聖女の首輪

製作する黒猫

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10 知らせ

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 ワーゼルマンの馬車に乗って1週間。ゆとりのある行程で進んでいるせいか、まだ王都には着いていない。野宿は避け、町や村の宿に泊まりながら、私達は王都に向かっていた。



嘘くさい笑顔が消えたワーゼルマンに、何か面白い話はないかとねだられた。



「面白い話ねぇ・・・なぜ、ケントがドラゴンを倒すか知ってる?」

「知らないね。そういえば、ちょうど最後のドラゴン討伐に行っているらしいけど、その理由が多くの人に結婚を祝福して欲しいから、というのは聞いたよ。」

「そう。とりあえず、要求があればドラゴンを倒すんだ。最初は、ただ生きるためだったけど、最初のドラゴンを倒した時に報酬として離宮をもらったりして、味をしめたんだよ。あとは、ドラゴンを倒したなんて嘘だと難癖をつけられて、ならもう一匹倒してこようと、そんな馬鹿げた話でドラゴンを討伐したこともあった。」

「へー・・・そんな理由で倒されるなんて、ドラゴンも思わなかっただろうね。ドラゴンと言えば、最強種・・・世界創造の時から生きていたと言われる、神と呼ばれてもおかしくない種族なのにね。」

「まぁ、実際この世界を支えているけどね。」

「世界を支えているとは?ドラゴンがいなくなると何か悪いことでも起るのかな?」

「さぁ。世界を支えているとは聞いているけど、実際影響が出るのはあの国だけみたいだし・・・もしかしたら、知られていないだけで他にもドラゴンがいるのかもね。」

「確か、勇者が倒したドラゴンが生息していたのは、あの国の中だった・・・まさか、我が国にもいるのか・・・なら、探さなければならないね。」

 ワーゼルマンは、窓の外を眺めた。

 バーシャス王国では、ドラゴンの生息が確認されていないが、おとぎ話のようなものはいくつかあり、人が普段踏み入れない場所でドラゴンが暮らしているといったものがあるので、調べればドラゴンを見つけることもできるかもしれない。しかし、そんな馬車から探してみただけでは見つからないと思う。



「生息が確認されていないなら、深い森の奥だとか、高い山の上だとかを探した方がいいと思うよ。こんな所にはいないと思う。」

「いや、いる・・・こっちに向かってきてるよ。」

「は?」

 窓の外を見れば、ワーゼルマンの言う通り青空を飛ぶドラゴンがいた。驚いて2度見して、窓にへばりついて確認するが、やはりドラゴンが空を飛んでいた。



「危ないよ。」

 腰に手を回され、席につかされた。

 なぜか、ワーゼルマンの膝の上に。



「え、なんでここ!?」

「あのドラゴン、こっちに向かってきてる。」

 ワーゼルマンの言う通り、空を飛ぶドラゴンはこちらに向かっているようだった。ワーゼルマンは御者に速度を上げるように言って、馬車の揺れが大きくなる。



 私はしっかりワーゼルマンに腰を抱きかかえられて、どうにか座る体制を維持できたが、一人で座っていたら座席から転げ落ちていたかもしれない。



 なるほど、そういうことか。

 ケントとは違い、できる男であると上から目線でワーゼルマンを評価して、気を紛らわせる。正直言って、とってもこわい。馬車がいきなり大破してしまうのではないかというほど、ガタガタと音を立てて揺れる。



「口は閉じておいた方がいい。・・・追いつかれるな。」

「・・・」

 忠告をしっかりと聞いて口を閉じた。

 追いつかれる・・・追いつかれたらどうなるんだろう?食べられるよね。



 ものすごい速度で進んでいた馬車だったが、唐突に動きを止めようと減速を始めた。体が浮く・・・ワーゼルマンが私を抱きしめて、かばった。



 体が浮いて、気づいたときには座席から落ちていたが、怪我などはしていない。私を抱きしめていたワーゼルマンはすぐに体を離して、馬車の扉を開けて様子をうかがった。



「目が合ったよ。」

「・・・一応聞くけど、誰と?」

「ドラゴンの大きくて鋭い目とだよ。すぐに襲われないってことは、会話を交わす気はあるのかもしれない。」

「そっか。もしかしなくても、私に用があるのかな。」

 ケントが殺したドラゴン関係だろう。それ以外でドラゴンが私に用があるとは思えない。仕方ない、相手をしよう。



「ワーゼルマン、もしもの時はあなたに力をあげるから、戦ってね。」

「なら、今のうちにもらっておいた方がいいと思う。力をもらう前に殺される可能性があるから。」

「・・・ま、その時はその時で。」

 力を与えたケントのことを思い出して、私はなんとなくワーゼルマンに力を与えるのをためらった。もしもの時は、私の回復魔法もあるので大丈夫だろうと、外に出るように促す。



 ワーゼルマンは頷いて先に馬車の外へ出た。こちらへと手を伸ばしてきたので、その手を取って馬車を降りる。



「ん?」

 顔をあげると、太陽の光を遮る大きな影が私の顔にかかる。

 目の前にいたのは、青いドラゴンだ。どこか見覚えがあるドラゴンを確認しているうちに、あちらから声をかけてきた。



「ヒサシブリダ セイジョ」

「やっぱり、あなただったんだ。」

「知り合いか?」

 ワーゼルマンの問いに頷いて答え、私はドラゴンに聞いた。



「勇者は無事に殺せた?」

 その問いで、ワーゼルマンにも目の前のドラゴンの正体が分かったのだろう。ドラゴンの方に視線を戻して口を閉じた。



「フクシュウハ オワッタ」

 ケントは、死んだのだ。

 ドラゴンの言葉で、ケントの死を鮮明に理解させられて、私はため息をこぼした。



 思ったよりも、嬉しい知らせではなかったな。悲しくはないが、面白くもない。もっと心躍る思いができると思ったのに、残念だ。





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