雪霧のライフゲーム

製作する黒猫

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もう、終わり

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 夜。スノーとフォグが向かい合って座る。間には机があって、ランプの優しい光が照らしている。



「もうすぐ、今日が終わるね。」

 ランプの光を見つめながら、スノーはぽつりとつぶやいた。



「・・・終わらなければいいのに・・・そうすれば、ずっと一緒だ。」

「そうだね、本当に。ずっと一緒だったら・・・もしかしたら、フォグが私を愛してくれたかもしれないのに。」

「愛・・・悪魔もそんなことを言っていた・・・」

 悪魔の言葉が思い出される。



「そうだな、お前があの女を愛しているというなら、考えてやってもいいぞ?」



「ケタケタケタ。お子様には早すぎる言葉だったか。ま、もっとわかりやすく言えば、フォグ、お前はスノーのために死ねるか?」

 スノーのために、死ねるか?とっくに、フォグの答えは出ていた。

 黙り込むフォグに、スノーは話しだした。



「・・・私の望みだから。愛が欲しいって望んで、悪魔がそれを叶えたの。本当の意味ではかなわなかったけどね。」

「スノーは、愛が欲しいの?」

「うん。私以外は、みんな周りは誰かから愛されていた。憎まれていた私は、愛されたかったの。たった一人でいい・・・私を愛してほしかった。誰かの一番になりたかった。」

「・・・スノーは、誰かを愛していたの?」

「私?・・・私は・・・」

 スノーは、ランプから目を離して、フォグを見つめた。ずっとスノーを見つめていたフォグは、スノーと目が合うと勢いよく目をそらした。



「一応、愛の行為はフォグに一通りやったけど。」

「あ、愛の行為!?」

 フォグの脳裏に浮かんだのは、スノーの唇が自分の唇に触れた時のこと。あの柔らかさ、スノーのいい香りが思い出される・・・



「うわーっ!」

「へっ!?ど、どうしたの!」

「な、いや・・・何でもないから!・・・っ。」

 スノーの方を見て、柔らかそうなスノーの唇が目に入り、フォグは顔を赤くして目を泳がせた。



「そう?・・・フォグは、抱きしめるまではしてくれたね。手をつないで、抱きしめてくれた。でも・・・」

「・・・っ」

 キスはしてくれないの?そんな幻聴が聞こえるフォグは、スノーの唇から目が離せなかった。



「フォグ・・・ごめんね、困らせちゃって。」

「そんなこと・・・ない。スノー・・・僕は。」

 フォグは立ち上がって、座っているスノーの前に立って、スノーを見下ろした。



「フォグ?」

「スノー・・・」

 膝に置かれたスノーの手を、フォグは握った。それから、手を離してスノーをゆっくりと抱きしめる。



「あったかいね。」

「うん。少し熱いくらいだ・・・」

「大丈夫?まだ熱が・・・」

「風邪はもう治った・・・この熱は・・・もっと別のもの。」

 フォグが抱きしめる腕に力を込めると、スノーはその背中にそっと手を回した。



 しばらく抱き合った2人だったが、フォグから離れてスノーも手を離した。

 そして、見つめ合う2人。フォグの決意に満ちた瞳を見て、スノーは心臓が高鳴った。それは甘い高鳴りだけでなく、不安を抱えるものだ。

 答えが、もうすぐ出る。



「スノー・・・僕は、君のことが・・・」

「・・・」

 好きだ。愛している。

 そう伝えようとしたフォグの目が見開かれた。



 それは突然のことだった。

 何の前触れもなく、スノーは目をつぶり、力なく椅子にもたれかかったのだ。



「・・・嘘だろ。」

 スノーは動かず、フォグはかすれた声が出た。



「そんな・・・スノー!」

 ぐったりとしたスノーの肩を掴んで、前後に揺らした。スノーはされるがまま、反応はない。



「嫌だ、嘘だ。・・・嘘だ、スノー・・・嫌だ。」

 頭が真っ白になったフォグの背後から、愉快な笑い声が聞こえた。



「ケタケタケタ!元気にしているか?」

「嫌だ、スノー・・・悪魔、スノーが・・・スノーが。」

「我に助けを求めるか。それは正解だ・・・知っているか、その女の魂は我に与えられるのだ。そういう契約だからな。」

「魂・・・スノーの魂・・・」

「そうだ。その女の願いを叶える代わりに、魂を頂く。つまり、その女は我のものになるのだ。うらやましいか?」

「スノーが悪魔のもの・・・そんなの、絶対嫌だ!」

 フォグは悪魔に向き直って、鋭いまなざしで悪魔を睨みつけた。



「殺してやる!」

「ケタケタケタ、悪魔を殺すか。やめておけ。それよりも、我と契約した方がよっぽどいいぞ?我と契約すれば、その女の魂を食べることはしない。どうだ?」

「魂を食べる・・・悪魔は、人間の魂を食べるのか?」

「そうだ。我らは、人間の魂を食す。そして、その人間を消化し、永遠の消滅を与えるのさ。ん、これは子供には難しい話だったか。つまり、死ぬ。その女が完全に死ぬということだけ理解しておけばいい、今はな。」

 愉快そうに笑う悪魔を見て、契約がろくでもないことなのだろうと理解するフォグ。それは、フォグの死を意味することかもしれない。だとしたら、フォグはそれを選ぶことはできない。



「死ぬのが怖い・・・そうだろう?だから我は出てきてやった。お前にはっきり教えてやろう、お前はその女ほどその女を愛せていない。つまり、その女のお前に対する愛より、お前がその女に対して抱いている愛は・・・軽い。」

「・・・そんなことはない。僕は・・・キスをしようとした。スノーのことだって、好きだ!」

「なら、死ねるか?スノーのために・・・」

「・・・!」

「それが答えだ。その女はお前を犠牲にすることを諦めた。それは、お前を愛したからだ。」

 悪魔の言葉に、ぐったりとしたスノーをフォグは見た。



「その女は、死を受け入れたのだ。」

 フォグが、スノーを愛する心が足りなかったために、スノーは死んだ。そう、フォグは理解して、めまいがした。







 数時間後、契約を成立させた悪魔は去り、ただ一人立ち尽くしたフォグは、血に汚れたナイフを持って微笑んだ。



「また、会おう・・・スノー。」





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