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17 ただの親友
しおりを挟む風が吹いて、カンリの髪を舞い上げる。
トカゲの背に乗って、カンリは再び戦場へとやってきた。戦場をふかんできる山の上で、人と魔族の衝突を見る。
カンリが療養して3日後、魔族陣営に一人の少女が加わった。彼女は紫色の肌ではなく、人間と同じ肌の色。召喚されたギフト持ちの可能背があると聞き、カンリは戦場に戻ることに決めたのだ。
「かなちゃん・・・」
親友の名を呟いて、懐かしい姿を戦場から探す。しかし、見当たらない。
「・・・もう少ししたら現れるかな。そしたら、確かめられる。」
「きゅうっ!」
「誰か来た?」
トカゲの鳴き声に反応して上を見上げれば、ワイバーンが降り立つところだった。ワイバーン、トカゲより小さいが似たような容姿をしている、グリフォンより格上の乗騎だ。
そんなワイバーンに乗っているのは数えるほど。最初にワイバーンを見たのは、人型の魔族と戦ったときだが、その魔族は死んだ。乗騎も抵抗したため討伐されたと聞く。
次に見たのは、ケイレンスの乗騎を見せてもらったときだ。
降り立ったワイバーンの背から、予想通りケイレンスが飛び降りてカンリに微笑みを浮かべた。
「探し人は見つかったかい?」
「・・・まだ。」
「だろうね。彼女が現れるのはもう少し後だろうから。でも、本当に彼女を説得できるの?明らかに人とは違う魔族に味方をしている人間だよ?」
「真実に脚色して、同情を誘ったんでしょう、魔族は・・・例えば、もとは人間だったけど・・・という事実を話し、人体実験の末魔族となったという嘘をついて・・・ってところじゃない?」
「だとすると、私達はその人体実験の証拠を隠滅しようとしている悪ってところかな?」
「おそらくね。」
「それで、それは嘘だといって説得するの?」
「いいえ。・・・どんな説得をしたのかわからないけど、戦争を正当化するには自分たちを被害者にして話すと思うの。大概が、相手の方が戦争を仕掛けていると吹き込むだろうから、これ以上侵略しないのならこちらは戦う意思はないって話すよ。」
「なるほど・・・まぁ、うまくいくといいけど・・・とりあえず任せるよ。」
「・・・別に、私に任せなくていいんだけど。私の知り合いだったなら・・・あー・・・」
「どうかした?」
頭が痛いというように頭を手で押さえるカンリ。知り合いだった場合、人によっては説得が難しいことに気づいたのだ。
「場合によっては、ケイレンスが説得した方がいいかもしれない。ちょっと、私に恨みを持っているだろう人も・・・というか、知り合いの場合ほとんど恨みを持たれている可能性があるから。」
「・・・何をやったの?」
若干引き気味に聞くケイレンスに、カンリは言葉を濁して答えなかった。
「自業自得だけど、かなりひどいことをしたよ。私の知り合いで、死を確認できていないかつ、死にそうになっていた人は・・・4人・・・もしくは5人かな・・・あの後飛び降りたかも、いや、そんな勇気あいつにはないか。」
「魔物にでも襲われたの?君たちの世界は平和だという話を聞いていたけど、そうでもないんだね。」
「・・・平和だよ。ただ、平和だと人は死にたくなるのかもね。いや、人を死に追い詰めたくなるほど、暇になるのかもしれない。」
カンリがいた世界は、戦争がなかった。生活ができないという人もなく、困窮を苦に自殺する人なども歴史の話だった。だが、歴史上最多の自殺者数を出す、それがカンリの時代だ。
同じ学校の同学年2、3人は自殺する者が出るのが当たり前。理由の多くが、いじめによるものだった。いじめと言っても色々あり、クラスや仲間内でいじられ過ぎて・・・だとか、勉強ができない生徒に先生が宿題を多く出したり居残りをさせたりするものだとか・・・遺書に書くことは千差万別。だが、すべてがいじめと処理される。
遺書に名前が書かれていたら、それはいじめっ子の名前と判断される。
そして、名前を書かれたいじめっ子の末路も同じようなものが多い。うまくやれなければ、いじめっ子の人権はなくなり、いじめっ子には何をやってもいいという風潮がある。
後はご想像通りだ。
思考がそれたと、カンリは頭を振ってケイレンスに話してもいい範囲を考え、口にする。
「私が知っている人がこの世界に来たのなら・・・それが私の予想する4人だとすれば、山本君派と私派に分かれる・・・3、1でね。」
「・・・ツキガミさん、それはもう、グラールに頼んだ方がいいと思うよ。うん、そうしよう・・・」
「本当にそう思うの、ケイレンス?山本君は、あなたの同類だと私は思っているんだけど?」
「冗談だよ。冗談だけど、その言い方はひどいな。まるで私に問題があるような言い方に聞こえるのだけど?」
「・・・山本君は、たぶん私の敵にまわるよ。」
「そうかい。だけど彼は愚かには見えない・・・わざわざ君を害そうとは考えないだろう。」
「・・・そうでもないと思うけど。」
カンリはケイレンスから目を離して、崖の方へと一歩踏み出した。下から吹き付ける風がカンリの髪を舞い上げる。カンリはそっと目を閉じた。
―――飛び降りて見なよ。
今でも、はっきりと聞こえる山本の声に、ギリっと奥歯をかみしめるカンリ。
「確か、グラールはいじめっ子だったけ?」
「・・・うん。」
「なら、君は?グラールが敵に回るだろう君は、何だったんだい?」
「・・・」
カンリは何者なのか?そんなことを聞かれて、カンリは口元をゆがめて笑うしかなかった。
「何者なんて、言われるほど大層なものでもないよ。何もできなかった、ただの・・・親友。あぁ、もう私の味方なんていないのかもしれない。」
はっきりと、カンリにはその時の情景が浮かんだ。
日が少し傾いた屋上、見慣れた親友の背中が柵の向こう側に見えて、消えた。
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