41 / 41
41 終わって
しおりを挟むこうして、唐突に現れた魔族・・・元人間の魔族と人間の戦争は終わった。双方失ったものは多かったが、それにお互いが文句をいうこともできず、2つの種族は完全に分断されて住む地を分けることになった。
すべてが山本のシナリオ通りに事が進んだが、山本はこれからどうすべきかを考えなければならない。
タングット城の応接間に、この戦争を止めた3人の高校生が集まっていた。
「住むところ、どうする?それぞれ人間側と魔族側に住むのもいいけど、分断されると厄介かもしれない・・・とりあえず、タングット城を拠点にしてはいるけど・・・3人で暮らすには広すぎるよね・・・」
「うわっ、爽やかな顔でハーレム宣言してきたよ、山本君・・・今は私とカンリの2人だけど、これからどんどん増やしていくってこと?」
「いやいや、なんでそうなるの。君と一緒にしないでよ、小沼さん?君は異世界転移ヒャッハーって感じに男を侍らせていたけど、僕にそういう趣味はないから。」
「ぐっ!?・・・別にあれは、そういうのじゃないから・・・ホント。」
「そういうのだったよね?私が傷ついた魔族を癒す!みたいな感じで、聖女っぽい光を放って、実際姫様とか言われてちやほやされていたよねー。」
にこにこと笑いながら、小沼花菜を追い詰める山本。彼女は顔を赤くして何も言えない様子だ。
実際、思い当たることが多すぎるのだろう。
「でも、山本君も、グラールとかいう名前を名乗っていたよね。彼女に負けず劣らず異世界を満喫していたと思うけど?」
「ぐっ!?いや、それは別にそういうことではないんだけど・・・」
「グラール?山本のやの字もない!うわっ、山本君、それはないよー。」
「うざっ。だいたい、本当に君みたいにお花畑になって、名乗っていたわけではないのだけど!?」
「お、お花畑!?ちょっと、失礼にもほどがあるんじゃない!このいじめっ子!」
「いじめ・・・こ・・・いじめられっこに言われたくないなぁ・・・」
「わ、私はいじめられっ子じゃない!あなたがいじめていただけでしょ!今までいじめなんて受けたことなかったわ!」
言い争いを始めた2人にため息をついて、カンリはソファに深く腰を下ろした。
この世界に来て生活を共にするうちに、山本と小沼花菜の仲がそれほど悪くないことに気づいた。それは、いじめなどをしている場合ではないので、そういうことが起こっていないからかもしれない。それとも、取り巻きがいないからか?
とにかく、顔を合わせれば口げんかをするものの、本気でお互い嫌い合っている様子はなく、ケンカするほど仲がいいという奴かと、カンリは思っていたりする。
「ちょっと、カンリ。あなたからも何か言ってよ!」
「ツキガミさん、はっきりとこのお花畑に現実を突きつけてあげてくれるかな?」
「・・・2人共、実は付き合っている?」
「「なんでっ!?」」
息の合った2人の答えに、カンリは自然とほほが緩んだ。
「カンリ・・・」
「・・・ふっ・・・ツキガミさん、知っているかな?君はさ、僕たちの中では特別視、神格化されていたってことを・・・」
「神格化?何それ。」
「あー、憑神って、いわれてたね。」
「・・・?」
「神がついているって意味で、呼ばれていたんだよ。だって、同じ人間だとは思えないほど、君は完璧な存在だった・・・」
「・・・そんなわけ、ないよ。だって、私は・・・」
小沼花菜を見て目を背けるカンリ。勉強ができて、運動ができて、優等生だと呼ばれて、それでもいじめは止められなかった。そんな自分が完璧なわけがないと、カンリは今でも思っている。
実際、カンリは制限の中で生きていたので、完ぺきではないのだ。
「何、そのお花畑がいじめられていたことを気にしているの?そんなこと、気にする必要ないのに。」
「いや、それは山本君が言うことじゃないから。いじめていた張本人が言うことじゃないから。」
睨みつけながらはっきりと文句を言う小沼花菜を見て、カンリはどうしてこうも違うのかと疑問に思った。
山本も小沼花菜も、ギフトが与えられた以外は何も変わらないはずなのに、カンリと違って何も変わっていないはずなのに、いたるところで前の世界との違いが現れる。
もしも、前の世界で小沼花がいじめられている時、今のように言い返していたら・・・何かが違っただろう。
「まぁ、でも・・・いじめられていたのは、カンリのせいじゃないから。だから、気にすることなんてな」
「いや、ツキガミさんがいたから、小沼さんをいじめていたんだけどね。」
「はぁっ!?」
きれいに終わらせようとしていた小沼花菜の笑顔に、ぴしりとひびが入ったのをカンリは見た。
それから、得意げにカンリにかまってもらうために小沼花菜をいじめていたことを話す山本に、小沼花菜の右ストレートがさく裂・・・せず、ひょいとよけられた右ストレートは、ソファの背に埋まった。
ぼすんっ。
「逃げないでよ!」
「ごめん、僕殴られるの嫌いなんだ。」
「私だって、殴りたくて殴っているわけじゃない!でも、ここで殴らずして、いつ殴ればいいの!」
「別に殴らなくてもいいんじゃない?」
にこにこ笑ってからかう山本と、目がマジになっている小沼花菜。そんな2人を見て、微笑ましく感じると同時に、何か物悲しいような思いが出て、カンリは驚いた。
薄れていった感情が、時々ぶり返してくる。それはもしかしたら、人間としての感情が戻ってきているということだろうか。
そんなカンリたちのもとに、3人の王子と一人の王女、護衛が1人現れて仲間になるのは、そう遠くない話だった。
これが一つの国の始まりだった。
神に愛され、神に守られるといわれる神国のはじまりだ。
0
お気に入りに追加
5
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
私が死んだあとの世界で
もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。
初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。
だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。
音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。
その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。
16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。
後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて
だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。
敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。
決して追放に備えていた訳では無いのよ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる