あまりものの神子《完結》

トキ

文字の大きさ
上 下
41 / 76

独占欲2

しおりを挟む
 勇気を出して客室まで来たはいいものの、扉を何時開けたらいいのか分からない。部屋の中では求婚相手の娘と、父親が楽しそうに語っている声が聞こえる。

「今でも信じられませんわ。オーバン様がこんなにも素敵な大人になるなんて。他の方との縁談もありましたが、全て断りました。だって、私にはオーバン様がいるもの」
「娘もこう言っています。どうですか? オーバン様。あんな神子かどうかも分からぬ野良犬よりも、私の娘の方がいいでしょう? 身分は勿論、容姿もこのように整っておりますし、知識や教養、貴族としてのマナーも身に付けております」

 すごく高慢な人達だ。自分こそがオーバン様に相応しいと思い込んでいる、勘違い女? って言うんだっけ。シルヴァン様も小さな声で「うわ」とドン引きしている。僕が「知っているんですか?」と聞いたら、「王立学園でオーバンをいじめていた貴族令嬢そのいち」と教えてくれた。そのいち、ってことは、他にもいじめっ子がいるってことだよね?

「オーバン様。私、王立学園の時から、ずっとオーバン様のことが好きだったのよ?」
「こんなにも一途で健気な私の娘を妻にできるのですから、オーバン様は幸せ者ですなあ。はっはっはっ!」
「オーバン様、この屋敷を案内してくれませんか? 近い将来、私も此処で過ごすようになるのですから、部屋を覚えておきたいんです」

 勝手に話を進める親子に我慢の限界がきて、僕は勢いよく扉を開いて大きく息を吸った。

「オーバン様は僕の大切な人です! いじめっ子の貴女になんか、絶対に渡しません!」
「な! ク、クウ!? どうして貴方が此処に……」

 驚くオーバン様にぎゅむ! と強く抱きついて、オーバン様をいじめていた貴族令嬢そのいちをキッと睨み付ける。金髪の巻き毛に、ローズピンクの瞳をした女の人は、確かに美人さんだ。胸を強調した真っ赤なドレスもすごく似合っている。でも、性格の悪さは隠せていない。

「な! だ、誰よ! アンタ! 私とオーバン様の邪魔をするなんて、非常識にも程があるわ!」
「非常識なのはそっちです! オーバン様は僕を選んでくれたんです! 僕がオーバン様の伴侶なんです! それなのに、僕からオーバン様を奪おうとするなんて最低です! 性格が悪いです!」
「な、なんですって!?」
「貴様! 一体何様のつもりだ!? 身分もないゴミクズが、貴族である私達に刃向かうと言うのか!?」
「おい。オーバン。何時まで幸せに浸ってんだ? お前の大切なクウが傷付いてもいいのか?」
「は! 嬉しすぎて気を失っていた。ありがとう、シルヴァン」
「お前なあ」

 ぎゅむ、とオーバン様に強く抱きしめられる。顎に手を添えられて、そのまま口付けてきて、僕はさっきまでの怒りが消えてしまった。離れようとオーバン様の胸に手を置こうとしたら逆に握られてしまって、舌が口の中に侵入してくる。

「ん、ふぁ……オーバン、さ、だめ、ひとが、いるのに、んむ」

 き、聞いてくれない!? 何度も何度も角度を変えられて、じゅるじゅる吸われて、苦しくて気を失いそうになる。漸く解放された頃には、僕はもう自分の足で立つことはできなくて、オーバン様に支えられている状態だった。ぅう。格好わるいよ。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

弱すぎると勇者パーティーを追放されたハズなんですが……なんで追いかけてきてんだよ勇者ァ!

灯璃
BL
「あなたは弱すぎる! お荷物なのよ! よって、一刻も早くこのパーティーを抜けてちょうだい!」 そう言われ、勇者パーティーから追放された冒険者のメルク。 リーダーの勇者アレスが戻る前に、元仲間たちに追い立てられるようにパーティーを抜けた。 だが数日後、何故か勇者がメルクを探しているという噂を酒場で聞く。が、既に故郷に帰ってスローライフを送ろうとしていたメルクは、絶対に見つからないと決意した。 みたいな追放ものの皮を被った、頭おかしい執着攻めもの。 追いかけてくるまで説明ハイリマァス ※完結致しました!お読みいただきありがとうございました! ※11/20 短編(いちまんじ)新しく書きました! ※12/14 どうしてもIF話書きたくなったので、書きました!これにて本当にお終いにします。ありがとうございました!

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

処理中です...