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第1章
複雑な人間関係2
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二人が城に戻ると、案の定、クラウスが笑顔で扉の前に立っていた。二人に「お帰りなさい」と挨拶をした後、クラウスは笑顔のまま「随分と遅かったですね」と言う。
クラウスに今迄の事を簡潔に説明すると、リベルテは足早にその場から立ち去ろうとする。
「リベル。帰って来たのならユリウス様に報告なさいと何度も……待ちなさい! リベル!」
クラウスの注意の言葉も聞かず、リベルテは去って行ってしまった。
「全く、あの子は……」
去って行ったリベルテの姿を眺め、深い溜息を吐くクラウスの姿は、まるで問題児を抱えた母親の様だ。鬘と眼鏡を外しながらクラウスを眺め、夕は思わず「お母さん?」と呟いてしまう。瞬間、クラウスが振り返り、笑顔のまま「何か言いましたか?」と夕に問う。
優しい笑顔の筈なのに、やはり何処か黒さを含んだクラウスの笑みに恐怖を感じ、夕は慌てて「何でもありません!」と言ってクラウスとの距離を取る。しかし、クラウスは夕に近づくと、何の前触れも無く手を握った。瞬間、手から鬘と眼鏡が落ちる。
いきなり手を握られ、驚く暇もなく、クラウスは夕の手を握ったまま城の中へ入って行く。落ちた鬘と眼鏡を素早く片付ける使用人達にお礼も言えないまま、クラウスは綺麗な笑みを浮かべて「部屋までご案内します」と言って優雅に歩き始めた。
「リベルと何か話しましたか?」
宮殿の様な豪華で広い廊下を歩いている時、クラウスにそう聞かれ、夕はリベルテとの会話を思い出す。リベルテとは世間話をしただけだと夕が答えると、クラウスは「そうですか」と言って話を続けた。
「彼と話していて、何か疑問に思いませんでしたか?」
「疑問、ですか?」
「えぇ。ユリウス様に対する態度、とか」
「…………」
クラウスはリベルテとユリウスの事を良く知っているのだろう。ユリウスが子どもだった頃から、ずっとユリウスに仕えていると言う話を思い出す。
ユリウスに長年仕えている従者なら、リベルテがユリウスを敵視する理由も、クラウスは知っているに違いない。
そう思いはするものの、自分が踏み込んではならない領域だと思い夕は口を噤む。二人の事は気になるが、リベルテの憎しみに満ちた表情を思い出すと、聞くべきではないと判断した。
「兄弟喧嘩、と言ってました。些細な理由で、と」
リベルテが言っていた言葉を、夕はクラウスに伝えた。クラウスは夕の言葉を復唱し「まだ、あの子の事を引きずっているのですね」と呟く。
クラウスの言葉に更に疑問を抱くが、夕は知りたいと言う気持ちを抑え、「でも『自慢の兄だった』とも……」と言って話を逸らす事にした。
「ユリウス様は、凄い方ですね。美形で、性格も良くて、王子様で、皆から慕われていて……」
「ユリウス様が幼かった頃は、大変苦労しました」
「噂で聞きました。ユリウス様は、髪の色が原因で周りから命を狙われていたと」
「えぇ。この国では、銀と黒を持つ者は『不幸を招く』と言われていますから。銀髪は月の夜に産まれた証でもあるのです。この世界では、十五年に一度だけ月が出るのです。月は『不吉の象徴』と言われています。ですから、月の夜に産まれた子はバケモノが憑いた子『ツキモノ』と呼ばれ、忌み嫌われていました」
「ツキモノ、ですか……」
ユリウスの説明を聞き、夕は夢の中で助けた子供の事を思い出す。何人もの兵士に命を狙われ、自分の事を「バケモノ」と言っていた。
呪われたツキモノと、涙を流して叫んでいた事を思い出し、夕はその子どもに会いたくなった。
「銀色の髪を持つ方はユリウス様しか居りません」
クラウスの言葉に夕は驚き疑問を抱く。銀色の髪に蒼い目をした子どもの事を聞くが、クラウスは「銀髪の方はユリウス様、一人しか存在しません」と言う。
そんな筈はないと思うも、クラウスが言っている事は真実だ。この世界に来て、銀色の髪に蒼い目をした子どもを、夕は一度も目にしていない。ユリウスの妹だとばかり思っていた夕は、子どもが無事かどうか気になった。
ちゃんと生きているのか、悲しんでいないか、命を狙われていないか……
「大丈夫、かな」と、悲しそうな表情をして呟く夕の姿を視界に入れ、クラウスは夕に何も言わず、ゆっくりと足を進めた。
「此処は……」
クラウスに手を引かれ、案内されたのは鈴の部屋では無く、2人が最初に居た神殿の様な部屋だった。
日は沈み切り、神殿の天井を見上げると、満天の星空が夜を覆い尽くしていた。握っていた夕の手を離すと、クラウスはランプに火を灯し、神殿の中を照らす。
「もう少しだけ、私の話に付き合って頂いても宜しいですか?」
そう言って、クラウスは夕に優しく微笑んだ。断る理由も無いので、夕は「はい」と答える。クラウスは天井を見上げ、口を開いた。
「銀色の髪に蒼い目をした子どもの事を気にしているようですが、何かあったのですか?」
「えっ? あ、その、信じて貰えないと思うんですけど、子どもを助けた事があるんです。夢の中で、ですけど……」
「夢、ですか?」
「はい。命を狙われていたみたいで、子どもに何て事をって思って……」
「子どもなら、貴方は誰でも助けるのですか?」
「多分、助けると思います」
「何故ですか?」
「何故って、護るべき存在だから?」
「…………」
「あの子、泣いてたんです。自分の事を『バケモノ』だと『呪われたツキモノ』と言って……自分の存在を否定したくなる程、追い詰められた状態だったんです」
「…………」
「俺、どうしても放って置けなくて、あの子を安心させたくて、生きてほしくて……どうすれば元気になってくれるだろうって、何をすれば笑ってくれるだろうって、そればかり考えてて……」
「それで『産まれて来てくれて、ありがとう』ですか……」
「っ」
子どもに言った台詞を言い当てられ、夕は驚き、クラウスを凝視する。「よく分かりましたね」と夕が感心していると、クラウスは悲しそうな表情をし、ゆっくりと話し始めた。
「幼かった頃のユリウス様と、境遇が似ていましたから……」
「ユリウス様も?」
「えぇ。髪の色が原因で。あの頃の私とユリウス様は、非常に険悪な仲でした」
「え? 仲、悪かったんですか?」
「それはもう。あの頃の私は、ユリウス様ではなく、ユリウス様の肩書きを守る事に必死だったのです。ユリウス様は、この世界にとって、とても重要な方の一人でしたから。自分の身は自分で守れる様に教育しておりました。何時、誰が敵になっても、動揺することなく、冷静に判断できる様に……」
「英才教育ですか?」
「それが妥当な言葉でしょうね。ですが、私の教育は、幼いユリウス様には厳し過ぎたのです。褒める事はせず、甘えも一切許さず、弱点を克服する事ばかり指摘し続けました。ユリウス様の心が、悲鳴を上げている事には全く気付かずに……」
「…………」
「ユリウス様が兵士達に襲われたと報告を受けたのは、丁度その頃でした。命を狙われ、ユリウス様が殺されそうになった時、ユリウス様を救って下さった方が居たんです。その方は、会って間もない赤の他人同然のユリウス様の命を救い、心をも救って下さいました」
「…………」
「私は、二人の様子を物陰から見守る事しか出来ませんでした。ユリウス様の本心を聞き、あの方の言葉を聞き、其処で漸く、最も重要な事を忘れていた事に気付いたんです。ユリウス様は、とても重要な存在である以前に、大人が護らなければならない、幼い子どもである事を。厳しさや突き放すような冷たい言葉ではなく、人の温もりと安心出来る優しい言葉が、ユリウス様に必要だった事を……あの方は、教えて下さったんです」
「そう、だったんですか」
クラウスの話を聞き、確かに似ていると思った。夕が助けた子どもと、幼い頃のユリウスの境遇は酷似していた。銀色の髪に、蒼い目をした子ども。髪と目の色も、ユリウスと同じ……偶然にしては共通点が多過ぎると、夕は思った。
「あの方と出会って以来、ユリウス様は必死に努力なさいました。『あの方に無様な姿は見せられない』と仰って……」
「ユリウス様が、ですか?」
「とても一途なんです。ユリウス様が考えるのは、何時も『あの方』の事ばかり。他の事には全く興味を示さず、常に無表情だと言うのに……貴方と出会ってから、ユリウス様はとても嬉しそうです」
ユリウスの過去をクラウスから聞き、夕は幼いユリウスを助けた人物について考えていた。ユリウスが今でも会いたいと思う程、幼い彼に生きる希望を与えた人物。
どんな人か非常に気になる。この世界の何処かに居るだろうか。あの子どもも、若しかしたら、その人に保護されているかもしれない。
「クラウスさん! ユリウス様を救った人を探すの、手伝っても良いですか!」
「はい!?」
クラウスは言った。ユリウスは夕と出会ってからずっと嬉しそうだと。しかし、夕はクラウスの話を最後まで聞いていなかったらしく、ユリウスを救った人は他に居ると考えてしまっていた。
夕の事をずっと話していたと言うのに、夕はその事に全く気付かなかった。狼狽えるクラウスの手を取り、夕は「俺も会ってみたいです!」と目を輝かせながら言う。
それ、お前だよ。他に誰が居る?
思わず敬語も忘れ、本音をぶち撒けそうになるのを我慢し、クラウスは苦笑いを浮かべる。真実を伝えようとするも、タイミングを逃し「この城に居るのは、確かですよ」と、伝えるのが精一杯だった。
クラウスに今迄の事を簡潔に説明すると、リベルテは足早にその場から立ち去ろうとする。
「リベル。帰って来たのならユリウス様に報告なさいと何度も……待ちなさい! リベル!」
クラウスの注意の言葉も聞かず、リベルテは去って行ってしまった。
「全く、あの子は……」
去って行ったリベルテの姿を眺め、深い溜息を吐くクラウスの姿は、まるで問題児を抱えた母親の様だ。鬘と眼鏡を外しながらクラウスを眺め、夕は思わず「お母さん?」と呟いてしまう。瞬間、クラウスが振り返り、笑顔のまま「何か言いましたか?」と夕に問う。
優しい笑顔の筈なのに、やはり何処か黒さを含んだクラウスの笑みに恐怖を感じ、夕は慌てて「何でもありません!」と言ってクラウスとの距離を取る。しかし、クラウスは夕に近づくと、何の前触れも無く手を握った。瞬間、手から鬘と眼鏡が落ちる。
いきなり手を握られ、驚く暇もなく、クラウスは夕の手を握ったまま城の中へ入って行く。落ちた鬘と眼鏡を素早く片付ける使用人達にお礼も言えないまま、クラウスは綺麗な笑みを浮かべて「部屋までご案内します」と言って優雅に歩き始めた。
「リベルと何か話しましたか?」
宮殿の様な豪華で広い廊下を歩いている時、クラウスにそう聞かれ、夕はリベルテとの会話を思い出す。リベルテとは世間話をしただけだと夕が答えると、クラウスは「そうですか」と言って話を続けた。
「彼と話していて、何か疑問に思いませんでしたか?」
「疑問、ですか?」
「えぇ。ユリウス様に対する態度、とか」
「…………」
クラウスはリベルテとユリウスの事を良く知っているのだろう。ユリウスが子どもだった頃から、ずっとユリウスに仕えていると言う話を思い出す。
ユリウスに長年仕えている従者なら、リベルテがユリウスを敵視する理由も、クラウスは知っているに違いない。
そう思いはするものの、自分が踏み込んではならない領域だと思い夕は口を噤む。二人の事は気になるが、リベルテの憎しみに満ちた表情を思い出すと、聞くべきではないと判断した。
「兄弟喧嘩、と言ってました。些細な理由で、と」
リベルテが言っていた言葉を、夕はクラウスに伝えた。クラウスは夕の言葉を復唱し「まだ、あの子の事を引きずっているのですね」と呟く。
クラウスの言葉に更に疑問を抱くが、夕は知りたいと言う気持ちを抑え、「でも『自慢の兄だった』とも……」と言って話を逸らす事にした。
「ユリウス様は、凄い方ですね。美形で、性格も良くて、王子様で、皆から慕われていて……」
「ユリウス様が幼かった頃は、大変苦労しました」
「噂で聞きました。ユリウス様は、髪の色が原因で周りから命を狙われていたと」
「えぇ。この国では、銀と黒を持つ者は『不幸を招く』と言われていますから。銀髪は月の夜に産まれた証でもあるのです。この世界では、十五年に一度だけ月が出るのです。月は『不吉の象徴』と言われています。ですから、月の夜に産まれた子はバケモノが憑いた子『ツキモノ』と呼ばれ、忌み嫌われていました」
「ツキモノ、ですか……」
ユリウスの説明を聞き、夕は夢の中で助けた子供の事を思い出す。何人もの兵士に命を狙われ、自分の事を「バケモノ」と言っていた。
呪われたツキモノと、涙を流して叫んでいた事を思い出し、夕はその子どもに会いたくなった。
「銀色の髪を持つ方はユリウス様しか居りません」
クラウスの言葉に夕は驚き疑問を抱く。銀色の髪に蒼い目をした子どもの事を聞くが、クラウスは「銀髪の方はユリウス様、一人しか存在しません」と言う。
そんな筈はないと思うも、クラウスが言っている事は真実だ。この世界に来て、銀色の髪に蒼い目をした子どもを、夕は一度も目にしていない。ユリウスの妹だとばかり思っていた夕は、子どもが無事かどうか気になった。
ちゃんと生きているのか、悲しんでいないか、命を狙われていないか……
「大丈夫、かな」と、悲しそうな表情をして呟く夕の姿を視界に入れ、クラウスは夕に何も言わず、ゆっくりと足を進めた。
「此処は……」
クラウスに手を引かれ、案内されたのは鈴の部屋では無く、2人が最初に居た神殿の様な部屋だった。
日は沈み切り、神殿の天井を見上げると、満天の星空が夜を覆い尽くしていた。握っていた夕の手を離すと、クラウスはランプに火を灯し、神殿の中を照らす。
「もう少しだけ、私の話に付き合って頂いても宜しいですか?」
そう言って、クラウスは夕に優しく微笑んだ。断る理由も無いので、夕は「はい」と答える。クラウスは天井を見上げ、口を開いた。
「銀色の髪に蒼い目をした子どもの事を気にしているようですが、何かあったのですか?」
「えっ? あ、その、信じて貰えないと思うんですけど、子どもを助けた事があるんです。夢の中で、ですけど……」
「夢、ですか?」
「はい。命を狙われていたみたいで、子どもに何て事をって思って……」
「子どもなら、貴方は誰でも助けるのですか?」
「多分、助けると思います」
「何故ですか?」
「何故って、護るべき存在だから?」
「…………」
「あの子、泣いてたんです。自分の事を『バケモノ』だと『呪われたツキモノ』と言って……自分の存在を否定したくなる程、追い詰められた状態だったんです」
「…………」
「俺、どうしても放って置けなくて、あの子を安心させたくて、生きてほしくて……どうすれば元気になってくれるだろうって、何をすれば笑ってくれるだろうって、そればかり考えてて……」
「それで『産まれて来てくれて、ありがとう』ですか……」
「っ」
子どもに言った台詞を言い当てられ、夕は驚き、クラウスを凝視する。「よく分かりましたね」と夕が感心していると、クラウスは悲しそうな表情をし、ゆっくりと話し始めた。
「幼かった頃のユリウス様と、境遇が似ていましたから……」
「ユリウス様も?」
「えぇ。髪の色が原因で。あの頃の私とユリウス様は、非常に険悪な仲でした」
「え? 仲、悪かったんですか?」
「それはもう。あの頃の私は、ユリウス様ではなく、ユリウス様の肩書きを守る事に必死だったのです。ユリウス様は、この世界にとって、とても重要な方の一人でしたから。自分の身は自分で守れる様に教育しておりました。何時、誰が敵になっても、動揺することなく、冷静に判断できる様に……」
「英才教育ですか?」
「それが妥当な言葉でしょうね。ですが、私の教育は、幼いユリウス様には厳し過ぎたのです。褒める事はせず、甘えも一切許さず、弱点を克服する事ばかり指摘し続けました。ユリウス様の心が、悲鳴を上げている事には全く気付かずに……」
「…………」
「ユリウス様が兵士達に襲われたと報告を受けたのは、丁度その頃でした。命を狙われ、ユリウス様が殺されそうになった時、ユリウス様を救って下さった方が居たんです。その方は、会って間もない赤の他人同然のユリウス様の命を救い、心をも救って下さいました」
「…………」
「私は、二人の様子を物陰から見守る事しか出来ませんでした。ユリウス様の本心を聞き、あの方の言葉を聞き、其処で漸く、最も重要な事を忘れていた事に気付いたんです。ユリウス様は、とても重要な存在である以前に、大人が護らなければならない、幼い子どもである事を。厳しさや突き放すような冷たい言葉ではなく、人の温もりと安心出来る優しい言葉が、ユリウス様に必要だった事を……あの方は、教えて下さったんです」
「そう、だったんですか」
クラウスの話を聞き、確かに似ていると思った。夕が助けた子どもと、幼い頃のユリウスの境遇は酷似していた。銀色の髪に、蒼い目をした子ども。髪と目の色も、ユリウスと同じ……偶然にしては共通点が多過ぎると、夕は思った。
「あの方と出会って以来、ユリウス様は必死に努力なさいました。『あの方に無様な姿は見せられない』と仰って……」
「ユリウス様が、ですか?」
「とても一途なんです。ユリウス様が考えるのは、何時も『あの方』の事ばかり。他の事には全く興味を示さず、常に無表情だと言うのに……貴方と出会ってから、ユリウス様はとても嬉しそうです」
ユリウスの過去をクラウスから聞き、夕は幼いユリウスを助けた人物について考えていた。ユリウスが今でも会いたいと思う程、幼い彼に生きる希望を与えた人物。
どんな人か非常に気になる。この世界の何処かに居るだろうか。あの子どもも、若しかしたら、その人に保護されているかもしれない。
「クラウスさん! ユリウス様を救った人を探すの、手伝っても良いですか!」
「はい!?」
クラウスは言った。ユリウスは夕と出会ってからずっと嬉しそうだと。しかし、夕はクラウスの話を最後まで聞いていなかったらしく、ユリウスを救った人は他に居ると考えてしまっていた。
夕の事をずっと話していたと言うのに、夕はその事に全く気付かなかった。狼狽えるクラウスの手を取り、夕は「俺も会ってみたいです!」と目を輝かせながら言う。
それ、お前だよ。他に誰が居る?
思わず敬語も忘れ、本音をぶち撒けそうになるのを我慢し、クラウスは苦笑いを浮かべる。真実を伝えようとするも、タイミングを逃し「この城に居るのは、確かですよ」と、伝えるのが精一杯だった。
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