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第1章

完璧な王子様1

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 銀糸のような艶やかな髪。輝く宝石のような美しい蒼い瞳。整った顔立ちにスタイル抜群で高身長。白と青をベースとした貴族のような衣装も良く似合う。

 涼しげな表情が更に魅力的で、イケメンは何をしてもイケメンだなぁ、と鈴と話す銀髪の男を物陰から眺め、夕は思った。

 ソレイユ国第一王子。名をユリウス・ルミエール。武術や剣術は勿論、政治や医学の知識も有り、何をさせても全て完璧にこなす事から「理想の王子様」「完璧な王子様」と呼ばれている。

 昔は髪の色が原因で辛い思いをしていたらしいのだが、ある日を境に必死に努力し、誰からも親しまれる王子様になったと言う。本物の王子様はやっぱり凄いなぁ、と夕が感心していた時、突然ユリウスが夕の方へ視線を向ける。

「其処に居るのは誰だ」
「ひ!?」

 隠れている事がバレてしまい、夕はビクッと肩を震わせる。どうするか考える暇もなく、足音が大きくなり、更に焦る。

 バレてる!? ど、どうすればっ、お、落ち着け、此処は素直に名乗り出てだな……

 いや、出たら殺されるんじゃ。兵士やら使用人やら、その他諸々に存在自体を完全否定されてるし……こうして死角になる小さな物置部屋に隠れたのもこれ以上面倒事に巻き込まれないようにする為だし……なら、出ない方が……

 扉と睨めっこをし、悩んでいた時、無慈悲にも扉が勢い良く開かれ、扉に体重を掛けて立っていた夕はバランスを崩しその場に倒れ込む。来るであろう衝撃に耐え、強く目を閉じるが、何時まで経っても痛みは来ない。不思議に思い目を開け、ゆっくりと視線を上げると、王子様の美しい顔が直ぐ近くにあった。

「え?」

 自分と相手の状況を確認し、倒れそうになった所を目の前の王子様が抱き留め、支えてくれた事に夕は気付く。至近距離で美麗な王子様に見詰められ、一瞬ドキリと胸が高鳴る。

 さらさらの銀色の髪、宝石のような綺麗な蒼い瞳、至近距離で見ても王子様は物凄くイケメンで……

 動揺からか、羞恥からか、後悔からか、夕は美麗な王子様に抱き留められている状況に耐え切れず、恋愛初心者の乙女の如く悲鳴を上げる。パニックに陥り、思わず自分を助けてくれた王子様を突き飛ばしてしまった。

 王子様が、泣きそうな表情をして夕を見詰めていた事には気付かずに……





 王子様を突き飛ばしてしまったと気付いた瞬間、夕は顔を真っ青にして謝り続けた。

「本当にっ、本っ当に申し訳ありませんでした!」
「…………」

 ユリウスが「何故あんな所に」と問うと、夕は気まずそうな顔をしてポツリポツリと理由を話し始めた。

「俺、此処の人達にあまり良く思われてなくて、鈴……神子様と一緒に居ると周りの反応が結構冷たくて……だから、その、俺がこの国の王子様と話したり、一緒に居たりすると、余計風当たりが強くなるんじゃないかって思って、あの物置部屋に隠れて様子を伺ってました、ゴメンナサイ」

 話を聞き終え「そうか」と一言告げると、ユリウスは夕と向き合い深々と頭を下げた。夕は勿論、事の経緯を見守っていた鈴も目を見開きユリウスを凝視する。

「済まなかった。私の監督不行き届きで、貴方に不安と苦痛を与えてしまった。城の者には見た目で判断しないよう教育をして来たつもりだったが、指導が足りなかったようだ。本当に済まない」

 頭を下げ謝罪を述べるユリウスに、夕は慌てて「頭を上げてください!」と言う。「全く気にしてませんから」と伝えると、ユリウスは漸く頭を上げてくれた。ずっと二人の様子を見ていた鈴は、ユリウスの名を呼び、口を開く。

「ユリウス様に謝らなければならないのは僕の方です。僕は自分が神子だと言う自覚はありませんし、そもそも神子になりたいとも思ってないんです。それに、アップルパイの事だって……」
「アップル、パイ?」
「はい。数日前、使用人の方がユリウス様の元へ来ませんでしたか?」
「…………」

 鈴に聞かれた瞬間、ユリウスは数日前の事を思い出し、鈴を見詰める。話を続ける為、鈴はゆっくりと口を開いた。

「実は、あのアップルパイを作ったのは僕じゃなくて、夕なんです。僕がアップルパイが食べたいって夕にお願いしたら作ってくれて……夕からアップルパイを受け取った直後に使用人の方達がやって来て、何時の間にか夕が作ったアップルパイは『僕がユリウス様の為に作ったアップルパイ』と言う話にすり替わってしまって……誤解を招くような事をしてしまって、本当にごめんなさい」

 頭を下げる鈴の姿に驚きつつも、ユリウスは「気にしなくて良い」と告げ、夕へ視線を向ける。アップルパイの事を聞くと、夕は照れたように笑い「本当です」と答える。

 そうか、と一言告げ、ユリウスは夕に名前を聞いた。一瞬、キョトンとするが、自分がまだ名乗ってない事に気付く。

「済みません。まだ名前を言ってなかったですね」

 夕です。朝槻夕。名前を知ると、ユリウスは心の中で夕の名を復唱する。

「……ユウ……」

 呟かれた声は甘く、慈しむような優しい微笑みに、夕は再びドキリと胸が高鳴る。

 王子様で、イケメンで、性格も良くて、完璧で、普段は決して表情を崩さないのに、ふとした時に見せる微笑みがたまらない。甘く蕩けるような笑顔を向けられ、自分の名を呼ばれれば、性別など関係なく誰だって恋に落ちてしまう。

 と言うのがユリウスに想いを寄せる者達の意見なのだが……

「俺、風邪でもひいたかな」
「…………」

 夕のその一言で、甘かった室内の雰囲気は一瞬で崩れ去った。余りにも鈍感な夕に鈴は頭を抱え、ユリウスは慌てて夕に近づき「具合が悪いなら……」と言って看病しようとする。鈴から見れば恋人同士がイチャついているようにしか見えないのに、二人はその事に気付かない。

 しかし、これはまだ序の口に過ぎない。今以上に夕の鈍感さに頭を悩ませるようになる事を、鈴はまだ知らない。
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