雪霧のライフゲーム

製作する黒猫

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8 呪いの正体

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 真っ暗闇の森。ユキノの手を引く温かいキリトの手とキリトの持つライトだけが、ユキノの心を支える。



 今日、何をしたのかあいまいだ。それは、自らの死が近づいていることに意識が向いてしまい、他のことを考えられなかったからだ。



 最後に、約束の星を見に行こうと、キリトに言われてユキノはただキリトに手を引かれるまま歩いていた。



「もうすぐだよ。この先に大きな岩があって、その上で星を見たら素敵だと思うんだ。」

「・・・そうだね。」

 うわの空で返事を返すユキノ。最後の日を楽しみたいと思うが、恐怖の方が勝りうまくいかない。気持ちを切り替えることができず、恐怖に染まったまま、ユキノは大岩の前に着いた。

 キリトは、先に登り上から手を差し伸べた。

 その手にユキノは手を伸ばし、岩の上へと引き上げてもらう。



「上を見て、すごくきれいだよ。」

「・・・っ。」

 キリトがライトを消し、ユキノは空を見上げた。そこには、満天の星空。思わず吐息が漏れた。



「きれい。」

「そうだね。」

 プラネタリウムとは比べようもないほど、きれいな星空。これが本物かと、恐怖も忘れてユキノは見入った。



「ユキノさん・・・」

「え?」

 ユキノは、温かいものに包まれキリトの声をすぐそばから聞いた。抱きしめられていると気づいたユキノだったが、嫌ではなかったので抵抗しなかった。



「もう、満足?」

 耳元でされた質問に、ぞわりとするユキノ。それは、死んでも後悔はないかという問いだと感じた。



 そして、ユキノはふと思ったのだ。どうやって死ぬのだろうかと。

 死ぬと一言言っても、色々ある。病気、怪我、老衰など。できれば一番最後が望ましいとユキノは感じたが、それは叶わない。ユキノたちは、呪いで死ぬ。



 だが、呪いで死ぬとはどういうものだろうか?



 ユキノが想像したのは、突然心臓が痛くなってそのまま・・・といった感じのものだ。痛いのは嫌だと思い、なるべく楽な死がいいと願う。



「まだ、したいことがある?それなら俺に言って・・・まだ、時間はあるから。」

 キリトと話している途中だったことを思い出し、ユキノは自分のしたいことについて考えたが、生きたいの一言に尽きた。何がしたいとかではなく、生きたいのだ。



 だが、それはどうやっても叶わないこと。だから、ユキノは今からできそうでやりたかったことはないかと考えた。



「お姫様抱っこされたいな。」

「・・・なら、俺の首に腕を回して、いくよ。」

 何となくで答えた希望は、すぐに叶えられた。足が宙に浮いて、キリトの顔がすぐそばにある。安定感があるので不安のないお姫様抱っこだ。



「ありがとう、重くない?」

「平気だよ。他には何かある?」

「・・・それなら、キリトの願いを聞きたいな。私に叶えられるかわからないけど・・・最後に何か、キリトのためにしたいの。」

 これまでの感謝の気持ちを表そうと思い、ユキノはキリトに願いを聞いた。キリトは、それを聞いて微笑んで、ユキノを下ろした。



「僕の願い、叶えてくれるの?」

「?・・・うん。」

 なんだか違和感があったが、とりあえず頷いたユキノに、キリトはうれしそうに笑って、ユキノとの距離を詰めて、体重をかけた。



「え?」

 そのまま支えきれずに、ユキノは倒れそうになって、背後からキリトともども誰かに支えられた。



「ケタケタケタ!どうだ、楽しかったか最後の日は?」

「あ、悪魔!?て、ちょ・・・キリト君重い。」

 前にキリト、後ろに悪魔というサンドイッチ状態でもがくユキノを助けたのは、悪魔だった。キリトをユキノからはがして、地面に捨てた。



「キリト君!」

「大丈夫だ、死んではいない。」

 抵抗なく倒れたキリトに駆け寄ろうとするユキノを、悪魔は後ろから羽交い絞めにした。



「それより、とっておきの話だ。よく聞け。」

「離して!」

「話すさ。」

「ち、違う!引っ付かないでって言ってるの!」

「ケタケタケタ、知ってるよ。ほら、これで落ち着いて聞けるか?」

 ぱっと手を離した悪魔から、ユキノは数歩離れて注意深く悪魔を見据えた。



「私を殺すの?」

「・・・正解だ。」

 にたぁーと嫌らしい笑みを浮かべる悪魔を見て、血の気を失ったユキノは、足まで震えて逃げることはできそうになかった。



「そう、お前は殺されるんだよ。それが、お前の死因だ。・・・勘違いするなよ、我は殺さない。我が殺したって面白くないからな。」

「どういうこと?・・・なら、誰が。」

 あたりをきょろきょろと見まわすユキノ。もしかしたら指名手配犯でも潜んでいるのかと警戒するが、あたりは真っ暗で何も見えない。



「一人しかいないだろう・・・我が殺さないというなら、ここにいるお前を殺せる者は一人だけ。」

「・・・?はっ!」

 思い当たる人物は一人だけだった。だが、嘘だと叫んでしまいたい衝動にユキノはかられる。まだ、お前を殺すのは両親と言われたほうがよかった。



「とっておきの話は、そう。お前はキリトに殺されて、キリトは自殺するっていうのが・・・呪いの正体って話だ。呪いとは言うが、そのあざにはお前たちを殺す力なんてないのさ。ケタケタケタ!驚いたか?」

「なんでキリト君が・・・いいえ、キリト君がそんなことするはずない!私たちを引き離して、どうするつもり!?」

「そう思いたければ、そう思えばいいさ。我はただ、このままお前が殺されるのを持つだけではつまらんと思ったから、話したまでだ。」

「・・・なんで。なんで、キリト君が私を殺そうとするの?私は、彼に憎まれているとは思えない。好かれているとはうぬぼれないけど、憎んでいる相手にあんな顔で笑いかけたりしないよ。」

 悪魔の言葉が本当のことだろうと気づいたユキノだったが、それでも嘘だと信じたい思いで、悪魔に聞いた。



「うぬぼれではない。お前は・・・愛されているぞ。」

「愛されて・・・いる?」

「そうだ。そして、それがお前が殺される理由だ。ケタケタケタ!わからないという顔をしているな。お前は正気のようだ・・・哀れだな。狂気に染まっていれば、歓喜に震えたかもしれないのに!」

 パチンと指を鳴らして、悪魔はキリトに手を向けた。



「さぁ、お前の願いはなんだ?そこの女に教えてやれ。」

 ユキノが振り返れば、キリトが目を覚まして起き上がるところだった。



「いつっ・・・俺寝てたのか?」

「キリト君・・・」

「ユキノさん・・・そうだ、話の続きだったね。」

 キリトは立ち上がって、ユキノと視線を合わすとにっこり微笑んだ。



「俺の・・・僕の願いはね・・・君が、僕に殺されることだよ。」

 どこまでも優しい顔で、どこまでも残酷なことを、キリトはユキノに告げた。





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