雪霧のライフゲーム

製作する黒猫

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5 赤くなる日

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 色とりどりの料理が並ぶ。好きなものを好きなだけ取っていいという、夢のような朝食を堪能したユキノは、若干苦しくなった腹を抱えながら、屋内遊技場に入場するための列に並んでいた。もちろん、キリトも隣にいる。



「人多いね。」

「そうだね・・・でも、少ない方だよ。今日は平日だし、イベントもないからね。乗り物は絶叫系もあるけど・・・乗る?」

「うん!・・・あ、でも・・・」

「そうだね、後回しにしようか。朝食がしっかり消化されてから乗ろう。なら・・・冒険アドベンチャーっていう、園内を歩き回って宝を探すっていうのをやってみる?激しい運動はしなくていいし。」

「宝探しか、面白そうだね!」

「よし、決まりだね。」

 あとは・・・などと、アトラクションの説明をするキリトを見て、ユキノは頼りになるなと感じた。



「よく来るの?」

「え?あぁ、初めてだよ。昨日の夜暇だったからネットで調べておいたんだ。」

 ユキノは、宿の部屋に入るとすぐさま風呂に入って、眠ってしまった。今日のことを何も考えていなかったのを申し訳なく思う。



 ちなみに、部屋は別々でとった。



「なんか任せきりでごめん。」

「え?いや、気にしなくていいよ。俺が好きでしてるだけだし。あ、もう入れそうだよ。」

 列が前に進み、改札のようなところを通って、2人は中へと入る。



 まるで、タイムスリップしたかのような、別世界の空気。



「明治時代を意識したつくりだそうだよ。アトラクションの看板とかは、横文字の場合は右から左に読んだりとか、ほら。」

「本当だ・・・聞いてなかったら、逆に読んでたかも。」

「俺も。って、そこが冒険アドベンチャーだな。行こう。」

 読みなれていないせいで気づかなかったが、確かに右から読めば冒険アドベンチャーと書かれていた。だが、ここは冒険あどぶえんちあとかではないのか?とユキノは疑問に思った。イメージ的に、カタカナ表記はちょっと変わったひらがなかカタカナの表記になるのが、ユキノの明治イメージだからそう思ったが、深く考えるのはやめた。



 楽しめればいいかと思い直し、キリトの後に続いて歩き出した。







 それから、冒険アドベンチャーを楽しみながら、園内の散策をした。それが終われば、乗り物にも乗って、楽しむ。お昼の時間には、食べ歩きもした。



「そのアメリカンドッグ可愛いね。」

「うん・・・」

 キリトの持つ、ウサギの耳をつけた顔のあるアメリカンドッグを見て言えば、キリトは顔を赤らめた。可愛らしいものを持つのは恥ずかしいようだ。



「こんな・・・可愛いと思わなかった。」

 そう言って、片耳をかじるキリトに、ユキノは自分が食べているクレープを差し出した。



「一口上げるから、片耳ちょうだい。」

「え・・・その、え?」

「あ、イチゴダメだった?」

 ユキノが自分のイチゴが入ったクレープを引っ込めようとすると、焦ったようにキリトはその手を掴んだ。



「大好きだよ。」

「よかった、はい。」

「・・・いただきます。」

 端っこを小さくかじったキリトに、ユキノは苦笑した。



「そこにイチゴはないよ?キリト君って、面白いとこあるね。」

「・・・イチゴの甘酸っぱい風味はする。それより、はい。」

 ばつが悪そうに、キリトはアメリカンドッグをユキノに差し出した。ちょっと高めの位置に差し出されたので、ユキノはキリトの腕をつかんで、アメリカンドッグの位置を下げた後、一本になった耳の部分を頂いた。



「ありがとう。ちょっと固いんだね。」

「あぁ、うん、そうだな・・・もっと食べる?」

「いいの?ちょっとしょっぱいのが食べたくて・・・甘いの食べてるとしょっぱいの食べたくなるんだよね、ありがとう。」

 嬉しそうに、今度は頭の部分をかじるユキノを横目で見て、キリトは顔が熱くなった。もっと空調をきかせてほしいと、心の中で文句を言って手で顔をあおる。



「キリト君も、食べたりなかったら食べていいよ。」

「いや、もうお腹いっぱいっていうか、胸がいっぱい・・・これで十分だよ。」

「そう?」



 朝食食べすぎたのかな。



 気にせず自分のクレープをほおばるユキノを見て、キリトはじっとアメリカンドッグを見つめた。可愛らしい顔の面影はもうない。でも、キリトにとっては先ほどのアメリカンドッグより価値あるものになった。



 心の中で拝みながら、キリトはアメリカンドックを食べた。







「プラネタリウム?」

「へー個室なんだ。人の目を気にせず星を楽しめるっていいね。」

 次は何に乗ろうかなどと歩いていたら、3つほど部屋が並ぶプラネタリウムを見つけた。一部屋一回30分。今は空きが2部屋あるので、待ち時間なしで楽しめるだろう。



「そうだね・・・星か。」

「・・・星好きなの?」

「特には。でも、ちょっと見たいなと思って。静かに星を眺めてぼーっとするのもいいよね。」

「なら、今度行こうか。」

「そうだね。」

 今度・・・もし、それがあるとしたら数日以内だ。だって、その先は2人共生きていないのだから。



「ま、今はここで我慢して。」

「え?」

 手を引かれて、ユキノはキリトと共に個室へと入った。



「ちょっと休憩したかったから、ちょうどいいや。」

 フリーパスを持っているが、ここは現金払いのみなので、キリトがお金を入れる。すると、薄暗かった部屋が完全に真っ暗になった。



「わっ。」

「唐突だね・・・とりあえず、その場に座ろうか。」

 中に椅子などはなかった。床にはふかふかのカーペットが敷いてあるので、ここで寝転がってみるシステムだろう。



 ユキノはしゃがみ込んで、座り、足を延ばした。なんだか落ち着く。

 すると、ユキノの足に何かが触れた。



「わ、ごめん。」

「いいよ。真っ暗だし・・・」

「本当ごめん・・・」

 キリトがユキノの足に触れたことを悪く思い、キリトは少し離れた。そんな気配を察したユキノは、キリトがいそうなあたりを掴む。



「わっ!?」

「あ、ごめん。でも、あまり動くとどこかに体をぶつけるよ?」

「そ、そうだね。・・・にしても、始まらないね。」

 キリトの言葉に応えるように、天井に星が映し出された。唐突にアナウンスの声も聞こえ、2人して体をびくつかせた。



「と、唐突だな。」

「本当に・・・へー夏の大三角形・・・ふーん・・・」

 少し明るくなったことで、ユキノは自分がキリトの手を握っていたことに気づいた。なんとなく、離すタイミングを失ってしまったので、そのまま握り続ける。



「冬の大三角形・・・へー・・・秋と春もあったけ?てか、季節が飛び飛びだな・・・」

「おとめ座・・・ふーん。」

「はぁ、ふーん。」

「ほうほう・・・」

 全く内容が頭に入ってこない2人は、意味のない言葉を発し合ったが、お互いにそれに気づかず、顔を赤くしていた。



 この手、どうすればいい!?



 ユキノは考えて、気づく。

 体勢を変えるときに、さりげなく離せばいい。



「ちょっと、首がきついね・・・寝転がろうかな。」

「あ、俺も。」

 なるべく自然にを意識して、ユキノは寝転がった。そして、手を離した。



 だが、ほっとしたのもつかの間。

 すぐそばに、キリトの気配を感じて、横目で見れば・・・すぐそばのキリトと目が合った。



「「え?」」

 お互いに固まる。そして、同時に視線を上に向けた。



 もう、逃げられないな。

 並んで寝転がるという恥ずかしさに耐えることを決意し、なるべく自然を意識して、2人は映像の中の星を睨みつけるようにして見た。



 もちろん、アナウンスの内容は全く頭に入ってこずに、プラネタリウムの鑑賞が終わったころには、2人してへとへとになって出て行くことになった。





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