あまりものの神子《完結》

トキ

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敵意と対立7【オーバン視点】

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 余計なものが付いて来たが、そんなものは無視して私は自室へと直行した。

「ボーモン! クウは無事か!?」
「オーバン様? どうしたのですか? まだ昼過ぎですよ?」
「クウが心配で切り上げてきた」
「そうですか。安心してください。疲れて眠っているだけです」
「そう、か」
「反省しなさい。クウ様に無理をさせて、まだ熱が下がっていないのですから」
「う!」

 確かに、クウの頬は赤く染まっていて、少しだけ息も荒い。額から垂れる汗を濡らしたタオルで拭き取って、艶のある黒い前髪が肌に張り付いて、とても扇情的に見え、いや! 何を考えているんだ! 私は! 昨日あれだけ無理をさせたのに! クウが苦しんでいるのに不謹慎じゃないか!

「消えて、いないのか?」
「何故、貴方が此処に居るのですか? ルーゼル様」
「勝手に付いて来た。さっさと追い出してくれ」
「分かりました」
「ちょ、ちょっと待って! 待ってくれ! 謝るから! 本当に、本当に悪かったって!」
「それは、誰に対しての謝罪ですか? 誰のせいでこうなったのか、本当に理解しているのですか?」
「それ、は、その……」

 私が彼を許していないのは当然だが、ボーモンも許していない。私に仕えている使用人達も鬼の形相をして元親友を睨み付けている。自業自得だ。助けてやる気は一切ない。

「クウ様は、間違いなくオーバン様の恩人です。心優しくて、素直で、勉強熱心で、身も心も深く傷付けられたにも関わらず、クウ様は誰も恨まず、フェリシアン殿下のことも責め立てず、前向きに生きようと必死に努力しておりました。少しでもオーバン様の役に立ちたいと、オーバン様に相応しい人になりたいと、嬉しそうに微笑んで」
「う」
「クウ様は私にとって愛する我が子同然です。私だけではありません。オーバン様に仕える者全員が、クウ様の味方なのです。大切な我が子を傷付けられて、命をも奪おうとした相手をそう簡単に許すことはできません」
「…………」
「最近になって漸く心を開いてくれるようになったというのに、これでクウ様が再び心を閉ざしてしまったらどう責任を取るおつもりですか?」
「えっと、その……」
「クウ様を休ませたいので、今日はお帰りください。クウ様の意識が戻ったらお知らせします」
「え?」
「ただし、二度目はありません。これで宜しいですか? オーバン様」
「……許すつもりはないが、クウが許すなら今回だけ特別に許してやる。ただし、二度目はない。次、クウを泣かせるようなことがあれば、俺は迷わずお前を斬るからな。覚えておけ」
「お、おう。分かった。今日は、帰り、ます」

 安心して眠るクウを見て気持ちが落ち着いたのか、俺も頭が冷えて冷静に考えられるようになった。シルヴァンは唯一、俺が心を許している親友だ。そんな彼を失うのは惜しい。当然、またクウを傷付けるなら情け容赦なく斬り捨てる。俺の気持ちが通じたのか、シルヴァンは少し怯えながら屋敷を後にした。使用人達からも睨まれていただろうから、かなり居心地が悪かっただろう。ふん! 自業自得だ。少しは反省しろ!
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