あまりものの神子《完結》

トキ

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愛してくれる人8

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 パーティーが開催される三日前にもなると、オーバン様の帰りも遅くなった。僕が出迎えると「一緒にいるって言ったのに、ごめんなさい」と何時も申し訳なさそうに謝ってくる。僕は首を横に振って「お仕事だから仕方ないですよ」と言った。今回のパーティーは何時もより大規模になるみたいで、神子と聖女の安全を守る為に警備も厳しくなると聞いている。

「オーバン様。僕にはこんなことしか出来ませんが、お腹が空いた時にでも食べてください」
「これは?」
「フィナンシェです。ボーモンさんに教えてもらいながら作りました」
「これを、クウが?」
「はい」
「クウの手作り、なんですか?」
「はい」
「……ボーモン。私は世界一幸せな男だ。最愛のクウから手作りのお菓子を渡されるなんて」
「え!?」
「刺されないように気をつけてくださいね。オーバン様。味見の時も競争率が激しく、危うく乱闘騒ぎになるところでしたので」
「ぇえ!?」
「そうか。みんなクウを大切に思ってくれているだな」
「味見は私がしっかりとしましたので、ご安心ください」
「流石はボーモン。それでこそ私の執事です!」

 き、聞き間違いかな? 確かにボーモンさんに作り方を教えてもらって、味見もしてもらったけど。競争率が激しいって、なに? 乱闘騒ぎ? 裏で一体なにがあったの!? ボーモンさん!

「ありがとうございます。クウ。パーティーが終わったら、二人でゆっくり過ごしましょう」
「ん」

 オーバン様は何時も出掛ける時に僕のおでこに口付けてから出て行く。宝物のように大切に僕が作ったフィナンシェが入った紙袋を持って、オーバン様は馬車に乗って王宮へと向かった。

「オーバン様」
「クウ様。今日も本をお読みになりますか?」
「そうですね。この世界の歴史とか、文化とか、色々と学ぶことが多いので、勉強したいです」
「ふふふ。クウ様は努力家ですね。私も教えがいがあるというものです」

 この世界で何ができるのか、オーバン様の為に僕は何をしてあげられるのか、今はまだ分からない。でも、オーバン様に守られてばかりではダメだ。だから、少しずつ僕にできることを増やして、オーバン様の役に立てる人になりたい。今は役立たずでも、穀潰しでも、何時か、オーバン様に、ボーモンさん達に恩を返したい。その為には沢山勉強して、この世界を知ることが大切だ。

「今日も、お願いします。ボーモンさん」
「お任せください。分からないところは遠慮なく聞いてくださいね」
「はい」

 外の世界に出るのはまだ怖いけど、この屋敷の中だけなら自由に動けるようになった気がする。怯えなくなったし、ふと昔を思い出して固まることも少なくなった。きっと、もう少し経てば屋敷の外に出ても平気になると思う。一人では無理だけど、オーバン様が傍に居てくれるなら、きっと大丈夫。
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