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プロローグ2
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案内された大広間には見た目麗しい王侯貴族達。彼らは少年少女達を見て感嘆の息を零した。神子や聖女はこの世界では特別な存在で、生涯の伴侶を決める大切な儀式でもある為、多くの人達が集まっている。その中には見覚えのある人の顔も幾つかあって、僕は顔を伏せた。召喚の儀は毎年行われていて、人数は少なくて一人か二人、多くても五人程度。神官長の指示で今年の神子と聖女が並べられ、ついに伴侶を決める儀式が始まった。儀式って言うのはちょっと大袈裟で、分かりやすく説明するなら異世界版婚活イベントだ。
「神官長。あの時の約束を覚えていますか? 私の想い人が現れたら、一番に私が選んでもいいと」
「オ、オーバン様!?」
低く落ち着いた美しい声に、その場にいた全員が息を呑んだ。咄嗟に顔を上げた先には、綺麗なシルバーブロンドの髪に、透き通った青い瞳をしたとても綺麗な男の人。他の伴侶候補の人達も綺麗だけど、彼の美貌は桁違いだった。西洋風の顔立ちで、肌も白くて、優しく微笑む姿は王子様みたいで思わずドキッとしてしまう。身に付けている貴族の衣装も落ち着いたネイビーブルーに銀糸で細かな刺繍が施されている。
それに、彼は「想い人」と確かに言った。その言葉に、他の聖女達も舞い上がって「きゃあ!」と黄色い歓声を上げている。僕は男の人から視線を逸らし、足元を見た。期待したところで無駄だから。僕が選ばれる筈がない。早く選んで、この窮屈な時間から解放してほしい。
「わ、分かりました。オーバン様の意思を尊重しましょう」
「ありがとうございます。神官長殿。ご安心ください。私が選ぶのは、貴方達が予め決めていた候補者ではありませんから」
「オーバン様! それは!」
神殿側にも裏事情があったんだ。それもそうか。王侯貴族の伴侶ともなれば、容姿が良くなければ不釣り合いだし。僕が選ばれなかったのは、僕が平凡だからなのかな?
「貴方が再び来てくれるのを、ずっと待っていました。神子様。どうか、私の伴侶になってくれませんか?」
「え?」
どうしてだろう? 足元を見ていた筈なのに、白い手袋が見える。それが、男性の手だと気付くのに少しだけ時間がかかった。驚いて少しだけ顔を上げると、僕の前にオーバンと呼ばれていた綺麗な人が、片膝をついて僕に手を差し伸べていた。
「オ、オーバン様! 何故、そのようなあまりものを選ぶのですか!?」
「そうです! オーバン様であれば、彼よりももっと相応しい方が……」
「私が誰を選ぼうが私の勝手だ。邪魔をするなら、たとえ神官長殿でも斬るぞ?」
「ひぃ!」
あまりもの。聞き慣れた言葉だから平気なのに。戸惑っていると、オーバン様は僕を見上げて「神子様、どうか手を」と言われて、僕は思わず彼の手の上に自分の手を重ねてしまった。その瞬間、強い力で手を引かれて彼の胸の中に飛び込んでしまう。慌てて離れようとしたら腕を背中に回されて身動きが取れない。
「ありがとうございます。神子様。私が貴方を幸せにします。私は彼のように誰かに現を抜かして捨てたりなんかしません。生涯、貴方だけを愛することを誓います。クウ」
「え?」
クウ。僕の名前だ。空に羽と書いて、くう。どうして、この人が僕の名前を知っているんだろう? 僕がフェリシアン様に捨てられた話は有名だけど、名前までは覚えていない筈だ。それなのに、どうして……
「行きましょう。クウ。早く貴方を私だけのものにしたい」
「え? はい?」
何時の間にか抱き上げられて、オーバン様は神殿の中を堂々と歩いて行った。神官長達の引き止める声も聞かず、立派な馬車に乗って扉を閉めると、馬車は動き出してしまった。
「もう大丈夫です。クウ。これからはずっと一緒です。悲しい思いなんてさせません」
馬車の中でも抱きしめられて、優しく頭を撫でられて、僕は自然と涙が溢れた。ずっと選ばれないと諦めていた。仕方ないことだと反論しなかった。神官達の嘲笑も、陰口も、小さな悪意も、黙って聞き流していた。そうするしか方法がなかったから。でも、オーバン様に選ばれて、僕は初めて辛かったのだと、悲しかったのだと気付いた。いいや、傷付かないフリをしていた。知らないフリをしていただけで、ずっと、ずっと寂しかった。諦めていても、期待せずにはいられなかった。でも、結局誰も選んではくれなくて、何度も何度も繰り返して十回目。
「オーバン様は、僕を、捨てませんか?」
「当たり前です! やっと好きな人を手に入れたのに、捨てるなんてあり得ない!」
あぁ、この人は大丈夫だ。何故か、確信した。今迄我慢していた反動なのか、僕はオーバン様に抱きついて子どものように泣きじゃくった。オーバン様は泣きじゃくる僕の頭を優しく撫でて「辛かったですね」と慰めてくれた。辛かった。悲しかった。寂しかった。こんな風に優しくされたのは初めてで、何度も何度も「捨てないで」とオーバン様に懇願した。彼にまで捨てられたら、僕はきっと立ち直れない。フェリシアン様のように、他に好きな人ができたと言われて捨てられたら。考えるだけで恐ろしかったけど、オーバン様は「私は貴方を絶対に捨てません」と言ってくれた。それだけで、僕の心は満たされて、安心してオーバン様に身を委ねた。
「神官長。あの時の約束を覚えていますか? 私の想い人が現れたら、一番に私が選んでもいいと」
「オ、オーバン様!?」
低く落ち着いた美しい声に、その場にいた全員が息を呑んだ。咄嗟に顔を上げた先には、綺麗なシルバーブロンドの髪に、透き通った青い瞳をしたとても綺麗な男の人。他の伴侶候補の人達も綺麗だけど、彼の美貌は桁違いだった。西洋風の顔立ちで、肌も白くて、優しく微笑む姿は王子様みたいで思わずドキッとしてしまう。身に付けている貴族の衣装も落ち着いたネイビーブルーに銀糸で細かな刺繍が施されている。
それに、彼は「想い人」と確かに言った。その言葉に、他の聖女達も舞い上がって「きゃあ!」と黄色い歓声を上げている。僕は男の人から視線を逸らし、足元を見た。期待したところで無駄だから。僕が選ばれる筈がない。早く選んで、この窮屈な時間から解放してほしい。
「わ、分かりました。オーバン様の意思を尊重しましょう」
「ありがとうございます。神官長殿。ご安心ください。私が選ぶのは、貴方達が予め決めていた候補者ではありませんから」
「オーバン様! それは!」
神殿側にも裏事情があったんだ。それもそうか。王侯貴族の伴侶ともなれば、容姿が良くなければ不釣り合いだし。僕が選ばれなかったのは、僕が平凡だからなのかな?
「貴方が再び来てくれるのを、ずっと待っていました。神子様。どうか、私の伴侶になってくれませんか?」
「え?」
どうしてだろう? 足元を見ていた筈なのに、白い手袋が見える。それが、男性の手だと気付くのに少しだけ時間がかかった。驚いて少しだけ顔を上げると、僕の前にオーバンと呼ばれていた綺麗な人が、片膝をついて僕に手を差し伸べていた。
「オ、オーバン様! 何故、そのようなあまりものを選ぶのですか!?」
「そうです! オーバン様であれば、彼よりももっと相応しい方が……」
「私が誰を選ぼうが私の勝手だ。邪魔をするなら、たとえ神官長殿でも斬るぞ?」
「ひぃ!」
あまりもの。聞き慣れた言葉だから平気なのに。戸惑っていると、オーバン様は僕を見上げて「神子様、どうか手を」と言われて、僕は思わず彼の手の上に自分の手を重ねてしまった。その瞬間、強い力で手を引かれて彼の胸の中に飛び込んでしまう。慌てて離れようとしたら腕を背中に回されて身動きが取れない。
「ありがとうございます。神子様。私が貴方を幸せにします。私は彼のように誰かに現を抜かして捨てたりなんかしません。生涯、貴方だけを愛することを誓います。クウ」
「え?」
クウ。僕の名前だ。空に羽と書いて、くう。どうして、この人が僕の名前を知っているんだろう? 僕がフェリシアン様に捨てられた話は有名だけど、名前までは覚えていない筈だ。それなのに、どうして……
「行きましょう。クウ。早く貴方を私だけのものにしたい」
「え? はい?」
何時の間にか抱き上げられて、オーバン様は神殿の中を堂々と歩いて行った。神官長達の引き止める声も聞かず、立派な馬車に乗って扉を閉めると、馬車は動き出してしまった。
「もう大丈夫です。クウ。これからはずっと一緒です。悲しい思いなんてさせません」
馬車の中でも抱きしめられて、優しく頭を撫でられて、僕は自然と涙が溢れた。ずっと選ばれないと諦めていた。仕方ないことだと反論しなかった。神官達の嘲笑も、陰口も、小さな悪意も、黙って聞き流していた。そうするしか方法がなかったから。でも、オーバン様に選ばれて、僕は初めて辛かったのだと、悲しかったのだと気付いた。いいや、傷付かないフリをしていた。知らないフリをしていただけで、ずっと、ずっと寂しかった。諦めていても、期待せずにはいられなかった。でも、結局誰も選んではくれなくて、何度も何度も繰り返して十回目。
「オーバン様は、僕を、捨てませんか?」
「当たり前です! やっと好きな人を手に入れたのに、捨てるなんてあり得ない!」
あぁ、この人は大丈夫だ。何故か、確信した。今迄我慢していた反動なのか、僕はオーバン様に抱きついて子どものように泣きじゃくった。オーバン様は泣きじゃくる僕の頭を優しく撫でて「辛かったですね」と慰めてくれた。辛かった。悲しかった。寂しかった。こんな風に優しくされたのは初めてで、何度も何度も「捨てないで」とオーバン様に懇願した。彼にまで捨てられたら、僕はきっと立ち直れない。フェリシアン様のように、他に好きな人ができたと言われて捨てられたら。考えるだけで恐ろしかったけど、オーバン様は「私は貴方を絶対に捨てません」と言ってくれた。それだけで、僕の心は満たされて、安心してオーバン様に身を委ねた。
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