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エピローグ2
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午前中眠ったお陰で体はかなり楽になった気がする。気付くともうお昼だった。お昼ご飯を食べた後、僕はボーモンさんと一緒に調理場へ足を運んで、早速シュークリームを作った。お菓子の中でもシュークリームは作るのが難しい。ボーモンさんの指示通り作っても膨らまなかったり、逆に膨らみすぎたり。なんとかシュークリームらしい形になって、カスタードクリームも作って、それを入れて完成。あとはオーバン様が帰ってくるまで、冷蔵庫で冷やせばいい。でも……
「作りすぎちゃった。全部食べられるかな?」
テーブルにずらっと並ぶ失敗したシュークリームの残骸。食べられない訳じゃないから捨てるのは勿体ない。クッキーやケーキを作った時だって、失敗したものは全部僕が食べていた。失敗した量が少なかったし、一人で食べられる量だったから。でも、今回は違う。何度も何度も挑戦したから、テーブルはシュークリームで埋め尽くされている。
「とりあえず、余っているカスタードクリームを入れて、クリームが無くなったらジャムかチョコレートでも入れようかな」
それはもうシュークリームじゃない、と思うけど、まあ食べられたらいいよね? 僕が食べるんだし。
「ク、クウ様。こ、これは……」
「あ、こんにちは。料理長さん。ごめんなさい。こんなに散らかしてしまって」
「い、いえ! クウ様なら何時でも大歓迎です! えっと、それで、これは?」
「作りすぎちゃいました。シュークリームなんですけど、これは全部失敗作で」
「失敗作!? これが、ですか?」
「はい。膨らみすぎちゃって。捨てるのは勿体ないから、僕が食べて片付けようかなと」
「食べられるのですか? この量を、クウ様お一人で」
「…………」
正直食べきる自信なんてない。だって山のようにあるんだもの。ぅう。もっと計画的に作ればよかった。それでも、食べなきゃ。
「あ、あの。クウ様。もし、お困りなら、我々がこのシュークリーム、食べましょうか?」
「え? でも、これは失敗作ですよ?」
「失敗作でも構いません! クウ様の真心と愛情がたっぷり詰まった手作りのシュークリームを食べられるのですから、むしろご褒美です!」
「ぇえ?」
りょ、料理長さんまで可笑しくなっちゃった!? オーバン様と同じこと言ってるけど、大袈裟だよ! 僕、プロの料理人じゃないもん!
「クウ様。安心してください。このシュークリームを食べたいと思っている人は沢山います。必ず完食してみせます!」
「え? えっと、それじゃあ、お願い、します?」
「はい! 喜んで! あ、クウ様は危険ですから調理場の隅にいてくださいね。今から此処は戦場になりますから」
「は、はい?」
料理長さんに言われた通り、僕は調理場の端に逃げた。フライパンを持って、おたまでカンカン叩いて「クウ様のシュークリームが食べたい人は今すぐ集まりなさい!」と大声で叫ぶと、一瞬にして調理場が人で埋め尽くされた。え? ぇえ? ぇええええええ!? う、奪い合ってる!? 失敗したシュークリームなのに!?
「やはりこうなりましたか」
「うわ! ボ、ボーモンさん。えっと、止めなくて、いいんですか?」
「彼らにもご褒美が必要ですから。放っておきましょう」
「ぇえ?」
本当に戦場になってる。我先にとシュークリームに手を伸ばして、奪い合って、口の中に放り込んでいく。みんな、そんなにお腹が空いていたのかな? シュークリームじゃお腹は膨れないと思うんだけど。
「クウ様! 見てください! 瞬殺です!」
「う、うん。すごく、綺麗になりましたね」
あんなに大量にあったシュークリームは一瞬にして姿を消した。正しくは、みんなの胃袋の中。みんな、すごく幸せそうな顔をしてるけど、本当にシュークリームだけで満足なの?
「作りすぎちゃった。全部食べられるかな?」
テーブルにずらっと並ぶ失敗したシュークリームの残骸。食べられない訳じゃないから捨てるのは勿体ない。クッキーやケーキを作った時だって、失敗したものは全部僕が食べていた。失敗した量が少なかったし、一人で食べられる量だったから。でも、今回は違う。何度も何度も挑戦したから、テーブルはシュークリームで埋め尽くされている。
「とりあえず、余っているカスタードクリームを入れて、クリームが無くなったらジャムかチョコレートでも入れようかな」
それはもうシュークリームじゃない、と思うけど、まあ食べられたらいいよね? 僕が食べるんだし。
「ク、クウ様。こ、これは……」
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「食べられるのですか? この量を、クウ様お一人で」
「…………」
正直食べきる自信なんてない。だって山のようにあるんだもの。ぅう。もっと計画的に作ればよかった。それでも、食べなきゃ。
「あ、あの。クウ様。もし、お困りなら、我々がこのシュークリーム、食べましょうか?」
「え? でも、これは失敗作ですよ?」
「失敗作でも構いません! クウ様の真心と愛情がたっぷり詰まった手作りのシュークリームを食べられるのですから、むしろご褒美です!」
「ぇえ?」
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「クウ様。安心してください。このシュークリームを食べたいと思っている人は沢山います。必ず完食してみせます!」
「え? えっと、それじゃあ、お願い、します?」
「はい! 喜んで! あ、クウ様は危険ですから調理場の隅にいてくださいね。今から此処は戦場になりますから」
「は、はい?」
料理長さんに言われた通り、僕は調理場の端に逃げた。フライパンを持って、おたまでカンカン叩いて「クウ様のシュークリームが食べたい人は今すぐ集まりなさい!」と大声で叫ぶと、一瞬にして調理場が人で埋め尽くされた。え? ぇえ? ぇええええええ!? う、奪い合ってる!? 失敗したシュークリームなのに!?
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「ぇえ?」
本当に戦場になってる。我先にとシュークリームに手を伸ばして、奪い合って、口の中に放り込んでいく。みんな、そんなにお腹が空いていたのかな? シュークリームじゃお腹は膨れないと思うんだけど。
「クウ様! 見てください! 瞬殺です!」
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あんなに大量にあったシュークリームは一瞬にして姿を消した。正しくは、みんなの胃袋の中。みんな、すごく幸せそうな顔をしてるけど、本当にシュークリームだけで満足なの?
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