あまりものの神子《完結》

トキ

文字の大きさ
上 下
67 / 76

番外編「初恋」8【オーバン視点】

しおりを挟む
 その日の夜、私は夢の中で女神様にお願いされた。私の手でクウを幸せにしてほしい、と。クウは、あれから誰にも選ばれなかった。フェリシアン殿下に捨てられた神子という理由で、何度転生してもダメだったと女神様は語る。クウが転生するのは今回で十回目。この転生で誰にも選ばれなければ、もう転生しないと女神様と約束したそうだ。でも、女神様はクウにも幸せになってほしいと願っている。クウを幸せにできるのは、私しかいないと。

 だから、再び私達の国を選んだのだと女神様は教えてくれた。他の聖女と神子にも幸せになってほしいが、一番幸せになってほしいのはクウだと。当然、私は女神様に「任せてください」と言った。女神様に頼まれずとも、私はクウを幸せにしたい。私の、私自身の手で。

 そして迎えた儀式当日。神殿の大広間に並ぶ聖女様と神子様を一人一人見た。一番端、顔を下に向けて小刻みに震えている小柄な人。この私が見間違える筈がない。クウだ。ずっと、ずっと私の手で幸せにしたいと願っていた人。

「神官長。あの時の約束を覚えていますか? 私の想い人が現れたら、一番に私が選んでもいいと」
「オ、オーバン様!?」

 他の誰かに奪われる前にクウの手を取らないと。私は神官長を脅して最初に選ぶ権利を得た。まだ何かを言いたそうな神官長を睨み付ければ、ビクッと肩を震わせて「わ、分かりました。オーバン様の意思を尊重しましょう」と告げる。私が誰を選ぶのか不安なのだろう。彼らの思惑を知っている私が恐ろしいのだ。だから、私は敢えて神官長達が隠しておきたい秘密を少しだけ暴露した。

「ありがとうございます。神官長殿。ご安心ください。私が選ぶのは、貴方達が予め決めていた候補者ではありませんから」
「オーバン様! それは!」

 神官長が伴侶候補達から多額の金を受け取っていることは知っている。彼らの望む聖女を、神子を、神官長達と話し合って予め決めているのだ。誰が、誰を選ぶのか。神に仕える者が金と権力に酔ってどうする? 呆れつつも、私は彼らの反応を無視してクウの前に歩み出る。

 初めて会った時のような柔らかな微笑みはない。俯いて、ずっと何かに怯えている。そんな彼に手を差し出して片膝をつく。

「貴方が再び来てくれるのを、ずっと待っていました。神子様。どうか、私の伴侶になってくれませんか?」
「え?」

 求婚しているのが自分だと気付いて、クウは私を見てくれた。あの頃と変わらない綺麗な瞳だが、輝きはなく暗く澱んでいる。クウにそんな顔は似合わない。また、笑ってほしい。だから、どうか、どうか私の手を取って。お願いだから、私を選んで。

「オ、オーバン様! 何故、そのようなあまりものを選ぶのですか!?」
「そうです! オーバン様であれば、彼よりももっと相応しい方が……」

 大事な場面で邪魔をする神官長達に苛立ちを覚える。あまりもの? クウはあまりものなんかじゃない。女神様に愛された神子様を、神に仕える神官達が罵るなど言語道断だ。

「私が誰を選ぼうが私の勝手だ。邪魔をするなら、たとえ神官長殿でも斬るぞ?」
「ひぃ!」

 少し睨み付けただけで神官長達は怯えて何も言わなくなった。私は再びクウに向き合って「神子様、どうか手を」と、もう一度クウの前に手を差し出した。クウは戸惑いながらも、そっと私の手の上に自分の手を重ねた。選んでくれた。クウが、私を選んでくれた! 嬉しくて嬉しくて、私はクウの手を引いて、その小さな体を強く、強く抱きしめる。

「ありがとうございます。神子様。私が貴方を幸せにします。私は彼のように誰かに現を抜かして捨てたりなんかしません。生涯、貴方だけを愛することを誓います。クウ」
「え?」

 やっと、やっと取り戻せた。クウが、私の腕の中にいる。ずっと恋い焦がれていたクウが、私の伴侶になってくれた。もう二度と、この手を離さない。私が、クウを幸せにします。私の愛はかなり重いんです。覚悟してくださいね。クウ。



-end-
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

処理中です...