19 / 76
敵意と対立7【オーバン視点】
しおりを挟む
余計なものが付いて来たが、そんなものは無視して私は自室へと直行した。
「ボーモン! クウは無事か!?」
「オーバン様? どうしたのですか? まだ昼過ぎですよ?」
「クウが心配で切り上げてきた」
「そうですか。安心してください。疲れて眠っているだけです」
「そう、か」
「反省しなさい。クウ様に無理をさせて、まだ熱が下がっていないのですから」
「う!」
確かに、クウの頬は赤く染まっていて、少しだけ息も荒い。額から垂れる汗を濡らしたタオルで拭き取って、艶のある黒い前髪が肌に張り付いて、とても扇情的に見え、いや! 何を考えているんだ! 私は! 昨日あれだけ無理をさせたのに! クウが苦しんでいるのに不謹慎じゃないか!
「消えて、いないのか?」
「何故、貴方が此処に居るのですか? ルーゼル様」
「勝手に付いて来た。さっさと追い出してくれ」
「分かりました」
「ちょ、ちょっと待って! 待ってくれ! 謝るから! 本当に、本当に悪かったって!」
「それは、誰に対しての謝罪ですか? 誰のせいでこうなったのか、本当に理解しているのですか?」
「それ、は、その……」
私が彼を許していないのは当然だが、ボーモンも許していない。私に仕えている使用人達も鬼の形相をして元親友を睨み付けている。自業自得だ。助けてやる気は一切ない。
「クウ様は、間違いなくオーバン様の恩人です。心優しくて、素直で、勉強熱心で、身も心も深く傷付けられたにも関わらず、クウ様は誰も恨まず、フェリシアン殿下のことも責め立てず、前向きに生きようと必死に努力しておりました。少しでもオーバン様の役に立ちたいと、オーバン様に相応しい人になりたいと、嬉しそうに微笑んで」
「う」
「クウ様は私にとって愛する我が子同然です。私だけではありません。オーバン様に仕える者全員が、クウ様の味方なのです。大切な我が子を傷付けられて、命をも奪おうとした相手をそう簡単に許すことはできません」
「…………」
「最近になって漸く心を開いてくれるようになったというのに、これでクウ様が再び心を閉ざしてしまったらどう責任を取るおつもりですか?」
「えっと、その……」
「クウ様を休ませたいので、今日はお帰りください。クウ様の意識が戻ったらお知らせします」
「え?」
「ただし、二度目はありません。これで宜しいですか? オーバン様」
「……許すつもりはないが、クウが許すなら今回だけ特別に許してやる。ただし、二度目はない。次、クウを泣かせるようなことがあれば、俺は迷わずお前を斬るからな。覚えておけ」
「お、おう。分かった。今日は、帰り、ます」
安心して眠るクウを見て気持ちが落ち着いたのか、俺も頭が冷えて冷静に考えられるようになった。シルヴァンは唯一、俺が心を許している親友だ。そんな彼を失うのは惜しい。当然、またクウを傷付けるなら情け容赦なく斬り捨てる。俺の気持ちが通じたのか、シルヴァンは少し怯えながら屋敷を後にした。使用人達からも睨まれていただろうから、かなり居心地が悪かっただろう。ふん! 自業自得だ。少しは反省しろ!
「ボーモン! クウは無事か!?」
「オーバン様? どうしたのですか? まだ昼過ぎですよ?」
「クウが心配で切り上げてきた」
「そうですか。安心してください。疲れて眠っているだけです」
「そう、か」
「反省しなさい。クウ様に無理をさせて、まだ熱が下がっていないのですから」
「う!」
確かに、クウの頬は赤く染まっていて、少しだけ息も荒い。額から垂れる汗を濡らしたタオルで拭き取って、艶のある黒い前髪が肌に張り付いて、とても扇情的に見え、いや! 何を考えているんだ! 私は! 昨日あれだけ無理をさせたのに! クウが苦しんでいるのに不謹慎じゃないか!
「消えて、いないのか?」
「何故、貴方が此処に居るのですか? ルーゼル様」
「勝手に付いて来た。さっさと追い出してくれ」
「分かりました」
「ちょ、ちょっと待って! 待ってくれ! 謝るから! 本当に、本当に悪かったって!」
「それは、誰に対しての謝罪ですか? 誰のせいでこうなったのか、本当に理解しているのですか?」
「それ、は、その……」
私が彼を許していないのは当然だが、ボーモンも許していない。私に仕えている使用人達も鬼の形相をして元親友を睨み付けている。自業自得だ。助けてやる気は一切ない。
「クウ様は、間違いなくオーバン様の恩人です。心優しくて、素直で、勉強熱心で、身も心も深く傷付けられたにも関わらず、クウ様は誰も恨まず、フェリシアン殿下のことも責め立てず、前向きに生きようと必死に努力しておりました。少しでもオーバン様の役に立ちたいと、オーバン様に相応しい人になりたいと、嬉しそうに微笑んで」
「う」
「クウ様は私にとって愛する我が子同然です。私だけではありません。オーバン様に仕える者全員が、クウ様の味方なのです。大切な我が子を傷付けられて、命をも奪おうとした相手をそう簡単に許すことはできません」
「…………」
「最近になって漸く心を開いてくれるようになったというのに、これでクウ様が再び心を閉ざしてしまったらどう責任を取るおつもりですか?」
「えっと、その……」
「クウ様を休ませたいので、今日はお帰りください。クウ様の意識が戻ったらお知らせします」
「え?」
「ただし、二度目はありません。これで宜しいですか? オーバン様」
「……許すつもりはないが、クウが許すなら今回だけ特別に許してやる。ただし、二度目はない。次、クウを泣かせるようなことがあれば、俺は迷わずお前を斬るからな。覚えておけ」
「お、おう。分かった。今日は、帰り、ます」
安心して眠るクウを見て気持ちが落ち着いたのか、俺も頭が冷えて冷静に考えられるようになった。シルヴァンは唯一、俺が心を許している親友だ。そんな彼を失うのは惜しい。当然、またクウを傷付けるなら情け容赦なく斬り捨てる。俺の気持ちが通じたのか、シルヴァンは少し怯えながら屋敷を後にした。使用人達からも睨まれていただろうから、かなり居心地が悪かっただろう。ふん! 自業自得だ。少しは反省しろ!
1,731
お気に入りに追加
2,192
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

誰よりも愛してるあなたのために
R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。
ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。
前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。
だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。
「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」
それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!
すれ違いBLです。
初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。
(誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
竜王陛下、番う相手、間違えてますよ
てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。
『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ
姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。
俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!? 王道ストーリー。竜王×凡人。
20230805 完結しましたので全て公開していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる