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おれの日常(学園生活)
決着!(青空ダイビング)
しおりを挟むモリヤが言ったとき、音を立てて屋上の扉が開いた。
「ヒサ!!!」
振り向くとそこには、血相を変えたパイセンたちの姿。
彼らはおれを視界にとらえるなり素早くおれの全身に目を走らせ、安堵の息をついた。
え・・・
ひょっとしてパイセンたち、おれがむりやり連れて来られたって思ってる?
いやまあ、半分はむりやり連れてこられたもんだけどな?
「パイセンたち、おれ・・・すんません!」
くそう、モリヤめ。
おれの許可なしに写真を送るんじゃねえよ。
パイセンたちあわてて来ちゃったじゃないか。
せっかくカッコよく取引して、ひとり颯爽と帰るつもりでいたのに。
「きたか。
おまえら、勝手に動くなよ」
思わず駆け寄ろうとしたおれとパイセンたちの間に下っ端たちが立ちふさがる。
すぐ横にいた下っ端がおれの腕をつかんだ。
おいおいまた拘束か?
おまえら人を拘束するのマジ好きな。
「羽田に三上、黒井も。
急な呼び出しにおまえら3人そろうとはな・・・
よほどコイツが大事とみえる」
モリヤがのどを震わせるように笑った。
「まぁ、俺もそう待つつもりなかったから・・・よかったな?」
モリヤはおかしそうに言ってチラリとおれに目線をやった。
だからその悪人顔やめなったら。
おれはうんざりしながら、壁のように立つ奴らの間から向こうをみた。
パイセンたちの余裕ない姿、初めて目にする。
おれが敵校でボコボコにシメられてるとか思って心配していたのかな・・・
ううぅ、自らのこのこ来ちまって、罪悪感パねえ。
「ヒサ、何もされていないか?」
女神パイセンにおれが答えるより早くモリヤが言った。
「まだ何もしてないぜ。
まだ、な。」
なんでこう、裏があるような言い方するかな?
言いたいことあるなら、ストレートに言えよ。
いちいちもったいぶらずにさあ。
そしてなぜ繰り返す。
おれが首をかしげる前で、モリヤがタバコをくわえた。
すかさず近い奴が口元に火を近づける。
よくしつけてんな。
「ヒサを帰せ。
話はそれからだ」
クールパイセンが言った。
声音は冷静だが、底に押しこめた怒りがじわじわと伝わってくる。
怒ってもカッコいいパイセンたちだな、もー。
「それを決めるのは俺だ。
この状況、おまえらは従うほかねえな。
わかってんだろうな?
コイツはこっちの手の内にいるってことだ」
モリヤの言葉に合わせ、下っ端たちが「オラオラッ」とか言いながら、おれの身体をそっちこっちから小突いて見せた。
「あっ」
全く痛くはない。
・・・が、おれの薄っぺらい身体は奴らに揺さぶられ、人形のようにグラついた。
なにこのパフォーマンス?
そしてなんだ、こいつら。
今のパフォ、指示もなしに絶妙なタイミング。
阿吽の呼吸かよ?
・・・すげえアドリブきくな。悪役エキストラ志望か。
「ヒサ!!」
「やめろ!!」
「そいつに手を出すな」
声をあげるパイセンたちを楽しそうに眺めたモリヤは、くわえたタバコを一旦吸いこみ、ぷかーと煙を吐いた。
「条件、選ばせてやるよ。
きさまらのだれかが今ここから飛び下りるか?」
奴は座ったまま両手を広げ、背後のフェンスにもたれて空を仰いでみせた。
「もしくは・・・こいつが俺の女になるか」
奴はおれを見て笑った。
はい??
なに言ってやがる?
シンとした中、誰かが息をのむ音が聞こえる。
「そんな取引には応じられない」
即座に返した女神パイセン。
吐き捨てるような口調だ。
青白い炎が背後に立ち上るような冷気を放ち、そのしびれるような威圧感に周囲は息をのんだが、モリヤは動じない。
「わかってねえな」
あわれむように言った。
「俺が決めたほか選択肢はねえんだ。
どちらか選ばせてやるだけありがたいと思えよ、なぁ?」
静まり返ったその場で、唯一自由にふるまう、とんだ俺様野郎だ。
「何なら、みんなで仲良くお手々つないで飛び下りたっていいんだぜ」
一斉に下卑た笑いが起こった。
何がおかしいんだか全くわからん。
こいつら全員ロクでもねえ。
「それしたら、もうウチの学校にちょっかいかけねえ?」
おれが言うと、ピタッと笑いが止んで。
その一瞬後、わっと周囲が沸いた。
「「ヒサ!」」
「そいつはダメだ!」
パイセンたち、すんません。
言うこと聞かないの初めてだな。
それに黑いパイセンのこんな大きい声も初めて聞いた。
「待て、森谷。
もっといい条件を提示する」
クールパイセンらが打開策を口にしようとするも、モリヤはおれから目を離さない。
狂人の目。
獲物に狙いを定めた、喜色に満ちた目だ。
こいつにとってこの取引は単なる退屈しのぎ、パイセンたちへのいやがらせってところか。
このクソが。調子のってんじゃねえぞ。
おれも奴をにらんだまま。
ゾクゾクするような視線の応酬の末、口元にあくどい笑みを浮かべたままモリヤは答えた。
「ああ、約束する。
この場の全員が証人だ」
一気に騒然となり、囃し立てる周囲をおれは押しのけた。
この状況はおれが打破するのだ。
「おまえら、そいつを離せ」
モリヤの命令に下っ端どもはおどけて肩をすくめたり、はしゃいだような声を上げて手を離した。
おれはモリヤと真っ正面から向かい合う。
口笛吹く周囲のバカども。
何がそんなに楽しいんだか。
パイセンたちが何か叫んだが、歓声にかき消されて聞き取れなかった。
まっすぐ数歩歩き、おれは奴の横、フェンスにひょいと手をかけた。
「おい・・・?」
おれは力はないが、身は軽いのだ。
グンッと勢いつけて、一気にフェンスの上へ。
「っはああ?」
「ちょっっ」
下っ端どものアホ面が下に並んでいる。
「マジかおい!」
「何してんのおまえっ」
今さら何あわててんだ、ボケw
モリヤもまぬけ面でこちらを見上げてた。
その口からポロリとタバコが落ちる。
おかしさに思わずクフフと笑いがもれた。
「ふざけんなよ、おい?」
吸い込まれるような青空。
なぜかこうなることが決まっていた気がした。
おれの心に迷いはなく
ただ、決められたことをしているという意識のみ。
「「・・・冗談だろ」」
「おい、待てって」
「「「ヒサッッ!!!」」」
真夏の海に飛び込むように、おれは青空に身を躍らせた。
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