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悪意への反撃6【シルヴァン視点】
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食事会当日。王宮に現れたのは正装をしたボーモンだった。殿下と聖女様は驚いてボーモンに駆け寄って神子について聞いた。
「ボーモン! あの子はどうしたんだ?」
「申し訳ありません。殿下。クウ様はまだ体調が悪く、参加できなくなってしまったのです。ですが、誰も出席しないのは失礼ということで、私が代理として此処に来たのです。オーバン様のご命令で」
「嘘よ! パーティーにも参加せず、食事会にも顔を出さないなんて! 仮病に決まっているわ! 今すぐ彼を連れて来て!」
「嘘ではございません。クウ様は熱を出して寝込んでいるのです。そんなクウ様を、無理矢理連れて来て食事会に参加しろと、聖女様は仰るのですか?」
「聖女様。神子様が寝込んでいるのは本当ですよ。俺、オーバンとは親友で毎日屋敷に行ってたから間違いありません」
寝込んだ理由はオーバンがクウに無理をさせたから、なんだけど。クウは食事会のこと自体知らない。オーバンは食事会がある日を知った上で、クウを抱いたんだ。一晩中、ずっと。だから、クウが熱を出しているのも、ベッドから起き上がれなくて寝込んでいるのも本当なんだ。そして、そんなクウが心配だからと言って、彼奴はボーモンに食事会へ行くよう命令した。俺はその手助け役。時々我が親友が怖くなるぜ。
「私では不満なのですか? ならば、屋敷に戻りましょう。私も暇ではありませんので」
「ボーモン」
聖女様主催の食事会で皮肉を言えるなんて。流石はオーバンの執事と褒めればいいのか。聖女様は拳を握りしめてボーモンを睨み付けている。体調不良なら仕方ねえだろ? と思うが、聖女様は納得していないらしい。クウと聖女様が会ったのは一度きりだと聞いている。それなのに、何故この聖女様はクウに拘るのか。クウは「関わりたくない」と言っていた。嫌いな相手ならそう思うのが当然だ。放っておいてやればいいものを、クウを晒し者にして優越感にでも浸りたいのか? もしそうなら、この聖女様はかなり性格が悪い。
「いや。来てくれて嬉しいよ。ボーモン。後であの子について色々と教えてほしい」
「殿下に教えることなど何もありませんよ」
二人の邪魔をするな、と言いたい訳ね。揃いも揃って王家に反抗的な態度をとって大丈夫なのかねえ。その場合、俺も道連れだから安心できる要素がねえんだけど。だからと言ってこの現状を野放しにはできない。他の神子と聖女がクウと同じ道を歩んでしまう危険性があるからだ。それを阻止する為には、早いところ殿下と聖女様に真実を突きつける必要がある。この食事会はその第一歩、という訳だ。
今はオーバンの執事をしているが、ボーモンは昔凄腕の騎士だった。近衛騎士団団長を務め、剣術にも知略にも長けた伝説の武人。そんな奴を敵に回すほど王家もバカじゃない。ボーモンはクウを我が子のようにとても可愛がっている。暗殺なんて不可能だし、クウを罠に嵌めようと企んだって逆に利用されて窮地に立たされるだけだ。
「折角の食事会なんですから、楽しみましょうよ。ね? 聖女様」
まだボーモンを睨み付けている聖女様に声をかけたらフイッと顔を逸らされて去ってしまった。聖女様ももう二十五歳になるというのに、まだお姫様か恋する乙女気分でいるのだろうか。殿下との子どもだっているのに、あんなのがこの国の王妃になると思うと気が重くなるぜ。
「ボーモン! あの子はどうしたんだ?」
「申し訳ありません。殿下。クウ様はまだ体調が悪く、参加できなくなってしまったのです。ですが、誰も出席しないのは失礼ということで、私が代理として此処に来たのです。オーバン様のご命令で」
「嘘よ! パーティーにも参加せず、食事会にも顔を出さないなんて! 仮病に決まっているわ! 今すぐ彼を連れて来て!」
「嘘ではございません。クウ様は熱を出して寝込んでいるのです。そんなクウ様を、無理矢理連れて来て食事会に参加しろと、聖女様は仰るのですか?」
「聖女様。神子様が寝込んでいるのは本当ですよ。俺、オーバンとは親友で毎日屋敷に行ってたから間違いありません」
寝込んだ理由はオーバンがクウに無理をさせたから、なんだけど。クウは食事会のこと自体知らない。オーバンは食事会がある日を知った上で、クウを抱いたんだ。一晩中、ずっと。だから、クウが熱を出しているのも、ベッドから起き上がれなくて寝込んでいるのも本当なんだ。そして、そんなクウが心配だからと言って、彼奴はボーモンに食事会へ行くよう命令した。俺はその手助け役。時々我が親友が怖くなるぜ。
「私では不満なのですか? ならば、屋敷に戻りましょう。私も暇ではありませんので」
「ボーモン」
聖女様主催の食事会で皮肉を言えるなんて。流石はオーバンの執事と褒めればいいのか。聖女様は拳を握りしめてボーモンを睨み付けている。体調不良なら仕方ねえだろ? と思うが、聖女様は納得していないらしい。クウと聖女様が会ったのは一度きりだと聞いている。それなのに、何故この聖女様はクウに拘るのか。クウは「関わりたくない」と言っていた。嫌いな相手ならそう思うのが当然だ。放っておいてやればいいものを、クウを晒し者にして優越感にでも浸りたいのか? もしそうなら、この聖女様はかなり性格が悪い。
「いや。来てくれて嬉しいよ。ボーモン。後であの子について色々と教えてほしい」
「殿下に教えることなど何もありませんよ」
二人の邪魔をするな、と言いたい訳ね。揃いも揃って王家に反抗的な態度をとって大丈夫なのかねえ。その場合、俺も道連れだから安心できる要素がねえんだけど。だからと言ってこの現状を野放しにはできない。他の神子と聖女がクウと同じ道を歩んでしまう危険性があるからだ。それを阻止する為には、早いところ殿下と聖女様に真実を突きつける必要がある。この食事会はその第一歩、という訳だ。
今はオーバンの執事をしているが、ボーモンは昔凄腕の騎士だった。近衛騎士団団長を務め、剣術にも知略にも長けた伝説の武人。そんな奴を敵に回すほど王家もバカじゃない。ボーモンはクウを我が子のようにとても可愛がっている。暗殺なんて不可能だし、クウを罠に嵌めようと企んだって逆に利用されて窮地に立たされるだけだ。
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