どものように笑っている。心から楽しいと、嬉しいと思っている笑顔を、夕に向けている。
同性でも見惚れる程の美貌を持つユリウスの笑顔は、格好良いと言うより、可愛い部類に入る。背が高く、体格も良いユリウスに、可愛いと言うのも可笑しな話だが、夕はそう思ってしまった。
「かわいい」
無意識の内に、夕は声に出していたらしい。夕の小さな呟きを聞き取ったユリウスは綺麗に微笑むと夕を引き寄せ、彼の耳元に口を寄せる。
「可愛いのは貴方です」
「ひゃう!」
甘く蕩けるような声色で囁かれ、ドクンッと心臓の音が大きくなる。頬が赤く染まり、夕は自分の身に何が起こっているのか分からず、戸惑う事しか出来なかった。
俺、やっぱり、何かの病気かな……
此処に鈴が居れば、即座に「病は病でも、お前のソレは恋の病だ」と言い捨てるだろう。残念な事に、この場に鈴はいない。第三者が見れば一目瞭然だと言うのに、自分がユリウスに恋をしているとは、夕は微塵にも思わなかった。
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