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プロローグ1
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荘厳な石造りの大きな神殿には四人の少年少女達が集まり、それぞれ楽しそうに話し合っていた。高校生くらいの彼らは元の世界で命を落とし、女神様の力でこの世界に転生した人達だ。彼らは本来死ぬ運命ではなかったのだが、運悪く亡くなってしまい、そのお詫びとして女神様が彼らを異世界に転生させるのだ。
けれど、漫画や小説のように魔法は使えないし、治癒能力もない。それでも、この世界では異世界人は女神様に愛された特別な存在として語り継がれており、男性なら神子、女性なら聖女として地位の高い王侯貴族と結ばれることが多いらしい。今回転生したのは僕を含めて五人。それぞれ違うタイプだけど、みんな可愛かったり綺麗な顔立ちをしていたりする。きっと、いい人達に選ばれるだろうな。
神殿の中には彼らの他に神官長と複数の神官達が立っている。彼らは僕を見ると鼻で笑って「あまりもの」と口にした。そう、僕はこれが初めてじゃない。繰り返すこと十回。次こそはと頑張っても、誰も僕を選んでくれなかった。選ばれたのは最初だけ。それも、僕が誰にも選ばれないことを哀れに思った王子様が手を差し伸べただけに過ぎない。その証拠に、王子様はその後、別の聖女様を連れて僕に言った。「彼女のことを本気で好きになってしまった」と。申し訳なさそうに「ごめんね」と呟いて。
つまり、僕は王子様に捨てられたんだ。異世界人はこの世界の誰かに愛されなければ生きられない。選ばれなかった魂は再び女神様の領域に戻って、別の国で再び転生する。普通は二回目か三回目くらいで必ず誰かに選ばれる筈なのに、僕は誰にも選ばれなかった。何処の国でも僕は何時も「あまりもの」で、みんなから嘲笑されていた。
「彼奴、なんで此処にいるんだろうな」
「誰にも選ばれないのに、本当飽きないよな」
「フェリシアン様に捨てられた神子となりゃ、誰も相手にしないだろ?」
陰口を言われても、僕はもう何も感じなくなってしまった。僕が誰にも選ばれない理由。最初に僕を選んでくれた王子様、フェリシアン・アンベール様に捨てられたとなれば、僕に原因があると噂になるのは当然で。僕が聖女様に意地悪をしたとか、フェリシアン様が捨てるほど性格が悪かったんだとか、暗くて陰湿とか、色々と言われた。それは十年経った今でも有名な話らしく、僕はみんなの笑い者。だから、僕はこの十回目がダメなら、もう諦めようと思っている。
女神様にも話して、今回で最後にすると約束した。誰にも選ばれなかった魂は消滅してしまう。元の世界にも帰れない。この世界からは弾かれて、魂そのものが無くなってしまうんだ。僕はそれでいいと思っている。もう、両親の顔も思い出せない。この世界に何度も転生して、誰にも選ばれなくて、期待しては落胆して、僕の心はもう疲れ果てていた。いい加減、休ませてほしい。
「お待たせしました。神子様、聖女様。準備が整いましたので、大広間にご案内いたします」
神官長の言葉に、少年少女達は頬を赤く染めながら神官長のあとを嬉しそうについて行った。僕も少し離れた場所からみんなの後を追う。神官達のクスクス笑う声が聞こえるけど、僕は気にせず足を進めた。これが最後なんだ。どうせ誰にも選ばれない。だから、こんな惨めな思いをするのも今回で終わり。そう思うだけで、気持ちが軽くなった気がした。
けれど、漫画や小説のように魔法は使えないし、治癒能力もない。それでも、この世界では異世界人は女神様に愛された特別な存在として語り継がれており、男性なら神子、女性なら聖女として地位の高い王侯貴族と結ばれることが多いらしい。今回転生したのは僕を含めて五人。それぞれ違うタイプだけど、みんな可愛かったり綺麗な顔立ちをしていたりする。きっと、いい人達に選ばれるだろうな。
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つまり、僕は王子様に捨てられたんだ。異世界人はこの世界の誰かに愛されなければ生きられない。選ばれなかった魂は再び女神様の領域に戻って、別の国で再び転生する。普通は二回目か三回目くらいで必ず誰かに選ばれる筈なのに、僕は誰にも選ばれなかった。何処の国でも僕は何時も「あまりもの」で、みんなから嘲笑されていた。
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陰口を言われても、僕はもう何も感じなくなってしまった。僕が誰にも選ばれない理由。最初に僕を選んでくれた王子様、フェリシアン・アンベール様に捨てられたとなれば、僕に原因があると噂になるのは当然で。僕が聖女様に意地悪をしたとか、フェリシアン様が捨てるほど性格が悪かったんだとか、暗くて陰湿とか、色々と言われた。それは十年経った今でも有名な話らしく、僕はみんなの笑い者。だから、僕はこの十回目がダメなら、もう諦めようと思っている。
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