あまりものの神子《完結》

トキ

文字の大きさ
上 下
10 / 76

愛してくれる人7

しおりを挟む
 オーバン様は忙しい。公爵家の仕事に、騎士団団長としての任務、領地経営に財政管理。今はパーティーに出席する為の衣装も用意しないといけないらしく、みんな忙しそうに屋敷の中を行ったり来たりしている。僕も手伝えることがあったら手伝おうと思ったけど、何もできることはなく、オーバン様のお部屋で大人しく読書をしていた。

「僕って、役立たずだな」
「そんなことはありませんよ。クウ様。クウ様が来てから、オーバン様はとても張り切っております」
「でも、僕はオーバン様の為にできることが、一つもありません」

 料理の一つでも作れたら良かったけど、僕が作れるのは簡単なものだけ。手の込んだものは作れないし、お菓子だって作れない。掃除や洗濯は全部使用人の人達がしてくれるし、着替えも全部任せっきり。このままではダメだと自分でしようとすると、何故かみんな絶望したような顔をして「そ、そんな」とか「わ、私の唯一の癒しの時間が」とか、ちょっと分からないことを呟いていた。

「私は、クウ様にとても感謝しているのですよ」
「え?」
「オーバン様が仰っていた通り、幼かった頃のオーバン様はとても気が弱く、顔立ちも女性寄りでした。王立学園には身分を隠して生活していたこともあり、オーバン様は他の貴族達からいじめられ、嫌がらせを受けていたのです」
「…………」
「オーバン様は、そんな日々に耐えきれず、毎日泣いて過ごしておりました。ですが、ある日を境に変わられたのです。いいえ、変わる努力を始めたのです。クウ様の『自信を持って』という言葉が、オーバン様の心を救ったのです」
「そんな、僕は……」
「クウ様にとっては大したことのない出来事だったかもしれません。ですが、私達にとっては、それはとても、とても感謝すべき出来事だったのです。オーバン様は貴方の言葉でこんなにも立派になられた。貴方に相応しい存在になる、ただそれだけを目標に、必死に努力なさったのです」
「僕の、ため?」
「はい。私は嬉しいのです。オーバン様の恋が、漸く成就したことが。あの時の恩を、やっとクウ様にお返しできることが」

 ボーモンさんも、この屋敷の人達も、最初から僕に悪意なんてなかった。むしろ、我が子のように心配してくれていたような気がする。それは、僕がオーバン様を助けたから? でも、僕はあまり覚えていない。オーバン様から聞かされて、初めて知った事実だ。

「ボーモンさん」
「はい」
「僕、オーバン様に相応しい人になれますか?」
「もう既になっておりますよ」
「でも、僕は弱いです。パーティーにも参加できない、意気地なしです」
「クウ様。貴方は理不尽な理由で身も心も深く傷付けられたのです。少しくらい休んでも、誰も責め立てはしません」
「……ごめんなさい」
「謝らないでください。疲れている時は甘いものでも食べて気分転換しましょう。此処は安全ですから」
「はい」

 何時か、何時かちゃんと胸を張ってオーバン様の隣に立ちたい。でも、今は無理だ。オーバン様が傍にいないだけで、僕は不安になってしまう。やっぱり僕ではダメだったんだって、何もできない僕は不要な存在なんだって言われているような気がして落ち着かない。それが僕の思い込みだということは分かっている。分かっていても、自分自身を責め立てずにはいられなかった。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

弱すぎると勇者パーティーを追放されたハズなんですが……なんで追いかけてきてんだよ勇者ァ!

灯璃
BL
「あなたは弱すぎる! お荷物なのよ! よって、一刻も早くこのパーティーを抜けてちょうだい!」 そう言われ、勇者パーティーから追放された冒険者のメルク。 リーダーの勇者アレスが戻る前に、元仲間たちに追い立てられるようにパーティーを抜けた。 だが数日後、何故か勇者がメルクを探しているという噂を酒場で聞く。が、既に故郷に帰ってスローライフを送ろうとしていたメルクは、絶対に見つからないと決意した。 みたいな追放ものの皮を被った、頭おかしい執着攻めもの。 追いかけてくるまで説明ハイリマァス ※完結致しました!お読みいただきありがとうございました! ※11/20 短編(いちまんじ)新しく書きました! ※12/14 どうしてもIF話書きたくなったので、書きました!これにて本当にお終いにします。ありがとうございました!

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

処理中です...