聖女の首輪

製作する黒猫

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3 王女

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 勇者として召喚されて5年。魔物の討伐ばかりしていたのは1年くらい前の話で、今は王女の護衛として城で働いている。

 最初は死ぬかと思ったが、なんとか最初の魔物を倒して、そこからはとんとん拍子にものごとが進んで行った。ただ一点を除いて。



 それは、同じく召喚された聖女・・・などと呼ぶのもはばかれる醜い女のことだ。

 この世界に来る前はひそかな好意を抱いていて、でもガキだったせいでいじめていた女。最初はそんな女と一緒に召喚されてよかったと思ったんだが、これが大外れだった。



 戦う力の無い女が守って欲しいと思うのは仕方がないことだろう。もちろん、魔物からもこの国の人間からも守ってやるつもりだった。この国の人間が信じられないというので、俺に与えられた離宮に住まわせて守った。そしたら離宮から出てこない引きこもりになりやがった・・・しかも何もしないニートだ。



 この世界で力を手に入れ活躍するうちに、女に告白する勇気が出で実際に告白したが、その時は断られた。その時はショックだったが、今思えばそのことに関しては女を誉めたいところだ。



 だが、馬鹿な女だ。今では心底俺に惚れこんでいるが、あの時断ったせいで、俺と結ばれる機会は永遠に来ない。だって、俺の心はとっくの昔に離れているから。



「ケント様、少し休憩に致しませんか?」

「それがいいと思う。王女様は働きすぎだ。」

「まぁ、ケント様ほどではありませんわ。私が休んでいる間も、ケント様は私の護衛として周囲を警戒し、休んでいる姿など見たことがありませんもの。離宮ではしっかり休んでいますか?」

「もちろん・・・と言いたいところだが、うちにはニートがいてな。部屋に引きこもってくれればいいのに、わざわざ出迎えて俺を構うものだから、なかなか休めなくてな。困っている。」

「にーと?」

「聖女のことだ。」

「あぁ、聖女様・・・」

 唐突にしゅんとした顔をする王女。あー可愛いな。俺と聖女が一緒に暮らしていることを心配しているんだな。



 王女の護衛として働くうちに、俺と王女は互いにひかれあった。思えば、王女は最初から俺に気が合う様子だったな・・・俺は、その時はまだ王女の良さに気づけず、あの女のことばかり考えていた。でも、今は違う。

 王女の護衛として四六時中王女のそばにいることで、彼女が努力家で心根が優しい少女だということを知った。俺は努力家の子が好きだ。



 そう、あの女もこちらの世界に来る前は苦手な勉強を克服しようとひたすら勉強して、それでも芽が出なくて、また勉強して・・・というような努力家だった。

 あんなにいい子だったのに、聖女ともてはやされ、俺の恋心を利用して贅を尽くし、今では変わり果てた姿になってしまった。



 本当に、結婚しなくてよかった。



「エリーゼ。」

「はい、ケント様。」

「俺は決めた。南のドラゴンを倒してくる。」

「え・・・あの、最後のドラゴンをですか!?」

「あぁ。」

 俺が来た当時、ドラゴンは4体いたが、3体はすでに俺が倒した。残りの1体、それを倒して、俺は王様に許しを得よう。娘さんをくださいって、言おう!



「まさか、私のためですか?」

「俺自身のためだ。俺は、エリーゼと結婚したいと思っている。だから、南のドラゴンを倒して、褒美にエリーゼに求婚する権利を手にする!」

「ケント様・・・ですが、ドラゴンを倒しに行くだなんて、危険です!もちろん、ケント様がお強いことは存じておりますが・・・心配です。それに、ケント様がいらっしゃらない間に、聖女様が・・・」

「聖女が?」

「その、求婚のことに、お気づきになられるかも。女の勘という者は侮れませんから。」

「まさか・・・だが、そこまで言うなら、でかい口がきけないように、ネックレスを取り上げるか・・・」

「それだけでは不安が残ります・・・ですから、前払いということで、私をもらっていただけませんか、ケント様。」

「え、そ・・・それは、いいのか?褒美の前払いだなんて・・・それに、もし万が一俺が返ってこなかったら、どうするつもりだ?」

「その時は、一生清い身でいさせていただきます。前払いの件は、私から話を通しておきますのでご安心を。・・・1週間頂ければ、簡易の式も挙げられます。」

「式・・・結婚式か?」

「はい。盛大なものは、ケント様が無事に私の元へ戻ってこられたときに致しましょう?」

「・・・」

「ケント様?」

 ついに、あの女と道を違える時が来たんだ。そう思っても、ただせいせいするという思いしかなくて、やはり俺の中であの恋は終わったのだと確認する。



「わかった。なら、俺は聖女からネックレスを返してもらうことにする。難しいだろうが、1週間のうちに何としてでも取り返そう。」

「いえ、そこまでする必要はありませんよ。一度返して欲しいと相手に伝えた時点で、もうすでにそれは求婚のネックレスでなくなるのです。」

「・・・そうか・・・」

 もっと早くにそうしていればよかったかもしれない。



 もう、あの女の顔を見るのも嫌だと思ったとき、一言いえばよかったのだ。そうすれば、ここまで苦しむこともなかった。

 毎日毎日、嬉しそうに俺に飛びついてきて、仕事で疲れた俺をねぎらいもせず、寂しかったと自分勝手なことを言って・・・あぁ、腹が立つ。



 ドラゴンの口に、生きたまま放り込みたいくらいだ。だが、この世界で一人の同郷の者だし、1週間後離宮から追い出す程度にしておこう。





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