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愛してくれる人4【オーバン視点】
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ボーモンに指示された客室に入ると、昨日見た神官長と四人の聖女達がソファに腰掛けていた。彼女達は頬を赤く染めて期待する視線を私に向けてくる。慣れているとは言え、好きでもない相手から好意を寄せられるのは迷惑だ。恋慕なら尚更面倒で嫌になる。
「私に何の用ですか? 神官長殿」
「オーバン様。考え直してください。アレは神子ではありません。あまりものをオーバン様の伴侶にする訳には」
「あまりものだと?」
「その通りです! 一度はフェリシアン殿下に選ばれたにも関わらず、聖女様に意地悪をして捨てられたあまりものなど、オーバン様に相応しくありません!」
「ならば誰が相応しいと言うんだ? まさかとは思うが、私の屋敷に許可なく不躾に足を踏み入れた彼女達の方が、私の伴侶に相応しいとでも言うつもりか?」
「な! この子達は女神様により選ばれた特別な方達ですぞ! 聖女様達を侮辱するなど言語道断です!」
「クウだって女神様に選ばれた特別な存在だ。彼女達の侮辱が許されないなら、クウへの侮辱だって許される筈がない」
「アレは神子ではありません!」
「何を根拠にそう断言する? 私は確かに女神様からお告げを聞いた。『どうか、あの子を幸せにしてほしい』と。『あの子を幸せにできるのは、貴方しかいない』と。ですから、私はクウを選んだんです。それが間違った選択だとは思っていません」
「オーバン様! 貴方は騙されているんです!」
この男は何としてでもクウを悪者に仕立て上げたいらしい。そんな小細工、私には通用しない。私は知っている。クウが誰よりも優しい人だということを。誰にも選ばれず、周囲の悪意にも必死に耐えて、何度も何度も転生していたことを。私と再会するまで十年。クウが転生した回数は十回。私がクウの手を取った時、あの子は子どものように泣きじゃくって「捨てないで」と言った。こんなにも小さな体で、たった一人で、みんなが誰かの伴侶に選ばれる中、自分だけ置き去りにされて、どれほど傷付いたのだろう。ずっと、ずっと寂しくて辛い思いをして、そんな彼を、やっと私の手で幸せにできると思っていたのに。此奴らは、まだクウを傷付け足りないというのか?
「気分が悪い。其処の目障りな餓鬼どもを連れてこの屋敷から去れ。さもなくば斬る」
「な! オ、オーバン様!」
「私の伴侶を傷付けるものを許しはしない。たとえ相手が貴方でも、容赦はしませんよ。神官長殿」
「く!」
剣を抜き、神官長の首筋に添えると漸く諦めて去って行った。聖女達も神官長に連れられて逃げるようにこの屋敷を後にした。
「私がダメならクウを狙えばいい、などと考えないことだ。クウに傷一つでもつけたら、私はお前達を嬲り殺してやるから覚悟しておけ」
「ひぃ!」
奴らの思惑などお見通しだ。私がダメならクウに直接「お前は相応しくない」と言って諦めるよう命令するつもりだったのだろう。本当に愚かな連中だ。
「オーバン様? えっと、神官長達は?」
「帰りましたよ。もう大丈夫です。クウ」
早くクウを安心させたくて、急いで自室に戻ると彼は不安そうな表情をして私に駆け寄ってきた。私が「帰った」と告げると、クウはその場に崩れ落ちてぽろぽろと涙を零してしまう。
「ぅう。よ、よか……よかった。僕、また、捨てられたら、どうしよう、って」
「クウ。泣かないでください。不安だったんですね。一人にしてごめんなさい」
「オーバン様。ぅう、うぁああああああ!」
私が思っている以上に、クウは深く傷付いて不安だったのだと思い知らされた。フェリシアン殿下に捨てられた記憶は、今でもクウを苦しめて悲しませている。クウが誰にも選ばれなかったのも、フェリシアン殿下がクウを捨てたから。元々王家に対する忠誠心などなかった。けれど、クウを捨てたことで、私は王家との関わりを断ち切った。勿論、完全に切った訳ではない。命令なら従うし、必要だと判断した場合はパーティーにだって出席する。ただ、それだけ。幸せそうに笑うフェリシアン殿下と聖女様を見ても、この胸に抱くのは憎悪のみ。
「泣かないでください。クウ。私がクウを護ります。ずっと一緒です。絶対に離れません」
「うん……ぅん」
「今日はずっとこうしていましょうか。クウが、安心するまで」
「……おねがい、します」
「思う存分甘えていいんですよ。クウ」
「それでは、私は甘いものをご用意しましょう。失礼します。オーバン様。クウ様」
「あぁ。ありがとう。ボーモン」
「クウ様を安心させてあげてください。彼を幸せにできるのは、オーバン様だけなのですから」
「分かっている」
やっと手に入れたんだ。誰にも渡さないし、誰にも傷付けさせない。クウを傷付ける奴は誰であろうと容赦しない。私の腕の中で涙を流す子が、どうして相応しくないと思えるのだろう。何を根拠に、神子ではないと断言できるのだろう。私には理解できない。クウはこんなにも綺麗で、可愛くて、誰よりも心優しい人なのに。
「オーバン様」
「落ち着きましたか? クウ」
「はい。ごめんなさい。でも、まだ不安なので、もう少しだけ、このままでいさせてください」
「クウが望むなら、ずっとこうしていますよ」
私に縋り付いて控えめに微笑むクウは本当に可愛い。もっと私に甘えてくれたらいいのに。クウの頭を撫でながら、私は愛おしさのあまりもう一度、彼のおでこに唇を落とした。
「私に何の用ですか? 神官長殿」
「オーバン様。考え直してください。アレは神子ではありません。あまりものをオーバン様の伴侶にする訳には」
「あまりものだと?」
「その通りです! 一度はフェリシアン殿下に選ばれたにも関わらず、聖女様に意地悪をして捨てられたあまりものなど、オーバン様に相応しくありません!」
「ならば誰が相応しいと言うんだ? まさかとは思うが、私の屋敷に許可なく不躾に足を踏み入れた彼女達の方が、私の伴侶に相応しいとでも言うつもりか?」
「な! この子達は女神様により選ばれた特別な方達ですぞ! 聖女様達を侮辱するなど言語道断です!」
「クウだって女神様に選ばれた特別な存在だ。彼女達の侮辱が許されないなら、クウへの侮辱だって許される筈がない」
「アレは神子ではありません!」
「何を根拠にそう断言する? 私は確かに女神様からお告げを聞いた。『どうか、あの子を幸せにしてほしい』と。『あの子を幸せにできるのは、貴方しかいない』と。ですから、私はクウを選んだんです。それが間違った選択だとは思っていません」
「オーバン様! 貴方は騙されているんです!」
この男は何としてでもクウを悪者に仕立て上げたいらしい。そんな小細工、私には通用しない。私は知っている。クウが誰よりも優しい人だということを。誰にも選ばれず、周囲の悪意にも必死に耐えて、何度も何度も転生していたことを。私と再会するまで十年。クウが転生した回数は十回。私がクウの手を取った時、あの子は子どものように泣きじゃくって「捨てないで」と言った。こんなにも小さな体で、たった一人で、みんなが誰かの伴侶に選ばれる中、自分だけ置き去りにされて、どれほど傷付いたのだろう。ずっと、ずっと寂しくて辛い思いをして、そんな彼を、やっと私の手で幸せにできると思っていたのに。此奴らは、まだクウを傷付け足りないというのか?
「気分が悪い。其処の目障りな餓鬼どもを連れてこの屋敷から去れ。さもなくば斬る」
「な! オ、オーバン様!」
「私の伴侶を傷付けるものを許しはしない。たとえ相手が貴方でも、容赦はしませんよ。神官長殿」
「く!」
剣を抜き、神官長の首筋に添えると漸く諦めて去って行った。聖女達も神官長に連れられて逃げるようにこの屋敷を後にした。
「私がダメならクウを狙えばいい、などと考えないことだ。クウに傷一つでもつけたら、私はお前達を嬲り殺してやるから覚悟しておけ」
「ひぃ!」
奴らの思惑などお見通しだ。私がダメならクウに直接「お前は相応しくない」と言って諦めるよう命令するつもりだったのだろう。本当に愚かな連中だ。
「オーバン様? えっと、神官長達は?」
「帰りましたよ。もう大丈夫です。クウ」
早くクウを安心させたくて、急いで自室に戻ると彼は不安そうな表情をして私に駆け寄ってきた。私が「帰った」と告げると、クウはその場に崩れ落ちてぽろぽろと涙を零してしまう。
「ぅう。よ、よか……よかった。僕、また、捨てられたら、どうしよう、って」
「クウ。泣かないでください。不安だったんですね。一人にしてごめんなさい」
「オーバン様。ぅう、うぁああああああ!」
私が思っている以上に、クウは深く傷付いて不安だったのだと思い知らされた。フェリシアン殿下に捨てられた記憶は、今でもクウを苦しめて悲しませている。クウが誰にも選ばれなかったのも、フェリシアン殿下がクウを捨てたから。元々王家に対する忠誠心などなかった。けれど、クウを捨てたことで、私は王家との関わりを断ち切った。勿論、完全に切った訳ではない。命令なら従うし、必要だと判断した場合はパーティーにだって出席する。ただ、それだけ。幸せそうに笑うフェリシアン殿下と聖女様を見ても、この胸に抱くのは憎悪のみ。
「泣かないでください。クウ。私がクウを護ります。ずっと一緒です。絶対に離れません」
「うん……ぅん」
「今日はずっとこうしていましょうか。クウが、安心するまで」
「……おねがい、します」
「思う存分甘えていいんですよ。クウ」
「それでは、私は甘いものをご用意しましょう。失礼します。オーバン様。クウ様」
「あぁ。ありがとう。ボーモン」
「クウ様を安心させてあげてください。彼を幸せにできるのは、オーバン様だけなのですから」
「分かっている」
やっと手に入れたんだ。誰にも渡さないし、誰にも傷付けさせない。クウを傷付ける奴は誰であろうと容赦しない。私の腕の中で涙を流す子が、どうして相応しくないと思えるのだろう。何を根拠に、神子ではないと断言できるのだろう。私には理解できない。クウはこんなにも綺麗で、可愛くて、誰よりも心優しい人なのに。
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「はい。ごめんなさい。でも、まだ不安なので、もう少しだけ、このままでいさせてください」
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私に縋り付いて控えめに微笑むクウは本当に可愛い。もっと私に甘えてくれたらいいのに。クウの頭を撫でながら、私は愛おしさのあまりもう一度、彼のおでこに唇を落とした。
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