あまりものの神子《完結》

トキ

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愛してくれる人5

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 あれから僕はオーバン様の屋敷から一歩も外に出ていない。敷地内にある庭には何度か一緒に散歩したことがあるけど、外の世界は怖くて、僕はずっと引きこもり生活を満喫していた。

「この生活には慣れましたか? クウ」
「はい。オーバン様とボーモンさんのお陰で」

 この屋敷の人達はみんな僕に優しくて、誰も僕のことを「あまりもの」と罵ることはなかった。でも、外の世界では違う。神官長の発言力は大きく、他の人達は僕のことを最低な人間だと思い込んでいる。それが分かっているから、オーバン様もボーモンさんも無理に僕を外に連れ出そうとはしなかった。

「何かほしいものや食べたいものがあれば言ってください。直ぐに用意しますので」
「ありがとうございます。ボーモンさん」
「いえいえ。これが私の仕事ですので」

 此処は本当に夢のような場所だ。僕のことを大切にしてくれるオーバン様。実の息子のようにお世話をしてくれるボーモンさん。悪い噂がある僕を優しく見守ってくれる使用人達。こんな風に優しくされたのは初めてで、戸惑うこともあるけれど、心が満たされる感じがする。

「オーバン様。僕、幸せです」
「こんなのはまだ序の口ですよ。私はまだ足りません」
「もっと、甘えてもいいんですか?」
「ええ。どんどん甘えてください。クウ。貴方はずっと悪意に晒され続けて、心が疲れ果てている状態なんです。それを癒すのも私の役目」
「えへへ。ありがとうございます。オーバン様」

 あれから、神官長達とは会っていない。この屋敷には何度か来ているみたいだけど、敷地内に侵入することを禁じたとボーモンさんから聞いた。僕も神官長達とは会いたくなかったから、この対応は本当にありがたい。

「やっぱり、クウは笑っている方が可愛いですね」
「な!」
「ふふ。顔が赤くなりましたね。照れているんですか?」
「だ、だって、可愛いなんて」
「クウは可愛いです。こんなに可愛い子が私の伴侶で、とても誇らしいです」
「ぅう」

 優しく抱き寄せられたら何も言い返せない。オーバン様は何時も僕を沢山褒めて甘やかしてくれる。フェリシアン様は、こんな風に抱きしめてはくれなかった。こんな風に、好きだと言われたこともない。当然だ。あの人は、同情心だけで僕に手を差し伸べたのだから。でも、今はもうそのことで悩むことはない。だって、オーバン様が僕のことを大切にしてくれているから。恥ずかしいけど、僕はオーバン様とずっと一緒にいたい。二人で幸せになりたい。だから、誰にも邪魔をしてほしくない。もう、放っておいてほしい。そう願うのは、我儘なのかな?
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