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番外編「初恋」8【オーバン視点】
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その日の夜、私は夢の中で女神様にお願いされた。私の手でクウを幸せにしてほしい、と。クウは、あれから誰にも選ばれなかった。フェリシアン殿下に捨てられた神子という理由で、何度転生してもダメだったと女神様は語る。クウが転生するのは今回で十回目。この転生で誰にも選ばれなければ、もう転生しないと女神様と約束したそうだ。でも、女神様はクウにも幸せになってほしいと願っている。クウを幸せにできるのは、私しかいないと。
だから、再び私達の国を選んだのだと女神様は教えてくれた。他の聖女と神子にも幸せになってほしいが、一番幸せになってほしいのはクウだと。当然、私は女神様に「任せてください」と言った。女神様に頼まれずとも、私はクウを幸せにしたい。私の、私自身の手で。
そして迎えた儀式当日。神殿の大広間に並ぶ聖女様と神子様を一人一人見た。一番端、顔を下に向けて小刻みに震えている小柄な人。この私が見間違える筈がない。クウだ。ずっと、ずっと私の手で幸せにしたいと願っていた人。
「神官長。あの時の約束を覚えていますか? 私の想い人が現れたら、一番に私が選んでもいいと」
「オ、オーバン様!?」
他の誰かに奪われる前にクウの手を取らないと。私は神官長を脅して最初に選ぶ権利を得た。まだ何かを言いたそうな神官長を睨み付ければ、ビクッと肩を震わせて「わ、分かりました。オーバン様の意思を尊重しましょう」と告げる。私が誰を選ぶのか不安なのだろう。彼らの思惑を知っている私が恐ろしいのだ。だから、私は敢えて神官長達が隠しておきたい秘密を少しだけ暴露した。
「ありがとうございます。神官長殿。ご安心ください。私が選ぶのは、貴方達が予め決めていた候補者ではありませんから」
「オーバン様! それは!」
神官長が伴侶候補達から多額の金を受け取っていることは知っている。彼らの望む聖女を、神子を、神官長達と話し合って予め決めているのだ。誰が、誰を選ぶのか。神に仕える者が金と権力に酔ってどうする? 呆れつつも、私は彼らの反応を無視してクウの前に歩み出る。
初めて会った時のような柔らかな微笑みはない。俯いて、ずっと何かに怯えている。そんな彼に手を差し出して片膝をつく。
「貴方が再び来てくれるのを、ずっと待っていました。神子様。どうか、私の伴侶になってくれませんか?」
「え?」
求婚しているのが自分だと気付いて、クウは私を見てくれた。あの頃と変わらない綺麗な瞳だが、輝きはなく暗く澱んでいる。クウにそんな顔は似合わない。また、笑ってほしい。だから、どうか、どうか私の手を取って。お願いだから、私を選んで。
「オ、オーバン様! 何故、そのようなあまりものを選ぶのですか!?」
「そうです! オーバン様であれば、彼よりももっと相応しい方が……」
大事な場面で邪魔をする神官長達に苛立ちを覚える。あまりもの? クウはあまりものなんかじゃない。女神様に愛された神子様を、神に仕える神官達が罵るなど言語道断だ。
「私が誰を選ぼうが私の勝手だ。邪魔をするなら、たとえ神官長殿でも斬るぞ?」
「ひぃ!」
少し睨み付けただけで神官長達は怯えて何も言わなくなった。私は再びクウに向き合って「神子様、どうか手を」と、もう一度クウの前に手を差し出した。クウは戸惑いながらも、そっと私の手の上に自分の手を重ねた。選んでくれた。クウが、私を選んでくれた! 嬉しくて嬉しくて、私はクウの手を引いて、その小さな体を強く、強く抱きしめる。
「ありがとうございます。神子様。私が貴方を幸せにします。私は彼のように誰かに現を抜かして捨てたりなんかしません。生涯、貴方だけを愛することを誓います。クウ」
「え?」
やっと、やっと取り戻せた。クウが、私の腕の中にいる。ずっと恋い焦がれていたクウが、私の伴侶になってくれた。もう二度と、この手を離さない。私が、クウを幸せにします。私の愛はかなり重いんです。覚悟してくださいね。クウ。
-end-
だから、再び私達の国を選んだのだと女神様は教えてくれた。他の聖女と神子にも幸せになってほしいが、一番幸せになってほしいのはクウだと。当然、私は女神様に「任せてください」と言った。女神様に頼まれずとも、私はクウを幸せにしたい。私の、私自身の手で。
そして迎えた儀式当日。神殿の大広間に並ぶ聖女様と神子様を一人一人見た。一番端、顔を下に向けて小刻みに震えている小柄な人。この私が見間違える筈がない。クウだ。ずっと、ずっと私の手で幸せにしたいと願っていた人。
「神官長。あの時の約束を覚えていますか? 私の想い人が現れたら、一番に私が選んでもいいと」
「オ、オーバン様!?」
他の誰かに奪われる前にクウの手を取らないと。私は神官長を脅して最初に選ぶ権利を得た。まだ何かを言いたそうな神官長を睨み付ければ、ビクッと肩を震わせて「わ、分かりました。オーバン様の意思を尊重しましょう」と告げる。私が誰を選ぶのか不安なのだろう。彼らの思惑を知っている私が恐ろしいのだ。だから、私は敢えて神官長達が隠しておきたい秘密を少しだけ暴露した。
「ありがとうございます。神官長殿。ご安心ください。私が選ぶのは、貴方達が予め決めていた候補者ではありませんから」
「オーバン様! それは!」
神官長が伴侶候補達から多額の金を受け取っていることは知っている。彼らの望む聖女を、神子を、神官長達と話し合って予め決めているのだ。誰が、誰を選ぶのか。神に仕える者が金と権力に酔ってどうする? 呆れつつも、私は彼らの反応を無視してクウの前に歩み出る。
初めて会った時のような柔らかな微笑みはない。俯いて、ずっと何かに怯えている。そんな彼に手を差し出して片膝をつく。
「貴方が再び来てくれるのを、ずっと待っていました。神子様。どうか、私の伴侶になってくれませんか?」
「え?」
求婚しているのが自分だと気付いて、クウは私を見てくれた。あの頃と変わらない綺麗な瞳だが、輝きはなく暗く澱んでいる。クウにそんな顔は似合わない。また、笑ってほしい。だから、どうか、どうか私の手を取って。お願いだから、私を選んで。
「オ、オーバン様! 何故、そのようなあまりものを選ぶのですか!?」
「そうです! オーバン様であれば、彼よりももっと相応しい方が……」
大事な場面で邪魔をする神官長達に苛立ちを覚える。あまりもの? クウはあまりものなんかじゃない。女神様に愛された神子様を、神に仕える神官達が罵るなど言語道断だ。
「私が誰を選ぼうが私の勝手だ。邪魔をするなら、たとえ神官長殿でも斬るぞ?」
「ひぃ!」
少し睨み付けただけで神官長達は怯えて何も言わなくなった。私は再びクウに向き合って「神子様、どうか手を」と、もう一度クウの前に手を差し出した。クウは戸惑いながらも、そっと私の手の上に自分の手を重ねた。選んでくれた。クウが、私を選んでくれた! 嬉しくて嬉しくて、私はクウの手を引いて、その小さな体を強く、強く抱きしめる。
「ありがとうございます。神子様。私が貴方を幸せにします。私は彼のように誰かに現を抜かして捨てたりなんかしません。生涯、貴方だけを愛することを誓います。クウ」
「え?」
やっと、やっと取り戻せた。クウが、私の腕の中にいる。ずっと恋い焦がれていたクウが、私の伴侶になってくれた。もう二度と、この手を離さない。私が、クウを幸せにします。私の愛はかなり重いんです。覚悟してくださいね。クウ。
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