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9 優等生と被害者
しおりを挟む「僕に殺されて、ユキノさん。」
「っ・・・離して!」
笑みを浮かべて、ユキノの腕をつかんだキリト。逃がす気はないようで、全く外れる気配がない拘束にユキノは震えた。
このままだと死ぬ。
「おびえなくても大丈夫だよ。僕が使うナイフは呪われるから、たやすく心臓に刃は届いて、苦しみなく死ぬことができる。一度自分を殺してみたことがあるから、本当の話だよ。」
「な、何を言ってるの?」
一度自分を殺したことがある。つまり自殺したということだろうが、目の前のキリトは生きている。
「おいで。」
「嫌っ!」
腕を引っ張られて抵抗するが、力の差がありすぎて抵抗もむなしく、キリトの胸に飛び込む形となったユキノ。それでも、腕でキリトを離そうとするがびくともしない。
「配慮が足りなくてごめん。正面から刃を見たら怖いよね、背後からにしてあげるよ。」
「いや、嫌だ・・・死にたくない!」
震える声で懇願するユキノ。その姿を見て、キリトは心底困った顔をした。
「僕だって、君を殺したくない。痛い思いも、怖い思いもしてほしくないよ。笑って幸せに過ごして欲しいと、本気で思っている・・・信じられない?」
「そんな、ナイフを向ける人が言う言葉じゃないよ!殺したくないなら、殺さないでよ!」
「それはできない。・・・ごめんね、僕のせいだ。」
「やだ、やめて。まだ、私は死んでない、間に合うから。謝るなら、そのナイフを手放して!」
ユキノの訴えは、当然のように無視されて、ナイフの刃がユキノの背後に忍び寄る。
「あの時、僕がもっと君を愛していれば・・・今くらいに愛していれば、僕の魂だけで済んだのに・・・ごめんね。」
「やめっ!」
キリトの言葉は、ユキノには意味の分からないもの。だから、ただ殺さないで欲しいと訴えたが、やはり無視されてユキノの体に衝撃が走った。
「え・・・」
「愛してる。」
ユキノの体をナイフで貫いて、キリトは目を見開いたユキノの唇と自分の唇を重ねた。
「や・・・だ・・・死にたく、ない・・・」
「ごめんね。」
ユキノが流した涙を、キリトは優しくぬぐって、そんなキリトを見ながらユキノは、死んだ。
「ケタケタケタ!今回もなかなか見ものだった。しかし、同じ結末にも少し飽きが来たな。今度はまた違った結末を楽しませてもらうとしよう。」
「・・・僕たちの結末は、これだけだ。彼女を僕が殺して、僕は彼女の後を追う。お前と契約している限り、僕たちの結末はこれだけだ。」
「なら、次はもっと頑張れ。でないと、ユキノが生き残る結末が待っているぞ?」
「そんなことはさせない。次も、彼女を殺すのは僕だ。」
「ケタケタケタ!また、楽しませてくれ、愛しいおもちゃたち。」
悪魔が霧になって消える。それを見届けて、キリトはユキノを再び強く抱きしめた。
「ユキノさん・・・スノー・・・ごめんね。僕は、君を殺し続けることしかできない。それは、君のためだって僕は言うけど・・・僕のためなんだよ。ごめんね。君が誰かのものになる未来なんて・・・僕は許せない。」
ユキノの濡れた頬に手を伸ばして、キリトはもう一度ユキノにキスをした。
「もう少しだけ・・・また、君に会えるのはもっと先だろうから・・・たとえ、抜け殻だったとしても、君の傍にもう少しだけ。」
何の反応も返ってこないことに、胸を締め付けられる苦しみが襲うが、それでもキリトはユキノに触れ続けた。
温かかった体がだんだんと冷たくなる。それに熱を与えるように、キリトはユキノを強く抱きしめて、泣いた。
「なんで、こんな目に。なんで、僕たちは・・・なんで。」
声がかれるまで泣いて、涙が枯れたら呆然とユキノを抱きしめる。
もう少しだけ。あと、もう少しだけ。
そうして、いつまでもユキノの体を抱きしめていたキリトだったが、そんなキリトの耳に笑い声が届いた。
気づけば、太陽が天に昇っていて、旅行客か地元の人間かはわからないが、家族の笑い声が聞こえた。
「あぁ、もう終わりだね。」
光の宿さない瞳で、ユキノを見つめ、最後の口づけをした。
「また、会おう・・・」
手に持っていた血濡れのナイフを持ち上げて、自分の心臓に狙いを定めた。
スッと、簡単にそのナイフはキリトの胸を貫いて、キリトの命を奪った。
翌朝、新聞の片隅に2人の死が載った。
無理心中。優等生の闇・・・
キリトは闇を抱えた優等生、ユキノは哀れな被害者として、新聞の片隅に載り、以降それについて世間が触れることはなかった。
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