雪霧のライフゲーム

製作する黒猫

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7 求め愛

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 温泉、料理、卓球、ボードゲームを楽しんだ2人は、次の日に洞窟探検をして、帰りに祭囃子の音を聞いて、祭りに参加をした。旅館に戻れば、温泉などをまた楽しむ。

 ユキノは、気づかないようにしていた。あと、何日かなんて・・・数えないようにしているはずだった。



 キリトと共にいるときは、忘れられた。でも、夜一人で布団に入ると、恐怖が襲ってくるのだ。あと、5日。あと、4日。あと、3日。あと、2日。あと・・・もう・・・



 涙が流れた。

 怖い、死ぬのが怖い。嫌だ、死にたくない。



「・・・っ。」

 声を殺して、泣く。



 すぐ死ぬかと思ったら、猶予があって安心した。でも、その猶予も残すところあとわずか。

 時計の針は午前3時を指している。明日のこの時間には、もうユキノはこの世にいないのだ。



 怖くて仕方がない。でも、どうしようもないことなのだと、納得はしている。



 涙はあふれるし、手は震えるが、ユキノはどうすればいいのかとは考えなかった。もし、どうにかなると考えているのなら、残された時間を遊びに使うわけがない。



 あぁ、全部夢だったらよかったのに。あざのある人物と会ったのは夢で、明日起きたら自分の部屋にいるって、感じで。



 そう思ったユキノだが、本当にそれでいいのかと考える。もし、それが現実なら、ユキノはキリトと会わなかったことになり、ここ数日の楽しい記憶もすべて偽りとなるのだ。



 それは嫌だ。でも、死ぬのは・・・



「ユキノさん?起きているの?」

 隣の部屋からキリトが声をかける。ユキノは声の調子を確かめてから返事をした。



「うん、ちょっと寝付けなくて。」

「・・・そうだよね。僕も同じだよ。そっちに行ってもいい?」

「え・・・」

 迷ったユキノだが、どうせ眠れないだろうからと、起き上がりながら了承した。



 ユキノの許可をもらったキリトは、もう一度断ってからふすまを開けた。



「・・・胸を貸そうか?」

「え、胸?」

「いや・・・泣いているみたいだからさ。胸じゃなくたって、背中でも肩でも腕でも、好きな場所を貸してあげるよ。お代はいらないよ。」

「・・・ふふっ。ありがとう。」

 キリトはユキノを元気づけようとしてくれていると分かったユキノは、心が温かくなった。この出会いをなかったことには、したくない。



 死にたくない。死んだら、温かい気持ちになることもない。



「キリト君。」

「何、ユキノさん?あ、膝でも貸そうか?」

「・・・なら、胸を貸して。」

「・・・え、本気?」

「冗談・・・なんていわないよ。キリト君は私に胸を貸して、私はキリト君の抱き枕になってあげるよ。」

「だ、抱き枕!?」

「変なこと考えてない?」

「いや、考えるでしょう、普通・・・あ、考えてない考えてない。だから、抱いていい?」

「絶対考えたよね?ま、いいよ・・・ハグのみね。」

「キスもしたいです。」

 真面目な声色で話すキリトを見て、ユキノは別に構わないかなとは思ったが、流されているようで嫌だったので、断った。



「ハグオンリー。」

「わかった。でも、ユキノさんは俺に何してもいいからね。」

「気が向いたらね。」

 そして、キリトはユキノの目の前に来て座り、ユキノを抱きしめた。



 ユキノは安心感で、また涙が流れだした。だが、ユキノは自分のためだけに、このハグを提案したわけではない。



「キリト君も・・・泣いていいよ。」

「え?」

「泣きたいでしょ。キリト君だって、私と同じなんだから。」

「・・・」

 死ぬのはユキノだけでなくキリトも同じだ。なのに、キリトはユキノに尽くすばかり。それではだめだ。キリトだって、不安を取り除くべきだと思って、ユキノは言った。

 しかし、キリトは不安など抱いていなかったのだ。



「ありがとう、ユキノさん。でもね、俺は・・・別に怖くないんだ。」

「怖くないって・・・死ぬのが怖くないの?」

「うん。・・・俺は、別にもっと生きたいとか思っていないんだ。俺が生きたいと思うのは、この6日間だけ・・・その先はどうでもいいんだよ。」

「どういうこと?」

「・・・この6日間以外は、俺にとっては準備期間でしかなかった。この6日間を、君と快適に過ごすために、準備する期間でしかなかったんだ。」

「ちょっと待って。・・・私とキリト君って・・・どこかで会ったことがあるの?」

「・・・ないよ。あれば、もうすでに死んでいたよ。俺はね、このあざのせいで死ぬことは怖くないんだ。だから・・・あざで死んでしまうことを恐れている君を哀れだと思って・・・少しでも心穏やかに過ごせるようにしてあげたかったんだ。」

 意味が分からないユキノは、キリトの傍から離れたいと感じた。それは、得体のしれない者に対する防衛本能か。



 しかし、キリトの胸を押したユキノを、キリトは放そうとしなかった。



「キリト君・・・?」

「俺が怖い?意味が分からないよね・・・でも、怖がらないで、俺のそばにいてほしい。俺は、君のためにならないことはしないから。」

「・・・わかった。でも、なんで死ぬのが怖くないの?普通は怖いものでしょ?」

「さっきも言ったけど、どうでもいいんだ。今日が終われば、もうこの人生に意味はない。」

 人生の意味。キリトの言葉を聞いて、ユキノは自分の人生について考え始めた。



 キリトと出会う前、あざのある人に出会うことを恐れて、人を避けていた。ただ、死にたくないと考えて、出会いを避けていた。そんな私に親しいものはなく、家族は私を避けていて孤独だった。



 キリトと出会ってからは、人を避ける必要はなかったが、人が多い場所は苦手なのだと気づいた。だが、キリトと共にいることは楽しく、ずっとこんな日々が続けばいいのにとユキノは思った。生きたいと思った。



 ユキノの人生も、キリトと出会う前は意味のない、価値のないものだったのだ。



「ユキノさん、最後まで俺といてくれない?」

 キリトの願いは、ユキノの願いでもあった。だから、ユキノはキリトを抱きしめて答えた。



「今更一人になんて、しないでよね。」

「・・・ありがとう。」





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