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18 未来を知っている

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 私には、未来を見通す力があります。
 その力のせいで、私は世界に絶望することになりました。

 その未来を知ったのは、子供に婚約者ができた時です。相手は、王子。

 私の未来は、主人に裏切られて暗殺されるというものでした。主人に愛がない私は、悲しみなどなく、ただ怒りを宿しました。もとから、主人を見ているととてつもない怒りを感じることがありましたが、もしかしたら無意識のうちにこの未来を感じ取っていたのかもしれません。

 どのように行動すればその未来を回避できるのか?普通はそう考えるのでしょうが、私はそうは考えませんでした。私はただ思ったのです。

 死ぬ前に、地獄へ突き落す。


 主人には、愛人がいます。踊り子の愛人で、もちろん貴族ではありません。
 私は、別に気にも留めていませんでしたが、私が邪魔になった主人は暗殺者を雇い屋敷でメイドにふん装させて、私を暗殺させます。

 私を殺したところで、市井の愛人を正妻に据えることなどできませんでしょうに、愚かなことですね。そんな愚か者にただで殺されるほど私は優しくありません。

 絶対に幸せになどさせない。

 しかし、死なせなどもしない。


 私は、いくつかの仮定未来を見て、どうするべきか、何を利用して、どのように地獄を味合わせるのかを考えました。
 自分の愚かさを悔いるように。救いの手が何もないことに絶望するように。

 未来とは、少しの選択で変わるものです。しかし、運命とも呼べるほどに変えるのが難しい未来もあります。それは、私にも娘にもありました。
 何度も何度も、私は死に、娘が死にます。その過程の未来で、私は使えるものがないかを見ていき、ついに見つけました。ずいぶん前から知っていたそれを、利用する方法を。

「兄の作った禁書。」
 何度か娘がそれを使って罪に問われるのを見て、私はそれを知っていましたが、それが使えるとは思っていませんでした。でも、思いついたのです。

 これを使えば、あの男に復讐ができる。


 国を滅ぼすと言われている禁書。あれが手に入るのなら、それでもよかったのですが、流石にあれを手に入れる未来を見ることはできませんでした。
 なので、これを使うことにしたのです。実際に発動させている未来を見ることはできませんでしたが、それは娘が使用しているからでしょう。

 私が使えばいいのだわ。

 兄に手紙で禁書を送ってほしいと伝えれば、兄は喜んでそれを送ってくれました。未来では、娘はわざわざ隣国に赴いて手に入れていましたが、私はそんな面倒はごめんです。

 時間は有限、特に暗殺期日が迫っている私は。


 復讐の計画を進める私に、珍しく主人がお茶に誘ってきました。私はそれを不思議に思いながらも受けて、中庭で主人と2人きりでお茶をしました。

「こうして、ゆっくり話すのは久しぶりだな。」
「そうですね。あなたはお忙しそうですから。」
「・・・ティナ、ずっと聞こうと思っていたんだが、君は何を怒っている?」
「私が怒っている?どうしてそう思ったのですか?」
「いや、その・・・知り合いに言われたんだ。奥様にずいぶん嫌われているようですねと。」
 愛人の踊り子が言ったのでしょうね。言葉遣いまで真似をしなくてもいいでしょうに。気持ち悪い。

「その方の気のせいですわ。」
「・・・ティナ、それでも一応言っておくけど。君が怒るとしたら、あのことを私が口外したときだと思う。だが、私は一切あのことは口外しないよ。」
「あのこと?」
 意味が分からなくて、私は聞き返しましたが、主人はそれに驚きます。

「わからないのかい?君の力のことだよ。」
「!?」
 どういうことでしょうか。私の力については、話していないはずですが。なぜ、主人は知っているのでしょう。私の力、未来を見る力。そのような大きな力を持っていることなど、誰にも話したことがありません。だいたい、知っているならなぜ暗殺をしようなどとバカなことを考えたのでしょうか?

「入籍した後に教えてくれたじゃないか。必ずこの秘密だけは守ってほしいと。」
「・・・」
「まぁ、いい。私は話すつもりはない。だから、そのことで怒っているなら、見当違いだ。それだけは覚えておいて欲しい。」
 話はそれだけと言って、主人はカップのお茶を飲み干して、立ち去りました。

 主人の言葉に全く覚えがありません。一体どういうことでしょうか?
 意味が分かりませんが、私の怒りとは全く関係ないので、気にすることはないでしょう。

 私を殺す主人に復讐する。そのことに変わりはないのですから。


 何とも言えない不安を抱えることになりましたが、それでも私は計画を勧めました。



 禁書を発動して死の雪を降らせ、娘を隣国に逃がします。必ず戻ってくるように、国を救うよう使命を与えました。

 死の雪の被害を拡大させる目的と、娘に濡れ衣を着せる証言をするために王都へ向かいます。娘と縁を切るために、主人も言いくるめて連れてきました。

 死の雪の被害は拡大し、娘は勘当されて指名手配犯になります。
 兄からの手紙で、娘が戻ってくることもわかりました。なので、屋敷に騎士を待ち伏せさせて、兄に屋敷に来るよう手紙を送ります。

 そうして、やっと場が整いました。

 捕まった娘が、王の前に立ちます。私はそれを横から眺めていました。
 あの子がどう動こうが、すべては私の手のひらの上です。だから、私はあの子の自由にさせることにしました。

 どうやら、あの子も親離れするときが来たようですね。少しだけ寂しく感じました。


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