あまりものの神子《完結》

トキ

文字の大きさ
上 下
28 / 76

悪意への反撃9

しおりを挟む
 シルヴァン様がこの屋敷を訪れるようになって数ヶ月。彼を見ても怯えることはなくなった。シルヴァン様はオーバン様と親友で、今は僕の護衛を任されていると聞いた。

「あの神官長、王宮から追い出されたみたいだぜ。地位も権力も全て剥奪されて」
「え?」
「お前が一番知ってんじゃねえの? 彼奴が追い出された理由」
「……大人の事情、ですか?」
「正解といえば正解。神子を蔑ろにした罰だってさ」
「罰?」
「罰を受けたのは神官長だけじゃないぜ。彼奴に加担した連中全てが処罰対象になったんだ」
「僕のせい、ですか?」
「なんでそうなるんだよ? これは奴らの自業自得だ。何も悪くないお前を王宮から追い出して、自分達が納得する聖女をフェリシアン殿下に選ばせて、長い間お前を悪者扱いしていたんだから、当然の報いだよ」

 あぁ、やっぱり仕組まれていたのか。僕もフェリシアン様も聖女様も、みんな、神官長達に踊らされていたんだ。僕を悪者扱いしていたのも、そちらの方が都合が良かったからだとシルヴァン様は言う。そうだろうなと納得してしまった。

「神官長達は、どうなるんですか?」
「さあね。命までは奪わないと思うが、生きるには厳しんじゃねえの? 一人の神子を犠牲にして魂ごと消しかけたんだからな」
「そうですか。なら、いいです」
「いいのか?」
「僕のせいで命まで奪われたら、僕が耐えられませんから」
「お前はまたそんなことを」

 シルヴァン様は僕を甘いとか優しすぎるとか言うけれど、実際は違うんだ。正直、神官長達がどうなろうと知ったことではないし、罰を受けたというのなら自業自得だと思う。でも、僕が原因で処刑されたとなれば、多少なりとも僕のせいで殺されたということになる。関係なかったとしても、僕は知らない間に人殺しの片棒を担ぐことになる。そんなの、絶対に嫌だ。後味が悪いし、もし、神官長達が処刑されたら、僕はオーバン様の隣に立てなくなってしまう。オーバン様は気にするなと言うかもしれないけど、僕が耐えられない。

「シルヴァンの言う通りですよ。クウ。クウは優しすぎます。そうやって誰でも許してしまうんですから」
「わ! オ、オーバン様!?」

 急に後ろから抱きしめられて、僕は驚いて持っていた本を落としてしまう。オーバン様は気にせず僕に口付けてきて、顔に熱が集まる。シ、シルヴァン様がいるのに! ひ、人前でいきなりキスするなんて!

「おかえり。オーバン。もう全部終わったのか?」
「大体片付きました。殿下と聖女様も、やっと真実に目を向けてくれましたよ」
「そりゃ良かったじゃねえか」
「本当に。このままクウに敵意を向けるなら、暗殺でもしようかと考えていましたからね」
「な! ぶ、物騒ですよ! オーバン様!」
「殿下と聖女様が気付いたので、暗殺なんてしませんよ。今は、ね?」
「最後が余計だな。あまりクウを怖がらせるなよ」
「勿論。クウ。もう大丈夫ですよ。クウを悪く言っていた人達はみんな罰を受けました。クウの悪い噂も、神官長達が広めた嘘の情報だと証明されました。ですから、屋敷の外に出てもいいんですよ。クウに敵意を向ける人は、もう居ないのですから」
「本当、ですか?」
「本当です。ですが、まだ怖いというのなら無理強いはしません。馬車で外の景色を眺めるだけでもいいですし、誰にも邪魔をされないよう貸切にすることだってできます。クウが望むなら、私はなんだってしますよ」

 あれだけ僕の悪い噂が流れていたのに、一体何が起こったんだろう? 急に神官長達が罰せられたり、真実が明るみになったり。若しかして、全部オーバン様が僕の為に? そう考えたけど、真実を知るのが怖くて、僕は何も聞かないことにした。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

弱すぎると勇者パーティーを追放されたハズなんですが……なんで追いかけてきてんだよ勇者ァ!

灯璃
BL
「あなたは弱すぎる! お荷物なのよ! よって、一刻も早くこのパーティーを抜けてちょうだい!」 そう言われ、勇者パーティーから追放された冒険者のメルク。 リーダーの勇者アレスが戻る前に、元仲間たちに追い立てられるようにパーティーを抜けた。 だが数日後、何故か勇者がメルクを探しているという噂を酒場で聞く。が、既に故郷に帰ってスローライフを送ろうとしていたメルクは、絶対に見つからないと決意した。 みたいな追放ものの皮を被った、頭おかしい執着攻めもの。 追いかけてくるまで説明ハイリマァス ※完結致しました!お読みいただきありがとうございました! ※11/20 短編(いちまんじ)新しく書きました! ※12/14 どうしてもIF話書きたくなったので、書きました!これにて本当にお終いにします。ありがとうございました!

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

処理中です...